7-13 『擬態(怪)』の解説
「徒人と妖怪の三人組だと? 俺等以外にそんな異端がいるとは思えねぇが」
「いや、俺達は全員人間のパーティーだぞ」
「堂々と嘘をつくな」
「おい、ユウタロウの顔がいかつい所為で誤解されるんだ」
「妖怪二、徒人一の割合だって言ってんだよッ」
誤解を解きたいものの、互いに疑心暗鬼になっている。どうすれば信じる事ができるだろうか。
「……まずは妖怪が徒人に『擬態(怪)』で化けている可能性を潰させろ。『擬態』対策は知っているか?」
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“『擬態(怪)』、怪しげなる存在が有するスキル。
他人の油断を誘う怪しげなる擬態スキル。
姿形を真似する程度であれば、どの妖怪にも可能。スキル発動中は『鑑定』や『読心』といったスキルでの看破が難しくなる。
正体を見破る必要があるという点では『正体不明』に類似しており、より高性能と言えなくもない”
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「いや、毎回、騙されている。都合の良い判断方法なんてあるのか??」
「ちぃ、仕方ねぇな。教えてやる」
渋々といった感じに角の生え際を掻きつつ、女妖怪は『擬態(怪)』の弱点を明かす。
「『擬態(怪)』はスキル使用中、嘘をつき続ける必要がある。嘘を継続できなくなった瞬間にスキルは強制解除だ。嘘を見破られた場合にそうなる事が多いが、実は嘘をワザワザ見破る必要はねぇ。妖怪でも知らねぇ奴が案外多いがな」
そう言った女妖怪はクゥに対して妙な質問をする。
「お前。『擬態(怪)』を使用しているな、と訊かれたら、はい、と答えるか?」
「え? 普通に、いいえ、だけど」
「……こんな感じに質問した場合、『擬態(怪)』を使っている妖怪は馬鹿正直にスキルを使っていると明かす。つまり、そこの女は徒人確定だ」
……この女妖怪、地球であれば改造バイクで夜な夜な走っていそうなイメージを受けるのに、かなり賢いぞ。
妖怪が人間に化けている場合、単純に質問しても嘘をつかれるだけだ。例えば「お前は人間か?」と訊ねたところで「はい」と嘘の回答が戻ってくる。
けれども、「擬態しているな、という質問の答えは、はい、か?」と捻って訊ねた場合には状況は異なる。
本物の人間ならクゥのように怪訝な顔となって「いいえ」と答える。
だが、人間に擬態中の妖怪は違う。「擬態しているな」という問いのみであれば、嘘をついて「いいえ」と答えるだけだが、「――という質問の答えは、はい、か?」という後半の答えである「いいえ」についても嘘をつかねばならないため、「はい」と答えるしかなくなる。
「妖怪にも学がある奴がいたものだ。ちょっとした難関校の入試問題相当だぞ」
まるで難関校に入学できる学生なら妖怪の擬態に対処できるみたいな言い方になってしまった。自分で言っておいてなんだが、妖怪って入試問題相当なのか。
「ほう。そういう弱点が妖怪共にあるのか」
「えっ! んん? え?? 御影君も、ユウタロウ君も、内容が分かる!?」
「ちょっと難しいが、似た感じの問題が〇成教育委員会で放送されていたな。あれ、本作って何時代??」
「懇切丁寧に説明されたのだ。分からない方がおかしい」
「嘘ぉっ。まさか、ユウタロウ君までなんて、そんなッ!」
クゥだけが分かっていないようで、脳内で設問を反芻して理解しようと試みている様子だ。頭から蒸気を吹かしているのでエウレカには遠い。
それにしても、思いかけず妖怪のスキルの詳細が知れた。
これは……ふむ、掴み取ったかのような感覚がある。ラーニングできたかもしれない。
「……次、いいか?」
「おお、すまない、待たせた。どうぞ」
待っていてくれた女妖怪が、話を再開する。
「初級スキルの『擬態(怪)』のみならこの程度で破れるが、Aランクスキルの『斉東野語』を使って妖怪を妖怪だと信じさせていない場合は、どうにもならねぇ」
「ちょっと、その『斉東野語』って奴も詳しく」
「この場合、擬態させた奴に呪いか爆薬を詰め込んで殺害対象へと接近させる、という使い方がありきたりだ。……やっぱり、怪しいからお前等、殺すか?」
黄昏世界はどこぞの世界の紛争地域みたいで物騒だな。
だが、案ずる事はない。『斉東野語』とやらはよく分からないが、『擬態(怪)』については理解した。
『擬態(怪)』の重ねかけは行えない。仮に俺が妖怪で、今現在、人間に擬態しているのであれば『擬態(怪)』はもう使えない。
逆説的に、今『擬態(怪)』を使えば、俺は人間だと証明できる。
「『既知スキル習得』発動。対象は妖怪職の『擬態(怪)』。そこの女妖怪に擬態する」
視界が下がった。身長が下がったのだ。
驚いた顔をしている女妖怪と同じくらいの高さだろう。
「お前……やっぱり妖怪じゃねーか!」
「いや、スキルを使っただけであって、妖怪じゃないぞ」
声帯も変化しており女妖怪の声が響く。耳から入ってくる声とやや異なり違和感があるのは、録音した自分の声が変に聞こえるのと同じ理由だからか。
「ともかく、これで俺達の潔白は証明できた」
「いいやっ! 俺は最初からてめぇを人間だと思っていない。今、『擬態(怪)』を使っても意味がねぇ」
「『擬態(怪)』を今使っているのなら、これまでの話で嘘はついていない事になるだろうが」
「スキルばかり注目させて、言葉だけで騙す手法もあるんだよ、馬鹿め」
「後出しの揚げ足取りばかりしやがって。それを言うなら、お前等の潔白証明を先にしてみせろよ」
唾がばっちい距離まで近づいて難癖をつける女妖怪。擬態した俺も同じ顔付きとなってガンつける。
「徒人が『擬態(怪)』を使ったり、俺の角を折ったりするかよ!」
「人間を舐めるな。大学生が魔王を討伐する奇跡だって世界が違えば起こりえる。一つの世界しか知らないお前が井の中の蛙ってだけだ」
「カエルだぁ?! お前……月の関係者か??」
「月の関係者? いや別に」
「違うのかよ!」
その後、同じ顔をした俺達の結論の出ない不毛な言い争いは一時間続く。
俺の『擬態(怪)』が時間切れで解除されたのを切っ掛けに、女妖怪はようやく折れた。
「あークソ面倒めっ。こいつ等、アジトに連れ帰るぞ!」
「い、いいんですか、姉御?」
「仕方ねぇだろうが。結局、最後は直観で決めるしかねぇんだよ。それ以上に疲れた。俺以上に疲れている村人をいつまでもここに置いておくのも酷だろうが」
女妖怪が空に向けて指を鳴らす。と、赤い天空より飛んで現れたのは黄金の雲である。
地上十センチの高さで浮遊する奇妙な雲は、最初は単車ほどの大きさであったが、ブクブクと膨れ上がっていく。テニスコート以上に大きくなった。
「全員さっさと乗り込みやがれ。宝貝『筋斗雲』でアジト、桃源に連れていってやる。ブッとばすからしっかり掴まれよ!」




