世界旅行も楽しいもので 3
ゲートくぐってえんやこら。
今度の場所はどんなんよ?
期待に燃えるメンツを迎えるのは、朝日上る水平線。
皆から上がる歓声、そう、叫べ、あれだ。
「「「「うーーーーーみーーーーー!」」」」
さて本日は、いつものメンツ西海岸バカンスの旅ポロリもあるよ! をお送りします。
アクアパッツァうめぇー。
ぶっちゃけ魚の炒め煮なんだけどねー。
オリーブ油とニンニク、後はトマトと唐辛子あたりあれば基本イタ公の味付けだよねー、とは超偏見メリウの言か。
浜辺の飯屋で優雅に微発砲ワインを飲みつつ(アルコールの入ってるファンタあたりを想像されるとよろしかろう、結構美味いんじゃぜ?)まったりと過ごす。
ふぅ、現実でも遊びに行きたいものじゃぜー。
さて閑話休題、仮想現実内での味覚センサー実装なんてまだまだ夢物語であるので、中の人たちは美味そうな料理を貪り食う自キャラを後目にわびしい食事をしてたりするわけであるが。
「それはワチキの事を言っているのかい?」
レトルトカレーを食べていたシオンが、一旦切っていた音声チャットのマイクをON。
「あー、今夜は確かにろくなもの食ってないわ俺も」
ちなみにコンビニ弁当だったー、とレザード。
「ウチは普通にトンカツとかでしたな」
このブルジョアめ! 敵だ、敵がおる! と殺気が集まるがジオはどこ吹く風の体でキャラクターにキタキタ踊りをさせている。
腰蓑一丁のジオが軽快に踊る様は、まさにソロサバト。
「もう貴様等自炊しちゃえよ」
今夜のメニューは外の人と同じアクアパッツァなメリウが仲間を料理に引きずり込もうとする。
慣れれば気楽だよぅ、フライパンあれば出来るよぅ、おいでー、おいでー。
「「「面倒だから嫌」」」
敵だ! 敵どもがいよるわ! メリウがアウェー感に打ちひしがれた。
湯を沸かすのとポトフ作るのは手間とかあんまり変わらないぜぇー、とかも言ってみるがガチスルーされた、死にたい。
青い潮騒が心地良い、そんな西の海の昼下がり。
砂浜で戯れる水着姿のPC達。
日向ぼっこしているオオトカゲとかもいいアクセントといえばアクセント。
ああ、今回は真っ当に旅というか観光してる気がするっ・・・。
丁寧に作りこまれたゲーム世界の背景美術を堪能しつつ、だんだん眠気が襲ってきたりする中の人達。
イカンねどうも、いっそもう落ちるか・・・?
開始30分に満たない観光で、既にいつものメンツ陥落寸前。
「ぐおおお、イカン、イカンぞ。 ワチキ達にはまだやらなければならぬことがっZzzzzzzz」
即時寝落ちかますシオン。
「・・・無理すんなー、寝とけ寝とけ。 最近皆忙しかったみたいだしねぇ」
かくいう俺も連日残業でな? と、レザードの中からも疲労がにじむ。
「ウチも今月はハードでしたな・・・盆休みの前倒し関係で受注量ががががが」
踊り狂いながらガックンガックンとヘッドシェイクをかますジオ。
疲れてるのは分かったから止まってくれエクソシストとか呼ばれてしまうじゃないか。
「はは、皆大変だなぁ。 自分は明日から二連休・・・あ、電話、チト離席~」
しばし遠くでボソボソと聞こえるメリウの中の人の通話声。
数秒後戻ったメリウが、開口一番。
「休日出勤になりました、なう」
と発表。
うわーい、今月も休日片手で余るじゃんーひゃっほーぃ!
