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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第八章 桃源の人々
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8-8 工場地帯

 街に降り立った俺達は、注意しながらも迅速に筋斗雲きんとうんの内部から跳び出した。

 卵型の岩ドームの内部空間は金属だらけの工場地帯になっている。明らかに技術レベルが黄昏世界の水準を超えてしまっている。張り巡らされたパイプに、有害物質が含まれていそうな黒煙を吐く煙突。コンビナートのごとくだというのに、異質に紛れ込んだ太極図や呪符が地球との差を見せつけてくる。

 そんな工場地帯で何を製造しているかというと――、



「――工場の中から村人が出てき……うぉっ」



 ――村人の服を着たマネキンが、工場のシャッターを上げて出現した。目も鼻も口もないのっぺらぼうが不気味に首を傾げている。


「び、びっくりさせるなよ」

「御影君がそれを言うのは納得できないのだけど、私」

「クゥ。よく見てみろ。俺には口があるだろ?」

「馬鹿言っていないで武器を構えろ。アレが宝貝パオペイ人形だ!」


 紅孩児こうがいじの警告に従い、つたを編んで作ったホルスターよりハンドガンを抜くと、即発砲した。マネキンのひたいに風穴が開く。


「お、ブランクはあっても腕は落ちていない」

「ちょっと、耳が痛いっ」

「なんだそりゃ?! 宝貝か」


 アイサから供給を受けたハンドガンの初披露。その結果はクゥの非難だった。火薬の炸裂音に耳を押さえている。

 撃った宝貝人形は仰向けに倒れていき、動かなくなった。銃弾で倒せるのであれば大した相手ではない。


「弱いな」

「そう思うのならば、後続もお前がやれ」


 倒れた人形の頭を踏みつけて、村人服の宝貝人形が更に現れる。列を成しているため数は不明。


「クゥさん、ユウタロウさん。出番ですよ」

「その音の大きい武器は飾り?」

「マガジンに制限があるんだよ。温存したいから二人で制圧してくれないか」


 鼻から深く息を吐きながらも、ユウタロウは突撃していった。独特形状の槍を振るい、一度に数体をまとめて倒していく。クゥは伸ばした如意棒を使ってサポートだ。


「紅孩児。いきなり発見されていないか?」

「発見されていながらこの程度。クソが、太乙真人のジジイ、遊んでいやがる!」


 曲がり角の向こう側より、大きな盾を装備した宝貝人形が登場する。

 真っ先に動いた紅孩児が盾を一切気にせず殴りかかる。かわらでも割るみたいに盾をつらぬき、そのまま人形の頭を掴んで投げ飛ばす。ボーリングのピンのように増援を吹き飛ばしていた。


==========

紅孩児こうがいじ

==========

“●レベル300”


“ステータス詳細

 ●力:821 ●守:411 ●速:357

 ●魔:1028/1033

 ●運:0”


“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●妖怪固有スキル『擬態(怪)』

 ●実績達成スキル『神性血統』

 ●実績達成スキル『天才』

 ●実績達成スキル『三昧真火習得』”


“職業詳細

 ●妖怪(初心者)”

==========


 相変わらずのフィジカルお化けっぷりだ。桃源ピーチベースの妖怪は腕力寄りなのだろうか。


「どっちに進むんだ、紅孩児っ!」

「人探しの術が通じねぇ。専用の宝貝も用意したんだが、ききやしねぇ」

「分かった。プランBでいこう。プランBは?」

「プランB? ぶっ壊すのBか?」


 なるほど、既にプラン崩壊中ね。

 筋斗雲で飛んでいる途中に見えた大きな建物の内のどれかが居城だったのだろうが、どれが当たりか分からない。こういう時は自分の『運』を信じて棒倒しで決め……いや、黄昏世界で方向を決めるならクゥの方がいつも確実だった。


