特殊クエストも楽しいもので 1
今は、忘れ去られた王国が存在した。
現在の4王国版図の中心に位置し、今は広大な砂漠地帯と化しているその場所。
悪逆な魔法使いとその配下が戯れに滅ぼしたとされる呪われた場所。
今は忘れ去られたそんな王国が、今回の舞台である。
周囲の光景が、一変した。
見渡す限りの砂原は瞬く間に緑輝く草原となり、砂風に削り取られた石建造物は傷一つなく作成されたままの姿を取り戻した。
中央王国、花咲き乱れ妖精住まう園と呼ばれた古の王国。
その最盛期へと、いつものメンツは誘われた。
「まぁ、ぶっちゃけ過去バナって感じなんだがなー」
身も蓋もなく言うシオン。
クリアまでリタイア出来ず拠点に戻れぬ、という<妖精の兜>クエスト開始から30分程度が経過している。
「滅びた過去の王国で冒険、とか、ちょいと燃えるケドね」
テンプレもいいもんじゃん、とレザード。
スタートダッシュも一段落、後はコツコツと修行あるのみ、とばかりに未知のクエストを楽しみ半分に逆立ちで移動している。
無駄な姿勢での行動のほうが難易度が高く、結果能力上昇のチャンスが高い・・・のではないか、という実験を兼ねているそうだが・・・音も立てずに体軸もぶれない逆立ち歩きがこんなにもキモイ物だとはしらなんだ。
「まぁ、ウチとしては古代ミステリーの一端が見られる、とかドキドキですがねー」
蘇生魔法でも覚えてたら歴史改竄してやりたかったんですがねぇ、とジオ。
イベントアイテムでもある妖精の兜を装備したその姿は、スパルタのファランクス最前列兵と言われても然り、といった風情だ。
子どもが見たら逃げるか、諦めて腹を切る。
「んじゃ、ひとまずは王国歴何年かを調べて歴史書とにらめっこして最終日に起こるであろう事件を解決・・・は、無理だろうから、目撃せよ・・・ってコトかね」
いつもより頭ひとつ小さくなった体で、メリウが言う。
現在、女性体PCと化している。
先日のレア素材売りにより、予想に反する大金を手に入れ・・・偉大なる自由神ファラ・・・ゲフフンに即時上納。
結果、野望の回復魔法と、もう一つ。
特殊能力を、入手するに至る。
<変身>
効果は<見たことのある生物への無制限変身>というものである。
そして、自由神の自由神らしい所、というか・・・性別選択の自由がおまけで付いていたのだ。
フリーダムすぎる。
伊達にあぶく銭の半分が飛んでないぜ!
「装備の大きさもキャラに合わせて変化するのとか、いかにもゲームだよねぇ」
メリウは元の男性型PCに戻りつつ自身の装備を見て感想を呟く。
<右曲りのダンディ>も元の大きさにおっきしたぉ!
とかほざいたらレザードが超烈破弾で飛んできた。
「隙あらば下ネタいうのやめようぜ? な?」
螺旋状に地面にへばりついたメリウ(だった物)の中心に立つ釘・・・レザードが、ソレから足を引きぬく。
「相変わらず容赦無いな・・・」
ボケるにボケられんな、とシオン。
「ボケてカウンターの待ちやったら取れそうな感じの反応ですがな」
今度は以前のようには行きますまいココココ、と笑うジオ。
「ふぅ、危なかった・・・スライムでなければ即死だった・・・・」
<変身>により軟体生物化して死滅を避けたメリウが、ウゾゾゾ、と飛び散った液体を凝固させて人型に戻った。
あっれ、地味にギャグキャラとしての必須能力<不死>に近づいた・・・?
「便利だな、それ・・・ってか、スライムなんていつ見たんだよ?」
もう突っ込むのやめようかな、と、あきらめ顔のレザードが、それでも突っ込まざるをえない。
職業病ですかね?
