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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第八章 桃源の人々
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8-14 救世主職ナターシャ2

 首をっ斬られた男の胴体が倒れ込んでいく。金属ワイヤーによって繋がれている所為で、首から上は空中に残ったままだ。あまり嬉しい死に様とは言い難い。


「多少、傷つけましたが、救世主職の首を確保する緊箍きんこを守りました。緊箍さえなければ広範囲攻撃でもっと手早く終わっていましたが。そういったかせがありながら勝ってしまいました。貴方はやはり、妖怪ごときに敗北した凡庸な救世主職未満の救世主職でしかありませんでしたね」


 ナターシャは機械のような体で溜息をつく挙動を見せる。淡い期待を裏切られた者のような温度が息に混じっていた。

 仮面の救世主職を倒した。が、ナターシャに設定された命令オーダーはまだ残っている。侵入者は全滅させなければならない。


「御影君が、死んだ……嘘……っ?! 御影君がこんな簡単に、嘘よ!」


 如意棒を使う徒人ただびとは心そこにあらずの状態だ。残念ながら瞬殺するしかない。

 となれば、工場内部にいる侵入者の排除が課題となる。

 特機二機が破壊されてしまった事実をナターシャは既に感知していた。所詮は太乙真人たいいつしんじんが趣味で造った玩具、ナターシャの記憶領域に存在する機械世界エキュメノポリスの殺人機械を模倣しようとしただけの人形であるため、敗北したとしても驚きはない。ただ、ブタ妖怪のパラメーターが存外高いようだ。仮面の救世主職よりも手(ごわ)いかもしれない。


「せめて苦しまないようにしてあげましょう」


 こう動かない徒人に爪を伸ばすナターシャであるが……、自機へと近づく飛翔体を察知した。念のために一歩下がる。



「円盤形状、乾坤圏けんこんけんと判断。首を断たれる前に投じていましたか」



 最後の悪足掻(あが)きで投げられていたと思しき宝貝、乾坤圏だ。自動追尾は持ち主が死しても機能するようで、最後に設定した目標に向かって飛んでいる。

 命中すれば深手を負うだろう。ただし、命中すればの話だ。

 乾坤圏は元々、ナターシャの装備である。初速以上に加速しないという性質、側面からの打撃に弱いという欠点を理解している。命中はありえない。

 いや、そもそも命中しない。

 死に際だったために投げ損じたのだろう。乾坤圏の刃はナターシャに向かわない軌道で落ちていく。着弾地点は、仮面の救世主職の首を固定している付近。

 より正確には、仮面が張り付いている顔をぎ取る軌道で――。



「――深淵よ――」



 ――斜めに斬られた顔がズレ落ちた。顔が落ちれば仮面も落ちる。死人の生首を損壊させる悪行に忌避感を覚えるが、今はそんな事に構っていられない。

 生首が、喋っている。


「――深淵が私を覗き込む時、私もまた深淵を覗き込んでいるのだ。……って、やっぱり痛てぇなッ。仮面を剥がす頭痛よりもマシだから仕方がないとはいえ、痛い!」

「喋った?? どうやって発音を……いえ、そんな事はどうでも。顔の穴に異常空間?? 観測レーザー光が一切戻って来ない?!」





 無理やり仮面を剥ぎ取って人間から逸脱した。

 首を斬られて無事、とまではいかないが前例があるので耐えられる。人間みたいに首を斬られただけで死ねる存在ではなくなる。良いか悪いかは別にして。

 とりあえず、頭をワイヤーに固定されていると首が凝る。体を遠隔で動かし、金属ワイヤーを刺突ナイフで切って頭を確保する。頭を通じているワイヤーを額から抜く感覚は何とも言えないものの、顔に穴が空いている時点で今更だろう。


「仮面の救世主職。アナタは人間、ではないのですか??」

「その言葉、そのまま返す。ぶった斬られた体の断面から配線が見えているぞ、お前。機械の体なのか、それ?」

「人間を見本に作られた私の方がまだ人間らしいです。アナタは明らかに怪奇現象寄りではないですか! 少しは美容洗顔に気をつかってはどうですか!」


 斬られた首を乗っけて接着しながら恐竜骨格に肉薄する。首を斬ってくれた爪を根本から斬り落とした。


「攻撃方法に変化なし、見掛け倒し!!」

「そう言うなって。もうすぐ浮かんでくる」


 仮面を外したからと言ってパラメーター的な恩恵がある訳ではなく、手数で圧される状況に変化はない。俺一人だけならば、という意味のない状況設定だが。

 位置移動するべく足を動かそうとする逆関節の足。

 その足が地面に伸びる俺の影を不注意に踏んだ。瞬間、現れた無数の手に掴まれて拘束させられる。恐竜骨格は大きく姿勢を崩した。


「人間の手!? 物理センサーに感なし、異常現象!!」

「どれだけここで殺したんだ。呼ぶまでもなく村人の悪霊が大量だ」


 鯉が住む池にパンくずを投げて、無数の口に水面が埋め尽くされる光景を見た事があるだろうか。あれも異様な光景ではあるが、今目前の光景はもう少しオカルト。口ではなく無数の村人の手が工場屋上を埋める勢いで現れている。俺の影も手によってどんどん拡大されており、穴が広がれば手が益々増えていく。


「妖術による幻覚ではない。実際に千を超える死霊を貴方一人で召喚しているというのですか!」

「召喚はしていない。穴が開いたから、勝手に現れているだけだ」


 舟幽霊ならば柄杓を求めるだけであるが、体をマシーンに潰された村人の悪霊は失った肉体の補填を求める。

 村人の握力では取り外せない金属の足でも、数でむらがって少しずつ、少しずつむしり取っていく。ただ、肉ではなく金属のためすぐに放り捨てられる。満足なんてできずにまた毟りにいくのでまったく数は減りそうにない。

 NATAだった女は未来銃を足元に向けてぶっ放して抵抗を試みたものの、最初に足を掴まれた時点で手遅れだった。


殺戮機械ターミネーター骨格フレームを緊急パージ!」


 それでも脱出を図った女は袈裟切りにされたような体部分のみを上空に飛ばす。


「逃がすか」


 『暗影』で瞬間移動できる俺の方が速い。

 先回りした俺は女のうなじを掴んで運ぶ。そのまま建物の壁面にぶつけた後、ナイフで背中を突き刺して固定した。




 真の姿の差が決め手となった。負傷というか半壊している女と、顔に穴が開いた男。差は歴然としており勝ったところで誇れはしない。

 村人の悪霊を堆積させていた時点で敵の自滅とも言えるだろう。千を超え万近い悪霊が一度に現れれば、普通の敵は呪殺される。


「……あ、クゥを忘れていた」


 その万の悪霊がひしめく屋上にクゥを置いてけぼりにしてしまった。肉片一つ残っていないかもしれない。悲しい犠牲になってしまった。



「御影君のお化け。死なないのならそう言ってよ。心配したじゃない」

「あれ、クゥが無事だ。何で??」



 クゥの周辺だけ悪霊の腕がえていない。影が彼女の足元を嫌がるみたいに避けていた。

 どうしてお前等、襲っていないの? こう視線を悪霊に向けると全員が揃って無理無理と手を振っていた。何だその反応。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[良い点] さっきまで肉を剥ぎ取ってた悪霊が手を振ってくれるの良い
[一言] クゥはなんだろうなぁ 太陽の娘じゃろか
[気になる点] 凹凸がない位ツルツルだから美容洗顔的には奇麗な範疇かな [一言] 科学に真っ向からケンカ売るスタイル
感想一覧
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