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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第五章 妖怪の街へ
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5-15 植物の混世魔王2

どうやってこんな奴、倒せばいいんだ(作者の一週間)

 燃える大輪が俺を見ていた。巨大な一つ目のように花が俺を凝視しながら、花弁として揺らめく炎の熱量を上昇させている。


「山羊魔王を一撃。冗談だろ……」


 皐月達フルメンバーで辛勝だった山羊魔王を瞬殺された衝撃は大きかった。

 最強の手札を潰された訳ではない。山羊魔王よりも強い敵と戦って勝利した経験は確かにある。が、人間が戦っても勝利できない域にある理不尽まおうが一瞬で潰されたのだ。俺の必死だった戦いは無意味だと言われたくらいのショックは受けている。

 混世魔王は大輪の大外から中央へと光を凝縮させている。明らかに力をチャージさせている。花の中心に国家の年間消費電力をも超える膨大なエネルギーが集中していた。


「ッ! 御影君、止まっていないで動いて! 次がもう来る!」


 今度はしっかり視認して、どんな攻撃なのかをギリギリまで見極める。そのつもりでいたのだが、クゥの警告で寸前に考えを改めて『暗影』で回避した。


『――神罰執行“スピキュール”』


 混世魔王は俺を狙って攻撃した。その証拠に、俺と巨大ヒマワリを結ぶ直線をレーザー光が過ぎ去った痕跡が残っている。

 遠く、しかも上空より。下手をすれば五キロ以上離れた場所から一切減衰しない熱線である。狙撃能力もさることながら、威力が馬鹿馬鹿しい。レーザーに焼かれた大地が何キロにも渡りマグマで煮えたぎっている。後方の壁村までもが被害を受けていた。


「正確性、速度、威力。どれも理不尽レベルか。山羊魔王でも耐えられないとなると、天竜のドラゴンブレスさえも上回る」


 命中していたら俺も山羊魔王と同じように左右に分裂していた。いや、俺の『守』では体の形が残らず熱量で膨張した中身が蒸気となって爆発していた可能性の方が高いか。どちらにせよ、ろくでもない。

 ヒマワリを見上げる。

 花弁の燃え方が少し落ち着いたように見えたものの、すぐに熱量を取り戻していく。花の中央へと向けてまたチャージを再開していた。


「次弾発射までのインターバルも短い。ちょっと待て、攻略法なんてあるのか??」

『――神罰執行“スピキュール”』

「ちったぁ、手加減しろッ!!」


 現実的に防御不可の攻撃を、体感十秒のインターバルで連発する混世魔王に文句を言う。

 正直な話、かなりマズい状況だ。

 反撃さえ難しい。ヒマワリの根本まで接近するにしても、その間は一方的に撃ち込まれ放題となる。到着よりも『暗影』がヒートアップする方が早いに決まっている。

 遠距離攻撃可能な悪霊を呼び出す方法もあるが、ヒマワリが山羊魔王の魔法攻撃の後も健在という事実から目をらせない。攻撃能力ばかり気にしていたが、実は『守』もかなり高い。


「一発で倒されるのなら誰を呼び出しても同じだ。だったら、数だ」


 時間稼ぎで新鮮な州軍の妖怪の悪霊を大量に呼び出してデコイにする。新鮮過ぎて死んだ自覚がなく、呼び出した後も死ぬ寸前までのように自由に狂乱して散らばっている。まあ、だからこそデコイになるのだが。

 ただ、ヒマワリである混世魔王には当然ながら目がない。でありながら、正確な狙撃を行っている。悪霊に惑わされる事なく俺を狙ってくる懸念はあった。

 ……ただ、幸いにも次の攻撃は俺ではなく最も前方にいた悪霊に対して行われた。個人を識別しておらず、単純に距離の近い対象を優先的に狙っているのだろうか。


「クゥ、ユウタロウ。無事だなっ。無事だろうな。時間を稼いでいる間に作戦を考えるぞ」

「……そんなに長くは持たなくないか?」


 ユウタロウの目は大輪より投擲される無数の種の軌跡を追っていた。

 種から噴き出す炎はレーザー光よりも格段に攻撃力は下がるものの、代わりに広範囲を制圧可能だ。雑魚狩りには種の方が適している。すきのない武器構成だ。これ以上増えないでくれるとありがたい。

