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手当たり次第も楽しいもので 1

パーティ結成より数日、メンツが揃えば目に付く端からクエストをこなし、揃わなければ個々人でやりたいことをやるという日常を過ごしているいつもの面々。

防御重視の初期作成コンセプトにも助けられ、未だ死亡キャラは無し。

パーティ構成(主に初期職業の組み合わせ)で受けられるクエストなども多岐に渡るようで、現在は亜人種敵対勢力との抗争をメインシナリオとした流れが進んでいる。

開始地点の隣町に拠点を移し、ゴブリンさんを鏖殺したりコボルドさんを惨殺したりリザードマンを抹殺したりと言った殺伐とした日々を過している。



「最近、ゴブさんとかコボさんとか見かけなくなったなぁ」

クエスト掲示板で一覧検索しつつ、シオンが言う。


「そだねぇ。 延々と同じクエストがあるものと思ってたけど、狩りつくすとかあるのかもね」

自動飲食でカ□リーメイトチックな携帯食料をかじる自キャラを眺めていたメリウが調べもせずに適当に相槌を打った。

と、言っても流石にβテスト数日目の現状、憶測はあっても確定事項はそう多く無い。

前情報なくβテストに参加して、防御手段をあまり持たずに戦闘行為を行い死に続けているプレイヤーなどもいるようで、某大型掲示板等でネガティブ全開なスレッドも少なくない。

死んで覚えろ系ゲームなのに死んだらキャラクターデリートという恐ろしいゲームだ、プレイヤーを選びすぎる。


「ひとまず、わちき達以外のプレイヤーも要望はガンガン送ってるみたいだし、それに対するレスポンスも悪くないからテスト明けて製品版になる頃には結構ヌルくなるんじゃないかね」


