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24話

「パパ? どうたんだ、(はるか)


 私の反応を訝しんでいるのか沙也加(さやか)が私のほうに顔を向けてきた。


「いえ、大丈夫です♡」


 先ほどの反応を嘘だと思わせられるように私がメイドさんらしく自分にできる最大限の甘い声を出すと──


「……そうか。じゃあ、この萌えキュンオムライスをいただくな」

 

「はい♡」


 すると、沙也加がスプーンでオムライスに切れ目を入れた。


「お! フワフワだな!」


「ありがとうございます♡」


 おいしいおいしい、と何度も言いながら食べ続ける沙也加を横目に、先ほどの男性のほうをちらりと見てみる。


 やっぱり、パパだ。私がパパを見間違えるはずがない。


「遥がさっきから見てるのって、遥のお父さんだよな?」


「えっ……」


 まさか、沙也加も気づいてたの?


 そう思いながらも、私が沙也加の顔を見ていると──


「あたしだって、沙也加のお父さんとは会ってるから気づけるけさ」


「たしかに……」


「気になるか?」


 気にならない、と言えば嘘になる。いや、正直言うとすごく気になる。


「うん」


 すると、沙也加が頼もしそうな笑みを浮かべ始める。


「大丈夫だ。あたしが見といてやるよ」


 


「遥、泣きすぎだろー。いや、まあたしかにあれはあたしでもバク転しちゃうぐらいには嬉しいけどよ……」


「……全然…っ……ぞのだどえ、わがんない、じょ……」


 そして言葉では伝えきれない言葉を心の中で口にする。


 パパ〜! 私も愛してるよー! 大大大大っ好きだよ──────!



 ──尾仲沙也加(おなか さやか)──


 遡ること一時間ほど前。


 あたしは遥が次のあたしへの奉仕を準備している間に、遥のお父さんへと目を向けていた。


「今日も娘の相談をしたくて来たんだけど……いいかな?」


「全然大丈夫だにゃー♡」


 あたしにはあの誠実そうな遥のお父さんが、メイド喫茶に来る理由が思い浮かばなかった。


 でも、今の言葉を聞いてわかった。


「娘との接し方が、最近わからないんだよ」


 羨ましい、と素直に思った。


 幼い頃、あたしの面倒を見てくれていたのはいつも、あたしの兄貴だったから。


「もう少し反抗をしてもらったほうがいいのかな、と思ったりもするんだけど……」


「ノンノン、絶対にそのままのほうがいいにゃー♡」


 もちろん今だって、両親はあたしのことをほとんど気にかけてはくれない。


「親の妖精さんには口を聞かなかったこともいっぱいあったにゃー♡」


『そうか。うちの娘はちょっと純粋すぎるのかなー』


 だから、あたしはあの時、遥を初めて見たとき、絶対にあの子だけは守ってやんなきゃいけないと思った。


 兄貴がもういないんだったら、あたしが兄貴の代わりになればいい。


 あたしが兄貴になれば、遥だってあたしが助けてあげられるし、兄貴の意志だってあたしが受け継ぐことができる。


 ──兄貴は、あんな簡単に死んでいいはずの人間じゃなかった。


 ……やっぱ、今でも悲しいもんは悲しいよな。


(にい)はなんで、そんなに私に優しくしてくれるの?』


『それは……たった一人の可愛い妹だから──かな』


 それを兄貴の口から聞いたあたしは、少女漫画のヒロインみたいに顔を赤らめちゃってさ……。

 

 今思うと、あの時のあたしって相当なブラコンだったよなー。


 あのまま純粋無垢な可愛さ全開の感じで育ってたら、遥に負けず劣らずの超絶美少女になってたに違いない。絶対にな。


 あー……違うわ。あの時のあたし根暗すぎたわ。


 まあ、そんな美少女であったはずのあたしが、今じゃ別の美少女である遥の虜なわけよ。


 美少女×美少女はなんだろーな。


 ……あ、いけね。遥のお父さんの話ちゃんと聞かねぇと。まあ、聞いてはいるんだけどな。


「ありがとう。じゃあ、今日はこのぐらいにしておくよ」


「おっけーにゃ〜♡」


 おっと、これはもう遥の話は終わっちゃったか? 


 でも、まあこう見えてもあたしは耳と頭はいいほうだからほとんどは頭の中にすでにインプット済みなんだよな〜。


 あとは、どうやって遥にこの話を伝えるかだが……。


 遥はたぶん、遥のお父さんに恋しちゃってるからなー。




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