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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第二十章 真性魔王、十姉妹
230/236

20-6 人間縛りの解除


「ぁ、アアアアアアアア!」


 また別の姉妹の頭が爆発する。

 きっかけは間違いなく御影君の頭を食べたからであるが、幽世かくりよ関係の呪いならばともかく、頭部爆発のような直接作用のある呪いが養分に含まれていそうな男ではなかったはずである。

 火薬でも頭の中に仕込んでいたのか。

 いや、普段から核融合している恒星の化身たる姉妹を爆破するなど普通ではない。反物質でも飲み込んでいたのか。


「痛ぅ、頭が痛くて細かく考えられない。これも症状だけど、何をしてくれたの、御影君」


 頭が爆発するくらいなので頭痛くらい当たり前だろうが。

 公転による酔っ払いも継続している所為で嘔吐感も覚えており、何が何やらさっぱりだ。


「キャああああっ」


 またもや姉か妹の頭が爆発する。

 吹っ飛んだ姉妹が溺死したみたいにプカプカ恒星核を浮遊している。その内、復活するだろうがそれまでは思考力のない死体みたいにただよっているだろう。


「本当に、何をしてくれた。顔に穴の開いた半端な徒人がッ」


 姉妹を爆破される怒りが頭痛や嘔吐感を忘れさせる。

 徒人のフリをしている詐欺師のような男の事だ。絶対に詐欺のような手段を用いているという信頼がある。

 旅の中で御影君が用いたスキルに類似するものはなかったか。

 あるいは、敵として戦った妖怪が使っていなかったか。救世主職の節操のないスキルか、御影君の殺した相手を召喚する罰当たりな能力で実現している可能性がある。


「伍の子、分からない?!」

「焦らせないで」

「このグズ! 早くして」

「黙れ、愚妹。頭爆発して死んでなさいよ」


 愚かな姉妹が爆発する中、ふと、脳裏に浮かぶ旅の思い出。

 そういえば……どこかの州の壁村で似た経験があったような。妖怪大将が同意により発動する宝貝を用いて村人を虐殺していたのを思い出す。思い出すと村娘でなくなった己を自覚してしまって、何故か悲しくなったり死にたくなったりするが今は関係ない。