給料日が楽しみだァ・・・もう、腹いっぱいだァ。
「行くなとらァァァ、っと。 んじゃ、今日は落ちるかい、みんな」
首の骨を鳴らす音をBGMにシオンが確認を取る。
「そだなー、無理して寝落ちじゃどうしようもないしなー」
俺はもうちょっとだけやって落ちるさー、と、レザード。
「ウチは落ちておきますかなー。 申し訳ありませんがお先です」
ジオが踊り狂いながらだんだんと薄くなる。
ログアウトした模様。
相当お疲れだったようだ。
「自分も明日朝早くなっちゃったんで落っこちまっさー」
おつかれー、また明日かなー、と言いながらメリウもログアウト。
「「おつかれさんー」」
シオンとレザードが二人を見送り、かくてメンツは二人のみ。
「んじゃ、ワチキも寝とくねー。 おやすみぃ」
シュタっと手を振り、シオンもログアウト。
そしてレザードだけが静かな浜辺に居残った。
翌日。
声に元気を取り戻したメンツがログインするとそこには。
「ふぅいぇ~ だらだった~ だらったったぁ~ べいべべいべ~」
上機嫌に波乗りをするバカンス満喫中のレザードの姿が。
鼻歌P3かよ、良いセンスだ。
そういえばP4アニメ化おめでとうございます。
きっちり作りきらなかったら死なす。
まさかのらっしゃーせルートとかでも可、むしろそれで。
あと菜々子ちゃんマジ天使。
P5とか、イゴールの中の人亡くなられたしベルベットルームにベスさんとアイギス従えたキタローがいれば大喜びなんだけどなー。
石田のあーさんが「ようこそ、ベルベットルームへ」とか言うんだぜたまらんね?
俺だー、スライムと合体させてくれー。
閑話休題。
しばし大波と戯れた彼が浜辺に戻ると、周囲からパラパラとサーファーと思しきPC達が集まってきていた。
レザードとは昨夜からの知り合いらしく、あそこのターンはちょいと溜めるとアレにつながるぜぇー、等と意味不明な言語で語り合っている。
「お、仲間来たんで抜けるなー。 んじゃ、またー」
「またなー」「えーもう行くのかよー」等の声を背中に受け、レザードがメンツに向かっておまたせー、と笑いかける。
「何レザード、アレからずっとサーフィンしてたん?」
アロハシャツ姿のシオンが、あからさまに新品のサーフボードを指さしながら尋ねる。
「ああ、実は昨日海面走りとかできないかなぁ、とチャレンジしてたら誘われてさ。 この板も貰った」
思ったより軽いのなこの板、と、ボードを振り回すレザード。
「ほうほう、で、類が友を呼んだんですな。 この前の氷原滑りといい、こういうの得意でしたっけ中の人?」
ジオが相変わらずの腰蓑一丁で仁王立ち。
レザードは「さすがに中の人は無理。 スキューバなら出来るが」と返答。
「で、海面走りは出来たん?」
赤褌姿のメリウが小首を傾げる。
10m位なら奴は走る、と確信はしていたが。
「え、無理だった。 なんか走るってより滑る、とかになっちゃって5分くらいしかもたなかったんで諦めた」
悔しそうに言うレザードに、周囲の「5分海面を滑った・・・だと・・・?」という驚愕の視線が突き立つ。
走るより凄いじゃないかこの人外。 変態めっ。
そりゃそんなん見てたら声かけるわなぁ、浜辺の皆。
「で、お前らその格好ってことは、今日もここでのんびり過ごすってかんじか?」
なら俺、また波乗りしてくるがー、とレザード。
「昨日は即落ちちゃったからなー、今日は本気で遊ぶぞぅ、という意気込みです」
シオンさんたら準備運動始めたり。
大人が本気で遊ぶとすごいんだぞ!(by菅野よ○こさん)
「ウチも昨日は奇っ怪な行動取っちゃいましたから、今日はまともに遊びますぞー」
ジオ、昨日の奇行を繰り返しながら言うんじゃない。
「明日こそは休日。 つまり自分は解き放たれたっ! バーチャルなのが悔しいが久々に海で遊びまわるのだっ・・・あ、電話。 いってきまーす」
数秒後「イタ電だったんで濃厚な呪詛吐きまくってすっきりしてきたー」と、晴れやかに語るメリウの姿が。
キサマ一体何を口走ってきた?
「んじゃまぁ、今日は斬ったはったナシで海バカンスということでっ ごーなへーっど」
「「「tes.」」」
しかしなぜクロニクルの方にしないでホライゾンにしたかなぁアニメ化・・・世は狂気に満ちてるね?
映像化されたらママンと主人公のところだけ買おう(最悪だってか、そこまでイカねぇよ今はまだ)
迫り来る波に挑みかかるように。
流れそのものを無視して突っ込む槍一人。
真っ向勝負だこの坂道め!
垂直の壁にしか見えぬそれに直角に。
握ったロープが手に食い込み軋むがヘッチャラだぜ!