「えーっと、あっれ? 記憶を遡って・・・・町・・・生産中・・・致命失敗・・・ああ、窓に! 窓に!」
首から上をガックンガックンさせてメリウ乱心。
体の端々が<グロイもの>化してきていた。
「え・・・あれって・・・スライムだったの・・・?」
シオン、絶句。
「ってか、どうやればトマトから別種生物作れるんですか?」
実は致命失敗は人体錬成的な技法とかの扉だったのか・・・と驚愕するジオ。
ひゅぅ、さ さ げ る っ
「・・・もう、突っ込まん」
終わりが見えなくなった辺りで、レザードは色々諦めて目を逸らした。
なんというか、流れが見えない。
周囲を取り囲む人、人。
円形闘技場の中央、舞台に立つ完全武装の相手を視線の先におさめるこの場で。
レザードは、唾棄した。
クエストを受けて時間遡行し、滅んだ過去の王国その城下町に足を踏み入れるまではまったくもって平和な過去トラベルであったのだ。
しかして町中を歩いているとイベント発生。
「へっへっへぇ、お貴族様に逆らっちゃダーメダメぇ」「や、やめてください、きゃ!?」
的なものが現れた。
よーっし、ワチキが一瞬でハンバーグに!
いやいや待て待て、俺が上空からだな・・・
ウチが裏路地に連れ込んで全ての関節を極めて・・・
眠らせりゃいいんじゃね? てい、さりげなく横を通り過ぎるフリしつつ突けダンディ<昏倒>っ!
クエスト進行。
「げふぅ」「ああ、お貴族様が血泡吹いて三回転した挙句に地面にこすりつけられて鬼おろしに!」「ミンチよりヒデェぜ・・・」「であえであえー、町中での武器の所持は貴族特権であるぞー」「ひっとらえーごぶぅ」・・・。
ひとまず10分ほど襲いかかられ続けるのを凌ぎ続け・・・というか、ほとんどシオンの<先の先>及びレザードの<流星>が片付けていたので、ジオとメリウは馬鹿話してて終わった。
「そういやフェラーリとかπ3って、そんなに気持ちよくないよね?」「まぁ、雰囲気コミの遊戯ですからねぇ」「やいそこ馬鹿言ってねぇで手伝えー」「ワチキは結構嫌いじゃないぜその二つ」
そして強制イベント進行。
こちら的にはまるで被害損害はないが、包囲されて捕まったことに。
あらかたの包囲は既に地面で血達磨になっているので、イベント進行画面が凄まじくシュール。
死屍累々な包囲の真ん中にいる無傷集団、イベントメッセージの「多勢に無勢だ、観念しろ!」とかのセリフが虚しすぎる。
寝転んだ怪我人に包囲された無傷パーティの逮捕劇は、しばらく生ぬるく続き。
クエスト進行。
牢屋の中でお偉いさんがお忍びでやってきてパーティを勧誘。
「腐った貴族を一掃するために協力すれー」「OKジジイ、ひとまずお前か?」「おうふ、死んじゃう、死んじゃう。 私じゃないるれ」「で、何すりゃいいんですか」「貴族を罰する資格を持つ<騎士>になっとくれ」「ど う や っ て ?」
試練・闘技祭で規定人数勝ち抜けろ。
レザードは即時行動。
三歩で相手の懐深くに組み込むと、水月に向けて直! 直! 直! 重!とばかりにコンビネーションをぶち込んだ。
ヤワに見える彼の手足が重装を容易く陥没させると、相手は吹き飛びも出来ずに崩れ落ちる。
「勝者レザード」
これにてレザード、<騎士>称号獲得。
いちぬーけた。
他のメンツも適当に勝ち上がり、サクっと資格取得。
さぁ、お貴族様狩りだァ~ ひゃっほぉぅ~
全員がモヒカン装備で世紀末風なノリ。
町中で悪さを働く汚物は消毒だぁ~ あ、<流星>と爆炎壁で町が! 町が!
「で、さ、この前言ってたとおりの展開なんだが・・・来るのが、遅すぎたんじゃないコレ?」
明らかにクエストの要求力量が、かなり下に設定されている。
シオンがあまりのヌルゲー進行にダレてきた。
だがダレてるのが貴様だけだと思うな!
