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世界旅行も楽しいもので 4

世の果て。

南方独特の蒸し暑さを感じさせる陽炎のエフェクトに、見てるだけで汗がにじんでくる錯覚を得る。

転送門を出たその周囲には町、というか小高い塔のような外壁に丸く囲まれた小さな村が広がっている。

人影はさほど多くはないが、彼らの装備や立ち居振る舞い、雰囲気がツワモノのそれである。


「うわぁ、何かすごいところに来た感が」

門を出た早々に襲いかかる場違い感に、シオンが昭和初期の恐怖マンガ的な表情でぼやく。


「ひとまず、見て回ろうか・・・・壁の堅牢さからイヤな予感しかしないんだけどね」

ウチの町の城壁より厚いじゃねぇか、と冷や汗垂らしつつメリウ。

おいぃ、あそこの材質見たこと無いぞなんだあれ・・・<知性判定:材料学 成功>・・・ミス・・・リル・・・だと?


「前回の海水浴から一気に地獄に来たなー」

周囲のPC達に興味津々の視線を巡らすレザード。

何人かいる槍持ちの人にシンパシーを抱いている模様。


「ふむ、古強者の巣窟といった感ですな。 怪我を放置する程度の弱者は去れと言う風情ですね・・・チッ」

すわ、戦場・最前線=怪我人のバーゲンセール、的に周囲散策していたジオが感心したように呟きつつ、最後の最後で我慢しきれずに舌打つ。


ひとまずは外壁周りに町を一周してみよう、と、歩き出すいつものメンツ。

すれ違うPC達は軒並み無言で、希に武器以外がほとんど初期装備の彼らに憐憫のまなざしを送ってきた程度だった。

筋力が伸びないと防具関係は選択肢無いからなぁ・・・。


ほんの数分歩いただけで外壁に到着。

辺りを見回して、ようやく気がつくことが一つ。

この転送門を囲む塔のような壁の町には、外に出る扉というものが存在していなかった。

そんなばかな、と十分弱程かけて町を一周してみたが、見事に出口なし。

どういうことなのどういうことなの? と、シオンとメリウが左右に腰降りながら歌いだした矢先、世界が微震した。


「二人が腰振ったら世界がゆれた・・・だと・・・」

ジオが驚愕の表情でシオンとメリウに罪を着せようと動く。


「お、なんかツワモノPC達が慌ただしく動き出したけど・・・みんな飛んだ・・・だと・・・?」

塔のように高くても、上を見ればくりぬかれた丸い空。

大砲の砲身にも似たそのなかを、十数人、小数パーティが散弾のごとくに飛び立ち、飛び出していく。

ああ、どーりで出口がないわけだ・・・・と、丸空を見上げたレザードが呆れた声を上げた。


「ひとまず、壁の上まで<瞬間移動>して外の様子でも見物しよかー」

横移動して石のなかにいる、はイヤだからねぇ、と言うなり姿をかき消すメリウ。

数瞬後、上方から彼の呼ぶ声が聞こえてくる。

が、遠いのでなにを言っているかはわからない。


「鉄砲玉が何か叫んでるし、ワチキ等も行きますかい」

念のため剣を抜いたシオンの姿も消え、先に移動したメリウの近くへ。


「では、ウチらも」

それにジオが続き。


「ぉぅぃぇー」

レザードがトリを飾って、姿を消した。




辺り一面360度ガチ鉄火場へようこそ。

いつもの面々のパノラマに展開されるPC達と巨人達との潰し合い。

先ほどの常駐組はどうやら転送門守備要員だったらしく、壁の内側ですれ違った面々が壁のすぐ外側に取り付いてそれを破壊しようとしている巨人と激しく交戦中。

どう見ても複数パーティでの大型クエスト中です、本当にありがとうございました。


「うへぇ、本当に場違いだった件について」

シオンがぼやくのも無理はなく、正直観光組にやることなどなさそうである。


「んー、混ざったらマズイんだろうなぁ・・・」

周囲を見渡し、劣勢な所がないかなぁ、とか探しつつレザード。

乱入する気満々でしたか、そうですか。