 あの時は特有な臭いをキーに頭が爆発していると誤認させて、頭を爆発させていた。

 特殊な臭いは特にない。核融合反応と重元素の臭いしかしていない。


「ねぇ。姉妹はどれだけ残っている?」

「弐と参と肆、伍と陸と捌」

「もう半分近く……」


 散らばっている破片が多くなっているのも納得だ。姉妹の約半分がやられてしまった。


「御影君は敵だった妖怪の宝貝を使っている。嘘の起爆要因を信じ込ませて爆発させる詐欺師にぴったりの宝貝よ」

「嘘の起爆要因は頭痛――ァ」


 愚かな弐の姉の頭が爆発四散。迷惑だが御影君のトリックを把握できた。


「頭痛を引き起こしている方法は?」

「……私の緊箍児きんこじをいつの間にか盗まれている。手癖の悪い」


 矯正用の宝貝を、頭痛を起こすためだけに使われた。

 どのタイミングで奪われたのかは分からない。が、頭部爆発が呪いのたぐいではなく御影君の罠である事が確実になった。

 食い散らかして顔の穴の部分しか残っていない御影君は本物ではない。近くにいる。果たしてどこに。


「いちー、にー、さーん」

肆姉よんねぇも御影君を探して」

「よーん、ごー、ろーく」

「ねぇ、探してって」

「うーん? 数が合わない?」


 漂っている姉妹を指で差しながら数えている肆が首をかしげている。

 無事な姉妹は五。漂っている姉妹は六。正しく十姉妹揃っているのに何がそんなに気になるというのか。



「――って、一人多いじゃない?!」



 復活中の姉妹に対して核融合爆発を放った。無慈悲であるものの、姉妹に『擬態』している御影君をあぶるためのいたし方ない犠牲である。


「完全にだましてくれた! やるじゃない、御影君」


 信じさせる必要のある宝貝を最初に信じる切っ掛けになったのは、最初の姉妹の頭部爆発だった。誰かの頭が最初に爆発しなければ誰も頭が爆発するなど連想しなかった。


「最初に頭が吹き飛んだ姉妹は御影君がけていたわね」


 頭を吹き飛ばすのは宝貝の機能であるが、同時に、頭を爆破して顔を識別できなくしてくれる。『擬態』がバレる可能性を低くする効果もあった訳だ。なかなかやってくれる。



「――狼と徒人って最低な遊戯があったな。あれを企画してくれたのは白骨婦人だったが、今にして思えば、白骨婦人は悪性変異したクゥの姉妹だったという訳だ」



 頭脳を失い漂っていたはずの一人が動いて、核融合爆発を片手で受け止めて奪い取る。


「ええ、陸の子のお遊びだったわね」

「あの時の狼と徒人の勝敗はあやふやだったが、結果は狼と人間、両陣営の負けだった。狐やジャッカルに相当する第三勢力のクゥを見過ごしていた所為だ」

「それが何?」


 顔に穴の開いた姉妹が不気味に笑う。



「リベンジマッチだ。姉妹の中にまぎれ込んだ俺を見つけてみせ――」

「――黙れ」



 妖怪職の『擬態』スキルを自分の手足みたいに使う御影君を黙らせるために、再度の核融合で吹き飛ばした。

 どんなペテンを使ったかは知らないが、今度こそ木っ端微塵である。

 私達には姉妹の絆がある。赤の徒人ごときの猿真似で騙せるような生半可な絆ではない。

 生来の魔王として誕生し、将来の別離を予定され、世界継続のたきぎとして見られてきた私達姉妹に化けられるなどと。そんな勘違いをされただけでも殺意が沸く。


「いつまでも寝ていないで、早く起きなさい」


 頭部を失っていた姉妹達へとささやいた。

 たったそれだけで自然治癒を果たした姉妹達が立ち上がって……立ち上がって……?


「……なんか、多くない?」


 恒星核の中で顔を上げたのは百を超える姉妹の顔。私達ってこんなに大姉妹だったっけ。


「アンタ、『分身』と『擬態』した御影君でしょ!」

「アンタこそ、騙されないから!」

「アンタ等どっちも偽者でしょうがッ」


 どう考えてもおかしい数の姉妹がいる。隣同士で偽者と言い合っているものの、割合を考えれば偽者同士で糾弾し合っている可能性が高い。これでは姉妹の中に御影君がいるのではなく、御影君の中に姉妹がいるという方が正しい。


「待って。これ、本当に御影君なの??」


 『分身』スキルの悪用であるのは間違いないが、数が多過ぎる。『魔』の消費量的に分身体の生成は十体が限界のはずである。明らかに限界を超えた運用だ。

 いや、数を許したとしても……『分身』はあくまでコピー生成スキルに過ぎない。精巧なコピーであろうとも本人ではない。だからこそ身代わりとして使い潰せるのだ。

 だが、御影君の分身には明らかな自我を感じる。

 御影君のソレは本当に『分身』なのだろうか。


「いや、最悪『分身』でなかったとしても問題ない。問題なのは……自我のある己を御影君は簡単に使い潰してしまっている」


 太陽系で最も高熱な場所にいながら背中がゾクりと冷える。

 初めて御影君に対して恐怖を覚えた。


「み、御影君は後っ。先に黄昏世界を滅ぼし――」

「恐怖を覚えたな、クゥ? ようやく『魔王殺し』が効いたな?」


==========

“『魔王殺し』、魔界の厄介者を倒した偉業を証明するスキル。


 相手が魔王の場合、攻撃で与えられる苦痛と恐怖が百倍に補正される。

 また、攻撃しなくとも、魔王はスキル保持者を知覚しただけで言い知れぬ感覚に怯えてすくみ、パラメーター全体が九十九パーセント減の補正を受ける”

==========


==========

▼十姉妹

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“ステータス詳細

 ●力:65535 → 655

 ●守:65535 → 655

 ●速:65535 → 655

 ●魔:33115894991898079022/9223372036854775807(黄昏) → 331158949918980790/9223372036854775807(黄昏) 

