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第13話 魔物が潜む都市(5)

 エスティム西地区・十六番街。

 長い歴史を持つこの聖なる都市の中でも特に古い建造物が残っているこの地区の街路を、メリッサは早足で歩いていた。


「思った以上に簡単に侵入できたわね」


 一見して異国の者だと分かってしまう栗色の長髪と白い肌を赤いスカーフで覆い隠し、アラジニア人の民族衣装の真っ赤な長衣(アバヤ)を纏ったメリッサは歩きながら勝ち誇ったように小さく胸を張る。ヘルミーネらの危惧や警告もどこ吹く風、彼女はあっさりとエスティムへの潜入を果たしたのだ。後は、攻略の手がかりとなる何か有用な情報を掴めるかどうかである。


「これが、聖王アイスキュロスが建立したエスティム神殿……」


 古い石造りの巨大な神殿の前で立ち止まったメリッサは、思わず身震いを誘われるような大きな感動を覚えた。聖典や叙事詩の中で何度となく読んできた、信心深い古代の王が建設したと伝わるロギエル教の大神殿。今は異教徒のアラジニア人がこの街を支配しているため、ここを訪れてロギエルに祈りを捧げる人はまばらだが、その荘厳さは完成から千年以上の歳月が過ぎた今なお色()せることを知らず、初めて目にしたメリッサを圧倒するものがあった。


「神様、私たちの戦いにどうか祝福を」


 ジュシエル教徒である周囲のアラジニア人たちの目を憚りつつ、メリッサはそっと胸に手を当て、神殿に向かって聖戦の勝利を祈った。


 とはいえ、一昨日の軍議でもアイルトンやスヴェリルが指摘していた通り、神頼みだけで戦に勝てれば苦労はしない。聖地巡礼と歴史探訪もそこそこに、メリッサは情報収集のため動き出した。彼女が危険を冒してこの街に来た目的は神に祈って天命を待つことではなく、敵の内情を詳しく調べ上げて人事を尽くすことにあるのだ。となると、足はこのような神聖で高尚な場所よりも、もっと俗世の匂いが充満している方へ向く。


「いい匂い。お腹が空いてきたわ」


 エスティム西地区・十七番街。

 通りを一つ跨いで、飲食店を主とした店舗や屋台などがいくつも並ぶ賑やかな商店街にやって来たメリッサは、この街に暮らしている民衆の生の声や噂話などを収集する目的も兼ね、どこか適当な店に入って昼食を摂ることにした。


「どこがいいかしらね。せっかくだから、この土地にしかないような珍しいものを食べたいけど」


 遠い異国の城下での食べ歩きなど滅多にない機会なのだから、ただの栄養補給の作業で済ませたりはせず当地ならではの味を楽しまなければ勿体ない。母国のリオルディアでは見たことのない料理ばかりを取り揃えた食事処を興味津々でいくつも物色しながら、メリッサは大通りのなだらかな坂道を登って南の方角へと歩き続けた。




「腹が減ったな。そろそろひと休みしようか」


 午前中一杯、広いエスティムの市内をあちこち駆けずり回って魔物の行方を懸命に追ったラシードだったが、残念ながら手がかりは何も得られなかった。正午を半刻ほど過ぎた頃、手分けして捜査に当たっていたカリームやハミーダと合流したラシードはひとまず休憩を取り、近くの店に入って腹ごしらえをすることにした。


「向こうにいい店があるんだ。せっかくだから、お前たちにも紹介しておこう」


 エスティム西地区・十七番街。

 大通りを傾けている緩やかな坂を北へ向かって登りながら、ラシードはそう言って二人の部下を馴染みの店へと誘った。


「ここ……ですか?」


「ああ。この店をやってるのは、実は俺の弟と妹なんだ」


 坂を登りきった先にある、小高い丘の頂に佇む煉瓦造りの小さな料理店。ヨナシュ語で「ハル・マリア」と書かれた看板を掲げた洒落た雰囲気の建物の前に到着したラシードは、どこか得意気にその店をカリームたちに紹介した。

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