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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第八章 桃源の人々
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8-2 桃源到着

 外がすべて刃になっている円形――チャクラムというのだったか――が飛んできて、近場の雲に刺さる。敵へと投げつけたというのに健気に戻ってきたようだ。

 どうにも投げにくい形であっても望んでいた投擲武器には違いない。とりあえず『暗器』で格納しておいた。


「アイツは完全に撤退したようだな」


 高速飛行で遠ざかった敵影が完全に見えなくなるのを待って、俺は黄金雲の内側へと戻っていく。

 敵がいなくなった事を女妖怪に報告しておくか。


「おい、敵はどうした!」

「追い返したぞ」

「ちょっと顔を出した程度の時間で冗談言ってんじゃねぇ。というか、今はともかく、大昔はマジもんの仙人だった太乙真人たいいつしんじんの人形を追い返せたとか、笑えねぇ!」


 一切、信じてくれなかった。

 カップラーメンの麺もまだ固いような短時間で戦いが終わったのは確かであるが、それなりに命の危険はあった。冗談と思われるのはあんまりである。


「……ちょっと待てよ。追撃が消えていやがるぞ??」

「だから、追い返したと」

「マジだったのかよっ!」


 見返してきた女妖怪は、俺の肩に腕をからめながらバシバシ叩いてくる。

 何がツボに入ったのか。馬鹿みたいな笑い方を密着しながら続けている。


「ぎゃははっ、こいつは痛快だ! あのいけ好かないじじいの人形を追い返したとか、お前やるじゃねえか。ぎゃははっ!」

「痛てぇ、痛てぇって」

「いけ好かない仮面野郎と思っていれば、なんでぇ、意外といい顔かもしれねぇな。上級妖怪と渡り合える奴なら大歓迎だ。少数の村人を助け出すのが限界だった桃源ピーチベースが、もっと大きく動けるぜ」




 雲は高度を下げていき、地面に着陸する。ようやく目的地に到着したようだ。

 小さくなった雲より強制排出された俺達がまず目撃したのは……青い空に緑の木々である。見慣れてしまった赤褐色が比較にならない程に、風景色がゆたかだ。

 清涼な風が心地良い。

 肌の水分が失われていく熱風ではない。

 どことなく匂いが甘いのは、木々にみのる果実が理由だろう。

 ふと、違和感を覚えて上空を見上げた。空の太陽は相変わらず巨大なままであるが、フィルターを通したかのように落ち着いた色合い。赤さはやわらぎ、俺が知っている太陽の色に近い。

 すべてが焼かれて風化し切った黄昏世界ではありえない、生きた自然がここにはある。


「なに、ここ?? 夜よりも寒くて、何か臭いし」


 貴重な自然に対して、クゥはややネガティブなとらえ方をする。悪環境に適応し過ぎた人間にとって避暑地は環境が整い過ぎているようだ。


「慣れていねえ徒人ただびとは最初、だいたいそういう反応をする。仮面野郎は違うようだが、どこの州の街に住んでいた妖怪だ?」

「だから、俺は人間だと言っただろうに。黄昏世界出身ではないから少し特殊かもしれないが」

「……気になる事を言いやがる。いいぜ、ゆっくり話を聞いてやる。自己紹介もな」


 連れられていた村人達とはここでお別れだ。この場所での暮らし方やルールを教えた後、それぞれの家を割り当てるとの事である。

 周囲を見渡せば、集落のように家が各所に点在している。既に村人が住んでいる家もあるようだが、二十人の新規移住者を受け入れるだけの余裕があるようだ。

 女妖怪は俺達パーティーを案内して、集落から少し離れた高台にある屋敷へと連れていく。

 屋敷の外観は六角形になっており特徴的だ。玄関扉はなく開きっぱなし。扉があったとしても機嫌の良い酔っ払いのごとく豪快に帰宅する女妖怪が破壊してしまいそうなので、意味がなさそうではある。


「おー、おめえ等。帰ったぞーっ!」

「姉御の無事の帰還だ!」

「い、いや、つのが一本なくなってないか!?」


 屋内は壁がなく広々としている割に雑然とした雰囲気だ。

 収穫された野菜と果物の山などは家庭的と言えるかもしれないが、ソロバンで計算に勤しんでいる様子は塾や商店のようであり、農耕器具と武具を一緒に壁に立てかけている整頓不備は由緒ある部室のごとくだ。

 働いている者達は女妖怪の帰還を喜び、仕事を止めて集まった。妖怪は姿が目立つので数が多いように見える。ただ、人数を正確に測れば人間の方が多いかもしれない。


「心配すんなって。角は一本なくしちまったが、その代わりになる助っ人を連れ帰った。会議にすっから、文化と白娘子、それと債鬼は東屋あずまやに来いよ」




 桃源ピーチベースの主要メンバーが集められたのだろう。

 五、六メートルはある大男の妖怪に、髪も肌も目も白い女性、ソロバンを持ったまま現れた猫背の男。女妖怪も含めた四人が各々の大きさの椅子に座している。

 互いを信用する第一歩は挨拶だ。

 異世界人だろうと社会人だろうとそこに違いはないので、まず、俺達から素性を明かす。



「俺の事は御影と呼んでくれ。異世界の地球からの遭難者であり異世界人、と言っても分かりにくいか。黄昏世界の妖怪からは救世主職と呼ばれている。が、実はもう救世主職ではない事をまず告げておこう」



 ……あれ、掴みが悪かったのか、桃源側の席が静まり返ったぞ。


「あ、姉御ぉ……」

「村人を救出に行っていたのではないの?」

「俺も今聞いた。そりゃつえぇわな……」

「いや、前に姉御が持ち帰った紙束の中に手配書があったはず。仮面の救世主職とブタ妖怪、その他の三人組と書いてあったぞ」


 ソロバンを持った男が紙束の中から一枚抜き取って、テーブルに置く。

 文字は読めないものの、筆で書かれたにしては妙に写実的な俺の顔に、同じくらいに鮮明に描かれたユウタロウのブタづら、そしていたわずかなスペースに無理やり書かれた棒人間が記事になっていた。あら、そっくり。


