世界旅行も楽しいもので 1
ポメラさん超便利。
なんということでしょう。
ワンダリングモンスターに無残な大穴をあけられたあの城壁が、その破壊者そのものの素材で作り直されているではないですか。
以前は基本石壁の鉄板補強といった無骨かつ堅牢なメーソンスタイルだった城壁は、今はまるでガジュマルの樹のごとく倒されたベヒモスの硬く分厚い毛皮で覆われているではないですか。
耐火、耐衝撃に優れる巨大生物の美味しいところを壁に移植、というヤマモト○ーコの□ーソン的発想が我々を驚かせます。
さらに、今回の突発事象に対応できなかったとするクラフター達の悔恨を晴らすが如く、城壁外に広く深い堀が出現。
以前作成されたものは現在の城壁地下の基礎部分として使用され埋め立てられたので、一回り以上町の面積が増えた事にもなります。
閑話として、その堀は、最近発掘された古代遺跡(機械人形工場?)からの発掘物、ユンボにて作成され、早くもその工事重機関連の問い合わせが殺到しているとのこと。
それでは、町の住人達にさっそく見ていただきましょう。
「うわぁ、相変わらずやり過ぎじゃ」「ここの壁だけ毛が生えたのか・・・」「見た目はアレだけど、頑丈なのはいいことだ」「ベヒモスたんの毛皮ハァハァ」「よーし、パパ毛深いの嫌いだからぶっ壊しちゃうぞーぅ」「おいバカやめろそこの灰色の誰でもいいから止めろむしろ殺せ」「フランクフルトいらんかねー」
大好評のようです。
「いろいろ追加されて、結構読み合いになるねぇ、対人戦とか」
先日の町内大会決勝を思い出しつつ、シオンがしみじみ呟く。
コツコツとアップデートされているこのゲーム。
定期アップデートの他、PC達の行動がトリガーになって解放される埋め込み型アップデート等もあり、数日ログインしないだけで状況が一変しているという事も日常茶飯事である。
「<止め>あたりは最初に持ってくるだろうし、それ対策の<牽制>は読みやすいって感じだね」
今週のアップデートまとめを眺めながらレザードが続く。
項目が多いのですでに新聞じみた情報量になっているので熟読するのは自分に関係しそうな場所だけである。
「回復関係はと・・・おお、ついに状態異常・病気関係の全回復魔法実装ですな。 クククク、いよいよ何でも癒せる漢への道を極めることがっ」
初耳の野望を口走りながら愉快ゲージを溜めるジオ。
ぶれないなぁこの人は。
「何というか、自分このゲームやってからというもの字を読む量が大増量なんだががが」
現状、広く浅くな構成のメリウが苦しみにのたうち回る。
アップデート内容の確認だけでヒドい時間が奪われる始末である・・・基本的に全部読むからねっ。
「で、各地で特殊クエストがらみの古代遺跡発掘ラッシュが始まってるんだけど、ついに転送門システムが発掘されたらしいねぇ」
任意点間を行き来できる、ワープゲートである。
この発見によって、世界の要所付近に転送門が出現し、広い世界の移動時間が大幅に短縮された。
「町まわりのクエストもあらかた落ち着いたし、いっちょ行くかいゲート乗り継ぎ世界旅行」
シオンの提案に、皆が頷く。
いざ、未知なる世界へっ。
都会は怖いところだ・・・。
拠点の町に比べ無駄に広い面積を持つ、最近接ゲートの最寄り町、というか、拠点の町が所属する国の首都。
その路地裏に転がる、追い剥ぎにヤられたであろう身ぐるみ剥がれた死体達を発見してしまった一行の感想である。
・・・その周囲には、その犯人である追い剥ぎ達の死体が転がっているわけであるが。
「町中でいきなり襲いかかってくるとは・・・」
カウンターで追い剥ぎを沈めたジオが、被害者の遺体を癒しつつ呟いた。
追い剥ぎはご丁寧な外道っぷりを発揮していたようで、被害者の指などが(指輪を盗るために?)切り取られていたりしたのだ。
死体すら癒す白銀癒手の本領発揮である。
「ひとまず、こいつらの手足斬っとくかー?」
追い剥ぎの死体を指さして、レザード。
手足以前に、その壁に縫いつけたままの人、せめて地面に転がしてー。
「ん、それより、こいつらの身ぐるみ剥いで殺されちゃった人の復活資金に回すって事でいいんじゃない?」
死体をなお切り刻むってのも趣味悪いしねぇ、と、メリウ。
「ういよ了解。 お、結構いいもん持ってんじゃねぇかヘッヘッヘ・・・」
シオンがノリノリで追い剥ぎ達を剥いでいく。
「うっし、んじゃ被害者達寺院にぶち込んで表通りでも観光しようー」
よいしょい、と被害者遺体に<軽量化>をかけて担ぐと、メリウは<飛行>を発動。
そのまま浮かび上がると、
「んじゃ、中央噴水で落ち合おう~ じゅわっ」
まっすぐに首都の寺院に向けて飛び去った。
頭を下げる蘇生した被害者達に「イキロ」とだけ伝えて剥ぎ盗った物品を押しつけ、即時空飛んで逃げ去ったメリウが首都中央噴水に降り立つ。
思い思いにその場で過ごしていたいつものメンツに「終わったー」とだけ伝える。
おつかれー、と手を挙げてくる皆。
「んじゃ、どこ行くかねー」
「市場ー」
「闘技場~」
