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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第七章 東への旅
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7-8 不良娘

 ラベンダーがほどこしてくれた対策は効果を発揮した。あれから二日経過しているが妖怪の襲撃は収まっている。

 前回の襲撃で妖怪にも相当の被害が出たため、という可能性もあるが、そんなに可愛げのある奴等でもないだろう。他を出し抜こうと動く妖怪も現れないのであれば、俺達を見失ったと判断できる。


「うっぷッ」

「また、ゴーレム酔いか、クゥ」

「き、気にしないで。御影君に揺られるよりマシだから……うッ」


==========

“『乗り物酔い(強制)』、他人に運ばれるのが不得意な者のスキル。


 スキル所持者が他力によって運ばれる最中、ステータス異常『乗り物酔い』状態となり、行動に支障が出る”

==========


 ラベンダーが作ってくれたゴーレムに揺られて昼夜問わず移動を続けて、そろそろ県をまたぐ。クゥが臨界するたび小休止しなければ、今頃は越境できていたはずであるが。

 へりの外に頭を出しているクゥの背中をさする。

 グロッキーなクゥは会話不能な状態となり、代わりにユウタロウに話しかける。


「地図によると、大河の跡地が県境なのだろ?」

「向こうに見えているのがそれだ」


 一度、西に向かってから東に戻っているので、経度的にはクゥと出会った壁村よりもまだ西に位置する。緯度は南に寄っており、大陸の中央に向かいつつある。


「妖怪のみやことやらは、どこにあると思う?」

「さあな。地図に建物のような絵が描かれている場所が最有力だが、まだ百日はかかる」


 百日という予測も、妖怪の街で入手した手書きの地図の信憑性次第だ。が、今のところ書いている内容に矛盾はなさそうだ。先はまだ長い。

 ただ、都が遠隔地にあるとした場合、少し疑問を覚える。あの金角銀角は都からやってきた訳ではなく、偶然近場にいたのだろうか。


「飛行できる妖怪も徒歩で現れた妖怪も、ほぼ同時に襲撃してきた。妖怪共は何らかの長距離移動手段を有しているとみて間違いない」

「俺達も欲しいな。その移動手段とやらが……ん、止まった??」


 ふと、一定速度で移動を続けていたゴーレムが、ゆっくりと足を止める。眠るように顔を下げて再び動こうとする様子を見せない。

 保有する『魔』をすべて使い果たしてガス欠になったのだろう。楽な移動もここまで。これからは地道な歩きだ。

 新しい県はまっすぐに横切るのであれば七日前後という予測になる。まあ、どうせろくでもない妖怪と遭遇して寄り道する事になるので期待はしていない。


「歩くぞ、クゥ」

「よしきた。徒人ただびとは歩いてなんぼ」

「暑い中歩く方が元気だよな、クゥ」





 ――火焔州、州官長私宅


 仕事を終えた――終えられたとは言っていない――牛魔王は久しぶりに自らの領地たる火焔州に帰還を果たし、その足でまっすぐに自宅に戻っていた。およそ、一か月ぶりの我が家である。

 妖怪筆頭とも言われる牛魔王の姿は、三メートル近い大男である。

 側頭部より突き出した牛のつのは鋭利。太腕は山さえも持ち上げる程に剛力。

 実力は妖怪の中では最上位であり、扶桑樹さえも単身で抑え込めるとされる。実際、戦慣れしているのだろう。顔には歴戦を物語る傷が多く残る。

 そして、その性格は質実剛健。不撓ふとう不屈。

 『(SUN)』と酒で現実を忘れて日々を過ごす妖怪が多い中、実直に州を統治している。牛魔王の州は他と比べれば妖怪も徒人も多く豊かだ。だからこそ、馬鹿真面目で味気ない妖怪として知れ渡っているのだが。



「うわぁーん。帰ったぞぉ、ママ。会いたかったよぅ」

「お帰りなさいませ、パパ」



 帰宅した瞬間に、甘々に表情を柔和させた男のどこが質実剛健で、どこが不撓不屈で、どこが馬鹿真面目で味気ないのか。


「お風呂にする? お食事にする? そ、れ、と、も、私ぃ?」

「ママ……と言いたいところだけど、仕事が終わらないから、またすぐに職場に戻らないと駄目なんだよー」

「あらあら、働き者のパパ。とっても可哀相だから、なでなで」

「うわーん、ママ」


 玄関で出迎えた奥方も負けず劣らず激甘な対応だ。似た者夫婦である。新婚一か月であればこの甘味具合もまだ諦観できるだろう。が、かれこれ五千年近く、飽きる事なく甘い夫婦生活を続けているのだから鴛鴦おしどりとて胸やけする夫婦仲だ。

