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筋肉第43話 田舎駅

 日曜日の午前9時半。

 日辻山(ひつじやま) 羊子(ようこ)は胸を躍らせながら電車に乗っていた。

 市内から、羅生山(らしょうやま)の麓に1番近い駅まで行く路線である。

 これから、鬼木坂(おにきざか) 奮子(ふるこ)の家に向かう。

 そう思うと、胸が高鳴って仕方なかった。

  

 羊子は頬を紅く染めて、流れ行く窓の景色を見つめた。

 すでに市内からは外れて、田舎らしい風景が広がっている。

 やがて、電車が止まった。

 ここだ。

 羊子は立ち上がり、車両から降りた。

 車両には何人か乗客がいたが、ここで降りたのは羊子のみ。

 更に、無人駅である。

 電車が動き出すと、周囲は静かになった。

 風が吹き抜ける音と、小鳥のさえずりと、遠くで聞こえる草刈機の音しか聞こえない。

 

 羊子はふと空を見上げた。

 青い空に、白い雲が優雅に流れている。

 自然と、口元に笑みが浮いた。

   

 無人駅を出ると、田舎道が広がっていた。

 見渡す限り、田畑、川、山である。

 羊子は田舎の空気を思い切り吸った。

 空気が美味しい。

 自分が住んでいる市街地から、僅か40分程電車に乗るだけなのに、これ程までに空気が違うのか。

 

 「あんれ、おめぇ」

 

 背後から突然、声が聞こえた。

 羊子はびくりと身体を震わせながら、振り向いた。

 すると、そこに見慣れた女子がいた。

 クラスメイト。

 出井野(でいの) 虹久(にく)である。

  

 「あ……出井野(でいの)さん」

 

 羊子は虹久の姿を見つめた。

 麦わら帽子を被り、農業従事者のような格好をしている。

 

 「羊子じゃねぇか。なんでこんなとこにいるだ?」 

 

 「あの……えーっと」

 

 羊子は答えに詰まった。

 正直に奮子の家に遊びに行くと言っても良いのだろうか。

 変に噂を立てられないだろうか。

 

 「ちょっと……こっちの方に用があって」

 

 「ふぅん。この道をずっと行くだ?」

 

 「……う、うん。そう」

 

 「気を付けろよ。最近、クネシロ様がここら辺の畑によく降りて来るずら」

 

 「クネシロ様?」

 

 「おう」

 

 「なにそれ?」

 

 「山に住む妖怪みてぇなもんだ。くねくねと踊ってるような動きをしてるけど、遠くで見る分には良いが、はっきり見ちゃいけねぇぞ」

 

 「……はっきり見るとどうなるの?」

 

 「不幸な事が起きちまう。とにかく見かけたら見ねぇでほっとけ」

 

 「うん。分かった。ありがとう」

   

 羊子はにこやかな笑みを浮かべて礼を言った。

 

 「おう。じゃあな」 

 

 虹久が畑の方に戻って行くと、羊子も反対方向に歩き始めた。





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