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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第二十章 真性魔王、十姉妹
232/235

20-8 十一姉妹いる!

 それからはただただ虐殺である。

 真っ暗闇の中、器用に俺を発見してはビュッフェスタイルで喰い散らかし、飲み散らかしている。冬眠前のグリズリーとてもう少しまともな食事をするというのに、床は所々原型のない死体だらけだ。


「暗くても臭いで分かるのよ。でも、これは偽者」

「こっちも」

「アンタ達、どうして偽者って分かるのよ」

「味じゃない?」

「本物を喰った事がないのに! きゃはは」


 十姉妹に喰われた俺の数は百を軽く超えた。

 姉妹の会話の節々より、俺の肉体の栄養価は豊富であり寿命が延びるというのは理解している。寿命に近づいた太陽神は精神的に狂うというのが黄昏世界のルールであれば、寿命延長で多少なりともマトモに戻ってくれないものだろうか。


「ああ、そういう作戦。私達の寿命を延ばして黄昏状態を解除しようってからめ手」

挺身ていしん的―。まるでどこかの自ら炎に突っ込んで供物となったウサギみたい。月属性的―」

「確かに寿命は一千万年近く延びたかもしれないわね」

「でも単位がねぇ。一度臨界までいたった恒星を更生させたければ、一億年。いや、せめて十億年は欲しいところ」

「G型主系列星の寿命が百億年って分かっていないのね。絶対等級を考えてよ」

「供物として身を捧げるなら、もう一千倍は用意してもらわないと」


 恒星寿命が延長されたとて十姉妹の悪性変異は復調しない。真性魔王として製造された彼女達は十柱揃うと世界を滅ぼしたくなってしまう。そういう特性であり、そういう神性と納得する他ない。それが十姉妹という儀式の根幹だ。

 クゥを素の状態に戻したければ十という数を崩さなければならない。手っ取り早い手段は姉妹の殺害であるが……それは黄昏世界の過去の過ちと同一手段。そんなものに手を出したなら、マトモな神経を取り戻したクゥは絶対に俺を許さないだろう。


「うんうん、よく分かっているじゃない、御影君。私達が酷いのは分かっているけれども、これでも私達も被害者なのよ? 世界繁栄のために姉妹をにえにするのであれば、私達は世界を滅ぼす。当然の思考、当然の権利だと思うでしょ」


 クゥの当然が世の中的に正しいか、ただの傍迷惑なのかは判断しない。

 ただし、俺もクゥを見習って当然と思われる行動を実施するだけだ。


「なぁ、クゥ」

「なーに、御影君?」


 声を発したために居場所を特定されてしまい、如意棒を伸ばされて腹に風穴を開けながら問いかける。



「――本当に正気になってきていないのか? 具体的には寿命の千分の一くらいはマトモに戻っているだろ」



 十姉妹は動きを止めた。


「なに、言ってんの?? 私達は私達である限り悪性変異が終わらないってまだ理解してくれていない?」


 圧倒的に十姉妹の優勢な状況とはいえ、俺のテリトリーで随分と無防備だ。俺に殺される事よりも正気に戻る事を恐れているみたいである。


「それとも、知らない内に誰か殺された? 点呼!」

「壱」

「弐」

「参」

「よーん」

「伍」

「陸」

「漆」

「捌」

「玖」

「拾」


 あからさまな安堵の溜息が多数。その後に俺を非難してくる。


「減っていないじゃない、御影君!」

「別に姉妹は減っていない。姉妹が減ったなら、正気に戻るのは一割単位であって千分の一なんて小さな単位ではない」

「姉妹が揃っている限りマトモには戻れないって何度も言っているでしょっ」


 クゥだけでなく、他姉妹全員からも非難轟々だ。さすがに耳が痛いので自覚してもらおう。


「ちなみに、クゥは自分が何人姉妹なのか分かっているよな」

「ハァァ? 今更そんなのく??」


 今更である。クゥ達姉妹の数は代名詞にもなっている。指の数を問うに等しい初歩的すぎる問いかけだ。



「私達姉妹は当然――十一人よ」



 釣り餌に魚が喰いついた瞬間のごとく笑みを浮かべてしまう。

 いや、もう釣り上がっている癖に何も分からず餌を離さない魚をあざける笑みだ。


「ふ、ハハ、そうだよな、十人ではなく、十一だよな」

「どうしちゃったのよ、御影君?!」

「ああ、そうだよな、十姉妹! 十姉妹の癖して十一! ハハハハっ」

「なによ……」


 クゥだけではない。姉妹全員が自分達を十一姉妹だと信じてしまっている。明らかな異常だというのに本人達にとっては俺の方が不気味らしい。



「儀式“十姉妹”崩れし! 黄昏世界の悲嘆は崩れし! 世界滅亡を詐称したのが『斉東野語』なるあやかしの術というのは、皮肉が胡椒のように効いている!!」


==========

“『斉東野語』、信用などあるはずもないあやしげなる存在のスキル。


 本スキル所持者の言葉を確実に信じさせない事が可能。

 同じ対象に対しては、二度と本スキルを使用できなくなるため、使いどころが大切である”

