20-5 ご馳走様
始めてしまった決戦で先手は取れた。先手を取れなければその時点で終わっていた綱渡りを制した。
伊達に黄昏世界を一緒に旅していた訳ではない。クゥが乗り物酔いに弱い女であるのは知っていたので、遠慮なく攻めさせてもらった。
正体が太陽神だと分かれば酔い易い体質についても納得だ。惑星系において不動の星たる恒星は、他力によって動かされる事にまったく慣れていない。
「ところが実際には恒星も公転している。そう自覚させてしまえばこの通りだ。自らが世界の中心だとふんぞり返っていた者には辛かろう」
酔っ払いが手洗いに直行する寸前のごとく恒星内部が脈打っている。我が術中に見事はまってくれたものの、その流れに押し出されないように注意しなければ。
十姉妹が屯している地点までは目と鼻の先だ。
なお、宇宙の距離感での話である。実際には月と地球以上に離れているだろうな。
「今いくぞ、クゥ」
宇宙規模の戦いにおいて俺に不足している機動力を今補う。
……クゥの力で!
「『武器強奪』発動。神罰執行、“スピキュール”!」
流石は恒星の体内だ。その辺りに平然と漂っている太陽神の権能を掴み取ると、そのまま両手を受け皿の形にしてレーザーを発振させる。
十本の指を内側に曲げて、十本の熱線を掌の内側に集める。
「更に『レーザー・リフレクター』発動」
手の受け皿の中でレーザーを反射させて収束率を上げる。十姉妹のいる恒星核の輝きにも負けない小さな恒星を手の内に作り上げると、薬指一本をそこへと突っ込み、指先の『レーザー・リフレクター』を解除した。
指先が爆発する。肉体を構成する原子が一気に加熱された結果の爆発だ。
「アァあああッ!!」
当然のごとく痛い。手榴弾を手の中で爆発させた方が数億倍マシな爆発が起きている。
指先の皮や爪はあっという間にズリ剥けて、鑢がけされるように指が着実に短くなっていく。
なかなかの拷問であるが自傷行為を継続するしかない。
爆発力はそのまま推進力に置換される。
受け皿の形を作った両手はロケットのノズルであり、投じた指は燃焼材だ。乱暴なレーザー推進、下手クソな〇めはめ波で直進する。
「言う事を聞けえぇェッ!!」
訂正、まったく直進できていない。固定されていない指から放っているレーザーなのでミリ秒未満単位で焦点が変化して推進方向が変化する。恒星核へとは向かっているものの、酒一樽を丸のみした蛇のごとき蛇行具合だ。
あたふたしている間に薬指の先が摩耗し切る。次はもう片方の薬指を投じよう。
「少しは慣れてきたかァッ」
嘯く事で現実を理想に近づける。実際、多少はまともに接近できているか。
『うっぷっ。御影君が近づいているわ』
『誰か迎撃しなさいよ。ウッ!』
『アンタがしなさいよ。うっぷ』
十姉妹は未だに立て直せていない。背中越しに姦しい姉妹の押し付け合いが聞こえている。この間に近づけられるだけ近づくか。
『そんなに乙女にゲロ吐かせたいなら、神罰執行、“CME”、ウッ!!』
汚い衝撃が恒星核からやってくる。ただの嘔吐が天体現象になるのだから太陽神とは役得である。
直撃すれば恒星表面まで吹っ飛ばされる攻撃であるが……俺に対しては悪手だぞ。
レーザー推進を解除して掌で少々ばっちぃ衝撃波を受け止める。
「『武器強奪』発動!」
『そんなの奪わないでよッ?!』
「こっちの方が使いやすそうだな。使わせてもらおう」
『いやァッ! 姉妹のゲロがッ』
『ゲロ言うなぁっ』
奪った衝撃波を即時逆方向へと放って推進力とする。指が痛くなくて速度も申し分ないのに、なんだか嫌だな、これ。
『下手な攻撃は奪われる。御影君って敵に回すと厄介だわ』
『どうするのよ?』
『御影君が奪うには手を向ける必要がある。全方向からの飽和攻撃には対応できないはず』
『なるほど……だったら、早く迎撃しなさいよ』
『まだ気持ち悪いのよッ。姉妹なら察してっ』
人伝てには姉妹仲良さそうな感じがしていたが、リアルな多姉妹なんてこんなものだろう。
半分以上は近づけた。もう少しで手が届く。
『お遊びは終わり。神罰執行、“フュージョン・イグニッション”』
明確に俺を狙った核融合爆発の前兆が発生する。
それも、同時に十。
『姉妹達。一姉妹、一つの権能に集中して執行する。それなら可能でしょ』
『そのくらいなら、神罰執行、“フュージョン・イグニッション”』
『一つくらいなら。神罰執行、“フュージョン・イグニッション”』
立て続けに発生する核融合反応。
『分身』を十体生み出して対処していくが、『分身』スキルは『魔』の最大値の一割を消費してしまう。これで『魔』の残量はゼロ。
十姉妹の同時攻撃にギリギリ対処できたものの、次はない。
分身体が掴んだ権能を放出すれば再利用はできるものの……分身体を消した。
『あら、いいの、御影君? 奥の手のそれを捨て駒にしちゃって?』
「奪った権能。範囲が広過ぎて放出した瞬間、俺まで巻き込まれる」
『最大射程よりも威力圏が広いものねぇ。太陽神たる私達にとってはそよ風だけど、御影君は違うものねぇ』
俺がクゥの酔い易いという弱点を知っているように、クゥも俺の弱点を知っている。
攻撃も防御も移動さえも、すべてが『暗器』頼りだという俺の弱みを知られてしまっている。単純に言って多方向からの同時攻撃に弱い。
『次で決めるわよ、姉妹達。次の同時攻撃を御影君は防御できない』
『原型を留めてくれるかしら?』
『『正体不明』なら、少し核融合で焦がしてしまっても食べられるわよね?』
『無くなったら、その時はその時よ。何か企んでいる御影君をこれ以上接近させられないわ』
酔っている十姉妹の再攻撃は早くはないが、俺が十姉妹に到達するよりも十分に早い。
