イベント参加も楽しいもので 2
わー、この馬車、サラ○ンダーよりずっとはやーい。
ただいま<悪魔>の足元までの直行便、運営用意のイベント用四頭立ての馬車にて移動中。
「おい、よせ、やめろ。 俺のトラウマをエグるな」
レザードが頭を抱えて悶えだす。
いいじゃないか、クソビッチなんぞどうなっても・・・ペッ。
「よーし、んじゃ目的地につくまで皆大好きビッチ談義でもしようぜぃ。 ニナ・パ○プルトン」
シオンがいきなりビッチ・ザ・ビッチを出して談義終了。
「おま・・・続ける気無いじゃないか」
馬車内でせっせとイベント石作成中のメリウがブーイング。
「ビッチビッチ・・・音として見るとスカト□みたいですな」
オイ、余計な話を酔っ払い共に振るな糞坊主。
「あー、すまん。 俺パス」
レザードが真っ先に耳を覆った。
「おいぃ? 夕飯にカレー食ってるワチキに対する嫌がらせだなそれは外に出ろ首から下は無傷で返してやる」
シオン大激怒。
ってか、夜にカレーとビール(発泡酒)かよ・・・良いセンスだ。
「ああ、そういやこの前シオンと二人だけの時に話の流れで夜中に牛丼屋に行きたくなってさ。 車出して行ってきたんだわ。 キング食おうかとか思ったんだけど流石に太る、と思って並とカレー食ってきた」
メリウが意味不明な供述をする。
太るの気にするぐらいならそもそも行くなよ・・・あと、普通に丼二杯食ってんじゃねぇか。
「相変わらずだなお前さんは。 高校の時に昼飯って言ってトマトジュース二本飲んでご馳走様、とかほざいたお前はどこに行った?」
レザードが呆れ顔でツッコむ。
懐かしい話が出てきやがったぜ・・・!
「ああ、お二人は高校・大学一緒でしたっけね。 しかし、育ち盛りの昼食に、なんでトマトジュース二本・・・・?」
話の流れでスカト□処刑を免れたジオが、当然の疑問を口にする。
「え、ああ、下らないことなんだけどさ。 確か、いつも昼飯は軽めにおにぎり二個、とかだったんだけど、ふと魔が刺して値段同じなんだよなぁこいつら、とか言う流れでジュース二本飯にチャレンジした」
もはやはるか昔のうろ覚えな記憶をほじり出すメリウ。
うん、その頃からどうしようもなかったんだな。
「チャレンジャー・・・というか、流石にトマトジュース好き過ぎないか」
考えられん、とレザード。
トマトが苦手な彼は、酒飲みに行ってもトマトには手をつけない。
「美味いのになぁ・・・箱で買うと二日で飲み干すから、買うのやめちゃったよ・・・禁煙ならぬ禁トマジューだねぇ」
あの野郎、結構高いんだぜ・・・! と憤慨するメリウ。
その、なんだ、色々自重しろ。
「水がわりに飲んでるんじゃねぇよ・・・っと、そろそろ着くのかな。 馬車のスピード落ちたね」
シオンが窓から体を乗り出し、目的地に次々集まる人ごみを遠目に確認する。
うわぁ、あんなに居たんだねぇこのゲームのPC。
ってかデカァ! 遠くから見ても酷かったけど足元まで来てみるとでかすぎるわー<悪魔>。
ゲーム的に見れば背景だって分かっていても怖ァ。
<悪魔>の足元には、クエスト用の納品NPCらしきローブ姿の神官が佇んでいる。
会話そのままに書きだすと長ったらしい上に世界観語りだすので割愛。
<長い三行で>発動。
NPCに石納めれば勝手に封印作業してくれるよ!
制作系の人は破片拾ってきた人と協力して石作ってね!
石の数が一定数まで行かないと、背景のでっかいのが動き出しちゃうぞ?
