スタートダッシュも楽しいもので 2
本日のメニューは、心機一転増えに増えた様々なクエストを根絶やしにする勢いで攻略していくことです。
帰ってきたか小鬼さん達、ニーハオ!
<小鬼:ニーメンハオ>
はははぁ、小鬼さん達なっつかしいなぁー、でも、でもさ・・・
「ねぇ皆、馬鹿な話しようぜー。 一番メリウ~。 実は自分<アナリスト>って後ろ趣味の人だと思ってた」
ちょっと現実逃避を始めるメリウ。
「おま、素直に言うけど馬鹿だろ? バーカバーカ」
左右に持った魔法剣で<先の先>を多重付加して無人の野を行くが如く小鬼達を切り伏せながら、シオン。
スタミナがもたないので連撃が使えないのが面倒。
「経済アナリスト、などはどういう解釈だったのですか?」
柔術・ドロップキックを炸裂させながらジオが呆れ声。
ジオ、それ柔術ちゃう。
「? 後ろってなんぞ?」
久々の槍使いとして颯爽登場なレザード。
振り回しで小鬼さん達が吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ。
うん、君はそのままでいてください。
「えーっと、経済の背後をツく裏技的な人だと思ってた。 そうそう、エコノミストって霧の種類だよね?」
ぶぴーっと熱線魔法を敵集団にぶち込みつつメリウ。
もう空飛んで上からカマイタチ撃とうかなー。
「エコのミストってか・・・ちと微妙だな」
前後左右から襲いかかってくる子鬼たちの攻撃を苦も無く受け流すシオン。
捌いても捌いても、次から次へと来るんですがね・・・。
まぁ、なんというか、その。
「「「「多すぎるんじゃァァァァ」」」」
あ、シャーマン混じってる。
お、魔法飛んできた。
ぎにゃぁーーーー
<クエスト:子鬼中隊町へ クリア>
周囲には小鬼たちの屍累々。
対するいつものメンツも疲労困憊満身創痍。
ってか、中隊ってことは大隊とか師団とか、来るのそのうち?
「魔法押しのゲームってのが、よくわかる酷い結果だったねぇ」
なんとか自分の応急処置を終えてメリウ。
虎の子の瞬間移動を何度も使うはめになり、もうメリウのMPはゼロよ!
「わちき的には、剣で魔法が受け流せるって事実が意外すぎたんだが」
範囲魔法食らったときに結界張ろうとして間違って受け流しやっちゃったら出来ちゃった、という棚ぼた。
彼の負傷は魔法などでなく、無駄に格好良く月面宙返りして登場しようとして失敗して地面転がったところを小鬼さんの足元に行ってしまい槍で刺され、バットタイミングで防御失敗して素通しのダメージを食らった、という愉快負傷である。
「俺は冒頭でシオンがいきなり自爆して瀕死になったところで驚愕だったけどなー」
以前入手した流水の外套・・・効果:回避力倍・・・の恩恵で、ずっと最前線に居座ったレザード。
範囲の広い魔法は回避できず、なんとか薄い防御魔法で粘らざるをえない場面が幾度かあった。
「でもまぁ、死人が出なかっただけ良としましょう。 たくさん癒せたのでウチは満足です」
もはや語尾にボソッすら付けずに胸張ってはっきり言うジオ。
もう彼はこういうキャラ付けで行くのだろう、ずっと。
格下相手と正直なめていた今回、彼がいなければやばかった場面は多かった。
「今回の教訓を言うなら・・・数は力。 あと、油断して余計なことすんな、ですかな」
