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イベント参加も楽しいもので 1

若干ヌルくなったとはいえ、現行のMMOの中では屈指の容赦無さを持つこのゲーム。

世界中に散ったPC達はそれぞれの目標を胸に戦い、作り、遊んでいた。

流動的な魔物発生を追いかけるような流浪の狩人的な活動をする者、ひとつの町を拠点に活動し町と共に成長するプレイスタイルを貫く者、全てに背を向けひっそりと人の寄り付かぬ荒野で孤独を楽しむ者、様々な楽しみ方をそれぞれが選択している。

彼らはそれぞれに不干渉、マップの広大さも手伝って今まで他PCと出会ったことすら無いというツワモノすらいるらしい。(キャラ作成時の生まれ次第では、町ではなく山小屋等の個人拠点からの孤独スタートも選べるそうな)

そんな交わることのない彼らが、ひとつの目標を目指す事となる・・・。


イベントですよイベント!

製品版開始から一ヶ月経過。

β最初期参加者からするとゲーム開始から二ヶ月。

NPCにもれなく殺意を抱くお使いイベントチュートリアルや操作環境、世界認識、クエストの理解・・・等、等。

キャラクターが強くなればなるほどやれることが少なくなる、という兆しも現行はまだなく、むしろキャラクターが(かかる時間の多可を問わなければ)無限に強くなる「我がキャラを見よ!」的ゲームであったため、いわゆるオープニングイベント的なものは(そんなモンやってる暇あったらキャラ育てるわ)一切無かったわけであるが・・・。


<イベント 始めました>


公式HPに記載されたメッセージ。

ひとまず皆が「冷やし中華かよ! 時期的にも!」と、掲示板にツッコミを入れたイベント開催宣言であった。

βテスト最後の期間に行われたものと同様に、カテゴリーとしては襲撃イベントとなる模様である。

ただ違うのは、世界に現れる敵は只の一匹であるということ。

ただただ巨大にして強大な一匹の悪魔。

それの打倒?が、今回イベントの敵である。


「あっれ、おっかしーなー。 開始一ヶ月で世界滅ぼす気満々じゃね?」

シオンが空を見上げて、呆れ顔。

見上げる先には起立する山脈より頭ひとつ大きな<悪魔>。


「サタンは直立すると成層圏超えるんでしたっけー?」

ジオも、もうどうしましょかねー、とため息しか出ない様子。


「このイベント、まさかのノーヒントなのか・・・?」

レザードも流石にいつもの鉄砲玉マインドは発揮できないらしく、頭を抱えざるをえない。


「あれ実体なのかー、正直打つ手なしだよねー」

目視しただけでも身長8km越え、どう見てもあれ、ラスボスじゃね?

