筋肉第30話 サバンナ③
深夜。
人気の無い公園の駐車場で、鈍い打撃音が連続して鳴っていた。
1人の男が、身体を激しく動かしているのである。
男は巨漢だった。
身長が2メートルほどあり、肩幅も胸の肉も厚い。
その身体から熱気を迸らせながら、停めてあった一台の自動車をめちゃくちゃに殴っていた。
拳で殴り、足で蹴り飛ばし、体当たりをする。
自動車のガラスは割れ、フレームはひしゃげ、もはやスクラップ同然になっていた。
ふいに、その男が動きを止めた。
その男の呼気が、ふいごのような音を立てている。
ゆっくりと、男は後ろを振り向いた。
男は白眼を剥いていた。
しかしその白眼で、視線の先にある3つの人影を明らかに捉えていた。
男の目線の先には、1人の痩身の女と2人の男がいた。
真ん中に立っているのは、獅子崎 礼央。
左右にそれぞれ、斉角 進と知多 速夫がいた。
斉角と知多は、相手を真っ直ぐに睨み付けながらも、どこか不安の色が見え隠れする。
汗の筋が、頬を伝っている。
真ん中の獅子崎礼央は、不敵にして獰猛な笑みを浮かべていた。
月明かりが、その双眸と白い歯並びを照らしている。
「象岩さん。あんた、どうしちまったんだ……本当に」
斉角が、振り絞るような声を出した。
「グ……グ」
象岩が、妙な声を出した。
そして、大きく息を吸った。
直後。
獣の咆哮を上げながら、大地を蹴っていきなり真っ直ぐに突進して来た。
反射的に、斉角と知多は、横っ飛びに跳躍した。
獅子崎礼央だけが、真上に飛び上がっていた。
空中で、両膝を畳んでいる。
そこに、象岩の巨体が突っ込んで来た。
次の瞬間。
礼央の右脚が、恐ろしい瞬発力を発揮させながら槍のように真っ直ぐに伸びた。
ごっ……!
という鈍い音が鳴り、足の裏が象岩の顔面の真ん中にめり込んでいた。
象岩の顔が、後方に向かって大きくのけぞった。
その勢いで、象岩は後頭部からアスファルトにぶつかり、仰向けの姿勢で倒れた。
直後、礼央は羽毛のように静かに着地した。
「グ……ギギ」
喉から音を出しながら、象岩がむくりと起き上がった。
鼻が潰れ、血が流れている。
白眼を剥いた両眼の周りに、血管が浮き出ていた。
「があっ」
象岩が吠えた。
立ち上がると同時に、両手を広げて礼央に突っ込んでいた。
同時に、礼央の左脚が跳ね上がった。
直後、左足の甲と象岩の側頭部が衝突し、硬い物同士がぶつかる音が鳴った。
凄まじく切れのある左回し蹴りだった。
象岩の身体が横に吹っ飛ぶように倒れ、ごろりと転がり、仰向けになった。
礼央は蹴った左脚が地面に戻ると同時に、今度は右脚を天高く上げた。
次の瞬間、右脚を斧の如く振り下ろした。
右足の踵が、象岩の喉にめり込んだ。
直後、象岩の左手が動き、礼央の右の足首を掴もうとした。
触れる寸前で、礼央は右脚を戻した。
「ごはっ……ひゅ……ギギ」
象岩は口から血を吐き出すと、むくりと再び起き上がろうとした。
間髪入れずに、礼央は連続攻撃を仕掛けた。
膝を側頭部に打つ。
拳で顎先を打つ。
顔面を踏む。
鉤突きで肋骨の側面を打つ。
膝関節を狙って蹴りを入れる。
股間を思い切り蹴り上げる。
正拳突きをみぞおちに入れる。
再び顎先に、肘打ちを食らわす。
8連続の怒涛の攻撃が終わり、象岩の巨体が地面に沈んだ。
だがその直後、象岩はまたむくりと動き出した。
「……」
礼央から不敵な笑みが消えていた。
無表情である。
