03
メタルトカゲ討伐で協力する旨を示すや否や間髪入れずにテレポートさせられ、半ば強制的にウキョウ国へ連れて来られたトウコだった。
「えっ!? いやいやいや! 今からかよっ! せっかちかっ!」
明後日には試合があるので、明日までには終わらせると言うオリビア。
トウコも明後日はミリアの試合があると言い出してから、ある事に気づいた。
そう、明後日はオリビア対ミリアの試合があるのだった。
時間もあまりないのでトウコは早速目的地に向かう事を提案すると、場所が分からないので案内人が必要と、目の前の大きな城に入城する運びとなった。
城内の一室で手厚い歓迎を受けながら待つ事数時間、トウコが食事をしていると突然部屋のドアが開き、オリビアとシエラ、そして見知らぬ少女が入ってきた。
「遅い遅いっ! あまりの遅さに帰ろうかと思ったわ!」
トウコはご馳走を頬張りながら文句を言うと、その姿を見てシエラは多少呆れた顔をしながら口を開いた。
「その割には随分と食事を堪能している様に見えますが…」
「も、申し訳ございません。私が至らぬばかりに…」
シエラが言い終わるな否や、見知らぬ少女が謝罪をした。
「ん?誰だ?この小娘は」
「貴様、無礼だぞっ! このお方はウキョウ国の姫君であらせられるぞ!」
オリビアが怒りを露わにしながら説明した少女の名はティーラ。ウキョウ国の第三王女である。
「へえ、姫様とはねぇ」
トウコは驚いた様子もなく、むしろ興味津々といった表情でティーラ姫を見た。
「でも、ウキョウ国の姫様が何でこんな所に?」
ティーラ姫は少し顔を赤らめ、緊張した面持ちで答えた。
「私も、その…メタルトカゲ討伐の話を聞いて、どうしてもお力になりたかったのです」
「え!? 姫様なのに戦うつもりなの?」
トウコは驚いた。普通、王族は危険な任務に参加することは避けるものだ。
しかし正義感が強いティーラ姫はメタルトカゲ討伐に参加していたので、道案内役を買って出たのだった。
「そうです。私は格闘戦を学んできました。ウキョウ国の一員として、この国の危機に黙っていられません」
ティーラ姫の目には決意の光が宿っていた。
オリビアはティーラ姫の言葉にうなずきながら口を開いた。
「そういう訳で、姫様も一緒に行動することになりました。姫様は物理攻撃タイプの魔法少女なので案内役としても心強い存在よ」
「いや、トカゲ如きにボコボコにやられたんだろ? まあ、道案内だけならいいか…」
トウコは一抹の不安を覚えながらもティーラ姫の同行に渋々合意した。
「では、目的地の確認をしましょうか」
オリビアが言うと、シエラは地図を広げて説明を始めた。
「姫様の話によるとオリハルコン採掘場であるメタルトカゲの巣はこの辺りです。ただし道中には魔物が多数出現する事が予想されるので、十分な警戒が必要です」
ティーラ姫はすかさず手を挙げて、少し遠道になるが比較的魔物が少ないルートを提案するも、魔物如きに時間を掛けたくないと、トウコは却下。
更にトウコはエアボートで直接現場に行く事を進言するが、木々が生い茂った山の中なので上空からでは場所を特定できず、多少歩く事を余儀なくされる事となった。
エアボートで移動する事数時間、目的地に到着。
エアボートから降り立ったトウコたちは、緑深い森林の中に足を踏み入れた。
木々が密集し、辺りは薄暗く、湿った空気がまとわりつくようだ。
遠くからは鳥のさえずりが聞こえるが、それ以上に不気味な静けさが漂っている。
そんな中、暫く歩いていると川から突然大きな生物が姿を現した。
トウコはアレは何かと尋ねると、シエラは丁寧に説明を始めた。
「アレの名はムビエルムビエルムビエル。ムビエルムビエルムビエルはウキョウ国に生息する魔物でムビエルムビエルムビエルは主に水中に生息しており…」
「いやどんだけムビエルとかいう魔物が好きなんだよ!」
「はあ? あなたがムビエルムビエルムビエルは何かと尋ねて来たのでしょうがっ!」
「いやいやそんなに名前を連呼しなくてもムビエルだけでいいだろ!」
ここでポン太が呆れた顔をしながら口を挟んできた。
「あの魔物はムビエル・ムビエル・ムビエルと言う名前じゃ」
「んな訳あるか! ……いや、ないよな…?」
ポン太は黙ってトウコを見つめている。
トウコはポン太の表情から察し、シエラが真面目に解説をしていたと気づく。
因みにトウコとポン太の会話は他の者には聞こえてはいない。
(この国って変な名前の魔物多いな…)
「えっと…何かごめん…」
トウコがシエラに謝るな否やオリビアは魔法を放ち轟音と共にムビエル・ムビエル・ムビエルは潰されて息絶えたのだった。
(いや、あいつ出て来ただけで何もしてないだろ…どんだけ容赦ないんだよ…)
「先を急ぎましょう」
オリビアは何事も無かったかのように、歩みを止める事無く目的地を目指す。
道中には幾度となく魔物が出現したものの、特に強敵が現れる事も無く目的のオリハルコン採掘の洞窟場入り口に到着した。
「着いたか、んじゃちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ」
トウコは周囲を見回しながら呟いた。
オリビアを先頭に洞窟内部に侵入。
洞窟内は明るく一本道で特に魔物等が出現する事も無く最深部まで到達すると、そこには黄金色に輝く巨大なトカゲらしき生物が姿を現した。
「アレがメタルトカゲで間違いなさそうですね」
シエラがそう言うと、オリビアとシエラは巨大トカゲにゆっくりと近づいた。
トウコは黄金色に輝く巨大トカゲを見て疑問を抱きポン太に確認をする。
「おい、アレって明らかにメタル系の色じゃないよな?」
トウコがプレイしていたゲームではメタル系モンスターの色はシルバー系と相場が決まっていた。
「ふむ…アレは…メタルトカゲの上位種でオリハルコントカゲと言った所じゃな」
ポン太が少し考えながら答えたのはポン太の持っているデータに黄金に輝く魔物が存在しなかった為、状況からオリハルコンを食らい進化したと分析していたからだった。
それでもトウコは二人なら余裕で倒せると思っていた所、ポン太には否定され驚いた。
メタル系の魔物には火や雷等の魔法は通用しないもののオリビアとシエラが使う重力魔法と物理攻撃には効果がある。
しかし、オリハルコンの強度を持つ魔物には、それらの攻撃は一切通用しないとポン太は言う。
実際戦闘を開始したオリビアとシエラは攻撃が一切通用せず苦戦を強いられていたのだった。