足の小指攻撃して痛さで膝でもつかせりゃ良いのかねぇ、とメリウ。


<悪魔>は未だ動きを見せず。

ただその威容を見せつける。


イベント開始後、世界の中心と呼ばれる山脈部に<悪魔>現わる、と一報したのは、その山脈で山篭りしていた一団であった。

<竜殺し>の称号を得ている屈強のパーティである彼らをして、無理ゲー、ひとまず逃げる、と言わしめるヤバさであった。

<悪魔>が出現した地点にあった巨大な遺跡、それが内側から吹き飛んで四十kmも離れた町に瓦礫が飛んできたというからその判断もやむ無し、であろう。

現状でも当たり判定あり、つまり実体であると推測される。

それが彼らのもたらした最初にして唯一の情報であった。

広大な世界故に、世界のどのエリアにおいても<悪魔>が目視出来るわけではない。

シオン達いつものメンツは、拠点を一旦離れて<悪魔>見物にやってきたわけである。

移動手段は、徒歩、瞬間移動、飛行を状況に応じて使い分け。


「さて、どうにもならないようなので帰ろうか」

シオンは素直に回れ右。


「そうですなぁ、玉砕特攻してもどうなるものでもなさそうですしなぁ」

ジオも流石にイベントシーンのモブキャラの如く死ぬのは御免のようで、早々に帰り支度だ。


「ふいー、またあの距離戻るのかー」

レザードもうんざりした感で息を吐き出し。


「んじゃ、どうしようかね? ひとまず全員に軽量化かけて自分が抱えて飛ぼうか」

着々と魔法使い化しているメリウが搦手移動手段を申し出る。


そんなゴーホームモードな四人を引き止めるがごとくに、システムメッセージが・・・<悪魔>が、口を開く。


<イマイマシイ フウインハ クダケタ>


<シヲ フリマク トキガキタ>


<アクマノ セカイノ フッカツヲ>


<ツイニ ジツゲンニ ウツストキ>


<メシアハ モウ イナイ>


<フウンヲ ノロエ チイサナ モノタチ>


<ウジノヨウニ ノタウチマワリ>


<ジゴクノ フッカツヲイワウ ニエトナレ>


<ヨウコソ ゼツボウノ ハジマリヘ>


わぁい。

殺す気満々じゃねぇか。


「うへぇ、もう終わりじゃね?」

ならいっそ特攻するのも手かね、とシオン。


「いやいや、まだあのでっかいの動いてないし、実はまだフウインとやらが残ってたりするんじゃない?」

案外冷静に状況判断を下すレザード。


「これ、全世界に声届いてるわけじゃないんだねぇ・・・<悪魔>が見えている人に声が届いてログが残る感じなんだねー」

ひとまず公式の掲示板に書きこんでおくかねー、とメリウ。


「ふむー、なにか今の、引っかかりますねぇ」

ジオは<悪魔>の口上に何か違和感を持った様子。


「ん? どうしたんジオ。 何が引っかかってるん?」

掲示板に<悪魔>のセリフ全文を投稿し終わったメリウが首をかしげて尋ねる。


「ええ、なんというか、気持ち悪い文というか・・・悪魔の世界、と、地獄。 同じ意味を別の言葉で言う意味はあったのかなぁ、と」

ログを見直しつつ答えるジオ。

言われてみれば、確かにそうだ。


「イシ・・・アツ・・・あ」

同様にログを見返していたレザードに、電流走る。


「イシ アツメ フウジヨ。 石 集め 封じよ? 縦読みじゃね、これ?」

同様にログをグリグリ上下させていたシオンが叫んだ。

レザードがちょっと悔しそうに、そうそう!と同意し、そこであっれ? と首をかしげてしまう。


「でも、石ってなんぞ? 実は石じゃなくて意思とかもアリなのかな?」

そういう方向に考えれば、なんか魔法的な何かっぽくなるね。


「<竜殺し>の人達の報告と、其れに伴う吹き飛んだ遺跡の瓦礫が40km先の町に届いている、という情報を総合すればいいって感じかな? つまりは<悪魔>を中心とした半径40km範囲を捜索して瓦礫を発見してそれを遺跡の形・・・つまりは石にして・・・封印する・・・・え、もしかしてそれって<悪魔>の足元で石建造物作るってこと?」

スタイリッシュアクション系クラフトゲームの爆誕か?

ってかそれ、ソ□モンの鍵モ○ハン風味?


「ひとまず、縦ってこと書きこんで・・・あ、もう皆縦読みに気づいて「縦かよ!」のツッコミで埋まってるわ」

レザードが掲示板に書き込もうとし、PC達のツッコミ速度に舌を巻く。

流石だな貴様ら。

他のスレッドを覗くと、早くも「封印の瓦礫というアイテム発見」「瓦礫四つで石作成確認」「スニーク班、近距離にて<悪魔>の体を縛る魔法的な鎖確認、奴はまだ動けないぜぃ」等の書き込みが踊る。

あっれ、本気で貴様らハイスペックじゃね?

ってか縦に気がついてテンション上がってた自分らって・・・orz


「で、でもまぁ、一応イベントでやること分かったじゃん」

気まずそうに言うシオン。


「ここ周辺調べて瓦礫捜索及び石作成・・・で、おっかなびっくりデカイ悪魔の足元で石建築作成、かー」

面倒な! 面倒な! と、レザードが地団駄を踏む。


「ってか、そこかしこに落っこちてるこの石ころっぽいんだけど・・・アイテム」

メリウは言うなり、周囲に転がるかすかに光るレンガ状の欠片を四つその場で「合成」してみる。

あ、難易度低めだ。


「どれだけ必要なんでしょうねぇ、これ・・・」

世界に一体だけの敵、吹き飛んだのは大きな遺跡。

大きなって、どんだけよ?

少なくとも体長8kmを覆わないといけないってこと?

