初心者プレイは楽しいもので 2
林を貫く細い街道、昼だと言うのに薄暗いそこで、四人は敵と遭遇していた。
<ジオ:知性判定 失敗 不確定名 小鬼的なもの>
神官ジオの知性判定失敗を受けて、敵の頭上に<小鬼的なもの?>の表示がなされる。
「皆さん、プレイヤー知識的にはゴブ・・・げふふん、と分かっていますが、敵は小鬼的なものです!」
神官ジオのあまりと言えばあまりな言いぐさに、おいおい・・・と、皆から乾いた笑みがこぼれる。
「討伐目標みたいだし、お先に失礼」
真っ先に動いたのは四人の中でもっとも小柄な格闘家。
フードマントをたなびかせて、足音軽やかに接敵・・・小鬼的なものに殴りかかる。
左ジャブ、左フック、右ストレートの三連続攻撃。
<レザード:格闘技能 三連続攻撃 成功>
<レザード:命中判定 成功>
小鬼は初段のジャブこそ回避して見せたものの、肝臓に突き刺さるフック、顔面への本命右ストレートに対してはリアクションすら取れなかった。
耳障りな悲鳴と黒青い血液、折れた歯を撒き散らして、小鬼は倒れ伏した。
まだ倒しきれてはいないようで、止めを刺さねば起き上がってきそうだ。
「ああクソ、一発外れた」
油断無く距離を開け、格闘家レザードは毒づいた。
「一撃目は仕方ねーって。 お前さん、器用さだけで当ててるけど格闘スキル低いしな」
抜き身の剣を肩に乗せ、剣士シオンが前に出る。
敵は総数、三。
剣士シオンは殴り倒された小鬼をまたぐようにスルーし、健在の二匹に向かって斬りかかった。
「おぉーーー、ら ら ら らぁ!」
荒ぶるスタッカートな気合のもと、一匹に対して二発づつ、計四回攻撃。
<シオン:剣術技能 四連続攻撃 決定的成功>
<シオン:命中判定 決定的成功>
両手持ちした長剣が小鬼達の体にそれぞれ☓を描く。
命中判定の決定的成功をもって放たれた剣士の連撃は、小鬼達に受けも避けも許さず。
ォォォォォ・・・ン
断末魔を細かく響かせて、小鬼二匹は絶命した。
「流石天才、防御もさせずに二匹瞬殺か」
茶々を入れつつ、侍メリウがレザードの仕留め損ねた小鬼に刀を振り下ろす。
<メリウ:命中判定 成功>
身じろぎ程度にしか動けぬ小鬼に刃がめり込み、無駄に綺麗な断面で正中線が、割れた。
くぱぁ、とモツがこんにちは。
地味にグロくて困る。
「金属以外なら、刃は立つか」
返り血を避けつつ、侍メリウは周囲を警戒。
<メリウ:気配技能 失敗 何もいないんじゃないかなー>
判定成果を見て、侍メリウは皆に警戒を促す。
「気配判定に失敗。 伏兵あるかもしれないから気をつけて」
侍メリウがそう言った矢先。
ィィィィー!
甲高く威嚇しながら、左右の林から数匹の小鬼が躍りかかってきた!
<クエスト:街道の小鬼退治 成功>
仕事の斡旋を受けた冒険者ギルドにて、成功報酬を受け取る。
その他、小鬼・・・ゴブリン(知性判定をし直した神官ジオが成功)からの拾得物の分配などを終えると、ひとまずは個人の買い物などを済ませようと言うことになり、しばしの個人行動時間となった。
伏兵のゴブリンは四匹と少なめではあったが、なにせこちらも生まれたばかりのヒヨコ冒険者。
生まれ効果の実戦的なシオンの火力と、作成時に取得を義務づけた結界魔法により、辛うじて大きな怪我を負うことも無く初めてのクエストは成功した。
「魔法無かったら、シオンはともかくオイラとかレザードはヤバかったね」
ひとまず武器屋にでも行こうか、と言うことで同道することになった侍メリウと格闘家レザードは、さっきの伏兵戦を振り返る。
剣士シオン以外の軒並み筋力・体力の低い面子は、必要能力値の不足により防御力の大きい鎧を身に着けられずにいた。
となると、敵の攻撃は避けるか、受け流すしかないわけなのだが。
格闘家レザードは、素手。
回避と双璧の物理防御系の受け流しが、実質使えないのだ。
となれば、格闘武器を持つしか選択肢は無いのだが。
「ナイフとかなら良いかなーとか思ってたら、スキル違うしね」
「メリケンサックみたいなものでも売ってるんかね?」
ひとまず現物を見て判断、と言うことに落ち着いた。
ちなみに侍メリウのほうは、刀が耐久力に乏しく、また、高価なため買い直したくない、と言うことで受け流しは却下、なのであった。
武器が普通に破壊されるゲームであることが大きくて困る。
「自分は予備武器にシミターでも買えば良いかー、同じ曲がり物同士、同じ技能で使えるみたいだし・・・それに安いし」
「良いなそっちはー。 俺も王道武器職にすべきだったか・・・いや、ここは我慢っ、きっと花咲く時が来るっ」
「がんばりー」
スキル上げるにも金が要る。
技能を使って決定的成功、もしくは致命的失敗が出れば上昇判定が起こるらしいのだが、あいにく成功率はそれほど高くは無い。
