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雑多な日常も楽しいもので 1

変身、という特殊能力がある。

中立神群の筆頭、自由神の与える奇跡で、効果は文字通り「変身する」こと。

変身に付随する条件は「見たことがある生物」であること。

変身能力を行使すると現れるウィンドゥの中から今まで見たことのある生物を選び、さらに性別などがある場合それを選択すれば変身は完了である。

ただしこの能力も、能力完全コピーほどのフリーダムさはなく、見た目及び種族特性的な特殊能力がいくつか使用出来る、程度である。

例えば妖精になれば自前の羽で空を飛ぶ事が出来る。

しかし彼らの使用する魔法などは使うことが出来ない・・・等、である。

さて、前置きが長くなった。

いつものメンツでこの能力を迷わず取った男がいたわけだが、これを取らなければ実に6レベル魔法が一つ、取得限界レベルまで取得可能であった。

絶対魔法防御や超広域破壊魔法などをスルーしての、この蛮行。

何が彼をそこまで駆り立てたのか?

その答えを、今、お見せしよう・・・


「変身っ <悪魔>!」


人目につかぬよう上空10km弱、成層圏に届かぬギリギリ程度まで飛び、念には念をと周囲を確認した後叫ぶ。

まぁ、実はまるで叫ぶ必要もなく、開いた選択窓の最終ページ、???が並ぶその窓の最後から二つ目に記された、その名前をクリックするだけ。

初イベントの敵であり、どう見てもラスボスじゃね?的な大きさを誇ったアレである。

・・・それが最後に並ぶ名前じゃない辺りに、嫌な予感は隠せないが。

ともあれ、要するにラスボスチックな奴に変身って出来るのかしらん? という妄想を確かめるためだけに、高位魔法一個分のポイントを捨てたというわけである。


しかして、その結果は・・・。


ポン!


<悪魔>に変身した。


ただし、身長は変身前と変わらぬよ?