 爆撃されて炎上する悪霊という地獄の光景を脇目に、どうにか集合を果たした俺達は対策を話し合う。


「御影君はもっと強い幽霊を呼び出せないの?」

「確実に倒せる奴はいるが、黄昏世界が究極生物の食害で滅びるぞ」

「えっ?」

「あの混世魔王は黄昏世界への適応能力が高かったのだろう。おそらくパラメーターも異常発達しているはずだ。お前が普通に戦っても倒せる見込みはないぞ」


 仮面を取っての苦戦を普通と言っている時点で、状況は既に普通ではないと思う。

 つまり、勝利のためには普通ではない戦い方を選ぶ必要があるのだが、そんな都合の良いジョーカーを持っている奴などいるはずが――、



『――愚かで無価値な人類よ。慈悲をい、頭部爆発せよ』



 ――混世魔王のものと思われる異質な響き方をする声が、眼下に向けて妙な命令を行う。






 種で燃やされるたび雑鬼を中心に悪霊を補充して時間稼ぎを続けた。州軍以外からも、おそらく街に住んでいたと思われる妖怪も次々と呼んだ。そんな消極的な行動のツケは状況の悪化で支払われる。

 混世魔王は状況打開のために、効率的に多数をほふる手段を求めた。

 その結果、炎の上昇気流に乗ってただよう、札の燃えカスに気付いてしまったのだ。



『――愚かで無価値な人類よ。慈悲をい、頭部爆発せよ』



 一方的に命じる混世魔王。当然ながら何も起こらない。燃えカスの使い方が分かっていないのだ。

 腹いせに狙いを絞りに絞ったレーザーで悪霊の頭部を精密狙撃する。蒸発する頭が火薬で炸裂したかのように膨れてはじけた。


『――愚かで無価値な人類よ。ひざまづき許しを乞え。さもなくば頭部爆発で無意味と化すだろう』


 悪霊は誰も混世魔王の言う事を聞かない。聞く理由がない。混世魔王だけは自分の言葉に忠実に、立っている一体を狙撃して頭部を炸裂させた。

 宝貝『脳幹信管・爆雷符』に、ただ命令するだけで相手の頭部を爆発させる機能はない。

 最初に、虚偽の爆発条件を設定。

 次に、相手にその虚偽条件を真実なのだと誤認させ、呪術的な同意を取り、虚偽を真実に塗り替えて脳を起爆させる。

 結果が強力なだけあって工程が難しい。嘘の技術を必要とされるトリッキーな宝貝なのである。巨大ヒマワリのような大怪獣が好む直接破壊能力はない。


『――愚かで無価値な人類よ。頭をれろ。さもなくば頭部爆発で無意味と化すだろう』


 馬鹿正直に設定条件を明かすなど愚の骨頂……と言いたいが、威圧と共に無慈悲な攻撃を繰り返す用法も実は正しい。

 相手に虚偽条件をさとらせなければならない工程に対する、もっとも単純な解決策は、相手に伝えてしまう事だ。もちろん、相手が自分で気付くよりも信用度は低下するため、そう簡単に起爆までいかない。

 けれども、信用は実績でつちかうものである。何人もの命令違反者の頭を吹き飛ばして、眼下の悪霊共の頭に虚偽条件を刷り込ませていく。事実として頭の弾けた死体が量産されていく事態に、虚偽は虚偽ではなくなっていく。


『――愚かで無価値な人類よ。太陽に逆らう愚物に頭は不要。許しをわぬ者の頭など吹き飛んで無意味になってしまえ』


 悪霊共の行動に変化が現れるまでそう時間はかからなかった。

 その場で膝を折って地面にひたいこすり付ける者と、その者の行動と上空の大輪を見比べる者。後者はマズいと思ったのだろう。慌てて膝を曲げているが、頭が爆発して結局その場に倒れた。

 同様の出来事が悪霊集団の各所で多数起きている。

 『脳幹信管・爆雷符』が効果を発揮し始めたのだ。悪霊が誰一人、混世魔王の言葉にしたがわなければ連鎖爆発は起こらなかったはずであるが、死してなお命を惜しんだ者の抜け駆けが切っ掛けを生んだ。

 いや、そもそも黄昏世界の住民が、太陽を象徴する花に逆らい続けられるはずがなかったのだ。


『――愚かで無価値な人類よ。尊き太陽より目を背け地面ばかり注視するとはなんと愚かか。顔を上げぬ者に顔は不要。頭部爆発してしまえ』


 混世魔王は旗揚げゲームでも楽しんでいるのか、今度は自分を見上げろと命じた。

 悪霊共は地面に密着させた顔を上げようと動く……のに、何故だか頭が後方から強く押されて上がらない。


==========

“『人類平伏権』、復讐するべき人類に形だけの謝罪を強制するスキル。


 視界内にいる人のたぐいに平伏を強いる事ができる。一度平伏させた相手に対しては一時間のインターバルが必要となる”


“取得条件。

 人類に復讐する権利を有する者のCランクスキル”

==========


 悪霊共を全滅させる条件は、整った。

 邪魔な悪霊がいなくなれば、残りの人間と裏切り者ごとき一万度を超過する熱線神罰、“スピキュール”で終わる。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[気になる点] 竜頭魔王やっぱり呼び出せるのか...
[一言] 混世魔王って正体を暴いて火を付けたら死なないか 死因を武器にしてても弱点を克服するのは難しそうだし
感想一覧
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