また、致命的失敗を起こすと、かなりの確率で目も当てられない状況になるので、デフォルト設定では致命的失敗時、上昇判定は出ないが被害も失敗時と変わらない、という温情措置が取られている。
つまり、自己判断でモードをONに出来る、と言うことでもあるわけで。
「しない・・・よなぁ・・・致命モードONって」
「しないねー、いまだとリスク高すぎるし、何より文字通り死んだら終わるからねー っと、やべ、マウス落ちた・・・(しばし雑音) 有線でなければ下にあった飲みかけコーヒーにINしたぉ! になるところだった・・・」
そう。
このゲーム、死んだら終わりである。
一応、生き返る魔法と言うのは存在するし、出すもの出せば生き返れはする。
んだけど。
高すぎて蘇生費なんて出せるわけが無い。
生き返ればいわけではない・・・ただし金持ちに限るっ・・・。
ぶっちゃけ、生まれで王族とか引いても無理なので、戦って死ねという話らしい。
さぁ、新しいキャラクターを作成したまえ。
「昔のロボットゲームを思い出すわー。 あれも撃破された時に脱出しそこなうとプレイヤーキャラロストしたよなぁ」
「ははは、鉄○とか懐かしすぎる」
トゥ○ーファンタジーのために買った罰箱ェ・・・orz
「最初の頃だけでも夢オチで助かるモードとか欲しいもんだわー、要望出しとこうかねー。 開発様、お頼み申すっ、ポチッとな~」
そういえば要望出しても反映されない某大作ナンバリングネットゲームはどうなったんだろうなぁ。
βテストの段階で反吐が出るレベルだったしなぁ・・・せめてゲームの形にしろよぅ、ぺっ。
「おーい、メリウ。 あそこだっけ? 武器屋」
「えう? あ、ああ、うん、MAPがズレて無いならあそこだねー」
結構シビアに壊れたりするので、かなりにぎわっていたりする武器屋が、でーんと二人をお出迎え。
「んじゃ、自分はシミターでも買ってくるんで~」
買うものが決まっていた侍メリウは、さっさと武器屋のカウンターへ向かって行った。
「あいよー、買うもん買ったら他行ってて良いぞ」
はいよー、と格闘家レザードの声に手をあげて応えつつ、武器屋のNPCに話しかけて商品窓とにらめっこを始める侍メリウ。
値引き交渉とか出来るAIとか搭載されないモンかなー、と、夢見がちなことを呟く友人に背を向けると、格闘家レザードは早速武器の品定めに入る。
見た限り、選択肢はそれほど無いようだった。
「イイの、ありそう?」
シミターを腰に佩いた侍メリウが格闘家レザードの視線の先を追う。
指にはめる金属輪、いわゆるメリケンサック。
肘まで覆うような金属製の篭手、コレってガントレット?。
手甲にくっ付いた鉄の爪。
一番防御力が高いのは鉄の篭手であるが、地味に重くてペナルティが来そうである。
鉄の爪は見た目が気に食わないので却下。
と言うことで・・・結局は指にはめる金属輪にしようとして、武器の横のテーブルのそれに気づいた。
鉄の脛当て、であった。
「蹴りで受け流し・・・? 格闘用の盾扱いでいける・・・の、コレ?」
いかにもゲームだー、流派影技とかあるのかねー。
「手で殴って足で受け流す・・・なんか面白そうだ・・・なんとなく」
うん、これにしよう。
ついでにメリケンも購入しよう、うん。
お買い上げ、ありがとうございましたー。
一方そのころ、細かな買い物を済ませて合流した剣士シオンと神官ジオが、今後の方針を話し合っていた。
キャラ作成直後から戦闘系の依頼を受けて気楽にこなしてしまった訳だが、コレはあくまで初期キャラの性能が若干良かったからなだけに他ならない。
「正直、まずは戦闘せずに金稼ぐ系のクエストを回して、出来るだけ戦えるスキルを現状の限界まで鍛えないと、即時ゲームオーバーだな」
「ですね、結構非難轟々だったクローズドと、ほとんど変わらないっていうバランスらしいですねぇ」
ソースは巨大掲示板ネトゲ愚痴スレらしい。
「となると、基本街の中でのお使いクエとかになると思うんだが・・・」
「ふむ、そうですな。 ただ、この手のクエストは集団でやる意味が余りありませんし、何より同じクエストが受けられる保証もありませんからね」
んー、面倒な、と、難しい顔をつき合わせて、結局出た結論は。
「しばらく、自分のギルド周りでソロかね」
あっという間に訪れたパーティ解散であったとさ。
リアルに数日が経過した。
各々がギルド周りのお使いクエスト他を終えて、集合場所に指定していた軽食堂(無論空腹とか餓死もあるよ、あるよ!)に、無事到着。
カロリーメイト似の固形物をかじり終えた開口一番で、皆のセリフが、かぶった。
「「「「ギルドのNPC、殺さねぇ?」」」」
