イベント参加も楽しいもので 3
石集めイベント進行中。
順調に石(と、不可避だったモンスター素材)を収集するいつものメンツ(偽装)。
偽りの集団、徘徊す。
「えい、パート2」
敵スレスレを通る白刃。
刀を振るった勢いのまま敵後方へと走りぬけ、残心。
珍しく抜刀して戦うメリウであった。
それを追いすがろうとした敵に、異変発生。
体の内から繊維切断の小気味いい音をさせて、膝を付く。
そしてそのまま、地面に倒れ伏して動かなくなった。
かくして、ワンダリングモンスター討伐終了。
「いやー、なんだかんだで戦えるねぇ」
普通のゲームなら即時修正されていそうなパート2を「仕様です、良く気が付きましたね」くらいでスルーする運営△、と、シオン。
「さっき普通に戦っても平気なのは確認しちゃったしねぇ・・・案外強いのかもしれんね俺ら」
パート2の内部直接攻撃をあえて使わずにどこまでやれるか試した結果、若干時間はかかるが普通に対抗出来ることを確認していたレザードが、いまさらな感想を口にする。
「でもまぁ、自惚れるほど強いってわけじゃないからねぇ・・・見ました奥さん? さっきのパーティ」
井戸端主婦のモノマネしつつ、さっき通りかかった戦闘中PC観察を振り返るメリウ。
「見ましたわよ奥様ー。 って、あの人達一体どんな訓練したらあんなになるんですかねぇ」
ジオが体をクネクネさせてジオ。
何故貴様は皆に精神攻撃を繰り出す・・・。
「普通に皆奥義ー、とか使ってたねぇ・・・一年はかかるって言う触れ込みじゃなかったっけ?」
ちょいといじけているシオン、コツコツと奥義訓練してるだけに、ちと嫉妬で黒くなってる。
「一日一時間くらい訓練したときの、っていう一応の目安だったんじゃないっけ、それ?」
結局時間をもってる学生とかには勝てねぇよこういうゲームは、と、レザードがシオンを慰め。
「後普通に仮面を全員装備してて吹いたんですけど・・・5つくらいしか無いんじゃなかったのかい・・・」
あまりのブルジョアっぷりを思い出し呆れ顔のメリウ。
まぁ、別に市場に回らないってだけで、あるところにはあるよねぇ・・・。
「でも、灰色仮面は無かったねぇ。 実は結構貴重なのかもねぇ」
wikiの仮面データなんかを見ると灰色のところだけ空欄だったりするし。
性能知ってるこちらからすると、まぁ若干は他仮面より強いのかなぁ? くらいなんだけどね。
内部惨殺された怪物から素材を剥ぎ取り終わったシオンが、膝を叩きながら立ち上がる。
そして。
「そろそろ、戻ろうか?」
いい加減重量いっぱいの道具袋を軽くしに行こう、と、皆に合図した。
OKリーダー。
<封印の再構築に成功しました これより<悪魔>を封印する術式を開始します>
その後、数回納品NPCと山岳地帯を往復して石を収めたメンツ。
流石に初イベント、人ごみが凄まじい。
そんな参加人数に辟易しているさなか、イベントが進行。
近くで見ると分かる、程度だった<悪魔>を捕縛していた魔法的な鎖が、いきなり数倍の太さになったかと思うと。
スリスリズリ・・・ギチギチギチ・・・
地底から響く金属音、太くなった鎖が<悪魔>を凄まじいスピードで地の底に引きずり込む。
<オオオオオ クチオシヤ>
大音量の怨嗟を響かせ、アレだけ巨大だった<悪魔>が、穴に没する。
穴の縁に指先だけを引っ掛けて耐えるその姿は、少し哀れだったかもしれない。
<再封印 最終段階に移行>
NPCのつぶやきと共に空中に現れる石、石、石・・・。
おいまさか、とシオンが呟くやいなや、それが穴に・・・<悪魔>に向かって降り注ぐ。
肉打つ石の音、塔のようにしぶく黒い液体。
縁にかかっていた人差し指と中指は潰れ、ちぎれてその場に残され、それに支えられていた体は、当然奈落の底へ。
<ツギコソハ・・・>
<悪魔>の声が途切れ、今まで大穴だった場所には、いつの間に組んだんだろう、という整然としたピラミッド状の建造物が現れている。
<再封印、完了いたしました 皆様のご協力に感謝ぎゃぁぁぁぁ>
淡々とイベント進行をしていたNPC、突然の悲鳴。
その胸からは、黒い液体状の槍が顔をのぞかせていた。
皆がそのさまを見、液体槍の根源を追いかけたその先。
残された<悪魔>の指先。
そこから溢れでた大量の血。
