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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第四章 謎多きかな黄昏世界
27/236

4-9 黄風怪1

「クゥっ! この向こうにいるのか!!」


 生き残っていた村人の救出と応急処置も早々に、壁村を出発して一時間くらいだろうか。

 実は既に失態を犯している。

 捕虜にした妖怪に案内させて奇岩地帯に到着したところまではよかったのだが、酷く怪しい黄色い砂嵐の向こう側へと逃げられてしまったのだ。

 砂嵐は分厚い壁となっている。少なくとも『暗影』一回では突破できない範囲が暴風圏だ。視界を奪われて、風に体を押されて方向感覚を奪われて、内側ではなく外側へと排出される。嫌な風だ。

 百メートル程の助走距離による加速で強引な突破を試みて、現在が二度目の失敗をしたところである。


「妖術って奴は!」


 同じ場所を吹き荒れる黄色い風を忌々(いまいま)しくにらむ。パラメーターのみでは突破できそうにない。強引に突破するなら四節以上の魔法で穴を開くしかないだろうが、残念ながら俺は『既知スキル習得』を使っても三節までしか使えない。悪霊魔王となれば別だが。

 風の弱い場所を探すか。いや、時間はもうこれ以上かけられない。

 連れ去られたクゥや村人達をおびやかしているのは妖怪であるが、どうも、黄色い風の向こう側の危険は妖怪だけではなさそうなのだ。



「……衝動を感じる。現世に自力でとどまっている悪霊がいるぞ」



 好き勝手に悪霊を使役できる俺だから分かる。高ぶった感情を炎のように拡散している悪霊が風の向こう側、地面の下に存在する。


“――ぇ――”

「声までは聞き取れない。ただ力を持て余しているだけで悪霊魔王と言える程に理性を持っていないのか。ゾンビにしては異常過ぎる力がありそうだが」


 悪霊は動くしかばねの一種だと推測されるが、よく分からない。潜在能力だけなら悪霊魔王としての俺を超越していそうなのに、現世に復讐してやる、といった意気込みが希薄過ぎる。方向性の定まっていない力を無駄に拡散しているだけなら、悪霊としての格は腐った体を動かすゾンビ止まりでしかない。


「意味不明な悪霊までいて、クゥが無事でいられるのか??」


 あせるばかりの俺は、次は風の上側を突破できないかを試みるために渾身の走り高跳びで――、



「――そんな事をしなくとも、お招きいたしましょう。救世主職よ」



 ――風が急激に弱まった。

 視界がクリアになり、前方に複数の人の姿が見えるようになる。意外に近くだ。


「お急ぎではないのですか、救世主職。さあ、こちらに」


 罠を疑う、というか必ず罠は仕掛けられているだろう。が、行くしかない。

 実に怪しげな地面の裂け目。その手前には連れ去られた村人が並ばされている。更に村人達を囲むように矛を構えた妖怪が複数体。分かり易い人質である。何故かクゥの姿を発見できない。

 人と妖怪の垣根かきねの向こう側には、長い体の妖怪が見える。余裕たっぷりに豪奢ごうしゃな椅子に座っている態度から、奴が妖怪集団の首魁で間違いないだろう。金色の毛並みが一番目立っているというのもある。

 なお、裂け目の上の細い橋へと俺が捕虜にしていた妖怪が追いやられているが、特に気にならない。


黄風怪こうふうかい様。どうして、どうして私をっ?!」

「N530。救世主職を連れてきた褒美に、無能者がどうなるかの実演に使ってあげましょう。村を襲う程度の仕事もできない妖怪は、黒八卦炉で炭にでもなりなさい」

「いやだァ。落とさないで、あっ!」


 同じ仲間の妖怪に武器で突かれた結果、泣き叫ぶ妖怪が細い足場から裂け目の中へと落ちていく。

 時間差を置いて裂け目から真っ黒な炎の柱が立ち昇った。


「仲間に対して非道だな」

「雑鬼ごとき仲間などではありませんので。官吏にもなれない無能にはしつけが大切です」


 会話するにはまだ遠い距離で停止を命じられた。長い妖怪とは村人達を挟んで五十メートル強。かなり警戒されているな。


「初めまして、救世主職。私は黄風怪。みやこきらびやかなる妖怪です」


==========

黄風怪こうふうかい

==========

“●レベル:71”


“ステータス詳細

 ●力:65 ●守:40 ●速:41

 ●魔:162/192

 ●運:0

 ●陽:65”


 ●妖怪固有スキル『擬態(怪)』

 ●妖怪固有スキル『妖術』

 ●妖怪固有スキル『嘘成功率上昇』

 ●実績達成スキル『風魔法手練』”


“職業詳細

 ●妖怪(Cランク)”

==========


「丁寧に名乗らなくても結構だ。そう長い付き合いにはならない」

「その通りですね、救世主職。いや、噂もなかなか当てになるもの。仮面を付けた奇抜な徒人にしては……案外、美味そうな匂いがする」


==========

“『味上昇』、生贄いけにえなれば味ぐらい上等であるべきというスキル。


 肉質が上昇し、どの種族からも美味そうという意味合いで好感を持たれる。

 強制スキルであるため解除不可”


“取得条件。

 人身御供ヴィクティムの初心者となる”