「おいィ、一定数ってどんだけだよ・・・」
天井が見えずにイラつくシオン。
「ははは、1個だけ納品されてもOKとかっていうブラフイベントだったりして」
ジオは自分でも信じていないようなことを言って笑う。
ここの運営連中がそんなに優しいわけがない・・・!
「結局は総力尽くさないと世界破壊でリセットかまされてニューゲームってことかねぇ」
流石にサービス終了とまでは行くまいね、とメリウ。
逆に終了したら自分たちに対しても甘えがない運営として伝説になりかねない。
「結局は、ガンガン捜索して石作って納めるしか無いってことかー」
面倒だねぇ、とレザード。
流石に周囲のPC達は多人数ではあるけど・・・直径80km範囲に散らばる破片回収などを考えるに、どう考えてもマンパワーは不足だろう。
「しゃーないねぇ、ひとまず持ってる分押し付けたら、竜うろつく平和な山間地ピクニックと行こうかぁ」
OK、リーダー。
周囲は夜闇に包まれて、光源は空の星々と地面の遺跡破片の二種類。
破片を回収すると、周囲はいよいよ洒落にならない暗さになってきた。
現在、いつものメンツは野外にてスニークミッション敢行中。
気配技能で息を殺し、忍び歩きで歩を進める。
流石に高名なパーティが篭るだけあって、うろつく敵の強さは拠点周囲などとは比べものにならない。
竜を筆頭に、どこぞの遺跡から這い出て来たのかわからないデカイ目玉や金属製ゴーレム。
遭遇率は高くはなく、遠巻きに見るだけならばそれほどちょっかいを掛けてくるわけでもないが、用心に越したことはない。
現に竜に襲われましたしね、ワチキ等。
「地味にスキル低いけど、なんとか足しにはなってるのかなー」
技能の低さを反則的な能力値でねじ伏せている男が心配そうに呟く。
「平気平気。 限界までスキル取ってる自分より、きっとお前さんのほうが音と気配消せてるって」
常に周囲を見回しながら答えるメリウ。
また空からとか襲われませんように、と偉大なる自由神に祈っておこう。
「ワチキのほうが冷や冷やしてるんですがね?」
剣術一本上げのシオンがグッタリと不平を漏らす。
最低限、というか技能は持っているが、熟練度は決して高くない。
「まぁ、最悪ヤバいのに見つかったら瞬間移動で方向だけ合わせておいて逃げましょう」
何故かシーフ系な技能を網羅する謎モンク、ジオが鷹揚に頷きつつ言う。
納品NPCから離れること1時間ほど。
NPCから近い場所ほど敵とのエンカウントも多いらしく、生産系キャラの護衛を兼ねた戦闘型キャラがそれなりにNPC周りに残る事となっているのは、正直、幸先悪い話である。
スキル0で合成を行って失敗し、せっかくの材料を失ってしまうのもまたアタマの悪い話なので自然と分業する流れになってはいたのがせめてもの救いか。
ただ、破片を石にすることにより若干の重量軽減が出来るため、出来るならば探索パーティに制作系のメンツが交じるほうが好ましい。
ただ、この周辺の敵は強力である。
自然、数パーティ合同のレイド状態で捜索する者たちが大多数を占めた。
そんな中、それに加わらずに単独パーティにて捜索している彼ら。
なにか狙いがあるのか、それとも・・・
「名前偽装OK、変装OK、灰騎士シオン改め探索者グレイの爆誕である」
灰色の仮面を常備装備し、譲ってくれコールから逃れるために偽名設定をし、悔しながら自分のメインカラーである灰色の服装の上から真っ黒い顔の隠れるフード付きマントを纏うシオン。
NPC周りで護衛につく、という選択肢もあるにはあったが、折角のイベントである。
攻めないで、どうする。
と、いう訳で、身内メンツ協力の下、灰仮面所持者隠蔽工作に走ることとしたわけである。
「今までも出来るだけ人目は避けて使ってたしねぇ、それ」
バレると面倒なことになりかねない仮面所持者を同情の目で見るレザード。
シオンに付き合って変装し、現在黒く長いウィッグ装備中の黒髪美少女?化中。
偽名のレザってのは、正直ひねれと思わなくもない。
現在、魔法の仮面シリーズは、隠匿されているものを除外すると片手で足りる数しか出回っていない。
装備時の狂った強化数値から、その値段は天井知らず。
10万単位のリアルマネートレードすら行われた、という話も飛び交う1級品のレアアイテムである。
そんな中で所有者特定を受けるのは、正直気が重い。
だけど悔しい、もってるのに使えないなんて!
