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筋肉第38話 大自然写真集

 「ただいま」

 

 言いながら、赤羽(あかば) 火凛(かりん)は児童養護施設の横開きのドアを開けると、5人程の小さな子供達が駆け寄って来た。

 男子も女子も、皆口々に火凛お姉ちゃんお帰り、と言ってはしゃいで抱き着いて来る。

 

 「良い子にしていたかい」

 

 火凛は子供達の頭を撫でながら穏やかな声を出した。

 子供達は力強く頷いて、今日学校であった出来事などを嬉しそうに話し始めた。

 

 「そうかいそうかい」

 

 火凛は優しい笑みを浮かべて、子供達の話を聞いている。

 

 「火凛ちゃんおかえり」

 

 食堂の方から、エプロン姿の女性が出て来た。

 名は海堂(かいどう) 七海(ななみ)

 この養護施設の職員である。 

  

 「ただいま七海先生。アタイもすぐ手伝うよ」

 

 「いいよいいよ。もう準備出来てるから。今日はカレーだよ。火凛ちゃんのだけ特別激辛だからね」

 

 「ふふ。ありがとう。楽しみだよ」

 

 火凛は幸せそうに微笑むと、手を洗う為の流し場へと向かおうとした。

 

 「昼間ね、竜司(りゅうじ)君が来たよ」

 

 廊下を歩く背に向かって七海が言うと、火凛は振り向いた。

 

 「竜司さんが?」

 

 火凛はほんの僅かに眼を丸くした。

 

 「うん。本の発売に合わせて、先月日本に帰って来たんだって」

 

 「へぇ。まだこの街にいるの?」

 

 「うん。しばらく市内のホテルに泊まるってさ」

 

 「ここに泊まれば良いのに」

 

 「ホントそうだよねぇ。私もそう言ったんだけどさ。独りの方が落ち着くってさ」

 

 「……お金もったいない」

 

 「まぁ、あの子も今は売れっ子の写真家だからねぇ。お金有り余ってるんじゃない? 昼間来た時も、高級そうな大きなバイクで来たよ」

 

 「ふぅん」

  

 「ほら、これ、つい最近出た本だよ」

 

 そう言って七海は、分厚い図鑑のような本を火凛に差し出した。

 火凛はその本の表紙を見つめた。

 熱帯雨林を空から撮った写真が、表紙を飾っている。

 火凛はページを何枚かめくった。

 中身は写真集であり、全て地球の大自然を撮った迫力ある写真である。

 

 「ほら。凄いね、この火山の写真なんか」

 

 七海が指差したページには、火口から溶岩を噴き出している火山の写真が載っていた。

 

 「へぇ。よくこんな間近で撮れたね」

 

 火凛は心から思った。

 そして竜司の顔を思い出す。 

 竜司は7歳年上であり、自分が物心付いた時には実の兄だと思って慕っていた。

 だがある日。

 自分は4歳だったから、竜司が11歳の頃か。

 突然、竜司を引き取りたいと言う初老の男が施設を訪れた。

 結局竜司はその男に付いて行く事になり、離れ離れになった。

 その5年後、心身共に逞しく成長した竜司がふらりと戻って来た。

 しかし施設に金銭的な援助をすると、行き先も告げずにどこかへ去ってしまった。

 やがて竜司は1年に一回ぐらいの周期で施設に顔を出すようになった。

 ふらりと戻って来ては、金銭的な援助をしてどこかへ去って行く。

 それが3回ほどあった。

 

 そして今から2年前にこの施設に顔を出した時には、竜司はプロの写真家になっていた。

 竜司が撮る大自然の写真はどれも迫力が有り臨場感に溢れ、写真集は何回も重版された。

 

 「火凛ちゃん、連絡してみたら?」

 

 七海の提案に、火凛は頷いた。

 

 「うん。メールでもしてみるよ」

 

 火凛は写真集をパタンと閉じた。

 表紙にはタイトルとして大きく、地球の息吹、と書かれている。

 その下に、著者名として、『黒澤竜司』、という名が載っていた。

 

 





 

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