「大聖堂とか見てみたいですな」
バラバラじゃねぇか。
「んじゃ、ここで解散して見て回るかー。 ワチキも闘技場見たいからレザードと一緒か」
いつも対人戦やってて賭けられるって聞くしなぁ、チト楽しみ。
シオンはレザードと肩を並べて闘技場へ向かった。
「んじゃ、ウチらも行きますか」
「ういさ、何か掘り出し物でもあったら連絡するわー」
ノシ と手を振りあってジオとメリウも歩き出した。
流石に首都、拠点の町とは広さが段違いすぎた。
乗り合い馬車に揺られながら、シオンとレザードが面白い顔をしていた。
「「まさか町中の移動で徒歩以外になるとは」」
ウチらの町なんて走ればすぐ一周できちゃう位なのにねぇ、とレザードが言い、それはお前だけだとシオンがツッコむ。
「しかし、見事に客いないねぇ、この馬車」
俺らの貸し切りじゃんねー、とレザードが座席一列を占拠して横になる。
「定時のルート巡回系だし、空くときはこんなもんなんじゃね?」
次の停車で目的地であるため、よほどの飛び入りがないと客は来まいて。(フラグ)
「おい、変なこと言うな。 馬車強盗とかがきたらどうしてくれる・・・何かキタ」
警戒に窓から周囲を見たレザードが、背後から迫る馬群を発見。
どうやら先ほど返り討ちにした追い剥ぎ連中の模様だ。
・・・やっぱり、達磨にしておくべきだったか。
ヒャッハァー、もう油断しねぇぜぇーと声を荒げ、追い剥ぎ達が馬車に迫る。
ああもう面倒だな、とシオンが剣を抜きカマイタチを放とうと馬車を箱乗りしだした刹那。
びすっ、びすっと、追い剥ぎ達が飛来した矢に額を打ち抜かれ落馬、落下ダメージ及び馬キックを喰らい、生々しく地面に転がった。
「はーいバカ共ー、町中で追い剥ぎプレイ禁止ー」
即時極刑執行完了っ、と、地面に転がる死体にさらに三本矢を打ち込む追撃者。
どうやら首都の衛兵的プレイをしてる人なのだろう。
特に実害の無かった馬車は止まりもせずに闘技場を目指したため、瞬く間にそれらが後方彼方の点になる。
「んー、なんというか」
「うむ、なんというか」
都会はおっかないところだー。
シオンとレザードは、平坦な口調で頷きあった。
ジオは早々に大聖堂を後にしていた。
ぶっちゃけると、広すぎて移動するだけで日が暮れそうだったため、自身の信仰神のエリアだけ探索してソソクサと立ち去ったわけである。
「うーむ、早くも暇になってしまいましたね」
シオン達か、メリウ、近い方と合流しますかねー、と思い立ったその目の前に停まる一台の乗合馬車。
表示される行き先は、闘技場。
「ありゃ、神様は行け、と言っておられるか」
馬車に乗り込み、客のいない車内にどかっと腰掛ける。
車窓から外でも眺めて暇を潰しますかな。
歩き飽きたジオを乗せ、乗合馬車が走りだした。
メリウは露天を冷やかし、露店街の終端までやってきていた。
出物はそこそこあったが、流石に手の出る値段でなかったためスルーしていた。
「うーむ、神様に貢ぎすぎたかねー」
取り立てて買いたいものもなかったためそうなったわけだが、世界の広さを甘く見ていた。
やはり突発的な散財を出来る程度には貯金が大事だなぁ、と実感する。
「まぁ、ないものねだりしても仕方無し。 ・・・自分も露店出すか・・・」
周囲を見回し、人のあまり寄り付かなそうな木陰に野営用の毛布を広げて場所を確保。
そしてそこらへんで売っている空き瓶を買うと、近くの井戸から瓶に水を注ぎ、封をする。
最近洒落で覚えた<酒製造>魔法を使う腹づもりである。
「ささやき・・・いのり・・・えいしょう・・・念じろぉァ!」
詠唱? しながら毛布上の瓶詰め水に魔法をかけ出すメリウ。
MPをガッツリと使い、水から酒にした瓶の前に値札を並べる。
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、では無いが、瓶の中の一本が他の酒とはまるで別物の輝きを放つ。
大当たり・・・っ
<伝説級の酒>が地味に魔力の高いメリウに、運で呼び出された。
「・・・うわぁ。 たまーに威力がバカ上がる時あるよなぁ」
変な引きに呆れつつ、他の酒とは値札ケタを3つほど変えたその酒を一番目立つ場所に配置。
準備完了、後はのんびりと買ってくれる人を待つとしますかねー。
メリウは鼻歌交じりに、ポツポツと露天をひやかしてくる客に声をかけるのだった。
日もくれて、ひとまず宿でもとろうぜぃ、とシオンから全員にメールが届く。
十数分後、メリウを除く三人は同じ場所に居たためもあり早々に合流していた。
「ごめん、冗談で露店開いて酒売ってたら繁盛してしもたー」
メリウからの返信が入る。
もう少しで売り切れるから、先に宿決めて場所教えてけれー、と結ばれたそれを閉じると、シオン達は適当な宿に向かい歩き出した。
そんなこんなで、宿にて合流。
リアル時間も日付またぎ。
「今日はここまでかね」
シオンの一言を皮切りに、皆がログオフしていく。
「「「「お疲れ様ー、また今度」」」」
世界観光一日目、怖い都会の適当な宿にて終了。
旅は、続く。