44話
その合図とともに、審判が笛を吹いた。
今は周りに人がいないからいいけど、人がいたら恥ずかしさで死んじゃいそう。
そんなことを思わせるほどに、笛の音は数舜的に、けれどかなりの音の大きさで校庭内に響いた。
と思ったのも束の間、緊張する隙もなく相手チームからのとんでもない剛速球が飛んできた。
目で追うのがやっと……。
そして次の瞬間、ばんっ! と鈍い音が耳に届いた。
「……あっ」
自分でもボールに当たったことに気づかなかったのか、悠斗くんが遅れて声を漏らした。
あまりの相手の強さに、私たちのコート内の空気が少しずつ変わっていくのを感じる。緊張と絶望が、私たちを、蝕み始めていた。そんな中――
「おー!! はやぇー!」
この場の空気を感じ取れなかったのか、沢西が私たちのコートに流れていた空気に水を差した。ううん、この場合はよかったのかもしれない。
「ごめん」
そう紡いだ悠斗くんからは、反省を感じる声音としょんぼりとした表情が浮かんでいた。
「大丈夫、大丈夫ー! 俺に任せとけって!」
沢西のその声を聞き、悠斗くんは一度こちらに振り返って「ありがとう」と言ってから、外野の方向に歩いていった。
「まずは一人。どんどん当ててくぞ」
相手のリーダーからは、そんな言葉が聞こえてきていた。
相手が本気すぎてすごく怖い……というか、もうやめたい。あんな速いボール、当たったら絶対に痛い。さっき悠斗くんが当たったときも、ものすごい音がしてたし。
「なあ、あのボール。キャッチできる自信あるか?」
沢西が持っていたボールを外野のほうに投げてからこちらに振り向いて、いつもの彼からはありえないほどに冷静な声音で話しかけてきた。
「う、ううん。キャッチできる自分をまったく想像できない」
「だよな。じゃあ、キャッチしなくていいから避けてくれ。来るぞ」
沢西の『来るぞ』という言葉に則り、前を向く。
たしかに沢西の言った通り、ボールを無理にキャッチしようとする必要はない。どうせ私が投げたところで誰にも当たらないし。
まさか沢西に気づかされることがあるなんて思ってもみなかった。
そして次の瞬間、真正面から飛んできた剛速球を沢西の助言どおり、何とか回避した。
「ナイス!」
沢西はそう言ったけれど、まだボールは相手チームにある。
「ふんっ!」
そんな掛け声に乗せながら今度は外野から、私めがけてボールが飛んでくる。
「きゃっ」
あまりのボールの速さと怖さに思わず声が漏れた。
今度も体制を崩しながらなんとか飛んでくるボールを回避したけれど、そのままの勢いで転んでしまう。
ダメ……当たっちゃう。
腰が抜けてしまったのか、すぐに立ち上がることができない。
今度こそもうダメだ……そう思ったとき、私の前を一つの影がさえぎった。
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