筋肉第28話 サバンナ①
夜。
繁華街にあるラブホテルから、3人の女子高生が並んで出て来た。
真ん中にいるのは、獅子崎 礼央。
不敵な笑みを浮かべている。
その両隣に、幸せそうな表情をした女子高生がくっついている。
1人は礼央の右腕に身体を密着させ、もう1人は左腕に密着していた。
時刻は、20時30分。
3人は並んで繁華街を歩いた。
他愛も無い話をする。
礼央は聞き役に徹していた。
左右にいる女達が、楽しそうにあれこれ話す。
それを、適当な相槌を挟みながら適当に聞き流す。
頭の中では別の事を考えていた。
自然と頭の中に浮かび上がって来るあいつの姿。
鬼木坂 奮子。
先日受けたあいつの正拳突きは、マジで凄かった。
腹筋を鍛え直さないといけないな。
そんな事を考えていた。
すると。
両隣にいる女達の声が、ぴたりと止んだ。
同時に歩みも止まる。
礼央の意識が、瞬時に前を向く。
前方に、2人の男が立っていた。
1人は、巨漢である。
身長は190センチ近くある。
体格も恵まれており、肉の幅が分厚い。
もう1人は痩身だった。
身長は170センチほどであり、すらっとしていて脚が長い。
2人とも、10代後半か20代前半に見えた。
そして2人とも、顔に怪我をしていた。
目の上が腫れており、いくつもの絆創膏が貼ってあった。
そして2人とも、獣のような鋭い眼光を放っており、一眼で不良だと分かる出立ちをしていた。
獅子崎礼央の両腕にくっついている女子達は、更に力を込めて礼央の腕に抱き着いた。
真ん中の礼央は、楽しそうに笑った。
両眼に凶暴な光が宿っていた。
「お前ら、タクシーで帰りな」
言いながら、礼央は左右の女達を振り解いて、懐から一万円札を2枚取り出して、横の女達に渡した。
不安そうな表情を浮かべて、女達が礼央を見た。
「ちょっと街の掃除して来るからよ」
礼央はそう言うと、両方の手をぷらぷらと振った。
「れ、礼央さん……警察を呼んだ方が……」
右側にいる女が震えながら言うと、礼央は掌をその女の顔に向けた。
「うるせぇ。余計な真似したら怒るぜ。いいから帰れ」
礼央は男達を見ながら、横の女達の頭を撫でた。
女達は、心配そうな瞳で礼央を一瞬だけ見てから、そそくさと走って行った。
「さて。ここじゃ目立つ。あそこに行こうぜ」
言いながら、礼央は顎をしゃくった。
その方向に、建物と建物の隙間があった。
2人の男達は、無言で頷いた。
礼央が建物の影に向かって歩き出すと、2人の男達も無言でそれに付いて行った。