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筋肉第37話 学級委員長 

 「奮子」

 

 5時間目の授業の準備をしようとしていた鬼木坂(おにきざか)奮子(ふるこ)は、背後から名を呼ばれて振り向いた。

 そこには、赤羽(あかば)火凛(かりん)が真面目な表情をして立っていた。

 赤髪を後ろで縛っており、凛とした雰囲気を放っている。

 

 「なんだ?」

 

 奮子が答えると、火凛は奮子の包帯と傷ををじっと観察してから口を開いた。

 

 「昼休み、3年の獅子崎さんと話していただろう」

 

 「……ああ」

 

 「あの人も関わっているのかい」

 

 「なにが?」

 

 「あんたのその怪我について」

 

 「関わってはいない」

 

 「……へぇ。あんたそれ、誰にやられたんだっけ」

 

 「いや、だから、熊にやられたんだよ」

 

 奮子は目を逸らして頬をぽりぽりとかいた。

 

 「ねぇ、アタイのこと舐めてんのかい。見えすいた嘘つくんじゃないよ」

 

 「……大した怪我じゃないんだ。放っておいてくれると助かる」

 

 「クラスメイトを怪我させられてアタイが放っておくと思ってんのかい」

  

 火凛は睨み付けるように奮子を見つめた。

 奮子も火凛を見つめ、赤い瞳同士が交錯した。

 厄介だな、と奮子は思った。

 赤羽(あかば)火凛(かりん)

 1年B組の学級委員長であり、正義感が人一倍強い。

 常日頃からいじめなどは絶対に許さないと公言しており、クラスメイトを守る事が自分に課せられた義務であり使命であると信じている。

 自分と同じだ、と奮子は思う。

 クラスメイトを守る。

 仲間を傷付けられたら許さない。

 自分と同じだ。

 だからこそ厄介。

 仲間の仇を討つまで、燃え盛る炎は収まらない。

 

 「あんたの噂は聞いているよ、奮子」

 

 「噂?」

  

 「正義のヒーローみたいなことしてるって」

  

 「……いや、まぁ」 

 

 「その怪我は、誰かを守ろうとして何者かと闘って出来たんだろう」

 

 ずいと、火凛は詰め寄った。

 燃える瞳が射抜くように奮子を見つめている。

 

 「あんたにそんな怪我を負わすなんて、相手は何者だい? 強力な怪人かい?」

 

 更に火凛が詰め寄った。

 その赤い瞳に、奮子の顔が映っている。

 

 「いや……」

 

 奮子が口を開いた瞬間。

 火凛の瞳の形が、きゅっと変化した。

 縦長の肉食獣のような瞳。

 昨晩視線を交わしあった竜怪人の竜の瞳が、奮子の頭の中を駆け巡った。

 

 「!」

 

 僅かに眼を見開いた奮子の瞳を見て、火凛も眼を丸くした。

 通常の瞳の形に戻っていた。

 

 「なんだい、そんなに見つめて。アタイの顔に何か付いてるかい」

   

 「……いや。綺麗な瞳だなと思っただけだ」

 

 「そんな事言われると照れるじゃないか。でも話を逸らすんじゃないよ。で、誰にやられた? どんな怪人だい」

 

 「怪人だとしたら、あんたはどうするつもりなんだ?」

 

 「ふん。決まってるじゃないか。アタイがそいつに思い知らせてやるよ」

 

 再び、火凛の瞳の形が変わった。

 縦に細くなり、獰猛な光を放っている。

 その表情からは圧倒的な自信が満ち溢れていた。

 

 「なんやなんや、奮子が委員長に怒られとるで」

 

 笑い声と共に、明るい関西弁が聞こえた。

 すぐ近くに、楽しそうな表情をした弁軽(べんがる)虎美(とらみ)がいた。

 その横には、(しば)犬千代(いぬちよ)半田(はんだ)チャン、海燕(かいえん)(はや)もいた。

 火凛の視線がそちらの方に移動した時には、瞳が通常の形に戻っていた。

 

 「こら、見せ物じゃないよ」

  

 火凛は冷えた眼差しで女子達を一瞥した。

 すると、5時間目の授業を開始するチャイムが鳴り響いた。

 

 「とにかくだよ、奮子。言いたくなったらアタイに言いな。アタイが仇を討ってやる」

 

 そう言って、火凛は自分の席に戻った。

 奮子は少し困った表情で自分の後頭部をぽりぽりとかいてから、椅子に座った。

 

 その様子を、日辻山(ひつじやま) 羊子(ようこ)が真顔でじっと見つめていた。




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