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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第八章 桃源の人々
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8-11 真偽不問の行動

 並べられた徒人ただびとの人質は、どこぞの壁村より首途しゅとされた者達か。工場からは既に村人全員が逃げ出したものと思われていたが、こうして並べられているという事は居残っていた者もいたという事になる。


「心優しいブタ君は、どうするんだ?」


 天井裏に隠れたまま特機、金吒きんたはユウタロウを挑発する。

 人質は女二人と子供一人の三人組。全員が背後より、量産型の宝貝パオペイ人形に腕を拘束されながらひざをついている。自力で逃げるのはまず不可能だ。

 ユウタロウは不愉快そうに人質をにらんだ。


「助けてください!」


 冷たさ、いや、憎悪さえ覚えるユウタロウの視線を受けても人質は黙りはしない。命がかかっているのだ。黙る訳にはいかない。萎縮・・している暇などないのだろうが――。


「助けてください。お願いです。私達を、どうか」


 まない救助の呼び声に、ユウタロウは鼻から深く息を吐いた。


「頼られているんだ。さっさと武器を捨てな。さもなければ人質が――」

「――さもなくば、腕でも折るのか?」

「そうだ。腕を折ってから、そのまま引き千切りでもするか」


 妖怪に製造された宝貝人形は妖怪と同じくらいに無慈悲である。徒人を拷問するくらい造作もなく、今すぐにユウタロウが武器を捨てなければ有言実行するだろう。



「腕を折って引き千切るか。妖怪は……手緩てぬるいなッ」



 ユウタロウは愛用の槍を未練なく投げ捨てた。

 投げ捨てるというよりはまるで投擲するようであったが、それも人質をおもんぱかったからの力投だった。

 ただ、力み過ぎたのだろうか。

 飛ばされた槍は人質だった者の頭部へと着弾してしまっている。槍を頭に受けた徒人が無事でいられるはずは当然なく、首から上を粉砕された人形のごとくだ。


「な、ブタ野郎……何を?? 徒人を助けに現れたはずだろ」

目障めざわりだ。全部、燃えきろ」


 この場にいる全員、隠れている金吒さえも注目した槍から炎が吹き出し、宝貝人形ごと人質を燃焼地獄に突き落とす。命は瞬時に燃えて灰となっていく。

 ユウタロウの手により、人質は全滅した。


「誰が人間族なんぞを助けると言った。俺は俺の目的のためだけに動いている。俺の邪魔をする奴は妖怪だろうと人間族だろうと始末するだけだ」

「救世主職の一味がそんな行動を取るはずが!? 計算がッ、合わない!」

「俺は魔族だ。魔族の中でも低級な、いやしいオーク族だ。妖怪には思いつきもしない方法で人間族の尊厳を踏みにじる最下層の種族をどう見積もっていたかは知らんが、救世主職の一味だと? 勘違いもはなはだしい」


 人間とて予想外の事態には狼狽ろうばいする。

 人間程度の思考回路が搭載されている金吒も、前提条件の破綻によって再計算を強いられて体を制止させてしまう。

 背中からも赤い炎を吹く悪鬼を目前に、致命傷だ。



「お前も邪魔だ」



 天井へと跳んだユウタロウは腕を突き入れ、潜んでいた金吒を手探りで探し出す。細い金属製の体を掴み出した。


「図に乗るな、ブタ野郎ッ!!」


 姿をさらした金吒はドリルでユウタロウの顔をえぐりにくる。


「目的があるというのに、これまでが遠回りだった。オークからの乖離かいり躊躇ちゅうちょし過ぎていたのか。……『八斎戒』宣言。以後の人生、俺は歌と装飾を禁戒とする。この禁戒をもって、俺はより高次の存在へといたらん」


==========

豚面ぶたつらの混世魔王 偽名、封豨ほうき。または、ユウタロウ(?)

==========

“ステータス詳細

 ●力:264(2^三戒) → 528(2^四戒)

 ●守:168(2^三戒) → 336(2^四戒)

 ●速:152(2^三戒) → 304(2^四戒)

 ●魔:130/144(2^三戒) → 310/324(2^四戒)

 ●運:0”

==========

“『八斎戒』、俗世の身を律して神格へといたらしめるスキル。


 八斎戒のいずれかを永続的に守ると宣言するたび、全パラメーターに対し、2の宣言数の乗の補正を行う。

 八斎戒すべてを宣言した場合には神格へとクラスチェンジする”


”《追記》

 現在の宣言数は四戒。不得坐高広大床戒、不飲酒戒、不得過日中食戒、不得歌舞作楽塗身香油戒”