「そだねー、きっとステータス合計いくつ以下だったら死んでも復活、的なのは入るんだろねー」


「むしろ死体腐るの無くして、蘇生費用安くしてくれれば現状でもどうにかなるのかな? んー、なんとも難しいね」


そんなこんなを話しながら、ふと時計を見ると22:03。

4人集まらなかったら個別行動を取ると決めている時間を過ぎていた。


「ありゃ、今日は揃わなかったか~ シオンの方はなにか手伝うことある?」


「んー、今のところはないかな? メリウの方はあるかい?」


「シオンが曲刀技能も天才だったら、修行期間もらって訓練補正付けてもらおうとかあったけど、直剣だけだったよね持ってるの?」


「ういよ、残念ながらそうやねー。 現状は割り振れるポイントあったら全部直剣と流派にぶち込んでるしなぁ」


「いいなぁ上限無しで鍛えられるって。 クソっ、天才めっ ぺっ」


「吐き捨てられた・・・」


「だってよー、吐き捨てたくもなるわー。 こっちは死ぬ瀬戸際で受け流し5回成功出来れば御の字のところを・・・」


「あー、ごめん。 3倍は軽いわ」


「チネッ」


「でもなんだかんだでバランス一番なのお前じゃん。 器用とかはわちきと同じくらいだし、魔力とか意思とかはジオに並んでるんだろー」


「ねぇ、しってる? 器用貧乏は全ての状況に首は突っ込めるけど、一番になれないから結局は決戦力になれないんだよ?」


「いいじゃん別に、すべての局面に参加できるってことじゃんか。 全部の場面で脇役だったとしても」


「うん、実は美味しい役どころとか思ってました。 サーセン」


「こやつめ、ハハハ」


「ハハハ」


と言った感じで茶番は過ぎ。


「っと、んじゃ適当に動画でも眺めながら訓練場マラソンしてるかな」

シオンが掲示板から離れて訓練場(戦闘スキルや能力値の上昇判定がある施設、パーティ権限で一番使いやすい侍の施設を使用)へと向かう。


「堅実だなぁ。 努力する天才って怖いよね。 実際問題」


「怖いねぇ。 んじゃわちきも、せいぜい怖くなってくるぜぃ」


「ヒューッ 自分はもう能力値上がらないと上限増えないから新しいことにチャレンジだぜよ」

大枠には生産、正確には料理をやってみんとす。


「「じゃ、何かあったら声かけてー」」




新しい拠点になった街の外れ、林の中にある平屋建ての武家屋敷。

その侍専用施設の門を慣れた様子でくぐる灰色剣士シオン。

屋敷自体には入らず、直接庭へと歩を進める。

チラホラと訓練を行うPCの姿が見える。

ほとんどが顔見知りである。

この施設を使う登録時、メリウが強制パーティを組まさせられたというメンツだった。

適当に挨拶モーションで片手をあげ会釈、あちらからも同様に手があげられる。

特に言葉を交わすこともなく彼らを通り過ぎ、シオンは訓練用巻藁型オブジェクトに向かいあった。


「オート設定で二回攻撃、スタミナが無くなったら休憩・・・回復したらまた繰り返し・・・っと」


ポチッとな、とマクロ設定を行い実行。

ペシペシッ ペシペシッ と、機械的にシオンのキャラクターが巻藁に直剣を叩きつける。

訓練所の特典のおかげで、ランダム発生の上昇判定の他に、じわじわと溜まっていくゲージが一つ。

熟練度ゲージ。

ぶっちゃけると経験値バーでもある。

こなした訓練の回数でじわりじわりと溜まっていくこのゲージ。

溜まりきったらスキルレベルがアップする。

現状の能力値だと上限6レベル程であるシオンの剣術流派スキル。

特徴:流派の天才 によって上限が無くなった彼の現在レベルは9。

そして熟練度ゲージは、現在80%。


「あと2時間も放置すればどうにか届くかねぇ・・・」


ゲームウィンドゥを最小化して、動画閲覧開始。



はらしょー とってもすばらしいわ

死んだ魚のような濁りきった目で呟く。

キャラの目の前には、無残な赤黒いオブジェクトが。


「なんぞこれ・・・」


おかしい。

確か、トマトジュースを作成しているはずだった・・・

でも、目の前にあるコレはトマトジュースではありえない。

コワゴワと知性判定、成功。


「グロいもの」


直球できやがった。

ひとまず見なかったことにして即時ゴミ箱へ。

なぁにまだまだ材料はある、慌てる時間じゃない・・・。


・・

・・・


「あ、あわわ、あわわててて、てる、じ、じかんじじか・・・」


ガクガクガクガク。


あとでまとめて捨てればいいとか思っていた自分を殺したい。

メリウの目の前には、山を成した「グロいもの」。

人通りの少ない場所で作業していてよかった、心臓の悪い方には即死レベルのグロマウンテンすぎる。

モザイクさん! どこ!? モザイクさーーーん!!

どうしてこうなった、どうしてこうなった・・・・

まさかと思いオプションを開く。


「オフになってるよなぁ、致命失敗フラグ」


最悪の事態では無いようで胸を撫で下ろしオプションを閉じる。

ん、まてよ・・・これ、オンになってたらどうなってたんだ・・・?

怖い、怖すぎる・・・悔しい、でも試しちゃう!

フラグ・オン。

よもや街中で危険分子(主に熊)は湧くまいて・・・。


「作成っ トマトジュースっ」


でろろろっ。

びちゃぁ。

誕生、また会ったね。

会いたくなかった、会いたくなかった。

おや? グロいもの達の様子が・・・!?

