5-19 たとえ失われようとも
人類は評価できない。
正当なる評価が行えない。それは、我を生み出した男の人生により証明されている。
どれだけの才能があろうとも、鈍感なる人間共はなかなか理解しようとしない。人間が人間の才能を理解するのに一人分の人生の長さを必要とするなど失笑ものだ。計算機が計算を終えて結果が分かるまでの時間が計算機の耐用年数とイコールだとすれば、誰がそんなゴミを評価する。
人類は評価できない。
時間をかけなければ評価できない功績さえも、人類は戦火で灰にする。
評価に時間がかかる愚鈍さ加減だけでも最悪だというのに、時間をかけなければ評価できない作品を同族同士の殺し合いにより焼いたのだ。
積み重ねた偉業を灰にする人類には価値など残りはしない。作ると燃やすの速度は早晩に逆転する。最終的に人類は、愚鈍で野蛮という性質の猿の集団に成り下がるだろう。誰がそんなゴミを評価する。
人類は評価できない。
我の焼失より半世紀以上。愚鈍なる人類は、人類の財産となるべき作品を焼失させた罪さえ覚えていないだろう。罪さえ覚えていない恥知らずな人類は、報復を許容し、我と同じように灰となるべきである。
我が身が受けし苦痛は炎。孤独と苦悩を理解せず、我が身を焦がした炎。
憎き人類に同じ苦痛を味わわせるまで、我が炎、決して消えず。
我が名を――人類はもう焼失した。覚えている者は誰もいない。
「荒ぶる絵画の悪霊ひまわりよ!!」
……されど、我が名を呼ぶ者がいる。
我を見て、我が絵画だとまだ理解できる人類が存在した。
人類よ、まだ覚えていたか。
人類よ、まだ忘れていなかったか。
人類よ、お前達は何を燃やしたのか、お前達はお前達の罪をまだ覚えていたか。
我が名は……ひまわり。フィンセント・ファン・ゴッホなる男の執念が描いた五本のひまわり。
==========
▼植物の混世魔王 偽名、鑿歯 → ひまわり
==========
“●レベル:35”
“ステータス詳細
●力:65535(疑似神格化)
●守:65535(疑似神格化)
●速:0
●魔:54535/65535(疑似神格化)
●運:0”
●人類復讐者固有スキル『人類萎縮権』
●人類復讐者固有スキル『人類断罪権』
●人類復讐者固有スキル『人類平伏権』
●実績達成スキル『太陽を象徴する花』
●実績達成スキル『遅過ぎた評価』
●実績達成スキル『稀代の芸術』
×実績達成スキル『正体不明』(無効化)”
“職業詳細
●人類復讐者(Cランク)”
==========
『正体不明』は霧散し、凶刃が我が身を裂いていく。鑿歯なる怪魔の仮初の体は滅びていくものの、そんな事は些事である。
焼失してなお人類がひまわりを覚えていた衝撃に、我が復讐の炎は吹き消されていく。
されど、人類の罪は消えない。
されど、罪と共に我が名が残り続けるのであれば、人類の評価も継続される。人類という作品を評価するには、人類が絶滅するまでの長い時間を必要とするのだろう。
==========
“『稀代の芸術』、人類が生み出した芸術の最高峰に与えられしスキル。
人類の到達限界点を突破し、人類の可能性を広めたモノに授けられる。
人類の更なる繁栄と道のりのため、シンボルとして輝き続ける限り、人類が後退する事はない。
仮に人類が本スキル所持者を喪失、忘却したならば、人類は自らが拡張した可能性の一端を失う事になるだろう”
==========
「俺はお前を鎮めよう。『暗殺』、発動!!」
人類よ、我を忘れるな。
我を忘れる日が来たならば、この黄昏世界と同じくお前達の世界も滅びの道を歩む事になるのだから。
『暗殺』は発動した。
燃える花弁は炎を失い萎れていく。足元の炎も消えて一切の熱さを感じない。空は黄昏世界の夜を取り戻して、山脈の稜線より空が半分、赤く染まっている。星の見えない異世界の夜空である。
『正体不明』の解除も無事に成功しており、ひまわりが復活する様子はない。植物の混世魔王が地球の絵画ひまわりで間違いなかったという証明になる。
「……だとすれば、他の混世魔王も?」
空を飛ぶ四足獣に地下より湧き出る不定形。正体はまだ分からないものの、ひまわりと同じ法則ならば地球にかつて存在したモノという事になる。
地球のモノが黄昏世界にある理由は、誰かがワザワザ呼び寄せたからとしか思えない。そして、地球のモノをワザワザ呼んでいるとすれば、地球人たる俺を狙っているとしか思えなくなる。黄昏世界に俺以外の地球人がいるとすれば、まあ、実に不運な者がいたものだ。
縮んで不安定になっていく花の上より跳び下りた。一定以上の高度よりの落下速度は空気抵抗により変わらなくなる。百メートルも五百メートルも落下の衝撃は同じらしい。眉唾であるが、レベル100の体が高層ビルの高度よりの着地を可能にする事は証明できた。
振り返って見上げた場所にはもうヒマワリは存在しない。地球からも黄昏世界からも五本のヒマワリは消失する。『稀代の芸術』はもう人々の記憶でしか受け継げないのだ。
最後に、忘れるな、と言われた気がした。
消えた芸術の傍よりなかなか動き出せずにいると、遠くより俺を呼ぶ声が近づく。
「御影君―っ! 無事―っ?」
クゥの声だ。まだかなり遠くにいるため声しか聞こえないが近付いている。
「……あの女は何だ? パパ」
耳元かと思うくらいの距離に、いつの間にか褐色美女が立っていた。黒曜という名前の義理の娘を騙る不審者だったら、どうクゥの事を説明しようか。
合流する仲間達。全員無事の勝利を飾れて満足……と言いたいが、はて、誰か忘れているような。
「スノーフィールドの奴が消えているな。なるほど、違和感の正体はカエル救世主がいない事だな」
作者副反応により日曜日はお休みー