みーたーめーだーけー、<悪魔>。

鋭い爪が生えた自身の手をじっと見て、メリウは叫んだ。


「騙したなっ! 騙してくれたなァァァァァ!」


その、何だ、ドンマイ。

m9(^Д^)プギャー




ログハウスから石造りの2階建てにバージョンアップしたメンツ拠点、その玄関を潜ってすぐにあるロビーの丸テーブルに、シオン、レザード、ジオの姿があった。

集まって早々「ちょっと実験してくる」と行ったきり帰ってこないメリウを、面倒だが待っているのだ。


「チト遅いか・・・?」

槍を磨きつつ、レザード。

別にそういうモーションがあるだけなので、その行動そのものに意味はない。

強いて言うなら、愛用物への感謝の行動。

その後隠しパラメータがあることが判明するが、その話はそのうちに。


「んー、偶に変死体になって発見されたりするしなぁ」

シオンも愛剣三本を順次手入れしながら答える。

思い立ったが吉日、で飛び出してショッキングに死ぬことも少なくない奴だけに、心配するリソースが勿体無い、と、切り捨てている感がある。


「まぁ、本気でやばかったらチャットでヘルプコールが来るでしょう」

ビーカーやフラスコ、アルコールランプなどを駆使して胡散臭い紫色の煙る薬剤調合を行いつつ、ジオが身内の鉄砲玉への処分について〆る。

先日の遺跡拾得物アンプルの内容物解析が成功し、なんとか低確率で欠損部位再生薬の生産が可能になりコツコツと生産力と在庫を貯めている段階であった。


そんな三者三様の暇つぶしにピリオドを打つべく、黒い影が、拠点玄関に飛来した。

派手に音を立てて扉を開け放ち内部に侵入するそれ・・・<悪魔>姿のメリウが、開口一番、言った。


「なぁ皆、これを見てくれ・・・どう思う?」

指差すのは、自分自身。

<悪魔>に変身した、その姿を見ろ、というらしい。


「あー、この前言ってた8km<悪魔>作戦・・・ん!?」

手入れしていた槍から顔を起こし、小うるさい友人を見た瞬間、レザードが押し黙った。


「ん? 結局デッカイ変身はできなか・・・」

剣を鞘に収め、<悪魔>を見るシオンも、言葉につまる。


「これで納品分は完了、と。 で、一体どうなったんで・・・」

クスリの密造を終え道具をしまったジオも、それを見て言葉をなくす。


さん、はい。


「「「エロぉっ!?」」」

三人の視線の先。

そこには、<悪魔>に変身したメリウの姿が、あった。

正確に言うなら、女性体の<悪魔>に変身した、メリウの姿が。

三人が思わずピューッと茶を吹くレベルにドエロイ女型悪魔キャラが、そこには、あった。


「8kmの夢は敗れたわけだが・・・こんな副産物があろうとは思わなんだ・・・」

卑猥に腰とか胸を強調するモーションでヌルヌル動きをつけるメリウ。


「おま・・・はぁはぁ、うっ! ふぅ。 慌てて戻ってきたから何事かと思えばそんなつまらぬことか」

シオンが直線的なシモネタで乗ってきた。

珍しいが、ノッてくると洒落にならない返しをしてくるので侮れない。

具体的には「書けない」といえばお分かりいただけるだろうか・・・。


「うへぇ、下着っぽいのとか、着てるほうがエロイって大概本気だな」

モデルの出来の良さに感心するレザード。

オブ○ビオンのエロMODなんて目じゃないぜ! ・・・ふぅ。


「・・・、ふぅ」

シオンに続き賢者モードのジオ。


「よーし、自分ちょっと町に行って青少年諸君を前かがみにしてくる!」

そしてメリウは、元気よく拠点を出て行き・・・。

彼からメッセージが入るのが、その3分後であった。

<大通りで卑猥ウォークしてたらGMさんに「ちょっと署まで」としょっぴかれて候。 済まないが先になにかやっててくだされ>


「「「・・・何やってんだあいつは・・・ふぅ」」」

三賢者が、ため息を付いた。




「GMに独房で説教食らったとです・・・」

こんなデザインのキャラと卑猥なモーション作っておいてひどい扱いだ! と、メリウ憤慨。

しかし相手はいつもシステム乗っ取ってピーピングしているGMとは別の真面目な人らしく、正論で真っ当に説教、ハッチャケるのも節度は持ってね?と注意され釈放された運びである。

ちなみにいつものピーピングGMは、メリウの卑猥ウォーキングを「ひゅぅ!」「ぬーげ! ぬーげ!」とかいい調子で囃していたが、メリウ共々しょっぴかれて説教を食らった。