違和感を感じていた。
おかしい。
この象岩とかいう男、痛みを感じないのだろうか。
痛みを感じないにしても、自分の意思とは無関係に身体を動けなくする程のダメージは与えている。
しかし、まるで効いていないように見える。
いや、効いていないわけではない。
確実に身体は破壊されている。
しかしいくら破壊しても、そこをかばったり気にするような素振りを一切見せずに立ち上がる。
まるで、機械のようだ。
「なんだ? お前」
礼央が低く呟いた。
次の瞬間、象岩が大きな左腕を振って来た。
礼央は両手で象岩の左手首を掴んだ。
掴むと同時に、逆関節を極めながら合気の技で象岩の巨体を投げた。
象岩の身体がくるりとひっくり返り、背中から落ちた。
同時に、ごきりっ、という音が鳴った。
象岩の左の肘関節が、ねじ曲がっていた。
礼央は投げると同時に、象岩の左手首と肘の関節を破壊していた。
左腕を離すと同時に、象岩の右手が伸びて来た。
礼央は真上に跳躍してその右手を避けた。
次の瞬間、落下の勢いを乗せて両足で象岩の顔面を踏みつけた。
ごぎゃっ!
という音が鳴った。
斉角と知多は眼を見開き、ごくりと息を呑んだ。
象岩はこれで死んでしまったのではないかと思った。
だが。
象岩の身体が、びくんと跳ねた。
礼央は横っ飛びに跳躍し、空中で一回転して地面に静かに着地した。
礼央は相手から眼を離さなかった。
「グギギ……ギギ」
象岩は立ち上がった。
直後、破壊された左腕を振り回して突っ込んで来た。
「何かの怪人なのか? てめぇ」
呟くと同時に、礼央は左の拳を握って腰を深く沈めた。
呼吸をし、構えて、右足を踏み込んで真っ直ぐな正拳突きを放った。
礼央の左の正拳と、象岩の胴の中心が衝突した瞬間、一瞬だけ真っ白な閃光が瞬いた。
種も仕掛けも無い、基本の正拳突き。
しかし一撃必殺の威力を持った最強の技。
「ごはっ」
象岩の身体が「く」の字に折れて、後ろに吹き飛んだ。
尻から地面に落ち、何回転かして、うつ伏せの状態で止まった。
それから、象岩は動かなくなった。
しかし礼央はまだ構えを解いていない。
相手を見つめ、一切油断していなかった。
すると。
「お見事」
ふいに、後方から声が聞こえた。
斉角と知多は、びくりと身体を震わせた。
礼央は倒れている象岩に意識を向けつつ、瞬間的に後ろを振り向いた。
そこに、何者かが立っていた。
背丈は170センチほどだろうか。
季節外れな赤いロングコートを着て、底の高い赤いブーツと赤い手袋をしていた。
頭には、赤いシルクハットを被っている。
そして、道化師がにっこりと笑っているような白い仮面を付けて、素顔を隠していた。
「……」
礼央は無言で鋭い眼光を声の主に向けた。
驚愕していた。
象岩を攻撃していたとは言え、声を掛けられるまで全く気配に気付かなかった。
完全に背後を取られていたという事だ。
相当の手練れだ。
何者だろうか。
「なんだてめぇ」
礼央が低く言った。
獣の眼光で、真っ直ぐに敵を見据えている。
「象岩くんの知り合いです。赤帽子、とでもお呼びください」
赤帽子の仮面が、にっこりと笑っている。
その仮面の内側に変声機が付いているのか、機械的で不気味な声だった。
男なのか女なのかも、声だけでは分からない。
「な、て、てめぇが総長を変えたのか!?」
いきなり、知多が怒鳴った。
顔に血管が浮き出ている。
「私はただ、象岩くんに博士を紹介しただけですよ」
