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世界旅行も楽しいもので 7

幸せの青い鳥。

さんざん探し回った挙句に疲労困憊帰宅したらちゃっかり自宅にいますわよこのクソ鳥、というお話である。

その後、逃げ去ったんだっけ?

とりあえず、家が一番であるという解釈と、幸せは探してるうちは逃げるぜぃ、という解釈があったように思う。

だから幸せは、訪れると言うのだ・・・。


「で、何が言いたい?」

レザードが淡々とツッコんでくる。


そう、なんだかんだでゲート一周世界旅行を終え、拠点町に戻ってきたわけなのだが。

自分たちいつものメンツが今見ているものは・・・


「・・・塔?」

小首をかしげ、ジオが言う。


かつての城塞を基部に据え、積みも積んだり10数層というところか。

屋上部にはどこから移設したのかわからない巨木が植えられ、さながら空中庭園というところか。

そう、なんだ、つまり。

帰ってきたら城塞がバベルの塔になってますわよ奥さん、というわけで。


「「「「あの連中、またやりやがったな」」」」

もはや建築系事件の犯人など、連中しか考えられなかった。




あ、おかえりー、と、顔見知りから声をかけられつつ町中に移動したいつものメンツ。

中は暗いかなぁ、と思いきや、流石狂った石工組合は格が違った。

細々と採光を考えた、貴様らの中に絶対建築関係者いるだろうという、まさに匠の技。


「呼べよっ・・・呼んでくれよっ・・・」

メリウが膝をついて打ちひしがれていた。

これだけの劇的大改造にお声がかからず絶望している模様。


あまりの嘆きっぷりに周囲も哀れに思うが、正直かける声がない。

そんな中、人混みをかき分けるように現れた顔見知り。

侍組サブリーダーが声をかける。


「おお、皆おかえり。 世界旅行はどうだった?」

打ちひしがれていたメリウの襟首をつかんで強引に立たせながらにこやかに挨拶するサブリーダー。


「あー、色々あった。 で、それも打ちひしがれてるわけだが、どれだけお前ら改築すりゃ気が済むんだ?」

色々あった、で全部済ませたシオンが返答替わりに質問を返し。


「あ、ああ。 ちょーっとタガが外れちゃってね・・・大きな襲撃とかイベントもなかったし」

で、いつも何かしらやらかす君等も居なかったんで、じゃぁ増築ついでに連中を驚かせてやろうぜー、という流れにね・・・、という答えが帰ってきた。

オペレーション・ロアゾォブルーって感じだったねぇ、と付け加えるサブリーダー。


「なんという・・・これって回りまわればワチキ等へのサプライズ・・・だと・・・?」

シオン感激ぃー。

いや、本当にちょっと感動した。

本気でバカだろお前ら。


「うへぇー、ついででも嬉しいけどさ」

レザードもただため息。

だが、なんか建築組の酒飲み口実的に使われた感じしかしないのは俺の気のせいか?