浜辺から「おおおお!?」「おいおいおい、行けるのかアレ?」とざわめきが上がり。
「行けるかレザード!?」
航空動力メリウが眼下のレザードに確認する。
角度が違えばそのまま飲まれる、そんなタイミングだったが。
「行けるぜメリウ、そのまま真っすぐGO!」
天のメリウに向け大きく腕を突き出し、海の上の一番槍がほぼ垂直の波壁を重力潮力ガン無視で切り裂き上がる。
応! の声が空から聞こえたその瞬間、ロープからの動力がガンと跳ね上がった。
昇る昇る。
波の縁の返しを殴り飛ばしてルートを確保しつつ、レザードがついに大波を登りきり・・・。
「あーい、きゃーん、ふらーーーい!」
大波のジャンプ台を駆け上がり、そのまま空に向けて飛び立った。
「ブラボー・・・おお、ブラボー」
メリウの両手が拍手を形作り。
手にしていたロープが、はらりと海面に落下した。
勢い良く空のメリウの横を通り抜けざまにしハイタッチ。
あとは皆様ご想像のとおりに。
レザードは海面から20m程の高さから、自由落下することとなった。
航空動力による力技の大波ジャンプ台が大人気に。
ただ、流石にピタリとうまくいくわけでもなくロープに引きづられてそのまま波に飲まれるPC続出。
そしてメリウは絶賛ただ働き中・・・お客様の中にどなたか<飛行>魔法術者は居られませんかー?
「やー、楽しかったー」
晴れやかに笑い海面をスケートのように滑って戻ってきたレザードがパラソルの下、日陰で飲み物をすするシオンとジオの元に戻ってきた。
お前さんらはいかんの? と、訪ねるが。
「あー、まだいいやー。 もう酒入ってるし、今やったら下手すると吐く」
微妙な振動はあるからねぇ、とシオン。
「あー、ウチも今はいいですなー。 あの行列に並ぶ気がしません」
指さしたジオの指の先、航空先導待ちの大行列発生中。
波待ちと合わせると、しばらくは小さく前ならえ状態継続だろう。
「ま、どうでもいいけど。 俺は少し休んだら別の事しに行くわー」
落ちた時結構深くまで潜ったけど、綺麗だわ海中も。
ちと潜って来たくなった、とレザード。
「おお、潜水ですか。 それならウチが<水中呼吸>魔法かけますぜ?」
ニヤリと笑いジオが手をワキワキさせる。
使いどころがいまいちなかった魔法が今まさに日の目を見ようとしている・・・!
「お、いいなそれ。 ワチキも一緒していいかい?」
のんびりアクアリウム気分もいいやねー、とシオンが乗り気に。
「おうさいいぜぃ。 んじゃ強制労働中のメリウが自由になったら皆で潜りに行こうぜ~」
それまでちと休憩がてら酒取りに行ってくるー、とレザードの中の人離席。
その後、いつものメンツが海底散歩に出かけるのに1時間ほどが経過した模様。
最後の方は好き勝手に空中遊泳して憂さを晴らしたメリウが引きずられた参加者にボコられたのは良くある事とスルーされた。
青。
群れる青で、群青とでも言えばいいのか。
静謐に包まれたその世界に、くるり周りを行き来する住人たち。
ゆっくり下降するその先はまだ見えず。
上を仰げば網のような光の波紋。
現在いつものメンツ、海中を順調に降下中。
「この魔法、どのくらいもつの?」
海中でも酸素が得られる愉快魔法の効果時間を尋ねるレザード。
生命線だからねぇ。
「えーっと、レザード、さっき言ったじゃないですか・・・3時間はもちます」
本当に貴方は人の話を聞かないな・・・と、ジオがため息。
「確か三回くらい言ったよね、効果時間」
上下逆さに潜行中のメリウが苦笑い。
偶に色々スルーしてしまうのが彼の愉快ポイントと知っているけど、チトねぇ。
「さっきも生返事だったしなぁ。 何考えてたん?」
シオンもやれやれ、といった顔でレザードを尋問。
三方向からの視線にうっ、と詰まるレザード。
む、あやしぃ。
「さぁ、やってまいりました第一回。 レザード尋問会の時間です。 司会進行は私、穴があったら入れたい派のメリウと」
ちらっとシオンとアイコンタクトのメリウ。
「はいはい・・・同じく穴があったらもう入れている派のシオンがお送りします。 尋問官、これへ」
やれやれだなぁ、とニヤニヤしつつシオンがジオに合図する。
「どぅれぇ、爪を剥ごうか指を削ごうか・・・へっへっへ、早く喋っちまいなァァァ・・・」
