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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第八章 桃源の人々
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8-9 特機

 長い通路を抜けた先は、人間加工工場でした。

 食人妖怪の街なので、あってしかるべき施設ではある。これまで立ち寄った街の中にもそれらしい場所があったのは確認している。

 だが、この街ほどにシステム化された加工場は初見だ。肉質で等級を分けて、最低品質のものは問答無用でミンチにする。一見、白く清潔な工場の内壁には、ヘドロよりも酷い死臭がこびりついている。工場の地下は、練られた後の肉の調理施設で埋まっているのだろう。

 ミキサー部屋に入る前から、頭の中から正確過ぎるリズムで発生する水没音に正気度を削られそうだった。

 クゥはミキサー部屋に入ってから半狂乱だ。


「フザけた施設だ。壊すぞッ。クゥ、ユウタロウ!」

「このぉおおッ」

「ふん、人間族がどう扱われようが魔族の俺は何も感じんな。……が、殺し方がなっていない。何も、なっていないな」


 床下のミキサーは最低な形をした人間の棺桶である。多少なりとも形を整えてやるため、『グレイブ・ストライク』で召喚した墓石を投じて損傷させておく。

 クゥは巨大化させた如意棒で壁を破壊だ。ある程度、破壊が進むと床の自動移動が停止する。

 ユウタロウは入口まで戻って槍を横一閃。俺達の後に続いていた村人達を威圧して前のフロアに逃がしている。


「ここを見て太乙真人たいいつしんじんの異常性が少しは分かっただろ。ただ喰うだけでなく、味にもこだわってみやこに出荷していやがる。最近は、他の州から徒人ただびとを輸入しているって話だ」

「ここまで仕出かす太乙真人は、人間にうらみでもあるのか?!」

「個人的な恨みはねぇだろう。ただ、効率化できたからそうしただけ、と言いそうなジジィだ」


 破壊活動を止めるため、隠し扉から警備用の宝貝パオペイ人形が現れる。

 真っ先に現れた一体の頭部を紅孩児こうがいじは片手で掴んで握り潰した。量産機械ごときに防御は必要なしと、電撃警棒のようなものを振るう人形の攻撃を完全に無視している。

 工場の破壊に専念し続けたいところである。が、太乙真人を発見、打倒するという最重要目的を忘れてはならない。

 のんびりと寄り道をしていると……量産品の人形ごときではない、もっと強力な敵が現れても文句は言えないのだ。



「――燃焼音? 何か上から来るぞ!」



 俺が警告して数秒、天井がまるで液体のように震えて波紋が広がり、砂と化して崩れ落ちていく。

 無理やり開かれた直通路を通じてVTOL機のごとき流線形が、挨拶もなしに両翼の下に吊るされる二門の機関砲を始動させる。


「高速飛行体ッ、またお前か! 今度は何をしに……って、黄昏世界にガトリング銃かよッ、各自、とにかく身を守れ!!」


 射撃が開始される。俺達に向けて、だと思われるがあまり気にされていない。面制圧を可能とする秒百発を超える弾丸の群れが工場内部にバラまかれた。

 時おり見える光る射線は曳光弾だ。実際の弾数はもっと多い。

 連続する射撃音が重なり合って何も聞こえない空白と化す。長く感じたが、実時間は二十秒にも満たない。

 全弾を撃ちくしたためだろう。高速飛行体の翼に懸架されていた機関砲は用済みとなり、パージ。床への落下音がハチの巣と化した工場の奥まで響く。



「――特機NATA。あまり壊すな。出荷に影響が出ている」



 ……いや、工場内に響いたのは落下音だけではない。聞いた事のない誰かの声が聞こえる。

 敵地で聞いた事のない声ならば、十中八九、敵の声だ。


「ククク、良いじゃねえか。スクラップビルド。スクラップビルドってか? また作り直せば良いだけの事だ」

「特機金吒(きんた)あおるな」

「特機木吒(もくた)は思考回路が凝り固まっているぜ。ククク」


 砲撃の激音に気配をき消されていた所為で気付かなかったが、いつの間にか敵の数が増えていた。

 一機は重装甲を通すために天井の穴を拡張し、一機は地面をドリルで突き破って。まったく似ていない三機が横に並ぶ。



「……おい、特機NATA。照準狂ってんじゃねえか? 侵入者、まだ生きているぞ」



 激しい砲撃の余韻たる煙によって、敵も俺達の姿を見失っていたのだろう。

 無事ではないが生きている姿を視認して少し驚いている様子だ。


「い、生きているな。紅孩児」

「たく、痛てぇ。そっちこそ、生きているようだな。御影」

「なんで、私は生きているの??」


 クゥを守って俺と紅孩児の二人は立ちふさがった。俺は刺突ナイフで弾をはじき、紅孩児は高い『守』で防いだようだ。もう少し、弾を集中されて撃たれていれば危なかった。

 離れた場所にいたユウタロウは残念ながら助からなかったか。しい親友を失った。


「勝手に殺すな」


 血だるま……いや、ユウタロウは片腕を穴だらけにされながらも生きていたようだ。生きているのであれば『奇跡の樹液』で回復できる。

 小瓶ごとユウタロウに投げ渡すと、中身を乱暴に傷口に振りかけた。傷口で少々の蒸気が発生したが、すぐに消えて無傷の腕が現れる。


「主様の力か。いつまでも付きまとうものだ」

「まだ戦えるだろうな。というか、戦ってもらうぞ。敵は丁度、俺達と同じ三体。俺は真ん中の高速飛行体を担当する。紅孩児は右の重装甲。ユウタロウは左のドリル。初期担当はそれで、後は状況に合わせて臨機応変に対応するぞ」

「……あれ、もしかしなくても私、はぶかれちゃっている?」


 マネキン似の宝貝人形とはデザインセンスが明らかに異なるが、現れた敵三体も宝貝人形。


「侵入者。太乙真人様のご命令により我等、特機がお前達を排除する」


 特別な宝貝人形だ。

 主に喋っているのは重装甲の人形であり、俺が対峙している高速飛行体は無口を貫いている。ただし、最も凶暴で無口のまま俺へと突撃してくる。


「相変わらず、速い!」


 ラムアタックに貫かれるのを避けつつも、翼に手をかけて一緒に飛んでいく。工場の壁を何枚か突き破って、もう外だ。コンビナートのパイプを避けるために高速飛行体は上昇を開始した。

 小さくなった工場の中で他二体が動き出したように見えたが、残った仲間達でどうにかしてもらうしかない。


「仲間の心配をする前に、まずはお前だ」


 刺突ナイフで翼を刺す直前、空中に放り出されてしまう。


『――特機一、コードネームNATA。ターゲットの単独化に成功。これより雪辱戦を開始する』

「お前との戦いも三度目だ。お互い、そろそろ飽きただろ」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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