世界旅行も楽しいもので 5
過去、滅んだ王国があった。
近しい過去、辛うじて血脈を保った王家があった。
そして現在、その血筋を引くものを中心として発展した砂漠のオアシスが、あった。
転送門から出た先は、昔懐かし大砂漠。
門のすぐ近くには大きなオアシスがあり、そこにへばりつくように息づく町一つ。
炎天下に放り出されたキャラクターたちは、途端に荒い息を吐き出すと汗だくになり始め、じわじわと弱っていく。
「おっとと<環境適応>っ」
慌ててジオが暑さ寒さを凌ぐ範囲魔法を使用する。
ぼーっとしてたらこのまま野垂れ死ぬる所だったわ。
「サンクス坊さんー、今日は皆酔っ払ってなくて良かったねぃ」
地味に休日の起き抜けゆえテンションが若干おかしいシオンがエアコンいらずの便利魔法に感謝する。
まぁ、中の人は節電ってなにそれおいしいの状態でベリークーラーな状態であるが。
「なんだかんだで懐かしいねぇここ。 前のクエストで来たときはあそこら辺から景色変わったんだっけ」
オアシスの北、砂漠の中心部方面を指さすレザード。
「だねぇ。 で、クエスト絡みであそこのオアシスが出現して今に至る、と」
クエストアイテムの表記変わったよ、わーい、で終わってここに再来訪しなかったしなぁ、とメリウ。
クエスト前はオアシスじゃなくて毒沼とかだった記憶があるなぁ。
「ま、とにかく行こか~。 ジオのエアコンいらずもそんなに長時間もたんだろうし」
しっかし、歩きとかで来たときはえらい時間かかったもんだけど便利に早くなったもんだねぇ、と、利用環境の利便増加に素直な喜びを表すシオン。
そんなこんなでテクテクと。
砂漠をザクザク歩いて行って。
サクっと着きます歴史から拾い上げたるオアシスへとうちゃ・・・何だコイツは!? げぇ、サンドワーム! レザード、おしっこかけて腫れさせろ! それじゃ俺のが腫れるパターンだろがってこっち来たー!? ・・・
・・・至極無事に、オアシスにたどり着きました。
「椰子の木陰で捕まえてー、へっへっへ、もう逃げられへんデェ・・・いやぁ、やめて離して・・・」
いきなり電波を口にしだしたメリウを華麗にスルーしつつ、一行がオアシスに足を踏み入れた瞬間。
<クエスト報酬:称号 砂漠の騎士 を入手しました>
突然現れるシステムメッセージ。
いつもの面子の頭上に輝く派手エフェクト。
人影まばらなオアシスであったが、玄関口でのその派手さから流石に人の視線は集まるもので。
「散開っ」
「「「応!」」」
皆は即応、散って逃げ出した。
いつもの面子は、静かに暮らしたい。
「なぜかオアシス一周マラソン大会参加中、レザードです」
走って跳んで、人混みが多いところに紛れたぜスタートバーン! おおっと? ・・・で、今に至る。
(もうちょっとどうにかならなかったのかその説明は)
現在、先頭二名を追いかける第三位ポジションにて虎視眈々と先頭を奪うタイミングを狙っている。
既にオアシスの3/4周程は消化、前を往く二人はいつでもスパートをかけられるが、互いに牽制しあっている・・・そんな状態のようであった。
「うん、間怠っこしい」
江戸っ子気質のレザード、超即決。
まるで砂に足を取られたかのような前傾姿勢になるやいなや、前方向に向かってジャンプした。
垂直跳びならぬ水平飛び。
先頭争いをしていた二人が足元をカッ跳んでいくそれに仰天し、巻き込まれるように転倒した。
額が砂の地面に刺さるか否かの辺りで、レザードは足先に集めた重心を背中方面経由で空へと引っこ抜いた。
