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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第五章 妖怪の街へ
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5-1 方針について

 これからの進路について考える。

 天竺スカイ・バンブーを目指すという主軸は変わらない。はぐれた仲間も向かっている土地なので中断はありえない。

 ただし、物理的に直線移動するのが最速という短絡思考はあらためるべきなのだろう。

 正体不明の混世魔王は例外だとしても、みやこの妖怪たる黄風怪こうふうかい厄介やっかいな妖術を使っていた。それでも負けはしなかっただろうが、クゥがさらわれた時点で俺の敗北だ。クゥが無事だったのは彼女のしぶとさによるもの。俺はまんまと出し抜かれた訳である。

 つまり、多くはないが妖怪の中には脅威足りえるものがいる。自分以上の誰かがいるなど当たり前の話ではあるが。


「都ってどこにあるんだろうな」

「田舎娘に聞かれてもね。世界で最もきらびやかな都を知っているはずがない」


 バス便が一日一本の村に住む者は東京都の位置を知らなくていい、というのは違うと思う。田舎の畜産動物なら話は別だが……いや、黄昏世界の人間の立場を考えると妥当だとうなのかもしれない。


「都も含めて、黄昏世界について調べる必要がある。調べなければ、次こそ致命的な事態におちいりかねない」


 妖怪だけではない。得体の知れない悪霊、黒八卦炉にも危機感を覚える。俺自身が悪霊に対してメタっているとはいえ、スペックそのものは異常な程に高かった。生前はさぞ格の高い存在だったのだろう。

 混世魔王、黒八卦炉。例外も二度も続けば例外ではない。

 世界を脱出する前に道半ばで倒れる訳にはいかないのだ。



「そういえば、御影君ってどうして天竺スカイ・バンブーを目指しているのかな?」

「それはこの世界が滅亡する前に脱出を――」


==========

“『カウントダウン』、世界を救うにも時間制限があるというスキル。


 世界滅亡までの残り時間が見えるようになる”

==========

“●カウントダウン:残り一年……、十日……、千年……、三か月”

==========



 世界を知るのも重要だが、将来的に俺はより重要な事柄と直面するのだろう。

 本当に天竺スカイ・バンブーから黄昏世界を脱出できたとして、目の前で首をかしげているクゥを含めて、この世界で関わる人々を残して俺は逃げ出す事ができるのだろうか。




 色々悩んだり相談したりした結果、西を目指しつつも少し大きな街を目指すと決定した。都ほどではないが、そこそこ情報が手に入りそうな場所に寄り道しようという中途半端……現実的な案を採用した訳である。


「えい、“伸びて”、如意棒。……伸びたっ」


 黄昏世界はまず大きく州という行政区分に分割、統治されている。州は州官と分類される妖怪に統治されている。アメリカの州の考えと似ているだろう。

 また、州自体も県という区分に分割されている。県を収める統治者は県長、かと思えば州下官なる名前である。歴史的な背景があるのだろう。

 県の下も更に細かく区分されているらしい。俺も知っている地方官が収める地方もその内の一つだ。


「とう、“縮んで”、如意棒。……おお、縮んだ」


 黄昏世界の社会科はこれぐらいにして。

 次の目標は州の中心、街を目指す。都未満、壁村以上の規模らしい。

 ほぼ妖怪しか住んでおらず、食料でもない人間が訪れたならばトラブルは避けられないだろう。だが、確度の高い情報を手に入れるならば向かう必要がある。多少のトラブルには目をつむろう。

 なお、これらの情報はすべてクゥではなく、壁村の物知りヨージンさんから聞いた情報だ――彼も黄風怪に捕らわれたらしいが無事生還していた。


「やー、そりゃ、どりゃー。……うん、使い方が分かってきた。でも一度の伸縮で『魔』を1消費するから、今日の訓練はこのくらいにしておかないと」

「州も県も知らなかったクゥさんや、人の近くで棒を振り回すのは危ないからめなさい」

「ほぼ一生、壁村から出ないのが普通で社会なんて覚える必要のなかった村娘なのだから、護身術くらい身につけないと」


 拾得物である如意棒を伸び縮みさせていたクゥ。マグライトの長さまで短くした如意棒を仕舞しまい込む。

 便利な道具を得て、更にはレベルアップを果たしたクゥは機嫌が良い。生まれ故郷を出てから確実に成長しているのだ。これまで考えもしなかった妖怪からの自衛を訓練するくらいに前向きである。