メリウが釈放されたあとも引き続き説教を受けているようだが、流石に同罪以上であろうからきっちり絞られて真人間になることを期待したい。


「さて、んじゃなにするかね。 メリウの<日常>大工で家もグレードアップしたし、そろそろ壊すかこれ」

おいちゃん本気出しちゃうぞぅ、とか言いながら灰色の仮面をかぶりだすシオン。

これと言ってるのは、当然家のことである。


「ははは、リアルで死にてぇならやってみれ」

いつになく素のメリウが直接的に殺害予告。

地味にコツコツ作ってきた物を三秒くらいでバラされてたまるか。


「流石に家は回復効きませんねぇ・・・」

癒しマニアは平常運転。

もはや癒せたら時間逆行レベルの暴力です。


「なんだかなぁ。 で、本気で何やるん? 集まってっから槍磨いてただけだったんで正直動きたいのだが」

なまじ真面目なために結局〆役になってしまうレザードがバカどもの馬鹿騒ぎにピリオドを打たんとする。

続くならひとまずソロ活動に出よう、と思っているんだがな。


「あー、んじゃ久々に町でクエストでも受けようか」

「了解」

「はいな」

「あいよ」


そんなこんなで、久々の町クエストを受けにGO。




それは、壁と言うには余りにも大きすぎた。

分厚く、重く、余りに巨大すぎた。

それはまさに、城壁だった・・・。


「ってなんじゃこりゃァー。 しばらくこなかったら町から城にクラスチェンジしよったー?」

もう訳がわからないよ。

犯人共は誰かとかは分かりきってるので口に出さないが。


「頑張りすぎ此処に極まれり、ですな。 フリー○ーソンさんたち、石工ギルドだからってここまでやるとは・・・三周くらい回って賞賛しますな」

細かなところの構造を興味深そうに眺めつつ、ジオ。

あと、○付ける位置で自由なローソンみたいになったね。


「こういうのって定住人口の増加とかが条件にあるってわけじゃないのか。 地味にコツコツって言う<日常>大工って侮れないな」

作り込みにただ感心するレザード。


「ああ、あそこら辺とか苦労してねー、結局瞬間移動駆使してありえない構造を作成したんだわさ」

貴様も一枚噛んでるんだろう? とジオに首根っこ掴まれて気になるところを説明させられているメリウが、嬉々として建築時のことを話してたりする。


「出会い頭からいいパンチうつじゃねえか・・・へへっ、燃えてきたぜ。 無駄に」

シオンが変なゲージを貯め始めた。


「壁つくるのに精一杯で町の中まで手が回ってないに一票、だがなー」

レザードは地味に冷静。


「まぁ、城門抜けたら焦土でしたって感じじゃなければオールオッケーでしょう」

ハッハッハ、と笑いながらジオ。


「まぁ、実は大して手は入ってないんだけどね」

建築当事者でもあるメリウが頭をかきながら三人に続き。


城門をくぐった。

目の前に広がる、清々しい阿鼻叫喚。

息も絶え絶えのPC達が、動きまわる辻ヒール友の会員達に延命処置を受けている。

動けるものは町の外れへ向けて走り出し、それと入れ違えに怪我人が戻ってくる。

焦土ではなかったが、結構な鉄火場でした。


「「「「おいぃ?」」」」


町イベント開催なんて聞いてないんだが?




事の経緯は、案外面白味のないものだった。

城壁の一部を突き崩し、巨大な四足歩行生物が闖入。

世界を回る巨大ワンダリングモンスターの襲来、である。

モンスタ○ハンターシリーズのラオシャン□ン辺りを思い浮かべていただくと想像しやすいだろうか。

体高20m、頭から尻尾までの長さが40m、といったところか。

一般に、ベヒモス、と呼称されるワンダリングモンスターであった。

ぶっちゃけ神話のアレだったら即時逃げれ。

どうにもならんから。

閑話休題、城壁が予想外に堅牢だったためか、1時間ほどで町を踏みつぶして去っていくというスタイルを貫けないベヒモスVS何せっかく作ったもんに穴あけたんじゃワレェ! と猛り狂ったフリ○メーソン、といった図式になった模様だ。


「うへぇ、んじゃ急がないと」

言うなり駆け出すレザード。

頭に血が上っても、純生産系だけでは巨大敵への対処は辛かろうに、と顔つきが変わる。

そして、最速男は、あっという間に視界から消え失せた。


「はええよ! んじゃワチキも行きますかぁ!」

蝶・燃えてきたー! と、変なゲージ振り切ったシオンが続く。


「ああ、お二人は先に逝って・・・行っててください。 ウチらはまとめてここらへんの方たちを治してから向かいます・・・イキロ」

にゅっと親指を付きあわせつつ周囲に向かって回復魔法を乱射し始めるジオ。

ジオの左手が白銀に輝き、今まさに死亡しようとしていたPCにそこから発射された光の手が直撃。

すわ、なんという攻撃魔法!? と思われた瞬間。

怪我や欠損が高速巻き戻しの如くに即再生。

究極回復魔法その1<白銀癒手>である。

その効果、HP及びスタミナ、部位欠損完の完全再生。

腐乱死体すら傷一つない遺体に癒すという狂気の回復魔法である。


「はーい、動ける怪我人はこの円の中に入れるだけ入ってくださーい イキロ」

半径5m程の円を地面に書きつつメリウが周囲の怪我人に声をかける。

究極その2<全究回復>範囲内の任意対象に光の雨が降り注ぎHP・MP全回復をもたらすフリーダム回復魔法である。

流石に<白銀癒手>のように死体には効果はないが、範囲魔法であることと、魔法のくせにMPが回復するというデタラメぶりがある。

その1、その2でそれぞれスタミナ、MPの回復を循環させることにより回復の永久機関を実現。


そう、ここに癒し系二人の野望が、成ったわけであった。




流石に町を城に変えた集団が作成した城壁であった。

完全な破壊には至らず、ベヒモスの侵入を未だに半身程度に押さえ込んでいた。


「ふんばれっ、まだまだ野郎は元気だぞっ!」

侍組のリーダーが、自身に振り下ろされるベヒモスの腕を逆にカウンターで迎え撃ちつつ、今一歩攻め込めない周囲に激を飛ばす。

しかし対象の巨大さから自分の愛刀が爪楊枝にでも成っているように感じ、彼の心にも焦りと絶望が沸き上がってくる。

斬りつけた刃が固く厚い毛と皮膚に阻まれたのを確認し、彼は舌打ちする。

切断武器対高装甲、という、相性的な不利がすぎた。

一旦魔法組に任せて引くべきか?

