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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第六章 西への旅
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6-1 村娘と娘(偽)の自己紹介

「娘の心配を他所よそに、パパが無事で安心した。……むしろ、娘がいなくて羽を広げられたのなら、合流を急ぐ必要がなかったくらいだ」

「黒曜、勘違いしてくれるな。こちらの現地民クゥとは純然たるパーティーメンバーであり、それ以上の関係性はないぞ」


 混世魔王の討伐を果たし、もろもろの事後処理を終えるまで一日経過している。

 最低限の復興――は結局無理との判断で、生き残った村人は他の壁村へ移住となる――を果たした壁村に別れを告げて、現在位置は妖怪の街だ。街とは名ばかりの廃墟になっていたのだが、比較的屋根が残っている建物を選んで今日のキャンプ地にしている。

 妖怪の死体目当てで妖魔が集まるかもしれないので、あまり気は抜けない。だからといって、今の黒曜みたいに神経過敏である必要はない。

 少なくとも、パーティーメンバーの職業村娘にきびしい目線を向けるべきではないだろう。


「私、御影君の事をちょっと見損なっちゃった。どんな美人さんの弱みを握って所帯を持ったの?」

「クゥ。俺も黒曜がどういう感じに義理の娘なのかよく分かっていないが、血縁ではない。だから黒曜の顔を見て、山賊よろしくどこかの美人をさらって娘を産ませたなんていう最悪の妄想はめるんだ。たとえそうだとして、俺のDNAを半分混ぜた時点で黒曜のような二千年に一人の美人は生まれない。背が俺よりも高いんだぞ、ちくしょう」


 黒曜は特殊な生い立ちをしている森の種族、いわゆるエルフだ。義母の影響で闇属性が追加されてダークなエルフに育っているが、種族的なAPPの高さは変わらない。いや、エルフの中でさえ美貌の面では上位に食い込む。

 腰は細く、手足は長く、目は大きく鋭い。美人は三日で飽きると言われるものの、俺は今なお深紫の瞳を見て「ひえっ、美人」とか思っていたりする。

 同じ職業だったり、名前を考えたりした結果、酷くなつかれて義理の娘を主張するような不思議ちゃ……ミステリアスなエルフになってしまったが、戦闘面では俺以上に頼れる娘なのである。


「ふん、そこのエルフの素性に興味はない。娘だろうと娘をかたる不審者だろうとどうでもいい。価値ある話がなければ、俺は外に出る」

「素性不明の妖怪が言う事か!」

「ユウタロウって概念が一番理解に苦しむのだけど」


 黒曜とクゥの二人に不審がられるユウタロウは、不機嫌に鼻を鳴らしながら外へと出て行く。おニューの槍――槍?――を見せびらかしたかっただろうに、不人気な男だ。

 まあ、黒曜とユウタロウはウィズ・アニッシュ・ワールドで対面しているので自己紹介は不要。

 まずは、初対面となる女性二人の挨拶を済ませよう。


「えーと、この村娘にしか見えない、真実村娘な子はクゥ。俺が黒曜と離れ離れになった後に、何故か一緒に旅をする事になった」

「よ、よろしく。御影君の娘さん」

「……ちぃっ」


 初対面の相手に対して舌打ちするのが黒曜スタイルだ。俺も初対面の頃はそうだったので、クゥが特別嫌われている訳ではない。


「また情婦を作りやがって」

「人聞きの悪い事を言うな、黒曜!?」

「壁村ごとに結婚もしていない相手と関係なんて! 不潔ッ、無責任ッ、絶倫ッ」


 黒曜め、クゥが俺にミミズの臓物を見るような目線を向けるようになったぞ。


「ごほん、この顔の良さと口の悪さを足して二で割ると丁度良いエルフ耳が黒曜だ。クゥの壁村に辿たどり着く前に、混世魔王の襲撃で離れる事になったパーティーメンバー。さあ、黒曜、クゥに挨拶をしろ。俺が世話になった相手だぞ」

「……パパの面倒は俺が見るから、ただの村娘は家に帰れ」

「あっ? 何、この女。ちょっと美人だからって田舎娘に喧嘩を売っている? ア?」


 撃鉄が打ち鳴る金属音がクゥより響く。俺でさえまだビビる美人たる黒曜に真正面より噛み付くなんて、流石は妖怪に立ち向かう徒人ただびとだけの事はある。


「村娘ごときが、やんのか?」

「ア? その綺麗な顔、ミミズの肝でズブズブにするわよ」

「妖怪に飼われている人類は言う事と味覚が違うな。やってみろよ」

「やってやんわよッ、コラぁ!」


 どうにも二人の相性は悪いらしい。黒曜が安売りした喧嘩をクゥは即金で購入。黒曜に向かってクゥが跳びついた。

 ブチっという千切れた音の源はクゥの血管か、今日の夕食予定か。

 キャットファイトに人間の男が割り込むのは無粋ぶすいだろう。最悪、ユウタロウを投入するとして、今は大人しく部屋の隅へと退避する。




「――ぜェー、ぜェー」

「――うっぷ、アべし」


 意外な程に善戦したクゥであるが、救世主職に勝てるはずもない。秘孔を突かれたブロブフィッシュみたいな顔で仰向けに倒れている。

 けれども、このたびの勝負はクゥの負けとも言い難い。

 黒曜の口からは環形動物門貧毛綱の尾っぽが垂れていた。黒曜が負けたというよりも、圧倒的なレベル差ゆえに手加減が難しかっただけだろうが。


「ぜェー、千切れても動くミミズ並みの根性、だけは認めてやる。パパが同行させている女は、どれもまともじゃない」

「おお、黒曜にしては打ち解けが早い」

「根性だけだッ。他は一切認めない」


 自己紹介と力量の確認を同時に済ませた。

 そろそろ、有益な会話を始めたいのだが、クゥは当分、復活しないな。


「黒曜。俺がこれまでに調査できた黄昏世界についての情報は――」


 クゥが復活するのを待たず、俺から黒曜に情報を伝える。

 これまで倒した妖怪の実力、妖術ならびに宝貝パオペイの性能、天竺スカイ・バンブーの方角、過去に存在した救世主職、俺達以外の救世主職、等々。少ないながらも言葉にすればそれなりの情報量となる。


「こっちもパパとあまり変わらない」

「別の場所で同じ情報が集まるだけでも十分だ。確度はかなり高まった」

「俺が追加できる情報は、俺達が目指している天竺スカイ・バンブーが救世主職を呼んだという話だけだ」


 天竺スカイ・バンブーが救世主職を召喚した。この情報は魅力的だ。呼ぶ事ができるのであれば、送る事も可能かもしれない。


天竺スカイ・バンブーが呼び出した救世主職の数は十二。その多くが妖怪に討ち取られた。……パパ、この世界はやっぱり危険だ。早く脱出しな――」

「――黒曜、しぃ」


 人指し指を立てて口をふさぐポーズを取る。

 クゥは……大丈夫、聞いていない。まだ復活していない。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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