一匹二回の攻撃でも四匹きたら八回攻撃ですからなぁ、と、ジオが締めくくる。
「ああ、あとひとつ。 魔法ヤバい。 超ヤバイ。 ってか手持ちの結界魔法がスイッチ式なのもいけない」
メリウが慌てて問題提起。
魔法用結界のショートカットを用意し忘れるというポカミスのため、一度モロに魔法攻撃をくらったのだった。
ダメージ量的に、対魔法用が展開できていても相当の損害は受けていたようであるが。
「そだよね、一応受け流せるってのは分かったけど、あの時はそんなん知るかー、だったしね」
ドカンとでっかい魔法撃たれたら、実際問題瞬間移動で逃げるしか無いしねー、とシオン。
瞬間移動、連発できるレベルじゃないしと続ける。
「クエスト、数こなして金稼いで、もしくはドロップで良い防御魔法出るのを狙っていこうか」
OKリーダー。
<クエスト:残存兵を狩れ クリア>
<クエスト:魔法使いの洞窟 クリア>
<クエスト:侍ギルドからの依頼1 クリア>
無駄に洗練された無駄の無い無駄な休日の使い方、とばかりにクエストを連続でこなしてく。
途中、食事や休憩などを挟みつつ、辛うじて死人を出さないレベルでのクエストが続いた。
「なんかクエストの難易度、全体的に上がってないか?」
シオンが何度目かの愚痴をこぼす。
基本的には、数。
多い、多すぎる。
「その分実入りはいいけど・・・このペースだと、ちょい辛いね」
今日一日で器用さを二つ上げたラッキーマンが携帯食料をモムモムしながら頷く。
そろそろ一般人限界の二倍に迫ろうかという器用さお化けと化している。
「地味にキャラクター強度とかが内部計算されてるってのはあり得るのかね?」
地面に胡座をかいてトマトジュース作成しつつ、メリウが疑問を口にし。
「うーむ、巻物鑑定してきましたが、新規の防御魔法は無かったですなぁ」
魔法屋から出てきたジオが残念そうに話に加わってきた。
「魔法使いの洞窟で結構いっぱい強奪・・・譲渡されてきたのにねぇ、どんなんがあったん?」
シオンが、悪い魔法使いをブチ殺して洗いざらい奪ってきた事実をなかった事にしようとした。
レザードとメリウもジオに向き直り、鑑定結果発表をまつ。
「今回の内訳は、レベル1が3つ、レベル2が1つ、レベル3が1つ 以上5つになりますね」
レベル1、2は使う人がいないなら売り払ってお金にしちゃいましょう、と、ジオ。
「えーっと、パーティ共通窓にぶち込んだんだっけ・・・えーっと、レベル1が皆もってる結界に、ジオとメリウのもってる回復と、お、この研磨って良いんじゃね? 効果は刃物ダメージを魔法威力分上げてくれるっての」
ひとまず結界は売り払うことに。
研磨はシオンが挙手、異議なしにより所有権決定。
回復は鉄砲玉気質のレザードに押し付けられた。
「で、レベル2が・・・風速? 効果が・・・威力だけ回避があがる・・・」
無言でレザードに押し付けられる巻物。
「もらえるならもらうけど、いいん?」
遠慮がちに言うレザード。
これはもはや、お前さん以外に使ってもそれほど意味はない、なぜなら・・・
何故なら、このパーティの裏モットーは「尖れ!」だからだ・・・。
「で、メインディッシュのレベル3なんだけど・・・爆炎壁・・・どう見ても攻撃魔法です本当にありがとうございました」
今、このメンツ火力過多やっってのに!
