第19話 伝説の覚醒(3)
「がぁっ……!」
スースゼノクの鉄拳を脇腹に受けたレオパルドスゼノクは大きく吹っ飛び、ハル・マリアの前の路地に敷かれた石畳の上を転がった。痛みを堪えて何とか立ち直ったところにすかさず追い討ちの体当たりを浴びせられ、レオパルドスゼノクは胸部を覆う真紅の装甲から火花を散らしてまた転倒する。
「僕らに構わず戦って下さい!」
「お姉さん、私のことはいいからその悪者をやっつけて!」
蜘蛛の糸で縛られて人質にされているシメオンとミリアムは悲痛な声でそう叫んだが、すぐにアラーネアゼノクが手から伸びた鋭い爪を二人に向け、脅して黙らせる。
「余計な口を利くな。こいつで頭をぶち抜かれたくなかったらな」
「ううっ……」
怖さ、悔しさ、悲しさ。様々な感情がない交ぜになって、ミリアムは瞑った両目から涙をこぼした。自分たちを見捨てて戦うようにと彼女らが声を上げてもなお、レオパルドスゼノクは二人の命を守るため、敵の要求通りに無抵抗でいたぶられ続けている。
「このままじゃ、お姉さんが死んじゃう……」
何度も繰り返し殴打され、叩きのめされたレオパルドスゼノクはとうとう力尽きたように崩れ、地面に膝を突いてうつ伏せに倒れた。そこへスースゼノクが近づき、彼女の首を掴んで絞めながら体を持ち上げる。
「そろそろ止めを刺すとするか。全く、どこの女だか知らんが、せっかく手に入れたゼノクの力、我々に刃向かうためなどに使うからこんな哀れな目に遭うのだ」
「ちぇっ……残念ね。せっかく会えたレオ様の仇、せめて討ちたかったけど」
悔しげに舌打ちをして、レオパルドスゼノクが観念したように顔を背けたその時、ふと彼女の視界に入ったハル・マリアの店の奥、壊れた扉の向こうで、何かが眩しく光るのが見えた。
「……!?」
一体何が起こったのか。驚いたレオパルドスゼノクが目を凝らした瞬間、店の中から黄色く輝く一筋の光線が発射され、目にも止まらぬ速さでこちらへ飛んでくる。
「あっ……!?」
飛来した矢のような超高温の熱線はアラーネアゼノクが掴んでいた糸に当たって瞬時に焼き切り、シメオンとミリアムを拘束から解放した。アラーネアゼノクは驚いて背後を振り向き、異変に気づいたスースゼノクもやや遅れて同じ方向を見る。
「あれは……」
床に散らばった扉の残骸を真っ赤な血に染まった足で踏み砕き、こちらへ向かってゆっくりと歩いてくる獅子のような姿の戦士。その全身は黄金の輝きにも似た不言色の装甲に覆われ、太陽の光を反射して神々しい光沢を放っている。ハル・マリアの店の中から出てきたレオゼノクは天を仰ぎ、まるでライオンのような重低音の遠吠えをエスティムの十七番街に響かせた。
「獅子のゼノク、だと……?」
驚愕のあまり、アラーネアゼノクは捕らえていた人質が自分の手から離れてしまったことに構うのも忘れてその場に呆然と立ち尽くした。あふれんばかりの魔力を全身に迸らせたレオゼノクは戦場と化していた店の前の路地を見渡すと、やがてアラーネアゼノクに視線を定めて近づいてゆく。
「貴様、何者だ!?」
「弟と妹をよくも……」
何者かというアラーネアゼノクの問いかけを無視して、怯えるシメオンとミリアムの方をちらりと一瞥したレオゼノクは垂れ下がらせていた右腕を振るって鞭のように柔らかくしならせた。それを見たミリアムが、あっと驚く声を上げる。
「まさか……お兄ちゃん?」
子供の頃からのラシードの癖と同じ動きを見せたレオゼノクの右手は勢いよく振り上がり、アラーネアゼノクの顔面を強かに殴りつけた。人間の域を遥かに超えた凄まじい力で殴られたアラーネアゼノクは吹っ飛び、街路の隅に積まれていた木箱の山に激突する。
「シメオン、ミリアム。早く逃げろ」
「サウロ……兄さん……!」
聞き慣れた低く鋭い、それでいてどこか落ち着きと温かみのある声色。ハル・マリアの店内で何が起きたかは目にしていなかったシメオンとミリアムも、自分たちを弟と妹と呼んだこの戦士の正体がラシードであることをここで確信することができた。
「大丈夫? 怪我はありませんか」
「さあ、二人とも早くこっちへ!」
機を見て店の中から飛び出してきたハミーダとカリームが二人の手を引き、安全な場所へと素早く誘導する。横目でそれを見送ったレオゼノクは立ち直ってこちらに向かってきたアラーネアゼノクを威嚇するように再び大きく咆え、それから言った。
「随分と好き勝手してくれたようだな。お前たち、許さんぞ!」