どんなバベルの塔だってのそれ。


「んじゃひとまず・・・集めようか、その石ころ」

OKリーダー。




そうだよねー、最初の発見報告って<竜殺し>の人達だったんだよねー。

そうだよなー、<竜殺し>ってくらいだから、居るはずだよねー。

竜、ドラゴン、でかい羽つきトカゲ。

空からそいつが現れた、なう。


「ひとまず逃げろー、散れ散れー!」

うひゃぁ、と空から吐き出された広域ブレス・・・火の爆発魔法的なアレ・・・を回避しつつレザードが叫ぶ。

カウンターじみて<流星>を投げつけてみたけど・・・・


<竜:俺に炎は効かない!>


死んでしまえ。

久しく現れないと思ったら・・・即効縦バレて暇持て余したのか?


「・・・なんというか、アレだな」

至極冷静に上空50m程に居座る火竜を見据え、シオンが音もなく剣を抜く。

自分を自分で抱くように両腕をクロスさせ双剣を構えるシオンの姿が、掻き消えた。

瞬間移動、シオンが竜の背後に現れる。


「必殺、ワチキの必殺技パート2」

狙うのは、翼。

双剣はかすめるように翼の表面をなぞり・・・内側から発生したカマイタチに破壊される。

悲鳴をあげて錐揉み落下する竜が、最強の鈍器・地面に螺旋を描き叩きつけられた。

流石に最強生物の名を恣にする竜である、50mもの落下でも即死しないぜ!

しかしながら、次の瞬間。


「ワチキの必殺技パート3、<同時に落ちても下になった奴がクッションでワチキ無傷>攻撃」


自由落下して竜の真上に落ちたシオンが灰色の弾丸となり、引導を渡す。


<称号:竜殺し を入手しました>


「想像以上にワチキらの銀河は輝いてるようだぜ?」(訳註:思ってる以上に火力高いんだぜ俺たち)


というシオンのセリフを聞きながら、何もしていないジオとメリウの頭上にまで称号が追加されたのだった・・・。

なんだろうこのいたたまれない気持ちは・・・




「悔しい、だけど竜の死体から素材剥いじゃう・・・ビクンビクン」

牙を<右曲りのダンディ>でペチペチやりながら引っこ抜いているメリウがいつものように妄言を吐き始めた。

いよいよ酔っ払ってきているらしい。

最近の発泡酒、侮れない味になってきてるねー、とは奴の言だ。

聞いてねぇよ、だけど同意だ。


「俺はエビス好きだからサッポロ派なんだよなぁ」

何だパート2効いたんだ、逃げに入って損した、という顔をしたレザードが、こちらもマイク越しに麦炭酸飲料を嚥下する音をさせる。

発泡酒でもエビスみたいな酸味もあって、普段飲みならこっちでもいいやーとか言ってる。


「ウチは実はワイン派です・・・出羽桜ウマー」

日本酒じゃねぇか!と即ツッコミのメリウを、サプラーイズ!とかホザいていなすジオ。

ってか良い酒飲んでやがるな自分にもプリーズ!

ちなみに彼は流れ出る血をせっせと瓶詰めしている・・・竜って全身余す所無く良素材だしねぇ。

成仏してくれ、有り難く全部使いますゆえ・・・


<竜:呪ってやる 祟ってやる>


ってかいい加減ハラスメントで訴えるぞ・・・え、シオンもう通報しといた? GJGJ

地味にGM通報って初めて聞いた気もしないでもないが・・・長いMMOの歴史上、きっと何件かはあったんだろうなぁ。


「歴史書に残るようなプリーズを吐きよるわ・・・」

メリウと同様のキリン派(厳密にはどこでもいいらしいが)のシオンが喉を鳴らしながら飲むのは○どごし生。

酸味の少ない苦味の楽しめる発泡酒に仕上がっております。

シオン自体は素材剥ぎには参加せず、竜の腹から出てきた魔法剣をしげしげと眺めていた。

竜の腹から出てきたってことは、草薙とかにするかねぇ、名前、なんて考えてたりするわけだが。


ひとまずの竜解体を終え、気づいてみればもういい時間。

無理ゲーイベント開幕か?

縦かよ!

竜、敗因は空を飛んでいたことか?

の三本でお送りいたしました。


またそのうち~ んっがっぐっぐ。

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