5-7 共闘
場のカオス具合が深まった。まさか、ブタの顔をした……ユウタロウまで参戦してくるのか。
「ユウタロウ、どうしてお前がこの世界に!?」
何と親友思いな奴なのだろう。ちょっと見ない間に顔と体格と気配が変わってしまっているが、世界を超えて俺を助けに来てくれるなんて。大学の食堂でとんかつを醤油で食べていた奴とは思えない。
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“ステータスが更新されました
ステータス更新詳細
●実績達成ボーナススキル『精神異常(親友)(強制)』を取得しました”
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“『精神異常(親友)(強制)』、精神に異常をきたした者のスキル。
『破産』スキルで回避可能な精神異常を放置し続けた結果、親友とは似つかないブタ顔を親友と信じ込むようになってしまった。
バッドスキルであるが、親友と勘違いされるブタ顔にとってのバッド。スキル所持者は精神面で安定を図れる”
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「……ちょっとそこの妖怪。往年の親友みたいに話しかけられていますわよ」
「……ユウタロウとは、もしかして俺の事か?」
精神異常者を見る目を俺へと向けつつ、ユウタロウが何故か自分の名前を不思議がっている。ユウタロウはユウタロウなのに変な奴め。
「……変な人間族だとは理解していたつもりだったが、まさかここまでとはな」
「ユウタロウ、手を貸してくれ。この暴れん坊カエルを大人しくさせたい」
「まったく、俺の想像を遥かに超える変人ぶりだ。混世魔王の俺に助力を願うとは、珍妙としか言いようがない」
愉快に口を歪めたユウタロウは巨大なカエルと向き合った。眼力を強めて指向性スキルを発動し始める。
「――『人類萎縮権』を使用。……ふ、いいだろう。体を巨大化させる奴に挑戦してみたいと常々思っていた。お前の要請に応えてやる」
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▼スノーフィールド・ラグナロッタ
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“ステータス詳細
●力:6201 → 4823
●守:507 → 395
●速:227 → 177
●魔:331/411 → 290/360
●運:101 → 88”
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背中から噴出させた炎で飛んだユウタロウは、カエル救世主へと距離を詰めた。握られた拳がカエルの頬へと叩き込まれていく。
「固い、いや、弾力がある。今の俺の『力』でも突破できないか」
「ブタ妖怪が横からしゃしゃり出てきて! 一緒に叩き斬ってやりますわ」
いつになく好戦的なユウタロウである。ただ、武器もなく飛び込むなんて無謀が過ぎる。なので、地面に落ちていた三叉槍を拾って投げ渡してあげる。
「ふん、一瞬の迷いもなく俺に武器を渡すか」
「ユウタロウ。それでダメージを与えられるか?」
「皮が厚い、難しいだろうな。それでも手段はいくつかあるが、俺に頼る前にお前の方にはないのか?」
実際に槍で突いて試したユウタロウだったものの、槍の先は皮膚を凹ますだけで貫通できていない。
邪魔な虫を掃うようにカエル救世主が頭を振った。押されたユウタロウは空中に投げ出されていき、大剣で狙われる。
助けるべく動く前に、背中から火を噴いて加速してユウタロウは自力で避けた。さすがはユウタロウだ。いつの間に背中にブースターを生やしたのだろう。
「ユウタロウ、『守』を半減するところまでなら可能だぞ」
「ならば十分だ。俺は準備を整える。用意が出来たら合図しろ」
距離を取ったユウタロウと交代で、カエル救世主へと近接戦闘を仕掛ける。ダメージは負わせられないものの、耳元で飛び回る蚊のごとく顔の周りを移動して翻弄する。
「煩わしいっ、巨大化したのは間違いでしたわ。『第六感』が反応しているのに戦闘速度にマッチしなくて」
荒れ放題の地面に着地したユウタロウは、バトンのごとく三叉槍を回して構え直す。
そして目を瞑って深く息を吸い込んだ後、何かを宣言する。
「『八斎戒』宣言。以後の人生、俺は午後の食事を禁戒とする。この禁戒をもって、俺はより高次の存在へと至らん」
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▼豚面の混世魔王 偽名、封豨。または、ユウタロウ(?)