皆が皆、やっぱりかー、と言った顔をする。
きっと皆、たらい回しのお使いクエストや理不尽な巻き込まれ系クエストを延々とやるはめになったんだろうなぁ。
ちなみに聞いたところによれば格闘家レザードは街中を今しがたまで駆けまわり迷子という名のギルド長の探索(リアルタイムで動きまわるそうだ、ルート完全ランダムで)と、その枝葉での巻き込まれクエスト、剣士シオンは町の外まで草むしりに行かされた挙句、ギルドの裏切り者(笑)との戦闘に何度も何度も巻き込まれるという殺意高めの流れだったらしいし、神官ジオにいたっては割と広い神殿内の全NPCの長ったらしい説教(なぜフルヴォイスにしたし、しかも何故かOFF出来ない・飛ばせない)を聴くハメになってガチギレ、ロールプレイのヌルイ敬語は飛んでいた。
侍メリウに至っては、乗合馬車まで使って隣町まで行って、さらに他PCとの強制パーティ組まされた挙句勝手に主君を名乗るパッパラ貴族が登場し、なぜか剣術修行と言う名目で併設された道場に現れた道場破り・熊(野生動物!?)に、あわや即死というレベルまで追い込まれるといった愉快愉快開発者出てこい逆剥ぎにしてやる、という状況だった。
「ま、現状じゃ返り討ちですがねぇ、きっと」
ジオが舌打ちしつつ言う。
「あれ、坊さん名前の前の職業表示消えてるね」
ふと気づいた侍メリウがジオに尋ねると、
「ああ、今見たらオプションの表示タブのところでON・OFF出来ます」
とのことだったので、早速皆が切ってみる。
そろそろ名前と職業が一致したと思うのでいちいち名前の前に職業書くのが面倒だった、からではない。
「さて、んじゃ改めてパーティ組んで行こうか」
シオンが手を打ち合わせてやる気充分的なポーズ。
「「「OK、よろしくリーダー」」」
「え、ちょ、わちきがリーダーすんの? なんかめんど・・・ダルイんだが」
「言い直すなら言い直そうぜリーダー」
と、レザード。
「言い直しても現実は変わりませんけどねリーダー」
と、ジオ。
「で、リーダーどのクエスト受ける?」
と、メリウ。
「・・・・。 」
皆にリーダーからのパーティー申請が来ました。
「飛び道具、ちょっとエゲツナイな」
遭遇早々ゴブさんたちに投げナイフで奇襲をかけたレザードが、今は動きもしない小鬼の目から根元まで刺さっていた投げナイフを回収する。
「み な ぎ っ て き た ー 」
愉快に剣を振り回して元気いっぱいなシオン。
ゴブさんを一太刀二匹屠るという、でたらめさを見せつける。
「皆さん、周囲にもう敵は居なさそうです」
怪我人を癒しつつ、ジオが周囲を索敵し。
「・・・・通り魔ならぬ通り熊って何だ」
ゴブさんの一匹を頭から<ピー>までヒラキにした直後、索敵を失敗して、かつ何故か外れていた致命失敗フラグがイベントをひき起こし、脇道から二足走行してきた熊が首相撲からのチャランボ! チャランボ! そののち高速撤収。
肋骨みんな持って行かれて、メリウ超瀕死。
即死しなかった(残HP2)ことと、回復役がいてくれたおかげで、辛うじて事無きを得た次第である。
生まれたての子鹿のように足を震わせて、なんとか立ち上がるメリウ。
「美味しいなぁメリウ」
と、シオン。
「さっきの密着戦の流れ、いいな。 俺も今度身につけよう」
と、レザード。
「もうMP少ないので、あとは草でも噛んで回復してください」
ちょっと顔色悪くしてジオ。
「ご迷惑をおかけします・・・」
能力値上昇が成功したから、綺麗な思い出としておいてやるっ。
各自のギルド関連初期クエストを終えたパーティ一行が最初に行ったクエストは、一番初めに行ったゴブさん退治。
操作も若干慣れが出てきて、始めたばかりでスキル(使用による上昇)や能力値(決定成功・失敗時のランダムボーナス)も上がりやすく、ちょっと皆の脳味噌から麻薬が出てきた辺りである。
若干イレギュラーはあったが、別段問題はなく(≒死んでない)街まで戻ってこれた。
正直、日に何度も戦闘はしたくない感じである。
いいのを貰えば、コロリと死ぬる。
某ウィザードリィをやったことがある人なら、キャラクターを作ったばかりのことを思い出していただければ、気分はご理解いただけるだろうか。
大まかに、あんな感じ。
日に1回戦って、街に帰って休息。
徐々に上がってきているスキルの恩恵を感じつつ、次の日も繰り返し、徐々に受けるクエストが多く、多彩になっていく。
コツコツと強くなっていく感覚。
段階を経るたびに広がっていく冒険世界。
ああ、やっぱり。
未知なる世界で繰り広げる冒険を噛みしめつつ、
「「「「初心者プレイ、楽しぃ」」」」
皆がしみじみと言ったところで、本日の冒険は終了した。
お疲れ様、おやすみ。