な、なんぞこれ、合体しただと・・・。

げぇ、知らぬ、このような関節技、自分は知らぬ・・・ボキッ

オウフ、死んじゃう、死んじゃう。

ミチッ・・・メリッ ちょ、なんでこんなに生々しい音がサンプリングされてんのー


<メリウ:料理スキルが上昇しました>


ジオに回復魔法を習ってなかったら死んでいた・・・



「と、いうことがあったのさ・・・」


23:00を過ぎ、遅ればせながら入ってきたレザード及びジオに事の顛末などを話しながらコーヒーを啜る。

動画を見るため一旦音声チャットを抜けていたシオンも合流したため、ジャブがわりに「グロいサブミッション事件」を話してみたメリウだったが。


「「「ばーかばーか」」」


ですよねー。

なんでフラグ自分で立てるのって話で。


「街中でも命の危険が起こりうるってことを実証いたしました、マル」


「おいぃ、この場合わちきが侍の施設で訓練してる最中だったわけだが、メリウ死んだらどうなるんだよ」


「最悪追い出されるんじゃね? パーティ申請残ると思うからログアウトしなけりゃどうにでもなりそうだけど。 そろそろ流派10レベルだっけ?」

おおー、すげー、などと囃し立てる皆。


「ういよ、あと10%くらいで行くね。 さて、遅くなったけど全員揃ったし、軽く退治系のクエスト受けるかい?」


「おうよー、適当なのお願いリーダー」


「ウチは久しぶりですなぁ、クエスト受けるのは」


「最近忙しそうだったもんねぇ」


「なんとか週末は空けられそうです、スキル的に離されましたから追いつきますよー」

やる気やねぇ、なんというか働き始めてから実感するけど、息抜きしないと死ぬよね。

有り体に言うと、ゲームしないと死ぬ。


「うっし、んじゃ今日は、最近多いトカゲ野郎討伐なー」




リザードマンの槍を巻き込むようにいなし、体勢が崩れた所にレザードが突撃する。

体重を乗せた縦回転の踵が、倍近い身長の二足歩行トカゲを地面に打ち付ける。

そのまま頭を踏みつけた反動で後方に転じたレザードを追い、即座に立ち上がろうとするリザードマンの首が、音もなく分断される。

切っ先から血の赤線で弧を中空に描きつつ、トドメを持っていったシオンがピッとサムズアップをレザードに送る。

残り3体。

縦列を成して迫る追撃に向けて、熱線が炸裂する。

着弾、貫通。

悲鳴を上げ足が止まるリザードマン達。


「思ってたよりダメージ出ないかー」

掌を敵に向けたまま、蒸気のようなエフェクトを昇るに任せたメリウが小さく舌を打つ。

一応殺傷力の高い実戦級の魔法だったのだが、いかんせん熟練度が足りなかった。


「効いてる効いてる。 充分だ」

先頭のリザードマンにナイフを投げつつ走るレザードに続くシオン。


「トドメは刺せるやつが刺せばいい」

むしろ俺がいただく、とばかりに先程同様の踵落としを叩きつけるレザード。


「私的には巻き込まれそうでチト怖かったですがなー」

よりにもよって躍りかかって来たリザードマンと組み合いを演じているジオ。

おい坊さん大丈夫か?

・・・あ、押し倒して捻った、スゲェ。


「今こそ見せよう! わちきの本当の力をっ」

シオンの片手半剣が暴風のごとく吹き荒れる。

レザードの踵落としで瀕死になった一匹と、後方に続いていた半焼けの一匹を飲み込む計七回攻撃。

シオンの目の前に、赤く高い壁が立つ。

びちゃぁ、と赤壁が地面のシミになった後、その場に立つ敵影は、無し。

以て、戦闘終了。



「トカゲ相手も安定してきたねぇ」

首が背中を向いているリザードマンの死体から牙などを剥ぎ取りつつメリウ。

鱗が固すぎて切断系武器である曲刀の刃が立たずに初戦防戦一方だったのは嫌な思い出。


「最初に遭ったときは死ぬかと思った」

ナイフを回収しつつレザード。

何本かが使い物にならなくなったらしく、少し悔しそうである。

最近槍に興味を持ったらしく、魔法の槍を買うため貯蓄中であるので無駄な出費が増えたのが腹立たしいのかもしれない。


「ん、そうだったっけ? わちきの記憶じゃ結構楽だった気が?」

地面に座ってスタミナ回復中のシオンが首を傾げる。

ほぼ初期装備で、文字通り「刃が立った」のが彼だけだった辺りで、周囲に舌打ちされるのは仕方なかろう。


「シオン以外は何がしかの新手を考えざるを得ませんでしたからなぁ」

打撃でなく関節技を選んで、かつ鍛えあげてしまう辺りが流石のジオ。

驚異の体力上限突破の恩恵をフルに活かしてのクレバーさは見習うところが多い。

おそらく搦め手含めての人間力は彼が一番だろう・・・・。


そんなこんなでクエスト終了、それなりに纏まった報酬を得、みんな大好き分配タイム。

換金アイテムを除いて残ったのは四品。

槍、鎧、巻物、そして謎のダイス(サイコロ)。


渡りに船とばかりに槍はレザードに。

装備できるのが彼しか居なかった大きな鎧がジオへ。

巻物はそれなりに高位のものらしく、ギルドの縛りで白系魔法以外使えないジオが辞退したためメリウヘ。

そしてシオンには謎のサイコロが。


「貰ったはいいけど、なんだろねこれ」

魔法の物品らしく、効果欄は、謎。

掲示板やwikiには、似たようなものがいくつか報告されてはいるが、効果はまちまちである。

曰く、魔法の武具が手に入る。

曰く、能力値が上がったり下がったりする。

曰く、レアな生まれ効果が追加される。

プラス効果のほうが多そうではあるが、能力マイナスは地味に大きなダメージである。


「あえて売るって選択肢もあるけど、シオンのことだから恐らく「振った」「「「早ええよ!」」」」


光の柱がシオンを包む。

ルーレットのように色がクルクルと変化し、


ピタリ、


と、止まった。


「派手だね・・・」


「そうだな」


「さて、何が出たのやら・・・」


三者が固唾を飲んで見守る中、ポツリ、とシオンが答えた。



「灰色の仮面、だとさ・・・効果は・・・」


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