「いやぁ、お心遣い感謝です。 文字通り仰天しました」

これだけ高い塔ですからね、とジオが神官ジョークでサブリーダーを苦笑させ。


「だが・・・自分は・・・せめて手伝いたかったっ・・・」

超絶悔しそうにメリウが呻く。

町改造を皆とコツコツやるのも大好きだった男である。

気持ちは嬉しくも、無念が大きい。


「あー、ソコラはごめんねー。 なんだかんだで皆にはこの町盛り上げてもらってるんで、何か礼をしたかったってのは町の住人の総意でもあったんだ」

だからさ、と、サブリーダーが<飛行>で浮かび上がる。

そしてメリウを誘う。

ひとまず、屋上を見に行こう、と。

無言で<飛行>したメリウを連れ、彼は飛ぶ。


「じゃ、ちと同士を借りてくよ」

皆はのんびり登ってきて、とサブリーダーは塔の内壁にグルリと張り巡らされた螺旋階段を指さす。


おいぃ、超絶遠いじゃねぇか、というボヤキをシカトして<飛行>組二人が空を舞った。




空中庭園。

中央に配された大木が天を衝く。

大胆にも石畳などを廃し、まるで丘をそのまま移設したかのような見事な自然庭園であった。

恐らく、ここを作るだけで塔そのものより手間隙かかっている。


音もなく着地する二人。

周囲はのんびりと過ごすPC達の談笑がかすかに聞こえる程度の静けさで。

ほぅ、と、メリウのつく溜息も、その静けさに溶けた。


「お見事」

ばったりと人工の草原に大の字に倒れこみつつ、メリウ。

感服です、自分が作りたかった以上の空中庭園だわこりゃー、やられたー。


「大変だったよ。 なにせ空飛ぶ重機が居なかったからねぇ」

ははは、と疲労感を漂わせるサブリーダー。


「うはは、まだ<変身>と<飛行>両持ちは自分だけなんかいな」

メリウは苦く笑い。


「<飛行>組は若干増えたんだけどねぇ。 <変身>がちょっと壁だねー」

あれ取るくらいなら皆ほかの有用スキル取っちゃうしねー、とサブリーダーも苦笑い。

そりゃそうかー、と応じるメリウと合わせて、静かに笑いあう。


そんな苦笑合戦にも飽きた頃合いで、階段方向から響く雄叫びいくつか。


「ぃぇー、ワチキ一着~」「うはぁ、最後で刺されたー」「二人とも大人気ないですよ全く・・・」「「<瞬間移動>しやがった貴様にだけは言われたくないわ糞坊主!」」・・・ああ、五月蝿いのが来ちゃった。


「じゃ、いこか」

サブリーサーが手を差し伸べ。


「はいよサンキュ」

その腕をメリウが取り。


ひとまず立ち上がって馬鹿共に<熱線>ブチ込むメリウであった。




さて、そんなこんなで戻ってきたぜ拠点町。

ひどい有様に成長を遂げていたが、出発当時から比べると人口が増えている気がする。


「ああ、なんだかんだで設備整ってるし、クエストとかも初級から豊富といえば豊富なんで初心者組とかが増えたんだよ」

同好会活動じゃないけど、生産系も元気がいいからソッチ系でも人増えてるよ、と喫茶店の一室を占拠して食事中の一行に説明するサブリーダー。

侍組は今日集まりがないらしく、メンツに同行している形だ。


「ほほー、初心者狩りなどはここのメンツだったら排除しちゃうでしょうしね」

居心地はいいでしょうね、都会よりは、と、ジオ。

町中で追い剥ぎとかは有り得ませんからねぇ、ここなら。


「あー、最近はそういうの対策の必要もなくなったねぇ。 初期はあったけど」

町の入口近くで帰還する疲弊したパーティを狙うようなゲスい連中も居た、ということらしい。

ただ、流石は色々無茶をくぐり抜けて生き残った<町>である。

その連帯感は凄まじい。

入口付近に詰めている辻ヒール同好会から各位に伝達、速度に勝る<飛行>組や発掘機械<二輪>乗り組等が即時出撃、これを殲滅した挙句にそのハイエナPK達の死体を丁寧にバラし奈落より深いと言われている町の外堀に廃棄したらしい。

ああ、それはもう、ダメだな・・・回収NPCとか事前に頼んで無かったら、もうキャラ作り直しレベルだ。

・・・あっれ、この町の住人のほうが怖くね?


「いや、身内に手を出されたら、そりゃ怒るでしょ」

涼しい顔で言ってのけるサブリーダーに、皆は恐怖の一文字。


「ん、ちと怖いがそれについては同意」

俺だったらそこまではしないなぁ、とレザード。

趣味は馬鹿を壁に縫いつけること・・・あっれ?