「ふむ、流石に雰囲気通りに良いスキルしてますな、皆様」

巨人の棍棒振り下ろしに対して「カウンターを合わせて投げる」といった無茶な挙動をしたPCに視線を注いでいたジオが感心したように呟く。


「派手な怪我人でも出ない限りは却って邪魔になりそうだよねぇ。 しばしの見物、でいいんじゃない?」

巨人デケェー、と、皆を呼んでいたメリウは、すでに腰掛けて飲食の準備をしている。

観戦する気満々であった。




戦況は一進一退、崩れた体制を整えに町に戻ってくるパーティなどに怪訝な顔をされつつ、いつものメンツは悠々自適に観戦モード。

流石にヤジなどは飛ばさないが、戦う気などは全く、全然、これっポッチも無い。

地味に中の人達にも酒が入ったのか、だんだん観戦すらもどうでも良くなってきたりしていた。


「そういえば最近あっついけど、ちゃんと水分塩分とってるかー? 酷いと死ぬぞ熱中症~」

何度目かになる注意を周囲にまき散らして、メリウは中の人ともども酒をかっ喰らう。

自己醸造(魔法で、だが)出来るようになったため、売り物になるもの以外がかなりの分量になり、マジックアイテム無限道具袋に樽単位で備蓄されている。

ちなみに中の人の飲み物はシルクエビス。


「俺のところは平気だなぁ、デスクワークだしなぁ」

むしろ冷房で冷えすぎて困る、と、レザード。

メリウが敷いた御座の上に胡坐をかき、タダ酒をカブ飲み。

中の人の酒は珍しくスーパードライ、あまり好きではないが貰い物があり過ぎて処理している、とのこと。


「ワチキのところは移動仕事だから結構気をつけてるさねー」

レザードに同じくタダ酒を引っ掛けながらシオン。

キャラクターがすごいへべれけ、になりつつある。

中の人はそれほど酔っていない模様。

先程からピッチ早くビールだワインだと色々飲んでるようだが、本当に大丈夫か?


「ウチもレザードと同じようなもんですなぁ、現場に出なければですがねー」

それなりの立場にいるジオが喉を鳴らしながら言う。

外の人は万が一のためにシラフ状態で待機してはいるが、中の人がへべれけだとどうにもならないのでは・・・。

ちなみに中の人のは15年物の日本酒古酒、いいなそれこっちにもくれ。


酔っ払い達の会話はあっちこっちに議題が飛び散り、もはや会話の体を成さずにいる。

そんな彼らに振り下ろされる、一本の巨大な棍棒。

「そこの人ら逃げろー」という声が聞こえるやいなやの隕石の如き衝突が壁の上部、いつものメンツの宴会場を叩き潰した。

しん、と、静まる周囲。

あー、やっちまったー、と、壁の町の守備要員達が渋い顔をし・・・次の瞬間、驚愕に目を剥く。


「危ないですねぇ・・・こちらには交戦意思はなかったわけですが」

振り下ろされた巨大な棍棒を掲げた右手で防ぎつつ、僕らの癒し系ジオが残念そうに顔を左右にふる。

当然、素手でそんな奇跡を起こしたわけでなく<聖防壁>という名の高位魔法結界の力である。

神の力で外側からの攻撃を吹き散らす、という「攻性」防御結界。

当然、振り下ろされた巨人の棍棒にもその攻撃力は浸透し。

パーン、と、甲高い音を立ててそれがはじけ飛ぶ。


「ふむ、はじめて使いましたが、結構いい壁になりますなー」

グビグビグビ、と、マイク越しの飲込音。

おいぃ、酒強くないんだから・・・と、皆の心配を他所にジオはケタケタと笑い出す。


「さぁ、無粋な巨人の武器は手折りましたぞ! 今こそ見せよう我が精鋭の力をっ!」

えー、やんのー? オイ、俺らいつの間にお前の配下に・・・? しようがないねぇ・・・さっさと終わってまた続きのむべさー。

ジオの行け犬ども宣言に嫌々ながら立ち上がるいつものメンツ。

かくして、対巨人戦、開幕。




「さて、珍しく自分が先制です。 ってか、レザードが、いの一番に距離ギリギリまでジャンプした挙句に更に上空へ<瞬間移動>して大人気ない超ジャンプ攻撃準備をしに行きました・・・今落下中です」