「「「だからァ! 遅すぎたと言ってるんだァ!」」」
後○隊長のマネ~、と、三人がハモった。
しかしながら。
やはりこのゲームは、殺意充分だった訳で・・・。
王国最後の夜。
あれよあれよと一級騎士だかなんだかに祀り上げられたいつものメンツは、それを目撃することとなる。
一言で言うなら、<わるいまほうつかい>。
獣じみた体躯を質素なローブで覆い、配下に4人の兵を引き連れて暴力の大河を成す。
牢屋のスカウトマン・・・国の王は、一粒種の姫を逃がすように依頼し、兵を率いて災禍の5人に突っ込んだ。
それなりの数を率いた王の兵団は、災禍に真向からぶつかった。
そして、地面に落ちて潰れるリンゴのように、周囲を湿らす赤と散った。
「あー、ありゃどうにもならんわなぁ」
姫様を所定位置まで逃し、クエスト窓には既に達成の文字。
それをシカトして、シオンは剣を抜く。
視線の先には嬲り殺されたお気に入りだった剣士NPC。
「この前のイベントみたいに、そのうち出てくるんだろうねぇ、アレら」
レザードも既に臨戦態勢。
ヌルゲー続きで死亡願望が育ったわけでもないが、何気に気にいってきていた古の王国が荒らされるのをスルーするのも気持ちが悪く。
「でしょうねぇ。 ですので、今回はその前哨戦ってわけですな」
ジオも既に戦準備完了。
今日は、死ぬにはいい日だ・・・とかホザかない。
「なんというか、別にもうクリアしちゃってもいいんだろうけどねぇ・・・皆が皆、いろんなコトにキレちゃったねぇ」
メリウがやけに平坦な声で言う。
災禍が真っ先に出した被害。
町の外で走り回っていた子供たち。
無残に部品になって転がっているそれを見て、ああ、ゲームなのになぁ、と自重を呟く。
たかがゲームなんだがね、とつぶやきが重なる。
ゲームでもでしょう、とさらに声は続き、最後に全てが重なった。
「「「「ゲームだからって、許せないものはあるよね」」」」
パーティは全滅した。
クエストは達成済み。
おまけ戦闘と取られたのか、拠点の町に戻ったパーティは五体満足であった。
あー、やっぱり勝てなかったかー、と灰色の剣士は舌打ちし。
まぁ、あんなもんでしょ、と、小柄な美形は苦笑い。
あとちょっとだったんですがね、と、巨漢は真っ先に殺された事を詫び。
敵の取り巻き片付けてボスに一撃くれただけでも凄いさねー、と、スライムが笑う。
「何だ、結構楽しんじゃったねぇ」
復活料儲けたし、とシオン。
古いクエストだからってバカに出来ないね、と頭をかく。
「結局俺ら死んじゃったし、あれから魔法使い単体で国滅ぼしたってことだよねぇ」
あの魔法は卑怯すぎるだろう、と、レザード。
まさか攻撃吸収・反射の魔法なんて存在するとは・・・。
生き残った最後の一人だったのは彼であり、一太刀・・・一槍食らわせたのも彼である。
「クエスト終わったのに、まだ兜はあるんですねぇ」
ジオが自分の装備欄を確認し、む? と、唸る。
「ん? どうしたのジオ」
無駄に死ぬのは慣れてるけど、今回は地味に悔しいなぁ、と地団駄踏んでたメリウが、獣の唸り声に反応。
自然、皆の視線はジオに集まり。
にゅっと、親指が、上がった。
「クエストのストーリー、ちょっと変わってます」
古の王国は滅んだ。
しかし、人は滅んでおらず。
生き残った姫が同じく生き延びた住民を集め率い、ひとつの町が興った。
その町は、中央砂漠のオアシスとして、今も静かに栄えている・・・。
<特殊条件を満たしたことにより 砂漠のオアシスが現れます>
「「「「なん・・・だと・・・?」」」」
歴史は変わる、というお話だったとさ。
では、本日はここまでっ。
お疲れさまでした。