超ノリノリだこの癒しマニア。
伊達に拷問学とかの謎文献を所有してないぜこの御仁。
「え、ええー・・・落ち着こうぜェ・・・」
水中ゆえ動きはさほど早くなく、レザードは拘束される。
「で、何考えてたー? ま、まさかついに・・・警察行こう、な?」
何やら脳内で大事件が起こったらしいメリウは即時解雇。
「なんか戻ってから考え事してたよなー、スキル関係でも悩んでたん?」
シオンが建設的に外堀を埋めにかかる。
「ひとまず爪剥ぎますねー」
ジオがノリノリでレザードの親指の爪を・・・ぐああああ、冗談、冗談だから噛んじゃらめぇェェェ。
「見ろシオン、アレがレザード×ジオの姿だ・・・」
解雇された浮遊者がシオンに耳打ちし。
「で。 そんなこんなしてる間に足がついてしまうわけだなぁ」
海の底に、と、膝辺りまで巻き上がった砂を見下ろしつつシオンがメリウをつかんで砂に埋めた。
「あーっと、うん、実は大したことじゃないんだが」
レザードは底に足を付けずに胡坐をかいた状態で浮力をきかせて姿勢制御。
続けて口にするのは、本当に大したことでなく。
「彼女にいたずらされてた・・・有り体に言うと、跳ね馬」
リアルポロリかよと三人が吐き捨てた。(序文約束クリア! ひゅぅ!)
光まばらな海の底。
周囲は既に青ではなく黒と言って良いだろう。
<発光>魔法にて周囲を照らすジオがそれに気付いたのは、ほんとうに偶然であった。
「あそこの亀裂・・・なにかおかしくないですか?」
海の底の岩棚の亀裂。
あって当たり前、的なその光景にジオは何を疑問視したのか。
「断面が、やけに作り物っぽくありませんか」
言うなりその亀裂に近づき、手を伸ばす。
スポッと、伸ばした手がなくなった。
「「「!?」」」
ぎょっとする皆をよそに、ジオは努めて冷静にソレから手を引きぬいた。
ちぎれてもなくなっても、いなかった。
つまり・・・。
「カムフラージュ・・・映像?」
シオンもジオに続き、亀裂の映像部分に剣を差し入れた。
何か硬いものに当たる手応えと音。
「で、結局なんだろねここ」
レザードは既に考えることをやめた。
「行けばわかるさーってやつかね・・・一番メリウスライム略してメス、行ってきますー」
いざ食いちぎられるような事態があっても安全なように<変身>して突貫するメリウ。
そして発見されたのは。
二重になった金属製と思しき扉であった。
海の底から帰還したいつものメンツは、ソソクサと着替えると周囲のPC達に挨拶し足早にその場を離れた。
海底で発見したアレ。
二重扉の向こうのアレ。
シオンの持つ金属板が反応して特殊クエストが始まってしまった、アレ。
今はまだ、なんというか時期が早すぎるという満場一致の意見を以て、二重扉は見なかったことになった。
このクエストに挑んである程度の達成が成ったその時には。
このゲーム自体が別物になりかねない変化が現れる・・・と、皆が一目で判断した結果であった。
今はまだ、寝かせておこう・・・。
バカンスの果てに得たものは、ゲーム運営側に仕込まれた埋込型アップデートの一端にして、恐らく<最終決戦>用に用意されたであろうもの。
特殊クエスト名<西方の希望>。
誰もが一目見てわかる触っちゃいけない感。
アレはまだ、寝ているべきだ。
「まぁ、ワチキらは何も見なかったってことで一つ」
クエスト欄を見るたびに思い出さざるをえないけど、それはそれでシカトせよー、とシオン。
「あいよ。 しっかし、本気でアレ・・・いや、やめとく」
言い募ろうとしたが、レザードは考えるのをやめて言葉を切断した。
「はいはい。 まぁ、ウチら以外の人が発見しちゃったらどうなるかわかりませんけど」
その時はその時ですなー、とジオ。
「まだ来ないで欲しいけどね、その時が」
メリウが珍しく真面目に呟き。
「だね。 じゃ、今日はこれで落ちよか」
ため息半分でシオンが皆に解散を宣言し、本日は終了した。
いつものメンツが海底で何を発見したのか。
謎のクエスト。
世界に起こるであろう変化。
そんな謎っぽいものを残して、世界をめぐる旅は続く。
では、お疲れさまでした。
今回はここまで、またその内にお会いしませう。
ノシ