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30話

 沙也加(さやか)がリビングを出ていってしまい、沈黙の間に残されたのは私と姫川(ひめかわ)さんの二人きり。


 シーンと静まりかえった部屋に、大きなアナログ時計のこくこくと時を刻む音だけが妙に私の耳に訴えかけてくる。


 私たちの動きが止まっていようとも、その時計は休むことなく針を回し続けている。


 なら、私も――ここで止まるわけにはいかない。


「姫川さん」


 私が彼女の名前を呼ぶと、テーブル一点を見つめ続けていた真ん前の女の子がそっとこちらに顔を上げた。


「姫川、さん……」


 私の予想を上回る表情をしていた彼女に、つい言葉を詰まらせてしまった。


「ご、ごめっ、んないっ......ワタクシ、のせいでっ……」


 そう発した姫川さんの目元は涙に濡れていて、そのうちの一筋が頬をツーっと伝っている。


 ──私は今まで彼女のことを全く知らなくって、いつも彼女は凛としていて美しかったから。


「全然大丈夫だよ。……はい、これで拭いてねっ」


 ──こんなにも人のことを想える人だって、失礼ながらも知らなかったんだと思う。


「ねえ、姫川さん」


 私がそう言いながら席を立つと、姫川さんが私の差し出したティッシュで目元を拭くことをやめて目を丸くしながらもこちらに振り向いた。


「ごめんなさい!!」


「……!」


 私が頭を下げると思っていなかったのか、姫川さんは何度もパチクリと目を開けたり閉じたりを繰り返している。


「私、姫川さんのこと誤解してたの」


 彼女は不思議そうな顔でパチクリと繰り返している。


「私、姫川さんみたいなお嬢様と接したことが今まであんまりなかったから──正直、そういう人はみんな性格が悪いんだと思ってた」


 言ってしまった、という気持ちと同時に、ホントに言ったほうがよかったのか、とそれを口にした今でも悩み続けている。


 それなのに……。そのはずなのに、私の口からは滝のように言葉が流れ続ける。


「ほら、ドラマとかでお嬢様ってやっぱりそういうイメージがあるから……」


「ま、まあ、そうですわね」


 驚きながらも、彼女は私の意見に同調してくれる。


「でも……」


 姫川さんの口から続いた言葉は「でも」という否定の言葉。ふざけないで! みたいなこと言われるんだろうな。


「ワタクシ、別にお嬢様でも何でもありませんわよ。むしろ貧乏なくらいですのに」


「えっ……貧乏……?」


 ピーンポーン! 


 ふいにインターホンの音が部屋に響き渡り、私たちの会話が中断された。


『宮ノ森~。彼氏さんも一緒に連れてきたよー』


 もう! 彼氏じゃないって何度も言ってるのにー! まあ、悪い気はしないけど……。




 翌朝。


「なんで、泣いてるの、私……」


 目覚まし時計が鳴るまえに目を覚ました私の目には、涙が溜まっていた。そしてその一滴が頬を伝ったとき、私は目を覚ました。


 とても悲しい夢を見た。沙也加がううん、そんなわけない。そんなこと考えちゃダメ。


「眠い……」


 いつもの何倍も眠たい目をこすりながら、起きたら絶対にすることをこなして二階に脚を向けた。


 すると、後ろから聞き馴染みのある声が私に声をかけてきた。


「おはよぅ……」


 そのボソッとした声を聞き、後ろを振り返るとそこには弟である(ふう)くんが突っ立っていた。


「おはよう! 風くんのほうから挨拶してくれるなんて珍しくない?」


 風くんは寝ぐせだらけの髪を搔きながら、「そう?」と疑問を抱えた顔で返してきた。


「ていうか、お姉ちゃん。ひどい顔してるけど……」



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