筋肉第18話 百合子、現る
4月の最後の週の月曜日。
1年B組の教室内は騒然としていた。
担任の路利田 撮夫が逮捕されたのである。
電車中で、女子高生のスカートの中を盗撮していたところを現行犯で逮捕されたらしい。
「やっぱさー、なんか怪しいと思ってたんだよねー」
「絶対この学校でも盗撮してたよね」
そんな声が、響いている。
すると、教室の扉ががらりと開いた。
きちんとしたスーツを着こなした、緑髪の痩身の女性が入って来た。
1年B組の、副担任。
健康体操部顧問。
名は、ドリアード・百合子。
「お! 百合子先生やん!」
大きな声を出したのは、弁軽 虎美である。
百合子は教壇の前に立つと、にこりと微笑んではっきりとよく通る声を出した。
「Good morning everyone. みんな。おはよう。ご存知の通り、路利田先生が逮捕されました。つきましては、副担任だった私が、このクラスの担任をする事になりました。みんな、よろしくね」
すると、感嘆の声と共に、教室内から拍手が上がった。
百合子は生徒達から人気のある英語教師だった。
年齢は27歳。
少しウェーブのかかったセミロングの髪は、目に優しい緑色をしていた。
いつも清潔感のあるスーツを着こなし、生徒達の相談にも女性ならではの視点から的確に助言が出来る。
ハーフならではの日本人離れした整った顔立ちも、人気に拍車を掛けていた。
更に、百合子の立ち上げた健康体操部も人気の部活だった。
運動内容は、ヨガやストレッチ、エアロビクスなどである。
試合や大会で勝つ事よりも、健康的に楽しく身体を動かす事が目的の為、運動が苦手な生徒でも気兼ねなく仲間に入る事が出来る部だった。
「幸運な事に、あの変態……路利田は、学校では盗撮行為はしていなかったようです。なのでみんなが知らぬ間に盗撮され、それをネットに流されるとかそういう事はあり得ません。そこに関しては、安心してください」
これに関しては、事実だった。
警察は路利田の自宅を家宅捜査した結果、様々な場所での盗撮写真が山ほど出て来た。
だが。
どういうわけか、この玄米女子高等学校で撮られた写真は、一枚も無かったのである。
この事について路利田自身も、玄女では一切盗撮していない、と供述している。
「何人かの生徒達から、路利田先生の視線がいやらしいとか、そのような言葉を何回か聞いた事がありました。もっと早く、行動を移せば良かったと反省しています。そうすれば、貴女達に不快な想いをさせずに済んだかも知れない」
百合子は真面目な表情で語った。
「何はともあれ、あの変態がいなくなって私も安心しました。これからは私が、貴女達の笑顔を守ります」
にこりと、百合子は微笑んだ。
「ありがとう百合子先生! ウチらの事、守ってな! 期待しとるで!」
冗談混じりに、弁軽虎美が声を出した。
教師内は穏やかな笑いに包まれた。
「ええ。任せて」
百合子は澄んだ緑色の瞳を細めて笑った。
そして、心の中で呟いた。
ええ。
任せて。
あの変態がいなくなってくれて、本当に良かった。
あの変態が、貴女達を見る眼、本当に危なかったわ。
何か事件が起きる前に、あの変態が消えてくれて良かった。
可愛い可愛い貴女達に、あの変態の魔手が届いていたらと思うとぞっとする。
本当に、穢されなくて良かった。
貴女達の事は、私が守るわ。
可愛い可愛い、貴女達は。
そして私は、一年以内に、貴女たち全員と。
肉体関係を結ぶのよ。
うふふ。
「なんや百合子先生、なに笑てんの?」
弁軽虎美の明るい声が、教室内に響いた。