皆のツッコミが右回りに一周し、さて効果はど無いやねん、となったわけだが。
「・・・ゲスい効果だ、これ・・・なんだこの100m範囲に威力+6mの高さの壁出現って・・・」
シオン、絶句。
「しかも注目すべきは、時間だねこれ。 人間限界の能力値で換算すると9分もつぜよこれ」
しかも接触でダメージ、通り抜けでさらにひどいダメージ、と、どうすんだこれ、な空気が流れる。
「つまりは、敵が現れたー、爆炎壁ー、奴らをぐるっと囲んだぜー、9分お待ちください。 勝利と、こういうことですかいな?」
ジオがおちゃらけて、しかし現実そうなりそうなことを口に出した。
「「「「うわぁ」」」」
さすがに、皆が、引いた。
魔法押しすぎないかいくらなんでも。
しかもこれ、まだレベル3。
上にまだ、4つも階級あるんですが・・・。
「その、なんだ。 馬鹿め、近接物理は死んだわ! って事かい?」
ロマンを汚された・・・と膝を落とすシオン。
「うわぁ、俺もこれから方向転換とか面倒なんだが・・・」
レザードも心底ぐったり。
「まぁ、最初から魔法押しです! って感じのゲームでしたからねぇ」
我関せず、といった風で、ジオ。
揺るがない癒しマニアのロマン力は、正直負傷者さえいればいいようだ。
「で。 これは結局自分が貰っていいのかしらん?」
強いて言うなら魔法使いポジションのメリウが、我が世の春が来たー、とばかりに挙手。
死んだ魚の目をした近接二名に無言で睨められたがボクは元気です。
「いいんじゃないですかねぇ、ウチはどのみち戒律で覚えられませんし。 他二人も魔法能力は人間限界スレスレってところでしょうからね」
ジャッジ・ジオの一言をシオンとレザードが首肯し。
かくして、いつものメンツに魔法使いっぽい魔法使いが、誕生。
・・・実戦投入は当分先ですがな、修行ポイントもう無いし・・・
「ところで、魔法に関してはいいのですが、実は先ほど気がついたことがありまして」
んんっ、とジオが咳払いして、シオンを見る。
「え、なにかあった? 巻物以外の出物ってもう配分したし・・・」
シオンが小首をかしげて考え込む。
レザード、メリウもなにか問題あったっけー? と考えだすが。
「えー、では皆様、解決済みクエスト欄を御覧ください。 開きましたか? そこの、推奨人数をご参照ください」
ジオの声が、ちょっとトーンダウンした気が、した。
解決済みクエスト欄。
<クエスト:子鬼中隊町へ クリア> 推奨人数8人~
<クエスト:残存兵を狩れ クリア> 推奨人数8人~
<クエスト:魔法使いの洞窟 クリア> 推奨人数10人~
「「「・・・どおりで、辛いと思った・・・」」」
いやー、生きてるって素晴らしいね。
ってかなんで切り抜けられてるんだよ・・・。
「報酬いいわけだよ! ってかなんでこんなん連戦してんだよ俺ら!」
そしてなにより気付かなかった自分が腹立たしいわ! とレザード。
「何とかなっちゃうもんなんだねぇ、実際問題相性なんだろうけど」
魔法使いの集団、とかが来るクエストだったら、最悪全滅していただろうしなぁ・・・と、メリウ。
具体的には魔法使いの洞窟とか、超ピンチだったんじゃね?
「運も実力のうち・・・ってことでFA?」
全く推奨人数見ずにバンバンクエスト受けていたリーダー・シオンが、嫌にキメ顔で言い。
「気付かなかった我々も大きなことは言えませんが、ぶっちゃけ殺す気かシオン」
癒しまくれたからいいけどさっ、と、素で憤慨するジオ。
ふいー、と、皆がため息をつく。
なんだかんだで、そろそろ日付が変わる時刻だ。
「まぁ、結果オーライってことで良いんじゃね? なんだかんだでワチキ達それなりに戦えるってことだしね」
スタートダッシュ的には美味しいんじゃん? と、シオン。
「ま、そだね。 βの時みたいに死ねないってわけでもなくなったし」
クリアできるなら無理ゲーじゃないさね、とレザード。
「そうですな、でも出来れば明日はもうちょっと推奨人数抑えめでお願いしたいものですが」
ひとまず釘を差しておくジオ。
「んじゃ、また明日かな。 自分はもうちょい粘って爆炎壁鍛えてみるよー。 うぇ、範囲広すぎて訓練場使えない・・・だと・・・?」
どうしたものか・・・と頭を抱えるメリウ。
そんなこんなの休日の一幕。
本日は、これまでということで。
「「「「おつかれっ おやすみー」」」」
その後、3時間粘って町の外で炎の壁を立てては町に戻って休憩し・・・を繰り返したメリウは、
「あ、メリっさん。 大規模魔法鍛えるの、訓練場の地下にスペースあるよー?」
通りかかった顔見知りの魔法使い寄り侍に教えられ、膝を折った。
丑三つ時の、のどかな光景であった・・・。