 ●運:0

 ●陽:0”

==========


 違う。徒人ごときに恐怖など覚えない。救世主職の対魔王権限に身がすくんだだけならまったく怖くはない。

 文書化されたパラメーターが99パーセント削減されようとも、非文書化部分の太陽神の権能はかげらない。


「『魔王殺し』が効いたのは、俺達の内のたった一人分か? それとも、この場にいる俺全員分か?」

「……え??」


 姉妹の偽者が一斉に私に視線を向けた。


「ここに俺が百人いるなら、『魔王殺し』も百倍効かなければならない。そうじゃないか。――重層『魔王殺し』発動」


==========

“ステータス詳細

 ●力:655 → 0

 ●守:655 → 0

 ●速:655 → 0

 ●魔:331158949918980790/9223372036854775807(黄昏) → 0/9223372036854775807(黄昏)

 ●運:0

 ●陽:0”

==========


 いくら何でもパラメーターオール0はマズ過ぎる。

 膨張して黄昏世界を飲み込まんとしていた恒星本体も明らかに縮小してしまう。

 ようやく本気で恐怖した。誤爆覚悟で権能を乱発して正体不明のナニかの排除を実施する。


「遅過ぎやしないか、クゥ? 村娘だった頃のクゥは分かっていたから俺が仮面を取らないようにしていたはずだろ?」

「黙れ黙れッ、世界の異物! 徒人でも救世主職でもない正体不明ッ」

「いつも言っていただろ、クゥ? ――深淵よ。深淵が私を覗き込む時、私もまた深淵を覗き込んでいるのだ」


 偽者を潰せばそれだけ『魔王殺し』の負荷が減るはずだというのに、まったく復調しない。

 というか偽者が減っていない。どこからか供給され続けている。


「どうしてっ? どうしてッ!」

「化物、このッ」

「恒星内部は私達の絶対領域なのよ。それなのに?!」


 酔い、頭痛、恐怖がミックスされた私達は、ただただ恐慌状態で権能を乱射する事しかできない。





 十姉妹に落ち度があったとすれば、ただ一つ。

 俺を恒星に招いた事だ。惑星上で戦うならば俺も惑星の安全を考えて人間の枠内で戦ったというのに、宇宙で戦うならば人間のタガを外してしまえるではないか。

 人間である事のルールを除外すれば、恒星の核融合を避ける事など造作でもない。

 十姉妹の領域たる恒星核にあっても、十姉妹の権能のおよばない領域が存在する。


「『分身』発動っと。更に『分身』発動っと」


 十姉妹が喰い残した俺の顔の穴の内部にて、俺は分身を大量生産中。生産した分身体は『暗影』で飛んでもらう事で穴が安全地帯になっている事を十姉妹に気づかせない。


==========

“ステータスが更新されました


 ステータス更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『獅子身中のホーキング星』を取得しました”

==========

“『獅子身中のホーキング星』、恒星内部にブラックホールがあるかもしれないスキル。


 恒星内部に極小の原始ブラックホールが存在するというモデル。

 恒星の権能は原始ブラックホールに届かない。

 原子ブラックホールのサイズ感次第で、恒星の赤色巨星化は回避される――ブラックホールの成長による放射で世界は熱せられるため、世界が救われるとは言っていない”

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
日本神話的には黄泉の穢れを落とした結果生まれたのが太陽神と月神なんだよね つまり人間をやめてブラックホールで黄泉そのもの疑惑のある御影(あの仮面って黄泉比良坂の岩か?)は義和と同じく君たちの親なのだよ…
顔の穴、穴は穴でもブラックホールだったとは...確かに覗き込んでも暗闇しかないからブラックホールとも言えなくもない。 いや、人の顔をブラックホールに見立てるとか怖すぎる。魔王殺しなくても怖いわ!! …
さすが正体不明  相性の良い黄昏世界で妖怪変化のスキルを習得したのが痛すぎる 嘘成功率とそれによる魔の回復があると正体不明と擬態を合わせると実質無制限だからな
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