赤帽子は両手を広げた。
赤い手袋をした手の平に、何も隠し持っていない事を見せつけているようである。
「博士!?……な、なんだ、博士って」
斉角が言った。
「博士というのはですね、まぁ簡単に言えば偉い学者さんの事ですかね」
赤帽子は肩をすくめながら言った。
ぶちっ、という音が鳴り、斉角と知多の顔に怒筋が浮き上がった。
「てめぇ舐めてんのか! 博士の意味ぐらい分かるわ! その博士はどこのどいつなんだって聞いてんだよ!」
斉角が唾を飛ばしながら怒鳴った。
すると赤帽子は、仮面の口の辺りに指を当てて、くすくすと笑った。
「これは失礼。博士はね、素質のある人間を、悪魔を使って強化させる研究に日々励んでいる方です。縁あって、私はその手助けをしています。象岩くんは、博士の手によって劇的な変化をしたのです」
「……あ、悪魔だと!? ふざけんなてめぇ! 治せよ! 博士だかなんだか知らねぇが、総長を今すぐ治せ!」
斉角の声が震えていた。
眼に涙が浮かんでいた。
「それは私の一存では決まられません。博士と契約を交わしたのはあくまで象岩くん本人なのですから」
「じゃあ今すぐそこに連れて行け馬鹿野郎!」
斉角が身体を震わせながら怒鳴った。
「出来ません。博士の研究所は秘密ですから」
「なんだと!?」
「貴方も悪魔の力を求めるなら、研究所に招待しますが」
「てめぇっ!」
斉角が赤帽子に向かって突進した。
知多も疾り出していた。
2人の男が、赤帽子に触れかかった寸前。
赤帽子が、真上に跳躍した。
その直後、礼央は眼を見開いた。
跳躍した赤帽子は、ふわふわと宙に浮いたまま、自分の足下にいる2人の男を見下ろしていたのである。
斉角と知多は、唖然としてそれを見上げた。
すると赤帽子は、僅かに身体を前傾させると、空中をすっと移動した。
倒れている象岩の近くまで来ると、すとっと降りた。
重力をまるで無視した動きだった。
「獅子崎礼央さん」
象岩のすぐ側で立つ赤帽子が、礼央を真っ直ぐに見つめた。
礼央は猛獣の眼光で赤帽子を見た。
「強化された象岩くんをものともしない。やっぱり凄いですね」
「今のはなんだ? てめぇ、怪人か?」
礼央は赤帽子の会話にあえて乗らなかった。
素直に聞きたい事を聞いた。
「ふふ」
赤帽子は小さく笑うと、両手をだらりと下げて、真っ直ぐに礼央を見つめて言った。
「獅子崎礼央さん。玄米女子高等学校の空手部主将でありながら、趣味は路上での不良狩り。こうして近くで見ると、やはり可憐な方ですね。そしてその危なっかしい獰猛さも気高く美しくすらある。お手合わせをお願いしてもよろしいですか?」
「あん?」
礼央の髪が、ふわりと揺れた。
両眼に、刃物のような危険な光が宿った。
「その眼は、了承したと受け取っていいですね?」
言いながら、赤帽子は、腰を僅かに落として構えた。
右手は軽く自分のみぞおちの辺りに添えられている。
そして左手が前に伸び、掌が上を向いていた。
揃えられた左手の指が、かかって来いと言わんばかりに、くいっと動いた。
その時には、礼央は風のように前に疾り出していた。
一瞬で間合いを詰めると同時に、左脚が跳ね上がった。
電光石火の如く速く強烈な上段左回し蹴りが炸裂した。
直後。
ぱんっ。
という音が鳴った。
赤帽子が前に出していた左の掌で、礼央の蹴りを受けたのである。
ただ受けたのでは無い。