 太陽に焼かれる外とは別の理由で熱々な牛魔王の私宅。ただし、どこぞより極寒の冷気がただよってくるのはどうしてか。

 体を曲げて角をでられている大男の位置からは見えない通路の端で、冷めきった目付きの女が立っている。


「ほらー、コウちゃんもパパにお帰りを言わないと」

「む? コウも家にいたのか」

「コウコウ呼ぶな。俺を紅孩児こうがいじと呼べと言っただろうが、クソ両親共」


 妖魔の革で作られたチューブトップとホットパンツという、ラフというか黄昏世界の観念より離れた格好の女が、両親にイラついていた。

 父親はともかく母親と比較しても背が低いものの、女の側頭部よりは角が伸びている。牛魔王の血縁であるのは間違いない。


「どうして男のような名前で呼ばせようとするのだ。汚い言葉遣いもめなさいと言っただろ」

「うるせぇ。話しかけるな、クソ親父」

「そのかぶいた服装は都の流行か? はしたないと言ったはずだぞ、コウ」

「家に帰ってくるなり口うるせぇ事ばかり言いやがって。クソ面倒。こんな家にいられるかよ」


 乱暴に角の生え際をかいた女は、玄関に背を向けた。裏口から出て行くつもりらしい。


「コウっ、待ちなさい。気に入らない事があればパパとママに相談しなさいと」

「黙れ。図体でかいだけのバカ親父に言う事はねぇよ」

「どこに行くんだ。せめてどこに出かけるのかをママに伝えてから」

「うっせぇ」


 女は裏口のそばに止めておいた金色の雲にまたがると、無駄に爆音を吹かして遠くの空へと飛んで行った。





 新しい州に侵入してから順調に三日が経過したその日、荒野に妖怪の列を発見する。まだ向こうには気付かれていないらしく、体をせて気配を消しつつ様子をうかがう。


「俺達を探している妖怪か?」

「……村人を連れているから、たぶん違う。妖怪は徴税官で、村人は首途しゅとされている最中なんだと思う」


 粗末な荷車に乗せられた村人達の表情は暗い。クゥの言う通り、壁村から徴税されたばかりの人間が運ばれているのだろう。

 何もせず見過ごせば、人間達の未来はない。明日の今頃は妖怪の腹の中という人間もいるだろう。助けるなら今しかない。

 ただし、助けるために動けば妖怪に俺達の存在を知られてしまう。


「御影君。助けないの?」

「いや、妖怪に再発見されるのは織り込み済みだ。幸い、黒八卦炉の宝玉は使用可能になっているから、追跡を逃れる手段はある。助けよう」


 パーティー内で同意――ユウタロウは自動同意判定――が取れたので、妖怪集団を不意打ちするべく移動を開始する。

 風化した荒野は見晴らしが良過ぎる。そこそこの距離を取って並走し、襲撃し易そうな土地が現れるのを待つ。

 そして、ようやく岩場地帯が現れた。妖怪の列がすべて岩場に入ったら一気に接近。村人を救出しながら妖怪を殲滅するという作戦だ。

 ……そのつもりだったのだが、思わぬ方向に事態が動く。



「野郎共! 徴税官がノコノコ現れた。全部、奪っちまうぜ!!」

「いいぜ、姉御!」

「今日も狩っちまうぜ」

「おうよッ、続けぇ!」



 岩場の影から現れた集団が、徴税官の列に奇襲をしかけたのだ。

 奇襲をしかけた集団はおそらく在野のら妖怪だ。顔を隠している奴もいるが、真っ先に徴税官へと襲い掛かった女の側頭部には角が生えている。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[一言] 子供可哀想 てか5000年もこんな状態なら子供何100人ぐらいいそう。
[一言] 牛魔王の意外なキャラクターに笑いました 娘がグレるのも仕方ないですね
感想一覧
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