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01 消失病
目の前にいるのは、やがて消えゆく定めの少女だ。
余計な感情を抱けば辛くなるだけ。
そうだと分かっていても、俺は声をかけずにいられなかった。
「なあ」
ちくしょう。何でこんな事してるんだ。
消失病と呼ばれる病が世界に蔓延しはじめて、十数年。
人々は、日々かけがえのない大切な人達を失い続けていた。
消失病にかかった人間は、存在感が希薄になる。
そして、感情も記憶もなくし、最後にはまっさらな人間になってしまう。
症状が現れるのは、病にかかった人間だけじゃない。
その人間と縁を結んだ人間全てに及ぶ。
消失病にかかった人間とかわした言葉、刻んだ思い出も、最後には消えていってしまうのだ。