==========



 俺が姉妹に対して『斉東野語』を使用したタイミングは、直近。

 顔の穴の中で着席を勧めて対面した時。『これからクゥとクゥの“姉妹十人”に対して仕出かす事を忍びなく思っているんだ』の言葉を発したタイミングだ。

 正直、『斉東野語』は博打要素が大きかった。発言を絶対に信じさせなくできるとはいえ、どのように信じないかは受け取り側の自由である。


「う、嘘よ。私達は最初から十一姉妹だった。そこは間違いないっ」

「どうしてそう信じた? いや、俺の言葉をそう信じなかった?」

「騙されないから! 私達姉妹にしかないものがある。黒八卦炉の宝玉がある。言葉で嘘をいたところで、物理的な証拠は嘘を吐けない」

「だったら数えてみろよ」

「言われなくとも」


 ただし、受け取り側の自由という言葉に、それほどの自由はない。状況さえ整えてしまえば誘導は可能である。


壱姉いちねぇ弐姉にねぇ参姉さんねぇよんの子、の子、ろくの子、ななの子、はちの子、きゅうの子、そして、じゅうの子。……それと、私を合わせて十一柱。何もおかしくない」

「黒八卦炉の数は十なのに、十一姉妹なのか?」

「私は徒人ただびとの体で反魂したから、無いのが正しい。何も間違っていない」

「そうだな、クゥ。クゥはクゥだから伍なんてナンバリングとは無関係だよな」

「…………あ、あれ?」


 黒八卦炉の宝玉の数は十で正しい。クゥの数え間違いではない。

 十個すべてが本物の黒八卦炉だ。



『……ふんっ、要望の品だ。お前の予想通り壁村の近くにあった。持っていけ』



 ……まあ、伍の宝玉についてはクゥの出生地の壁村の付近に転がっていたのをユウタロウ達に回収してもらったのだが。前世の遺骸なんて見たくもなかったのかもしれないが、大事なものは大事にしまっておかないと悪用されてしまうから注意が必要だ。


「えっ……、私は? 私は何番、あれ??」

「安心しろ、クゥ。お前達は最初から十一姉妹だった。十一姉妹だから、昔に救世主職の后羿こうげいに十まで殺されてしまっても問題がなかった。だって、十一姉妹だったんだ。一人余る。一人生き残る。それがクゥだ」

「あ、あれ。何番、私は何番なの……??」

「番号にこだわるならそうだな。クゥにかけるなら、空集合って事で零でいいだろ」

「零? 零って私? えっ??」


 千年前の儀式“十姉妹”の失敗を詐称する。

 儀式“十一姉妹”として上書きして修正。エンドロールに突入していた世界の黄昏を取り除くと共に、真性魔王の発生条件たる十の姉妹という数値を破綻させる。

 クゥ達姉妹はもう魔王ではない。

 世界を輝かせる次代の太陽だ。


==========

階級昇華クラスチェンジ詳細


儀式“十一姉妹”の成立により、G型主系列星よりK型主系列星にクラスチェンジ成功しました”

==========

▼クゥ → 偽名、零

==========

“ステータス詳細

 ●陽:0 → 0.001”


“職業詳細

 ●太陽神(G型主系列星)(Sランク) →(階級昇華クラスチェンジ)→ 太陽神(K型主系列星)(初心者)

==========


「今更、なんでよッ。なんでこんな酷いッ!!」


 世界を救うためとはいえ、俺はクゥのアイデンティティを失わせるという悪事を行ってしまった。宣告していたとはいえ、こんな事、人間性を失っていなければできなかった。

 だが、本当に謝るべきはここからだ。

 まだ世界は救われていない。新生したばかりの太陽神には潤沢な燃料を有する実体が足りない。核融合を続けるための元素が不足してしまっている。それを用意してやらねばならない。


「さあ、続けよう、クゥ」

「……これ以上、何をしようって?」

「食事を続けよう。クゥが正気になるまで、俺を喰べ続けるんだ」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
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 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
食わず嫌いする子の口に暗影
次回!正気を取り戻すにつれて食べるのを拒否しようとする十姉妹V無限増殖するS無理矢理自分を食べさせる(直球)御影! ファイ! なお十姉妹に逃げ道はないものとする(絶望しながら食べ尽くすがよい?) ?…
最初からついてきた人身供養がここで輝くの熱い
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