周囲を確認しようとした彼の耳に、少し間延びした声が、空から降ってきた。


「悪い、遅れたー」


タン、タン、と十数メートルある城壁を駆け上がりそこからさらに跳躍。

数度共闘した侍組のリーダーに襲いかかっていたベヒモスの腕目がけて急降下。

空から降り来たる一本の黒鉄槍。

しぶく真っ青な血が、冗談のように高く舞う。

青の噴水になったベヒモスの腕は、空からの槍によってその場に打ち付けられることとなった。

響き渡る巨獣の悲鳴。

対高装甲敵兵器、跳躍刺突。

未だ吹き上がる血潮の中から錐揉み跳躍で現れたその小さな体躯。

一番槍、レザードの派手な登場であった。


「おいぃ、カッコ良くキメすぎじゃね? ワチキも混ぜろぃ」

息を切らせてリーダーとレザードのもとに現れる灰色の剣士。

左右に炎と竜の魔剣を携え、襲い来るベヒモスのもう一本の腕に対してニヤリと笑み一つ。


「ブッ散れ」

音もなく、シオンの両腕が動いた。

左右各十五回。

計三十回攻撃。

ただひたすらに鍛えあげられた剣技が、振り下ろされたはずの腕を消し飛ばす。

空を切った自身の短い腕に沈黙したベヒモスは、次の瞬間けたたましい苦痛を喉から発し、バランスを崩して地面に頭を叩きつける。


好機、侍組リーダーが周囲に一斉攻撃を促す。

乱れ飛ぶ炎や氷の魔法、飛び道具、カマイタチ・・・など、など。

後は動きの限定されたベヒモスの頭部をいじめ抜くという一方的な展開が繰り広げられることとなった。




ジオとメリウが空を飛んで現場に着いたときには、既に事は済んでいた。

ただいま解体作業の真っ最中、といった風情である。

ひとまず五体満足ではあるが、皆それぞれに疲弊している模様だ。


「毎度、辻ヒール友の会です~ ヤバい子いねがー?」

何故なまはげ・・・・のジオに、ポツポツとヘルプ、の声。


「「イキロイキロイキロイキロイキロォォォゥォゥィェー!」」

空を飛ぶ男とそれに跨る巨躯、狂ったようにイキロを連呼し白銀の手と光の雨を降らせまくる。

その奇っ怪な光景の下、怪我人の姿は、なくなった。


「おーい、こっちもヘルプー」

真っ青に染まったレザードが飛行癒し組にブンブン手を振る。


「あっれ、レザード怪我してたっけ?」

スタミナ不足でその場にしゃがんでいたシオンが首を傾げる。


「いや、ジオに洗濯魔法もらおうと思って。 流石に青単色は目に厳しい」

それに答えるレザードの、なんとも締まらない苦笑い。


「はははははぁ! 貴様が欲しいのはこれか! これか! これだったりするのかぁ!」

もはや貴様誰だよ、というテンションでジオがレザードの汚れを浄化する。


「ひとまずおつかれー。 また間に合わなんだー」

回復薬役で終わりかぇー、とメリウ。

刀は効かなかったんだけどなー、と、渋い顔の侍組リーダーと話し込む。

あ、でも新流派に対装甲用の技、混じってたよ? マヂで?・・・などと会話が弾んでいる模様。




こうして、いつものメンツの普通の一日が、終わった。

解体されつくしたベヒモス素材が何をもたらすのか。

壊れた城壁はどんな魔改造の末に復活するのか。

そこら辺の話は、また次回ということで。




「よーっし、皆お疲れのようだから元気にしちゃうぞぅ・・・変身<悪魔>っ」

<署まで同行願おうか>


「「「「・・・ふぅ。」」」」

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