水平飛びの男が、飛び起きるように逆立ちに移行。
そのまま地面に手を付き、跳ね起きる。
一瞬で十数メートルを移動した勢いそのままに、レザードはゴール向けてひた走る。
ひとまず女性PCに<変身>したメリウは、即時称号表示を消すと呑気にバザーを冷やかし始めた。
オアシス対岸でなにか騒ぎっぽいものがあったようであるが、このゲームでは茶飯事であろうと一瞬だけ気にとめてそれきり忘れた。
見慣れぬ商品が並ぶ通りをのたくたとねり歩く。
先日の巨人返り討ちにて得た報酬が予想以上に大きかったが、今は次なる野望に向けて節約節約・・・。
端から端までバザーを見歩き、競合相手がいなかったことを確認。
そそくさと無限鞄の中から作りだめした酒を取り出すと。
「いらっしゃーい、酒蔵御雌娘の蔵出しですよーぅ」
こっちの樽酒は試飲無料ですぜダンナー。
満面の笑みを浮かべつつマイペースに商売を始めるメリウであった。
よもやこっちでも熱中症対策に回るハメになるとはっ
称号取得騒ぎで散った後、サクっと表示を消して何食わぬ顔でオアシス玄関口まで戻っていたジオ。
さて皆を待ちますかねぇ、とぼーっとしていたところに次々現れる砂漠で焼かれた旅人たち。
恐らく焼かれ具合からして、転送門からの観光客が「走り抜ければきっと平気さ!」と無策無装備でやってきた結果であろうと推測できた。
ひとまず放っておくと町中でも死ぬ。
即時ジオが動いた。
泣く泣く審問を受けるリスクを背負って習った究極その2<全究回復>。
こんがり日に焼かれた旅人に光の雨が降り注ぐ。
何が起こったかわからぬ旅人をよそに、ジオは次なる怪我人の元へと走る。
どこに行っても行動の変わらぬ漢であった。
ひとまず人気のない場所まで走ったシオンは、他の皆と同じく称号表示を消すと元きた道を引きかえしだす。
流石に称号取得の派手さだけじゃ、そうそう人も興味が続かないだろう・・・と、ひとまず時間つぶしに適当な喫茶店にでも入ろうと周囲を見回す。
・・・ものの見事に、胡散臭い感じの飲み屋兼宿屋しか見当たらない。
入ったら絶対トラブルが降って湧くんだろう?
へへへ、そんなのに引っかかるワチキじゃないぜ!
ギィ・・・・っ
「ヘイラッシャイ」
流れるように飲み屋に入るシオン、それを出迎える飲み屋主人・・・を昏倒させて金を奪っていたNPC強盗。
<クエスト:強盗が現れた! 開始>
・・・ファイッ
それなり以上の優勝商品とトロフィーをもらい、周囲のギャラリーに賞賛を受けたあとレザードは解放された。
「つ、疲れた・・・走るよりその後のほうが疲れた・・・」
レザードは静かに暮らしたい。
と、いうわけでふらつく足取りでどこか休憩できそうな場所を求めて彷徨っていたわけだが。
彼の目の前に現れたのは、一軒の飲み屋兼宿屋。
ふふふ、分かってるぜこれにノコノコ入るとなにか発生したりするんだろう?
そんなのに引っかかる俺じゃ・・・ギィ・・・っ
「ヘイラッシャイ」
小金を稼いで、そろそろ皆を探すかねー、と店じまいしたメリウ。
砂漠→暑い→全裸も良いよね!→淫魔おメ子オアシスに立つ! と、ここまで0.03秒。
「<変身>おメ「おやめなさいな」あ痛ァー!?」
後方より来るツッコミ、メリウの変身がインターセプトされた。
振り返れば陰る太陽、長身のジオが佇んでいた。
怪我はしてないはずなのに、いつものように服に飛び散る赤いのは自前の喀血だよね・・?
洗濯魔法、使えば・・・?