==========


 風呂に入れない黄昏世界で体臭が美味そうか。妖怪なりの皮肉だな。


「救世主職。お前はこの黄風怪が討ち取って、今晩の食事にします」

「だったら俺はお前を毛皮のコートにしてやる」

「まあ、なんと野蛮な言葉遣い。雑鬼共、囲んでひき肉にしてしまいなさい」


 岩陰から現れた妖怪はざっと百体ほど。村を襲うだけの集団にしてはかなりの数だ。ただ、特に強そうな妖怪はいないので負ける要素はない。

 やはり懸念材料は人質と黄風怪だけか。


「抵抗する場合はお考えを。その場から一歩動くたび村人を一人、黒八卦炉に突き落とします」


 動こうとした瞬間、ワザワザ親切に忠告してくれる黄風怪。


「人質が一人足りないぞ。クゥはどこにいる」

徒人ただびとの名前など知りませんが、そういえば一人、もう黒八卦炉の中に入っていましたね。出て来ないので、そろそろ消し炭になっている頃合いかと」

「……クソ、間に合わなかったのか。クゥめ、もう少し俺を待っていれば」


 悪霊の気配が沸き立つ地面の裂け目に普通の人間が入ったとなれば、三分と生きてはいられない。死体さえ残っているかどうか。もう手遅れなのだと理解して、奥歯を噛み締める。

 人当たりの良い女だった。危機感よりも親切心を優先する命知らずでもあったが、だからこそ見ず知らずの俺に対しても親しく接してくれた。不慣れな黄昏世界を旅する仲間として悪くはなかった。

 実に無意味だが、俺の自己満足のために残った村人を救い、妖怪は皆殺しにしよう。



「『暗澹あんたん』発動!」


==========

“『暗澹あんたん』、光も希望もない闇に身を置くスキル。


 スキル所持者を中心に半径五メートルの真っ黒い暗澹空間を展開できる。空間外からの光や音の侵入は拒絶されるが、それ以外については出入り自由である”

==========



 俺を中心とし、光を拒絶する暗黒空間を展開した。不用意に俺を囲んでいた妖怪共の前衛の大半を暗闇へととらえた。視界を奪われては何もできまい。


「なッ。なんだコレは!? 光が見えない。御母みおも様を感じられない」

「太陽が見えない、見えないッ!!」

「嫌だ!! 出してくれ、出してくれッ」


 ただ視界を奪っただけにしては想定以上に妖怪共は混乱している。気になるものの後回しだ。



「『既知スキル習得』発動、対象は忍者職の『分身』!」


==========

“『分身』、己のコピーを生成するスキル。


 『魔』の最大値の一割を分け与えて、スキル所持者の一割のスペックの分身を作り出す。

 分身は分け与えた『魔』がゼロになると消滅する。存在するだけでも『魔』は消費されるので長時間の存続は不可能”

==========

“ステータス詳細

 ●魔:49/122 → 36/122”

==========



 暗澹空間の内部で分身体を作り上げる。外の黄風怪にはバレていないはずだ。

 ナイフを使った近接戦闘が主体の俺は、強力な遠距離攻撃にとぼしい。いちおう、三節魔法は使えるがナイフの一閃の方が強いくらいだ。

 だが、現状は三十メートル先にいる村人達を妖怪から救出しなければならない。遠距離攻撃手段がどうしても欲しい。


「ならば、俺自身が遠距離攻撃手段となればいい」

「言葉にしなくても思考後に『分身』したから分かっているぞ。が俺を村人達の元へと投げるんだな」

「その通りだ、俺」


 分身体を村人達救援のために投げつける。一割のパラメーターしか有さないが、村人を人質にしている妖怪はそう多くないので対応できるだろう。本体の俺は、より数の多いこの場の妖怪共の掃討だ。


「よし、行ってこい、本体」

「よし、行ってくるぞ、分身体。……あれ?」


 何故か分身体が本体であるはずの俺の足を持ってジャイアントスイングし始めたのだが。暗澹空間内にいる妖怪と時々、側頭部がぶつかって痛い。


「ち、違う。俺を投げるんだ!」

「だから、俺を投げているだろう。一割の『力』だとパワー不足だから、離した瞬間にうまく飛べよ」

「本体を投げる奴がいるかっ!」


 知能も一割しかないのかこの分身体。

 頭の悪い分身体が俺の体をリリースする。十分に遠心力が蓄積されており、ハンマー投げのハンマーの気持ちを味わいながら空を飛ぶ。


「真っ黒いのが飛んできたぞ!?」

「何だアレは、ひぃっ」

「太陽の光を拒絶する闇。何て恐ろしいモノが、こっちにッ」


 『暗澹』の効果範囲は二次元ではなく三次元だ。外からなら、半径五メートルの黒い球体が飛んでいるように見える。

 直撃を避けようとしたのだろう。村人を人質に取っていたはずの妖怪が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。村人達も一緒だ。着地した裂け目のそばは無人である。

 図らずも人質解放の目的は達成された。


「これは棚から牡丹餅」

「救世主職が闇属性を使った?? しかも、徒人の人質に向けて攻撃するとは!」


 このままボス戦に突入するとしよう。


「聞いていた救世主職像とは随分と異なるようで。これは意表を突かれました。仕方ありません、この黄風怪がじきじきに相手をしてあげましょう」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[気になる点] 御母様の悪霊召喚もしかして最適解? [一言] 擬態(怪) 妖術 嘘成功率上昇 これ以上トンチキスキルを御影に覚えさせたら手が付けられなくなりそう
[気になる点] もしかして死んだ救世主達の魂を集める旅なのかな
[一言] 昔の救世主達は剣からビーム撃つ感じの光の英雄だったのかな?それじゃあ太陽神には勝てねぇな・・・
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