==========

▼クゥ

==========

“●レベル:29”


“ステータス詳細

 ●力:5 ●守:5 ●速:4

 ●魔:10/29

 ●運:0

 ●陽:36”

==========


 職業の問題か、レベルに対してパラメーターは低空飛行ではあるのだが。成長率が悲惨だ。

 ただし、パラメーターは所詮目安。高ければ高い程、安心できるが絶対ではない。

 パラメーター以上に大事なのは強者に対する挑戦心だろう。俺も頻度高くためされているので分かる。妖怪に屈する村人であるはずのクゥに反骨心が生まれようとしているのは大いなる成長だ。


「それにしても、どうしてクゥだけが経験値を取得できたのか。黄昏世界の人間だからだろうか」

「妖怪と戦う徒人は普通いないから分からないかな」


 黄昏世界の人間が妖怪を倒した時だけ経験値取得が可能なのだろうか。地球ともウィズ・アニッシュ・ワールドともルールが異なる。

 検証は難しい。妖怪を倒せる人間がいないだけではなく、妖怪に挑む人間がそもそもいない。

 まあ、仮に検証したところで俺が経験値取得できないと証明されるだけだ。別に経験値を欲している訳ではないので無理に調べる事はない。


「俺達がいる州の街は南西方向らしい。徒歩で一週間以上。それなりに歩く」

「壁村の人達がお礼で食料をゆずってくれたから大丈夫。行けると思う」

「よし、そろそろ出発しよう」


 食料の乾物の入った袋を背負って、クゥと一緒に門を出る。

 黄風怪に襲われた壁村の人々に見送られながら、俺達は次の目的地に向かって出発した。





 ――???


 赤く不毛な大地は今日も悲劇ばかりで、見るにえない。

 快楽か食欲、あるいは両方を満たすために徒人ただびとを食い物にする妖怪共。そしてそれを良しとする黄昏の女。奴等をいさめる策は既に破綻はたんしてしまっている。救済地点セーブポイントはとっくの昔に消え去った。希望はもう無いと言えるだろう。

 女が、いつ終わっても不思議ではない黄昏の世界を見下ろしているのは、ただの惰性だせいである。意味はない。


「――あれは、何か??」


 されど、見下ろす大地に見えるものは……見えるものは……何だろうか、アレ。一見、徒人の形をしているのに、凝視すると真っ黒い穴が開いているようにも見える。どう考えても良くないモノなのだが、正体不明、分からない。


「妙な。いや、アレだけではないぞ。どういう事だ?? 救世主職の気配が増えているではないか? 此方こなたは呼んだ覚えはないぞ。呼べる訳もない」


 黄昏に現れた変化に、天竺スカイ・バンブーの頂点に住まう女はギョっと気持ち悪がる。



「――スノーフィールド。スノーフィールドはおるか。すまぬが下界の調査を。やってもらえるか?」



 手を叩いて女が呼んだのは、生き残った数少ない彼女の手駒だ。娘のように大事な手駒であるため、危険な下界に行かせるのは忍びない。が、危険な下界を調査できるとすればもうスノーフィールドくらいである。


「およびですか。御前」

「変化がある。吉報とは思わぬが、よく分からん。場合によっては脱出を急ぐ必要が出てくる。調べてもらいたい」

「喜んで。この腕は未だにび付いていませんわ」


 後ろ腰からはみ出た巨大な鞘をでながらスノーフィールドは現れた。彼女は鎧とドレスを組み合わせたような恰好で、長身の女性の姿をしている。


「あまり派手に暴れるではないぞ。調べるだけでよいからな」

「承知しております」

「本当に頼むぞ。そなた腕は確かなのだが、パワーこそ力と時々意味不明な事を言うのでな」


 スノーフィールドを向かわせる先は、徒人の形をした黒い穴だ。何故か増えている救世主職も気になるが、そちらは居場所がはっきりとしない。


「本当に気を付けてな。下界は黄昏めの日向ひなたゆえ」

「……姿を見られるようなヘマは致しません。そのような屈辱は決して。では、行ってまいります」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


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