シオンも技のタメがー、とか意味不明な供述中なので、仕方なく自分、メリウが先制攻撃なのです。

さて、どうしよう。

メリウは考える。

レザードが降りてくるか、シオンが動けばどのみち目の前のデッカイのの原型が保たれているかのほうが心配になる・・・と、なると。


失敗しても別にいいお遊びをすればいいじゃない、という結論に達した。


<流派技能:痛覚攻撃 決定成功決定成功決定成功・・・>


素手でこちらに掴みかかってきている巨人の人差し指、その、さらに爪の隙間に、メリウの刀が差し込まれる。

あまりに地味で使用される頻度の低い<痛覚>攻撃であった。

コツコツと人道を踏破した叩き上げ型PCの、地味に高くなった能力値・流派技能などを駆使して放たれる「ダメージ無し攻撃」であった。

強いて言うなら特殊能力があり、食らった相手は対痛覚技能で抵抗に失敗すると気絶。

そして、致命失敗をすると、


即死する。


そんな博打を何度も何度も打ち込んだメリウ。

やめて! 巨人の指の爪はもう見るも無残よ!

ぐりん、と白目を向いて泡を吹き出す巨人。

膝から崩れ落ち、壁に寄りかかるように動かなくなる。

気絶なのか死んだのかはわからないが、ひとまずは動かなくなる。

やることやった、と、メリウは早くも宴会準備を整えだす。

ちゃっかりジオもそれを手伝うと、今度は外の人もタダ酒をがぶ飲みがぶ飲み。


ぬおおー、敵が見えなくなったァー、と、謎のタメポーズで苦悩するシオンの声をBGMに、癒し系二人が愉快に酔っ払い完成、むしろ完了形酔っ払いにクラスチェンジ。


「アラ綺麗流れ星、願いを言わなきゃ金金金」

コロコロ<変身>していろんなモノになりながらメリウが空から降り来たる流星に願いを託し。


「あー、俺が戻るまで宴会再開待っててくれよー」

ドップラー効果をもって消えていくレザードの声と、生々しい貫通音。

そして吹き上がる、青い青い巨人の血潮の間欠泉。


<瞬間移動>で皆に合流したレザードが開口一番、言った。

「ジオー、洗濯魔法ぷりーずー。 あと、何面白いカッコしてんのシオン?」

ブルーメン、レザードが小首を傾げる。


珍しく出番なしに終わったシオンは、極限までのタメを実現した超強力な構えをしたまま、さめざめと泣いた・・・。




宴会の片手間に巨人から剥げるものを剥ぎ、奪えるものは奪い、結論。


「「「「うまいなコイツ」」」」

換金しないとなんとも言えないが、酷いものを色々手に入れた気がする。


周囲の古強者たちから奇異の視線を感じた気もしたが、すぐに追加で巨人が現れたためそちらへの対応で有耶無耶になった。

ズラかるなら、今か。


「うっしお次はどこに飛ぶのやらー」

サクッと転送門前まで<瞬間移動>しつつシオン。

へべれけになって出番なしのことはどうでも良くなったようである。


「北、西、南、ときたし、もとに戻って東か・・・」

レザードがまだ働く頭の片隅で考察し。


「もしくは中央、という感じですかねぇ」

ジオもそれに続き。


「中央ねぇ、大砂漠だったっけ?」

なんか昔クエスト絡みであったような、とメリウが酔いきった頭で思い出そうとするが、無駄だった。


「行けばわかるさ、ありがとぉぉぉぅー」

叫びつつ転送門をくぐるシオン。


「うっさいわぼけー」

耳をおさえつつそれに続くレザード。


「今度はハードじゃない所がいいですなぁ」

地味に防御魔法で消耗していたジオが小さい希望を口にし。


「まぁ、即死しなけりゃどうにでもなるし行けばわかるさ。 ありがとぅー」

お前も叫ぶのかよ! とジオからツッコまれつつ、メリウもジオと肩を並べて転送門に足を踏み入れた。




さてさて本日もいい時間となりました。

次回は一体どこへワープアウトするのか?

むしろ題名が世界旅行でなくなったりして。


「「「「おっつー」」」」


お疲れさまでした。

ではまた、そのうちに。

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