「おお、これは気づきませんで」
失敬失敬、と吐血跡を綺麗に消すジオ。
で、ジオは何やってたん? あー、熱中症対策を少々・・・ あ、ああ? で、そちらは? ・・・
肩を並べて歩く二人。
通りかかった一軒の飲み屋兼宿屋・・・おいぃ、なんで入口に野党っぽいのが吊るされてんだヨ?
くくく、わかってるぜぇ、突っ込んだら負けだって・・・入ったら絶対なにか来るんだろう?
ギィ・・・っ
迷わず入るメリウとジオ。
「「イラッシャイ」」
そんな感じの繰り返しネタで合流したいつもの面子。
シオンが巻き込まれ系クエストを受けていたらしく、しかも目標をサクッと全滅させていたりしたために進行上この場で待つ必要が出た、とかで・・・。
「一番、メリウ。 歌いますっ シャウト アイアイっ」
ひょぅ、やれやれーい、囃し立てる仲間にサムズアップで応えつつ、叫ぶ叫ぶ酒場の中心でアイアイを叫ぶ。
「アイアイ! アイアイ! 尻ィッ尾が長ァァァァァい!!」
「「「ぉぅぃぇー!」」」
酒が入って箸が転がっても楽しめる状況でございます。
クエスト進行の待ち時間が長かったせいもあるが、暇を持て余し過ぎたため一気に飲み会カラオケの流れと化した。
きゃー、このゲームのカラオケ、曲数多いー。
流石にソ○サリアンCDの歌詞付きBGMまで入ってるのを発見したときにはむしろヒいたぜ・・・
だーきしめーてーっ ちぇーっく、ちぇっくちぇっく(無論歌った)
「では二番ワチキ。 ハンバーガーショップ」
嘉門さんかよ! ちゃんと語れよー! あ、自分店員やりますぜー。 もうノリノリである。
<あ あのー>
「ほれ、一万円じゃ!」「大きい方、9000円になります。 ご一緒に数えてくださいイチマーイ」「ニマーイ、サンマイーって小学生か!?」
<あのー お待たせして申し訳ありませんー>
「ふぅ、流石嘉門師匠だぜ・・・いい歌だっ」
「では次はウチが・・・Forces」
あーずりー 一人だけカッチョ良さ気なの歌いやがる気か糞坊主! なぁに、皆で歌っちまえばいいのさ。 そこに気づくとは・・・流石天才か・・・。
<「「「「Hai Yai Forces Hai Yai Forces !」」」」>
!?
「い、今誰か・・・俺達以外に歌声がっ」「ば、馬鹿なっ。 ここにはもうワチキ達しか生き残っていないはず」「自分、実は霊感がありましてね・・・ほら、そこに! 女の地縛霊が!」「いや、そろそろシステムさん(仮称)からかってないでクエスト進めましょうよ・・・」
ジオの裏切りをもって飲みカラオケ終了のお知らせ。
こほん、とシステムさんから咳払いが聞こえた気がしたが俺のログには何も無いぜ。
<クエスト進行:町長の元へ移動してください>
システムメッセージが表示され、マップに目的地までのガイドが表示される。
飲み屋から程ない場所のようであった。
「ひゃっはぁ、一番乗りは俺だ~」
飲みのノリそのままに走りだすマラソン大会優勝者。
おいー、トロフィー忘れてるぞぅー。
「んじゃワチキらもいきますかいのぅ」
なぜか老けこんだ老人プレイをしだしたシオンが剣を杖替わりにヨボヨボ歩きだし。
「そうさのう爺さんや」
それに乗っかってジオが婆さん役を買って出て。
「せっかく盛り上げようとベヒモス変身して空飛ぼうとしたのになぁ」
ひっそりと洒落にならないことを計画していたメリウが去り。
そして誰も、いなくなった・・・。
<Hai Yai Forces Hai Yai Forces ・・・・>
だ れ も い な く な っ た !
かくして回収忘れていた過去の報酬やら突発クエストやらに見まわれつつも、世界旅行は続く。
「「「「あっれ、町長に会うくだりとかは?」」」」
長くなったから、引きます。
では、またそのうちに~ ノシ