という心の叫びは、皆が頷くものであろう・・・。
「でもまぁ、偽名設定してあれば囁きもメールも来ないし平気でしょ」
普段着の和装を洋装に変え、アフロかつらを装備したメリウが気楽に言う。
偽名・モスコミュール。
モスクワのラバ、ようはカクテル名である。
「そうだといいですが・・・念には念を入れて仮装・・・げふふん、変装したわけですしね」
ジオはよりによって虚無僧スタイルを選択。
うへぇ、超悪目立ち。
なんで尺八まで買ってきた!
偽名・・・ダラ○ラマ・・・おいぃ?
凄まじい胡散臭さでかえって目立ってしまうような気がしなくもないが、このような経緯で仮装パーティはこの場にいるわけである。
現状、エンカウントは無し。
ニアミスもなく順調に破片を回収、即時合成を繰り返していた。
そろそろ納めに戻ろうか・・・
そう思った矢先。
響き渡る爆発音と、上空からの羽ばたき。
PCの悲鳴と、少々遠くに咲く赤い火花を、見つけてしまった。
「うわぁ。 なんかこういうシチュエーションって、行けってことかいね?」
心底嫌そうにシオン。
「却下。 平気平気死ねるようになったし。 不特定多数と関わらないための仮装だぜぃ?」
メリウは即座に切り捨て提案。
「気分的には助けてあげたい気もするけどねぇ、俺はどっちでもいいぜ?」
レザードは、まっすぐに襲われているPC達を観察している。
「行くなら行きましょう、どのみちあと数秒で色々終わりますぞ?」
行くなら襲撃したほう・・・竜が。
行かないなら襲撃されたほう・・・PCのパーティが。
それぞれ、ね、とジオ。
逡巡は、一瞬。
シオンは・・・剣を抜き、ただ一回だけ、数百mは離れている竜に向かって振り抜いた。
そして、そのまま踵を返すと、皆に宣言した。
「石、納めに行こうぜ」
スタミナを使いきり一気に辛そうな顔を見せたシオンに、ジオの回復魔法が飛んだ。
小回りのきく集団での探索は、しかしなんだかんだで多くの数を集める、という程にはいかず。
石納品開始一日目終了時、納品数はざっと100程度に落ち着いた。
そそくさと瞬間移動で移動、納品、移動と繰り返し周囲との接触を極力絶った配送役メリウが、一応の集計結果と、納品時に盗み聞いた一つの情報を持っていつものメンツに合流する。
「集計結果発表~。 石総数、2万2千ちょい~。 で、さっきのパーティ、生き残ったってさー」
参加者総数が分からないので、石はどれだけの成果かわかりづらかったが、それに続いた情報に、シオンとジオはニヤリとし、レザードは? と、小首をかしげた。
「何二人で悪い顔してるん? 結局誰かがあの連中助けた、でFAじゃないん?」
なんか良く解らんなぁ、とレザード。
その疑問に答えたのは、報告を持ってきたメリウだった。
曰く、
「シオンがカマイタチ覚えたときの話し、思い出せ。 あのパーティを救ったのは、ロマン、だ」
言いつつ、メリウもニヤリ、と笑う。
最初は、何言ってんだこいつ、という顔だったレザードも、あ!と思いだしたのか、ニヤリと笑い。
「ああ、そうか、ロマンね。 今なら最大800mは行くのかな? しかも防御行動不可な感じのが」
そんなこんなで、本日も滞り無く。
「「「「おーつ」」」」
また、そのうちに。