33話
悠斗くん、どこに行ったんだろう、と思いながらも、彼の姿を探しながら次の授業の教室に早歩きで向かう。それと同時につい沙也加の姿も探してしまう。
「私が先生との話に夢中になりすぎて、悠斗くんの伝達事項を聴き逃したのかな……」
私のその声はこの静かな廊下では誰にも届かない。
三分ほどで教室のまえに着き、ガラガラと扉を横にスライドさせた。
思わず喉が音を立てる。
「……すみません。遅れました」
そう言いながらも、教室内に視線を彷徨わせてみるが、悠斗くんの姿は見当たらない。
「遅れた理由はなんだ?」
先生が端的にそれだけを私に訊いてきた。その言い方に少し威圧感を感じるのは私だけだろうか。
「それは……」
遅れた理由。先ほどの先生のご厚意に甘える形になる「担任の先生から呼び出しを食らった」というものをこの先生にそのまま伝えるか、それとも――。
「お腹が痛くてお手洗いに行ってました。すみません」
咄嗟に思いついたものがこれしかなかった。でも男の先生だし、女子のそういうものに関しては強く口出してをしてこない気がする、ということも思い、咄嗟に出たものをそのまま口に出した。
「……わかった。そういうことなら、今日は遅れにしないでやる。席につけ」
笑顔の影を微塵も感じさせないこわばった表情の先生だったけれど、案外気が利く先生だったりする。やっぱり、人を見た目で判断してはいけない。
「はい、ありがとうございます!」
そう言いながら閉め忘れていた扉を後ろ手で閉めようとする。けれど、扉がボンドで固められたかのようにビクともしない。どころか扉が私とは逆方向に動いているのを感じる。
「えっ……」
思わず声を上げて顔だけで後ろに振り向く。
そして、扉のガラスごしに見える男の子と目が合った。
「悠斗くん!?」
なんで私よりも早く教室を出たはずの悠斗くんがまだ廊下にいるの!?
そう不思議に思いながらも、私はとりあえず扉から手を離すことにする。
「あっ」
次の瞬間、扉が勢いよくスライドしてその勢いのまま壁に衝突する。そして、教室内にほぼほぼ毎朝聞いているあの鈍い音が響き渡った。
「……。あの、大きい音を立ててすみません」
教室に入ってきながら、悠斗くんが謝罪の言葉を口にする。
ごめん、悠斗くん。私が扉を急に離したせいで……。
「そんなことはどうでもいい。それで、なぜ水口までもが遅れて教室に入ってくるんだ」
先ほど私に問い詰めたときよりも、更に先生の声のトーンが強張っている。
「えっとー……」
悠斗くんが少しの間黙り込んだ。
周りの視線が私たちに容赦なく突き刺さっているのを感じる。
「悠……水口くんも私と一緒に先生から呼び出しを食らっていたからです」
自分でもびっくりした。
……?
あっ、肝心なところで間違えちゃった! 食らってない。呼び出されたの。
「……」
悠斗くんが唖然として私を見ている。
「「「……」」」
そして、数多のクラスメイトの視線は一人のゲラ美少女。必死に笑い声を押し殺そうとしているのが伝わってくるけれど、その奇妙な笑い声を全然隠しきれていない姫川さんのほうに転換していた。
「もういい。二人とも席につけ」
怒りを通り越して呆れてしまったのか、先生は私たちにそう指図した。
「「はい」」
私たちはまったく同じ言葉を同じタイミングで先生に対して向けた。
私と悠斗くんはこの授業では席が違うため、すぐに異なる岐路に向けて歩き始める。
「話を戻す。この絵は誰が描いたものかわからないと思った人は手を挙げて挙手」
先生がそう発すると、クラスの大半が手を真上に挙げた。
「なあなあ。水口とお前って付き合ってるのか?」
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