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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第八章 桃源の人々
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8-10 三者三戦

 空中を落下しながらハンドガンを構えて、トリガーを引く。戦闘機相手に銃を撃つようなものであり、牽制けんせいにもなっていない。ただの脅しだ。

 付き合いよく機首を上げて急速回避する宝貝パオペイ人形。『速』の高さを見せつけてくれる。ハンドガンの弾は廃熱をかすめる事さえできなかった。

 頭上を通り過ぎていった敵機の影は俺の背後に回り込んできた。目で追いきれていないが、死角より接近している。戦闘機の癖に近接戦闘がお望みか。


『過去二度の戦闘結果を対策。対象は遠距離攻撃に何らかの対処法を有すると仮定。近接装備、右翼宝貝『斬妖剣』、左翼宝貝『砍妖刀かんようとう』を展開。直接攻撃にて首を斬り落とす行動を推奨』


 首筋に嫌な気配だ。人形の癖して殺気を出しているな。

 足場のない空では逃げ場がない。海の中に投じられたえさが体をくねらせて抵抗したところで無意味でしかなく、むしろ、魚を呼び寄せる結果にしかならないといった所だろう。


「かかったッ。『グレイブ・ストライク』!」


 わざわざ敵に有利な空中に投げ出されているのである。俺自身を餌に罠を仕掛けさせてもらおうか。高速飛行体の『速』は脅威であるが、その『速』が攻撃力へと変換されてお前を破壊する。

 桃源ピーチベースで回復しているので『魔』は十分だ。千キロ分の墓石を予想進路上にちりばめる。


==========

▼御影

==========

“ステータス詳細

 ●魔:118/122 → 108/122”

==========

“『グレイブ・ストライク』、墓場に存在する物品を呼び寄せて投擲するばち当たりスキル。


 消費する『魔』は重量に依存し、約百キロで1消費する”

==========


 飛行機とて野鳥と衝突しただけでも墜落する。空を飛ぶ事はそれだけ繊細だ。

 相対的に考えれば、墓石がマッハで飛んできたのと同じである。墓石でもダメージは入る。


==========

▼特機、NATA

==========

“ステータス詳細

 ●力:193 ●守:458 ●速:931

 ●魔:64/64

 ●運:0”

==========


「『暗影』発動! どうだっ」


 ここぞとばかりに温存しておいた『暗影』で俺自身は逃げておく。八メートル高度を下げた場所にて、罠の成果を確認した。

 いくつかの墓石の塊が高速飛行体に直撃するコースだった。いやらしく配置しておいた小石が吸気口エアインテークらしき穴に入っていってくれそうでもあった。



『――振動防御スクリーン、識別名、宝貝『混天綾こんてんりょう』を展開』



 墓石との衝突寸前、高速飛行体を守るようにオレンジ色の何かが広がる。かくばった多面体であり、薄いガラスを連想させる。

 オレンジ色の接触面に触れた墓石が砂となってはじけたので、ただのガラスであるはずがなかったが。


「何だ、そのバリア?!」

「――予測範疇。想定範囲。過去二戦ですべてのデータを回収し終えたと仮定」

「しゃ、喋った!」

「通達する。火尖鎗、乾坤圏けんこんけんを喪失したものの、現在の当機は完全武装フルアーマー太乙真人たいいつしんじんにより改造されし当機のスペックは標準の救世主職のそれを遥かに超越。……遺憾ながら」


 初めて人語を発した高速飛行体は身をひるがえして、再び突撃してくる。


「当機はコードネーム、NATA。残念ですが、救世主職。貴方では当機の撃墜は不可能です」

「言葉を使ったと思えば、言いたい事はそれだけかッ!」

「当機を機能停止に追い込みたければ人智を超える事を推奨。されど、当機を超えた程度では、それでは真人に――」





 重機のごとき巨腕が伸びた。

 頭上からの打ち落としを、紅孩児こうがいじは片手で受け止める。

 もう一方から迫る片腕も、残る片手でまた受け止める。衝撃が伝わった先にある足底が滑り、床がバターケーキのごとくめくり上がった。


「ほう、妖怪にしては『力』パラメーターが高いようだ」

「人形ごときが、めんな!」


 馬鹿力で巨腕を固定した紅孩児は、片足で重装甲の宝貝人形を蹴り上げる。軽く見積もっても数トンはある人形の体が一メートルは浮き上がった。


「これは、なかなか。脅威度を一段上げるとしよう!」


 巨腕が変形する。かいなの部分より太極図が描かれた車輪がせり出すと、高速回転と共に燃焼を開始する。


「宝具『風火腕』。規定回数まで回転数上昇中。我等が敵を圧殺せん」


 車輪部分より莫大なエネルギーを噴射させて力に対して力で対抗して見せる特機、木吒もくた。正面戦闘に重きを置いた思想により設計された宝貝人形は、力自慢の紅孩児さえも圧倒する。

 紅孩児の体が下がっていく。

 腕が下がっていき、彼女の顔に苦悶が生じた。


「どうした。この程度か?」

「指が抜けねえ、人形野郎が生意気な、くゥッ」

「特機に肉体で挑むなど無謀だったな。惑わす事しかできない妖術で挑んだとしても結果は変わらんが」


 拮抗は早々に崩れた。

 背中からもエネルギー噴射させた木吒に押された紅孩児は壁に押し込まれていく。





「クク、お仲間の危機だぜ。ブタ野郎? まあ、助けに行きたくとも行けねえだろうが」


 特機、金吒きんたと相対していたのはユウタロウである。

 ユウタロウの実力はこれまでの旅路で証明されている。在野のら妖怪は当然のこと、上級妖怪とも対等以上に渡り合える実力を有する。御影も絶対の信頼――根拠なし、精神異常――を置く男だ。

 そんなユウタロウが動けずにいる。


「仲間だと。俺に仲間などいるものか」

「ひでぇ奴だぜ。そらっ!」


 喋っている最中に、地下移動した金吒がドリルで床を破り、ユウタロウを足元より狙ってくる。

 ユウタロウは寸前のところで体をらして回避する。同時に槍を振って反撃を試みたものの、金吒は天井を貫通してもう姿を消してしまっている。一手遅い。

 一撃離脱戦法の思想を元に生み出された特機、金吒。姑息こそくに死角からばかり攻撃してくるが、ユウタロウはうまく対応している。逆に言うと回避に集中していなければならず、動けていない。


「クク、次こそはその土手っ腹に大穴開けてやるぜ」

「ふん、隠れながら言われてもな」


 金吒の挑発に乗る事なく、ユウタロウは静止を続けている。

 一方的な展開となっているが……言葉であざけりながらも金吒の頭脳中枢はユウタロウの実力を冷静に分析していた。


『――敵性妖怪の技量は高し。脅威度を修正。戦法の変更を推奨』


 ユウタロウを含めた襲撃者共は、行動より徒人ただびと救出のために動いていると判断される。

 弱点をわざわざ知らしめる敵などの攻略法ほど単純なものはない。



「助けてくださいッ!!」



 ゆえに、遠くから誰かがユウタロウを呼ぶ。

 金吒が他の宝貝人形に連絡を取ったのだろう。人形に拘束された、明らかに人質らしき女子供の徒人がユウタロウに助けを求めている。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[一言] フルアーマーNATAをはじめ、どの特機も高パラメーターの強敵そうですね どのような戦いになるのか楽しみです そう言えば特機の中でNATAだけローマ字なのは気になりますね 出自などに関わって…
感想一覧
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