「どこがそっくりよっ、私はこれなの!」

「あ、姉御ぉよ……」

「そういえば、クズ親父が救世主職が現れたって言っていたような」

「全国に通達されているお尋ね者を桃源にまねいちゃって良かったの?」

「ふん、妖怪め。俺が救世主職の親友と間違った情報を広めおって」


 手配書は一枚だけではなく、俺だけが書かれたものや、俺と棒人間が書かれたものもある。古い手配書の方は仮面がベネチアンマスクではなくなっており空想で書かれているものの、笑えはしない。手配書の更新頻度より、俺に対する妖怪共の注目度がうかがえてしまう。



「ええぃ。ごちゃごちゃと、うっせっ! 桃源も、もう隠れて行動できる規模じゃねえんだ。御母みおも様の律令に背いて徒人をかくまっている時点で俺達も救世主職も同じようなもんだろうが」



 女妖怪がメンバーを一喝して黙らせた。

 咳払いした後、女妖怪は俺達に名前を明かす。



「俺は桃源の頭目をやっている紅孩児こうがいじだ。桃源は救世主職を歓迎するぜ」



 紅孩児と名前が判明した女妖怪。女性名らしくなさそうな、という気がした瞬間に「最新流行ファッションだ!」と言葉をかぶせてくる。


「歓迎してくれるのはありがたいが、その前に桃源がどういった場所なのか教えてくれないか?」


 人間と妖怪が一緒に生活する特異空間。酷暑より解放された理想郷。



「桃源は、人食に反対する妖怪と徒人の集まりだ。官吏にしてみれば、不良妖怪と脱走した徒人の違法集団になる」



 畜産動物に成り下がった人間と、人間を喰って当然と考える妖怪。両種族はヒエラルヒーで分断されており決して相容あいいれないものと思っていた。が、妖怪の中にも異議を唱える者達がいたのである。


「まあ、避暑地を作り出す宝貝パオペイに徒人を匿うようになったのは最近だがな。それまでは個人個人が苦労しながら少数の徒人を助けていたに過ぎなかった。例えば、長人族の文化だ」

文化カルチャーと、い、言って欲しいな」

「見た目通りの大喰らいだが、腹の中に徒人を飲み込んで逃がしていたのだから、大した奴だろ」


 紅孩児に褒められた大男の妖怪、文化が体を丸めて照れている。外見に反するシャイな妖怪らしい。


「こっちの白娘子はくじょうしは徒人と婚姻して、密かに生活していた」

「結局、官吏に見つかって夫を殺されて今は未亡人になるわ」


 白い女性が会釈する。

 人食は黄昏世界における政策であり、食べる動物との恋愛など生理的な悪寒を誘発する。白娘子が多くの妖怪からどういう目で見られていたかは想像する事しかできない。

 気付かないフリをしたが、白娘子の右袖が不自然にしぼんでいた。


「最後に債鬼だが、こいつは徒人だからな。金勘定が上手いからあだ名でそう呼んでいるだけだ」

「俺は代々、匿われていただけの徒人の末裔ってだけになる。タレコミで家族も匿っていた妖怪も皆捕まって、俺一人が流れ流れて今は違法集団の経理ってな」


 徒人が重要メンバーとして選出され会議に出席している。その事実からも桃源の理念の好ましさが分かるというものだ。計算ができるという事は、教育を受けていたという証拠にもなるだろう。


御母みおも様の悲痛より三千年。暴政に移行して五百年。決定的に破綻して五十年か。今更、どうこうしようと動く妖怪が少ないのは確かではある。だがな、それでも、妖怪にもいるんだよ。今の世の中が間違っているって動く奴がよ」


 桃源は人間にとっては好ましい集団なのだろう。妖怪にとってはどうしようもない連中となるが、妖怪の立場など知った事ではない。

 問題は、好ましいだけでは過酷な黄昏世界で枯れ果てるのみという現実だ。


「マイノリティ集団を支えられるだけの戦力はあるのか?」

「正直言ってきびしいな。元々、勝算があった訳じゃねえ。天竺スカイ・バンブーも返事がなく頼りにならねぇとなるとジリ貧覚悟だったんだがな……丁度良い具合に戦力になりそうな奴が目の前に現れた」


 紅孩児を含む桃源メンバーの視線が俺の仮面に集中する。

 左右にいるクゥとユウタロウに「どうする」と目で問うが「どうと言われても妖怪はどうにも」「勝手にしろ」と実に参考になる意見を得られた。


「協力できればしたい。ただ、俺達も仲間を妖怪に奪われている。仲間を取り戻すのに協力してくれるのなら、という条件を飲めるのなら用心棒をしよう」

「その仲間を奪った妖怪の名前は?」

「名前は分からない。仲間の体を何らかの方法で奪った。たぶん、女だ。みやこに来いとさそってもいたぞ」

「……都に住む女妖怪で体を奪うとなれば『灰と骨』白骨夫人か。上級妖怪の中でも難敵だが嫌いな女だ。いいぜ、協力してやるよ」


 紅孩児は単身でも強く、何よりも妖怪側の情報に詳しい。協力するだけのメリットは十分にある。

 俺達は桃源への参加を決定した。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[気になる点] NATOってあれもとからロボットなんだな死体改造してロボットにしたと思ってた [一言] 12人の救世主ってそれぞれの世界を救ったアベンジャーズ的パーティーが負けたのかと思うと絶望感があ…
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