「クゥ! どの方向だと思う」

「え、私なの?! えぇっと、人形が出てきている建物の方かも」


 村人服の宝貝人形が現れた工場施設の方向か。区画はかなり入り組んでいる。工場の中を進む方が外の通路を進むよりも近道かもしれない。


「この工場の中だ。全員走れ!」


 俺と紅孩児を先頭に、まだあふれ出ている人形共の住処へとえて押し入る。ハンドガンもしみなく使い、手が届く範囲にいる人形は突き刺し武器にて破壊する。


「それ、俺のつのじゃねぇかッ! 愛用してんじゃねぇ!!」

「道を開いた。クゥ、来い。ユウタロウは殿しんがりをよろしく」


 工場内部にクゥを誘導して、最後にユウタロウを呼び込む。

 ユウタロウは建物内部に駆け込みながら、背中から炎を吹いて入口を燃やす。多少の時間稼ぎにはなるだろう。

 工場と呼んでいるが、内部は白く清潔感がある。その割にはどことなくび臭い。

 ――それはきっと、定期的に聞こえる水の音の所為なのだろう。




『――ようこそ、徒人ただびとの皆様。長旅ご足労様でした。ここは人生最上の安らぎを与える空間にございます。安心してくつろいでいただくため、まずは汚れた服をお脱ぎください』


 区画を移動して扉を破壊して、ようやく宝貝人形の出現は停止した。

 いや、この区画にも宝貝人形は存在するのだが攻撃してこない。役割が違うらしい。近付いてきて服を引っ張ってくる程度の事しかしてこない。


『お脱ぎください。お脱ぎください』

「ふん、邪魔だ」


 しつこい宝貝人形をユウタロウが叩いて故障させている。




『――ようこそ、徒人の皆様。ここは人生最上の安らぎを与える空間にございます。長旅で汚れた体をお湯でお清めください』


 区画を更に移動すると、蒸気の熱が充満していた。

 通路ごとに透明な壁で仕切られている構造。天井からは絶えずシャワーが流されている。

 この区画には俺達以外にも人間がいた。今日、州内にある壁村から集められた村人だろう。出口は前にしかないため、戸惑いながらも裸となって自発的に通路を歩き、シャワーを浴びている。


『お清めください。お清めください』

「……ここはっ! ちぃ、工場・・だ。襲撃を気にせず稼働していやがるのか。先を急げ」


 シャワーをそそくさと通過した俺達は、次の区画へと移動する。




『――ようこそ、徒人の皆様。ここは人生最上の安らぎを与える空間にございます。ここでは様々な製品をご用意しております。ご要望は多岐に渡り、胃袋を満たす肉製品、体を着飾る革製品、健康寿命を延ばす薬品、等々、様々な未来を提供しております。汉堡肉饼ハンバーグはお好きですか? それとも、牛排ステーキがお好きですか? 残念ながらソイはございませんが、その他はすべて手に入ります』


 次の区画でも人間は並んでいた。

 一枚の布地に頭を通す穴を開けただけの簡易な服に着替えた人間達。健康診断みたいに一人ずつ医者のごとき風体の宝貝人形によって診察を受けている。


『貴方は少しお疲れのようで、体がせております。丙へとお進みください』

『貴方はとても健康ですね。顔の形も整っておいでです。甲へとお進みください』


 診断された後には自動で動く通路が存在するらしい。

 敵陣で診察の順番を守っている訳にはいかないので、列に割り込んで先を急ぐ。


『貴方のお顔はどこに? 丙へとお進みください』

「うるさいッ」


 ユウタロウは肉量が良いと言われて乙、クゥと紅孩児は甲を勧められていたが、全員で丙のルートより、次の区画へと突入する。




『――ようこそ、徒人の皆様。ここは人生最上の安らぎを与える空間にございます。ここに到達できた皆様の人生は低質ながらも最上でございました』


 丙ルートの先にある区画は、急に暗くなっている。

 先を進んでいる人間の姿もよく見えない。見えていた人間が急に消えてしまってよく見えない。

 見えない代わりに、ギャッ、や、ぐちゃッ、や、ゴリッ、という異音が時々聞こえてしまう。



『――最上でございました。製品の原材料たる皆様は、妖怪の暮らしを支える素晴らしい最後を迎えられて、最上でございました』



 前にいた人間の姿が、突如、き消える。

 動く通路に開いた穴に落ちてしまったからだろう。

 そして、あっという間に穴の中に存在するミキサーに掻き混ぜられて、とっても美味しい太乙印のミンチ肉の出来上が――。



「――人間を自動加工する工場なんて作りやがってッ。ふざけるなッ!!」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[良い点] 邪悪な…仙人! [気になる点] あ、科学姫【大豆】ってそういう…(風評被害) [一言] いいえ。私は遠慮しておきます。
感想一覧
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