「ま、自業自得と弱肉強食ってことで」

シオンはちょいとシニカルに笑う。

力に依るということは、力に逆らえなかった場合同じような目に遭っても泣かない覚悟はあるのだろう、と笑っている。


「ちとやり過ぎ感はありますが、一罰百戒ということろで良いんじゃないですかね」

それも含めてPKなんてしてたんでしょうしね、とジオ。

なんというか本当の意味での自由の意味を考えさせられるゲームですよねこれ、と独りごちる。


「自責自取。 自分の責任は自分で取る、それだけやれば後は好きにしろ。 それが自由だ・・・だったっけ?」

学生時代の恩師に言われた言葉を思い出しながらメリウ。

ああ、確かにそうだなぁ、それだけやれればぶっちゃけ大人なんだよなぁ、と最近とみに自覚しだしたことをしみじみ思う。


ああ、そんなかんじですな~と、ジオが笑い。


それに釣られるように皆が静かに、笑った。




とかなんとか、綺麗に終わると思ったかい?


「よーし、それじゃあユーザーイベント開催だ~ クエスト:迫り来る大怪獣! スタート!」

言うなり<瞬間移動>して姿を消すメリウ。


!?

その場の人間が唐突なことに反応しかねているところに響く轟音。


鳴り響く町内全体チャット、緊急報告であった。


「大変です! 怪獣が町に! あ、口を開けて今ブレスを・・・いえ、<熱線>魔法を撃ってきました! メーデー! メーデー!」


あの野郎・・・実はまだ呼ばれなかったことを根に持ってやがったな・・・。


「でも、メリっさん建築物壊すの嫌いなんじゃ・・・」

サブリーダーが、きっと外で暴れるだけですよね的な事を言うが、そんなことはない。


「いや、奴は・・・壊すのも大好きだ! 拠点自宅建て替えの時に自分で建てたログハウスをそれはそれは楽しそうに焼き払ってたぞ!」

その場にいたシオンが焦りだす。

そのくせ自分が作ったものが人に理不尽に壊されるのは大嫌いである。

最悪な人種だ・・・うん殺そう、すぐ殺そう。

シオンは抜剣して外へ走りだした。


「あんにゃろ・・・なんかおとなしいと思ったら早速やりやがったな。 先行くぞ<瞬間移動>」

一番槍を取るつもりか、レザードが姿をかき消す。


「まぁ、初心者っぽい人は狙い撃ちにしないでしょうし、有り難く突発イベントとしてブチ殺しましょう」

<変身>したモンスターの部位を剥ぎとっても<変身>解けたら人間のパーツになりますからグロ注意を徹底しておきましょう、と言いつつおっとりと立ち上がるジオ。


「帰ってきた早々この騒ぎかぁ。 ボクも取っちゃおうかな<変身>」

好き勝手に生きられたら楽しかろう。

他人も楽しませられたら、さぞ楽しかろう。

皆が形は違えど笑えるなら、それは楽しいというか痛快であろう。

さて、では痛快に過ごすためには、今なんとする?


とりあえず、と、サブリーダーは抜刀して<飛行>した。

目指すは町の外から来たる脅威、大怪獣メリモス。


「ひとまず、馬鹿を叩こう」


サブリーダーも、出撃した。




小癪にも持てる技能を遺憾なく発揮し、おいおいボスキャラがそれはまずかろう? という禁止手、完全回復まで使って暴れまくった大怪獣メリモスは、実に一時間の長きにわたり町の皆の玩具になって頑張った。

空からの槍に止めを刺された大怪獣は、断末魔に一言だけ、


「皆、楽しめたかな?」


と言って、息絶えた。


ああ、とっても、と、やけにいい笑顔で青筋立てた町の皆に奈落に落とされたその三分後、


「NPC雇うの忘れてました、ヘルプ」


と、ヘルプコールが成されたというが、

「俺の」「ワチキの」「ウチの」「「「ログには何も無いな」」」

「ちょ!?」

地味に許してもらうまでしばしかかった・・・らしい。




なんだかんだで、青い鳥なんぞ居なくても自分の家はイイもんだぜ、というお話。

もしくは、俺が! 青い鳥だ! という話?

そんなこんなで今日もいい時間となりました。


「「「おつかれぃ」」」


「おつかれさまー ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイモウシマセントイウトウソニナリマスガ」


「「「反省してねぇ!?」」」




では、またそのうちに。

おつかれさま。

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