掌と足が接触した瞬間、絶妙な角度に力を加えて、蹴りの威力を殺すと同時に、礼央の体の重心のバランスを崩していた。
礼央は自分の体勢が崩れたのを反射的に悟ったが、焦ってはいなかった。
崩された体勢をそのまま利用して、瞬時に攻撃へと転化していた。
体勢が崩れると同時に、礼央は自ら背中から地面へと倒れ込んだ。
倒れ込む直前で、左手を地面について、片手で倒立の形になった。
片手倒立をしながら、右脚を真下から真上に跳ね上げた。
右の爪先が、赤帽子の下顎に襲い掛かった。
赤帽子は僅かに身体を真後ろに引いた。
白い仮面の1ミリ先を、礼央の爪先が空気を裂いて通過した。
直後、赤帽子の右脚が動いた。
片手倒立をしている礼央の顔面に向かって、サッカーボールを蹴るかのごとく脚を動かしていた。
その蹴りを、礼央は右の掌で受けた。
手首の関節と肘の関節を完璧なタイミングで適正に曲げてクッションにし、逆に敵の蹴りの威力を利用して自らの身体を浮き上がらせた。
礼央は空中で身体をひねり、今度は左脚が赤帽子に襲いかかった。
「凄いですね」
左脚をかわすと同時に、赤帽子が浮ついた声を出した。
礼央の左脚が地面に着地する。
同時に、今度は右脚が槍のように真っ直ぐに赤帽子の身体に向かって跳ねた。
跳ね上がった後、更に驚異的な瞬発力で右脚が超高速で動いた。
上段、中段、下段の、神速の3連続横蹴りである。
あまりに速すぎる蹴りの為、側から見れば礼央の右脚が3本あるように見えた。
赤帽子はその蹴りを全て掌と手の甲で受け流した。
一瞬の隙を突いて、赤帽子の左手が貫手の形になって礼央の顔面に向かって伸びた。
礼央は顔を振って、その鋭い一撃を避けた。
赤帽子の貫手が、礼央の髪の毛を掠めた。
ザクリと、掠めたところの髪の毛が切れて宙に舞った。
その瞬間、礼央は腰を沈めて敵の懐に入っていた。
同時に、左の肘を赤帽子の胴の真ん中に打ち付けていた。
肘が服に当たるタイミングで、赤帽子は真後ろに跳躍した。
赤帽子はふわりと着地した。
礼央はそれを追わなかった。
2人の間に、たっぷり5メートルの間合いが出来ていた。
斉角と知多は、口をぽかんと開けていた。
2人の攻防の速度が速すぎて、よく見えなかったのである。
「いやぁ、流石です。めちゃくちゃ強いですね。獅子崎礼央さん」
赤帽子が嬉しそうな声を出した。
左手で何かをいじっていた。
礼央の茶色い髪の毛が数本、握られていた。
「てめぇもやるじゃねぇか」
獰猛な顔で礼央が答えた。
口元は不敵な笑みになっており、その眼は完全に獲物を狙う肉食獣のものになっている。
てめぇもやる。
そう言ったのは本心だった。
現にこの赤帽子とかいう奴は、こちらの攻撃を全て受け流している。
受けた掌や手の甲などの部分にもダメージが残らない、完璧な受けだった。
最後の肘打ちも、完全に力を逃された。
防御だけじゃない。
攻撃も一流だ。
髪を切り裂いたあの貫手。
まともに食らっていたらと思うと、背中を寒いものが疾り抜ける。
攻守共に優れた相当の手練れだ。
「くく」
ふいに、礼央が笑った。
鼻の横に、縦皺が寄っている。
野性味が、より増した。
強烈な威圧感と熱気が迸り、礼央の髪がゆらりと揺れた。
「怖いですねぇ。いや、本当に怖い。だって、獅子崎さん、あなたまだ、覚醒していないでしょう? それでその強さは、ちょっと異常ですね」
「……あん?」
礼央は眉根を僅かに寄せた。
耳に届いて来た、あるひとつの単語が引っかかった。
覚醒?