それが意思持つ様に蠢き、次々にNPCを貫いていく。
もはやNPCは酷い有様、血の槍が刺さるたびにしていた痙攣も今はもう、ない。
それでもなお、血はNPCに襲いかかり、ついにはそれを飲み込んだ。
「うへぇ、終わりかと見せて実は・・・的な展開か」
シオンは即時剣を抜いた。
周囲のメンツやほかPCも、戦闘態勢を整えるものが相次ぐ。
よくあるパターンなら、この後起こるのは・・・。
<マァ コノテイドノカラダデモ ヨイトスルカ>
体を乗っ取り再構築した、<人型の悪魔>の、誕生である。
ああ、やっぱりこういう展開か・・・と、周囲からのため息も聞こえるけど中の人GM泣かない。
<モウ ワカッテオルヨナ?>
<人型の悪魔>は、そう言うなり両腕を羽ばたく翼のように広げ、哂った。
周囲にこだまする怒号に爆音、見たこともないような魔法の乱舞に、得体のしれない武器による未知なる攻撃。
周囲PCから飛ぶそれらの攻撃を、多重に分身した<人型の悪魔>達が受ける。
「こっちのは魔法の効きが悪い! 三本角の方に回って!」
「ヒーラーさんいたらヘルプー」
「俺、帰ったら彼女と家庭を持つんだ・・・」
「奇遇だな、実は俺も・・・・」
「ああ、実は私も・・・」
「「「ぎゃぁぁぁぁ」」」
「むちゃ・・・しやがって・・・」
ってか、お約束言い出した連中を真っ先に狙ったよね今。
今回はAIじゃなくて中身入りのモンスターか! と、ちょい興奮のシオン。
「うへぇ、地味に味方の数が多くて、分身した敵が見えにくいですな」
ジオは大忙しに周囲の怪我人を癒して回っている。
超笑顔。
「空から失礼、やばそうだった人回収~」
メリウが血まみれPCを何人か拾って逃げてきた模様。
空を見れば、複数の飛行持ちPCが派手な空中戦を展開している一角も。
「ぃよし! 分身一匹討ち取ったぁっ!」
レザードが勝鬨を上げる。
おお、トドメってったか。
やるねレザちゃん、周囲から目立ってることこの上ない。
いつものメンツは静かに暮らしたいんだが・・・。
レザードの叫びに呼応するかのようにポツポツと上がりだす討伐報告。
そしてついに、最後の・・・本体ただ一体となった。
その本体、<人型の悪魔>が、口を開く。
<コノゼイジャクな体では、まだまだ力が出せぬな。 ここは一旦引くとしよう。 諸君、次を期待するがいい>
カタカナしゃべりが流暢になり、優雅に中空で一礼すると、<人型の悪魔>は、掻き消えた。
もう体完全に自分のものにしてるじゃねぇか・・・的な空気を出しつつ、脅威が、去った。
かくしてイベント、終了っ。
だが帰るまでがイベントだゼェ、とでも言うように。
「うわー、竜だー!」
・・・ふぁいと、PC達。
そんなこんなで、即時撤退したいつものメンツは、用心用偽装を解除するとそのまま空飛んで、麗しの拠点町に移動。
移動だけでバカにならない時間がかかるのも広い世界の弊害か。
早く噂に聞く長距離移動魔法とやらか、発掘機械であるエアバイク的な物を手に入れたいものである。
「なんだかんだで、死なずにすんだねぇ・・・停電して電子の海に消えた話だと、皆愉快に死んだのにねー」
メタるメリウ。
メタルメリウって書くとなんか金属生命体っぽい。
雷ェ・・・
「ああ、指5本が残って、それがいきなり襲ってくるんだったっけ? で、周囲のPCヌッ殺すとかの展開」
メタにツッコむシオン。
その通りでございます。
イベント戦闘で強制死亡というあまりな展開だったので、ある意味電子の海に消えてよかったやも知れぬ。
「おいぃー、メタってないでさっさと取得物分配しようぜー」
レザードが机をバンバン叩いて抗議。
ちなみに今はコツコツ作り上げた拠点土地のログハウス内であったりする。
「なんだかんだで結構な量と質の物が手に入りましたからねぇ」
敵のレベルも高かったですし、と、ジオ。
今回のイベントでのべ1万人を助けたという称号・癒し手をゲットしている。
ちょっとすごいなブレずに癒し系の坊さん。
「うっし、んじゃ・・・ぶんぱーい。 ひゅぅ!」
報酬窓に拾得物を移して、換金アイテムを売り払う・・・結構な額のお金が、手に入る。
モノを買う、というよりは、神様に貢いで愉快パワーをいただきます、的な価値になってるお金様じゃぁー!