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“ステータス詳細
●力:132(2^二戒) → 264(2^三戒)
●守:84(2^二戒) → 168(2^三戒)
●速:76(2^二戒) → 152(2^三戒)
●魔:68/72(2^二戒) → 140/144(2^三戒)
●運:0”
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“『八斎戒』、俗世の身を律して神格へと至らしめるスキル。
八斎戒のいずれかを永続的に守ると宣言するたび、全パラメーターに対し、2の宣言数の乗の補正を行う。
八斎戒すべてを宣言した場合には神格へとクラスチェンジする”
”《追記》
現在の宣言数は三戒。不得坐高広大床戒、不飲酒戒、不得過日中食戒”
“取得条件。
過去を省みた証として誓いを立て、過去の自分から脱却する”
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突然、ユウタロウの気配が倍増した。実際に体積が膨張した訳ではない。けれども、目を離せない程に存在感が増している。
ただ、俺が気付いたのであれば敵も気付く。カエル救世主は、ユウタロウを一番の脅威と定めて大剣を投擲してでも行動を阻止しようとした。
「ユウタロウをやらせるか! 『既知スキル習得』発動、対象はオパピニア職の『マジックハンド』!」
ユウタロウの体を見えざる手で引き寄せて、大剣の軌道から救出する。
ついでだったので、そのままカエル救世主へと向けて投げ飛ばす。
着弾地点に先行しておいた俺は『暗澹』スキルを発動させた。カエルの巨体をすべて包むのは不可能である。が、腹の部分のみであれば問題ない。
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“『暗澹』、光も希望もない闇に身を置くスキル。
空間内に入り込んだ相手の『守』は五割減、『運』は十割減の補正を受ける。
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▼スノーフィールド・ラグナロッタ
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“ステータス詳細
●守:395 → 114(腹限定)”
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「『守』を半減させたから、黒い部分を狙えっ。でも、俺が中心にいるから避けて攻撃しろ!」
「つまり直線上に倒すべき相手が並んだか。絶好の機会だ――」
背中から炎を噴出したユウタロウは加速しながら暗澹空間へと突入してくる。
話を聞いていなかったのか、三叉槍は暗澹空間の中心を穿つように突き出されたままであったのだが……俺の体に触れるか触れないかのギリギリで矛先を変更、カエル救世主の腹のみを突き刺す。
「――ふん。このような結末、気に入らんな」
「うわっ、ちょっと脇腹カスった。危ない」
「俺を刺したお前が言うな。それよりも、お前も攻撃を合わせろ!」
ユウタロウが突いた場所に向けて俺もエルフナイフを突く。これだけスキルと攻撃を重ねれば、いくら救世主職とはいえ『守』を突破してダメージを与えられ――、
「この程度の苦難で、倒れるものですか。『強靭なる肉体』出番ですわよッ!!」
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▼スノーフィールド・ラグナロッタ
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“ステータス詳細
●守:114(腹限定) → 395(腹限定)”
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――苦心して減らしたパラメーターが増強されていく。結果、ユウタロウの三叉槍は折れ曲がり、俺のエルフナイフは弾かれていく。
駄目だ。俺にはもう使えるデバフが存在しない。自分の『力』を増やす手段もない。一番弱っている瞬間を狙った攻撃が通じないのでは、今後の攻撃も通じない。
「オークの統治者、ギガンティックルーラー・オブ・オークを討伐した男が弱気な事を言うな」
「ギルクがどうした??」
「あいつは傲慢でありながら用心深くもあった。『巨大化』も最後まで隠していたはずだ。比較すれば、既に巨大化している目の前のカエルは素直なものだろう。俺達よりも先に手札を切ったなら、俺とお前の勝利だ」
折れた槍を捨てたユウタロウは、勝利を確信してニヤりと笑う。
「『魔→力置換』を使用。残りの『魔』をすべて『力』へと置換せよ」
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▼豚面なユウタロウ(?)
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“ステータス詳細
●力:264 → 403
●魔:139/144 → 0/144”
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槍から手を離したユウタロウが拳を固く握りしめた。重機のごとく膨れ上がった筋肉で、握った拳を前へと突き出す。
拳がカエルの腹を打つ。衝撃が柔らかい皮膚を波打たせて全身へと伝播させていく。
直後に、巨体が浮いた。
右ストレートという単純な攻撃が、鉄壁だったカエルの『守』を突破しながら仰け反らせていく。
「ぐぅ、ゲロゲロぉッ?!」
振動する地面に体が揺れた。
水かきを広げた見事としか言いようのない倒れ方をしたカエルは、『巨大化』を解いて徐々に縮んでいく。