「自分から誘っておいてなんですが、今日はもう止めにしませんか」
赤帽子が、右の掌を礼央に向けた。
「止めねぇよ」
声を出したその時には、礼央が前に疾り出していた。
「仕方ないですね」
赤帽子が言った瞬間。
「!?」
礼央は眼を丸く見開いた。
まだ敵との距離は充分にある。
だが、野性の勘が警報を鳴らしていた。
直後。
礼央の髪が、真後ろに勢いよくなびいた。
反射的に、礼央は両腕を顔の前に上げてクロスさせていた。
次の瞬間。
ぶわりっ、と、礼央の身体が浮き上がり、後方に向かって吹き飛んだ。
「っ!?」
なんだ!?
風!?
礼央は最初、突風がいきなり吹いたのかと思った。
だが、次の瞬間にはそれが突風でも強風でも無いという事を理解していた。
初めて味わう感触だった。
それはまるで、空気の塊をぶつけられたとしか表現出来ない感触だった。
しかし礼央は冷静だった。
後方に数メートル吹き飛ばされたものの、着地する時には猫科の獣のように静かに足の裏から着地していた。
「てめぇ……」
礼央は無言で前方を見つめながら考えていた。
今のはなんだ。
超能力か。
マジで怪人なのか。
「何者だコラ」
礼央が言ったその時。
赤帽子が、礼央に向けていた掌を、真横にひらりと動かした。
次の瞬間。
礼央の髪が、左から右方向になびいた。
それと同時に、礼央は反射的に左肘で左側の側頭部を防御し、右の拳で左の脇腹を防御した。
直後。
ぶわっ!
と、音が鳴り、礼央の身体が浮き上がった。
同時に、明らかに物理的な衝撃力を持った見えない空気の塊が、身体の左側面にぶつかってきた。
「くっ!」
食いしばった礼央の口から息が漏れた。
「姐さん!」
思わず、斉角と知多は叫んでいた。
なんだかよく分からないが、今、宙を跳んでいる獅子崎礼央が、なんらかの敵の攻撃を食らっているという事だけは2人とも分かっていた。
真横に数メートル吹っ飛びつつ、礼央は宙で姿勢を正し、足の裏から着地した。
礼央の顔から獰猛な笑みが消えていた。
殺気溢れる鋭い眼光で、ひたすらに敵を睨み付けていた。
赤帽子との距離が、10メートル程にまで開いていた。
「の野郎ォ……」
礼央の身体の中に、溶岩のような灼熱の怒りが込み上げて来ていた。
猛獣のような貌に、怒筋が浮き上がっていた。
自分が未だかつて経験した事の無い攻撃を食らっているのは明らかであり、近付きたくても近付けないのがたまらなく屈辱的だった。
「ふふ。これぐらい離れていれば大丈夫でしょう」
言うと同時に、赤帽子は足元に倒れている象岩の巨体を肩に担ぎ上げた。
「楽しかったですよ。獅子崎礼央さん」
赤帽子の膝が、僅かに曲がった。
「待てコラ! 顔ぐらい見せやがれ」
礼央が前方に疾り出した。
「ふふ。気になるなら鬼木坂奮子さんに聞いてみてください」
「!」
礼央は眼を丸く見開いた。
「ついでに、鬼木坂さんに伝えておいて頂けますか。狂木博士は怪皇會の一員となりました、とね。よろしくお願いします。それでは、また学校で」
「んだと!?」
礼央が疾り出した。
直後、赤帽子は象岩を担ぎながら、遥か上空へと飛び上がった。
数秒で、その姿が見えなくなった。
しばらくの間、その場に残された3人は、無言で夜空を見つめていた。
斉角と知多は、信じられないものを見た、というように唖然としていた。
対して礼央は、眼光の鋭さはそのままに、歯を食いしばっていた。
あの野郎。
鬼木坂奮子に伝えろ?
また学校で、だと?
「くそが!」
礼央の茶髪が、怒りの熱気にいつまでも揺らめいていた。