「アイテムのたぐいは・・・生産系素材はオークションに流しちゃっても良いかね」
使う人いる? あ、ジオは血を使ってなにかつくるんだっけ・・・自分は牙と鱗をいくつかキープして・・・色違いの目玉とかレアっぽいのもあるけど必要スキル高すぎて使えないから後は売っぱらおう・・・と、メリウ。
しばし登録して、放置する。
期限だけ設けて、上限金額などはつけず。
「売れなかったら売れなかったで戻ってくるし、なにかいいの作れるといいねぇ」
素材全売りの潔い男、レザードがコーラのストローをピコピコさせて言う。
さっそく神様関連のポイントに金を使ったらしく、もう小遣いしか残っていない。
宵越しどころか精算越しの金をもたんやつめ・・・。
「ワチキはついに三本目の魔剣を手にいれたわけだが・・・三刀流って、ぶっちゃけ無理だよね?」
口から血を流して言うシオン。
試したんならそうじゃないかなぁ。
え? 歯を全部持って行かれた? 頑張りすぎだ。
ってかアレはどう考えても邪魔なだけだろう・・・普通に抜き差しで使い分けろよ、と思う今日この頃。
「ほかにはなにも・・・なんだこれ、いつ拾ったんだろう」
神様の力で何をもらおうかなぁ、と思案していたレザードが何の気なしに自分のアイテム欄を見、その片隅にある見覚えのないアイテムに気づく。
<特殊クエストアイテム:悪魔の断片>
ああ、分身にトドメ刺した時の・・・、と自己解決するレザード。
ひとまず、こんなん拾ってたー、と皆に報告。
「特殊クエスト、かー。 そういやワチキとかジオとかも何か持ってた気がするねぇ」
謎の兜とか、メッセージプレートとか、技術書とか。
目の前のキャラ育成に忙しくて放置され続けてきたものとか、そろそろ片つけるのも悪くないかもねぇ、とシオン。
「そだね、順番から行けば、まずジオの妖精の兜・・・とかだっけ?」
うろ覚えな記憶を掘り出し言うメリウ。
自分はその系統のものを持ってないので・・・<右曲りのダンディ>は、そういうアイテムじゃ無い・・・よね・・・?
「そうだねぇ、なにか説明文が面倒そうって言ってたのだけは覚えてる」
無難に神の力で器用さを上げた(決断早ぇよ)レザードが、こちらもうろ覚えの記憶を掘り出して答える。
「しっかし、えらい昔のアイテムだし、やってみたらもう楽勝だった、とかありそうだね」
気楽にシオン。
自爆して小鬼に殺されかかったのはそう昔でもあるまいに・・・。
油断したら死ぬ、それがこのゲーム。
「んじゃ、あとは個人個人で金処理とかだねぇ」
魔法の武器防具とか作れるようにならんものかなぁ、と思いつつメリウ。
しばらくは竜素材などは倉庫の肥やしになりそうな予感。
「ういさー、んじゃワチキはそこらを明日処理するわさー」
おやすみー、と、ログアウトするシオン。
それに釣られるように次々に落ちるいつものメンツ。
かくして、イベント無事終了。
変に凝ったイベントで失敗されるよりは良いよね。
こういうのって単純なくらいのほうが分かりやすくて燃えるし。
では、本日はこれまで・・・おつかれさま。