==========


 ドリルはユウタロウの頬を浅く裂きながらも停止する。突然、倍化したユウタロウの『力』に回転機構を握り潰されたからである。


「この、この!」

「よく喋る不愉快な人形だ。内部から燃やしてもまだ喋るか?」

「や、やめッ?!」


 紙袋を破るように金吒の装甲を引き剥がす。背中から噴出させた炎に指向性を持たせて、装甲の破損個所より金吒の機体内部へと炎を注ぎ込む。

 奇襲攻撃特化の特機だ。掴み取られた時点で性能を活かす機会は失われて死に体だった。

 内側より精密機器を燃やされた今は、ただの屑鉄と変わらない。




 ユウタロウは特機、金吒を圧倒した。ダメージも最後にドリルが掠めた頬の切り傷くらいなものだ。


「最低っ」


 その頬の傷を狙ったのかは分からないが、女の細い手がユウタロウの頬をはたく。

 ユウタロウはノーガードだった。ガードする必要性がなかったからである。むしろ、叩いた側の女が手を押さえて痛がっている。


「ユウタロウ君は例外だと信じていたのにッ、徒人を見捨てたなんて!」

「ふん。小娘ごときが俺の何を信じてたと?」

「信じていたのに!」


 クゥの黄金の目に涙がにじんでいる。

 ……ふと、蒸発音がした。近場で焼けた岩に水でも落ちたのだろう。


「ユウタロウって概念は妖怪とは違うって信じたかったのにッ」


 音の発生源を探して目を離した間に、クゥの瞳は何故か渇いていた。


「姉妹や両親を殺した妖怪と同じだったなんて私……絶対に許せない」


 旅の仲間同士だというのに、一触即発の雰囲気だ。

 クゥは強く睨んでいる。ユウタロウは腕組みしながらもクゥの動作を一切見逃していない。ナイフで斬りかかる寸前のプレッシャーが二人の間に蓄積されていく。

 殺し合えば結果は明白だろう。けれども、本気の殺気を向けるクゥに対して手心を加える程にユウタロウは生易しくない。そもそもそんな男であれば、クゥにこれほど敵視される事態にならなかった。

 クゥが如意棒に『魔』を込めた。

 ユウタロウは応戦するべく腕組みを解いて――、



「――ぐふぇっ」



 ――空中戦で惨敗した御影が天井を割り、ついでに二人の間に割り込んできたため、殺し合いは始まる前に中断される。





「無敵バリアなんて装備しやがって。どうやって倒せってんだ」

「御影君っ、どいて。そこのユウタロウを殺せない!」

「小娘ごときが、どうやって? いや、俺を笑い死にさせたいのか?」

「おいおい、どうした、二人共。敵と戦闘中に喧嘩し始めて」


 特機、NATAのエリアルコンボからどうにか脱出した俺の生存を喜んでくれるべき状況で、何故か仲間二人が険悪なモードである。


「クゥ、ユウタロウに謝れよ」

「私が悪いの前提なの?! そこの妖怪が人質の徒人を見捨てて殺したのに」

「ユウタロウが人質を殺した? 馬鹿を言うなって、ユウタロウがそんな事をするはずないだろ。なぁ、ユウタロウ」

「お前は俺を根拠なく信じるな。そこの小娘の言い分を信じて、俺にかかってこい」


 クゥが指差した方角を目撃する。炎に包まれながらも人の形を保った何かが転がっているのは分かる。

 人間の死体のようだ。肉の焼ける嫌な臭いがただよっている。どう弁護しても虐殺現場なのは確かだが――。



「――うーん、あれ、本物か?」



 いや、正確に言おう。あそこのアレは、本物の死体を使っているだけじゃないか。

 例えば、人間の肉を部品にした宝貝人形だったのではないか。クゥがだまされるくらいのクオリティだったに違いない。

 仮面をはずしていないので正確な事は言えないのだが。ただ、ユウタロウをうらんでいる悪霊の気配はない。


「ユウタロウ。人間ではないと分かっていたから破壊したんだろ。だったら、そうクゥに教えてやれよ」

「……ふん。俺の行動はどうあれ変わらなかった。偽物と判別できたか否かなど、気にしてどうするというんだ」


==========

“『人類萎縮権』、復讐するべき人類に恐怖を植え付け萎縮させるスキル。


 相手が人のたぐいの場合、攻撃で与えられる苦痛と恐怖が二倍に補正される。

 また、攻撃しなくとも、人の類はスキル保持者を知覚しただけで言い知れぬ感覚に怯えてすくみ、パラメーター全体が二割減の補正を受ける”

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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