『できれば喰べたいから耐えてね、御影君。神罰執行、“フュージョン・イグニッション”』
『神罰執行、“フュージョン・イグニッション”』
『神罰執行、“フュージョン・イグニッション”』
『神罰執行、“フュージョン・イグニ――』
『神罰執行、“フュージョ――』
『神罰執行、“フ――』
『神罰執――』
『――』
御影君は、しっかりと頭だけ原型を留めてくれた。さすがは『正体不明』。
はたしてそのお味はどんな珍味なのだろう。
「手洗いは済ませた? 姉妹達」
「はーい」
「うーん、香ばしい人身御供職の匂い。徳の高い高僧にも負けない味がしそう」
恒星体内の極限空間を漂流する事しかできなくなった御影君は、酸欠の魚みたいに口をパクパクさせている。すごい。スキルも何も使っていないのに、徒人が高圧高温空間で顎を動かせるなんて、活きがいい。
「もしかして、御影君を食べたら私達、寿命が増える?」
「えぇー。今更―?」
「『黄昏』状態が解除されて、お利巧になっちゃうの、私達?」
「姉妹が揃っているから正気に戻る事はないと思うけど。誰か先に試してよ」
ご馳走を前に姉妹が躊躇う中、率先して手を挙げたのは私。
大事そうに生首を抱えて、最愛の人と接吻するように口と口を合わせる。
「伍の子ってだいたーん」
そうやって恋人同士のごとく舌と舌と絡めると……伸びた舌を嚙み千切って咀嚼した。うん、思っていた通りここが美味しい。
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“ステータスが更新されました(非表示)
ステータス更新詳細
●人身御供(Aランク)(非表示) → (Sランク)(非表示)
●人身御供固有スキル『捕食者寿命+一〇万年』(非表示)を取得しました”
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“『捕食者寿命+一〇万年』、生贄なれば人類発祥程度の寿命を延長する栄養価が含まれていて当然なスキル。
本スキル所持者を捕食した相手の寿命を十万年延長する。
肉体に含まれる栄養価は高濃度であり高潤。物理的な限界を超えた栄養を秘める。
ここまでの栄養価を秘めるとなると、正しく味を判別可能となるのは上位存在たる神格、神性、真性悪魔、竜族に限定される。とはいえ、本質的には寿命のない上位存在にとってはただただ味の良い食材に過ぎない”
“取得条件。
人身御供をSランクまで熟成させる”
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「――なーんだ、たったの十万年。億年輝く太陽神にとっては、残念な効果ねぇ。これではとても正気に戻れない」
「でも、美味しい?」
「うんっ! 皆も食べて食べて」
美味しいとだけ分かった御影君を姉妹全員に振る舞う。ほほ肉を削いで食べているのは壱姉。脳みそをほじくり返しているのは拾の子か。
「ちょっと取り過ぎ」
「耳は頂戴」
ムシャムシャ皆で食べてご馳走様。
これまで食べたものの中で一番美味しかったよ、御影君。
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▼十姉妹
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“●レベル470000000”
“ステータス詳細
●力:65535
●守:65535
●速:65535
●魔:33115894991898079022/9223372036854775807(黄昏)
●運:0
●陽:0”
“スキル詳細
●レベル1スキル『個人ステータス表示』
×仏神固有スキル『対魔』
●魔王固有スキル『領土宣言』
●魔王固有スキル『低級モンスター掌握』
●魔王固有スキル『異形軍編制』
●魔王固有スキル『中級モンスター掌握』
●魔王固有スキル『世界をこの手で支配する』
●妖怪固有スキル『擬態(怪)』
●太陽神固有スキル『権能(太陽)』
●太陽神固有スキル『惑星系形成』
×太陽神固有スキル『ハビタブルゾーン』(黄昏)
●太陽神固有スキル『黄昏』
●太陽神固有スキル『週末装置(赤色巨星化)』
●管理神固有スキル『天啓』
●管理神固有スキル『世界システム調整』
●実績達成ボーナススキル『耐日射(小)』
●実績達成ボーナススキル『調理(環形動物門貧毛綱限定)』
●実績達成ボーナススキル『乗り物酔い(極)(公転強制)』
●実績達成ボーナススキル『好物(御影)』(New)”
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“職業詳細
●仏神(初心者)(無効化)
●妖怪(初心者)
●太陽神(Sランク)
●管理神(Cランク)”
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顔の穴部分だけが残っているけど、そこは流石に食べられそうにない。その内、消えるだろう。
「ふふ、ご馳走様」
「ご馳走様―」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様です」
「はい、ご馳走様」
「ご馳走様」
「お粗末様でした」
「馳走~」
「ご馳走様!」
「ご馳走でした」
「足りないけど、ご馳走様」
姉妹揃ってご丁寧に合唱したので、そろそろ黄昏世界を滅ぼして終わらせてしまおう。
「――あ、あれ。あ……キャアア?!」
突然、姉妹の一人が悲鳴を上げたかと思うと、髪の毛をクシャクチャにしながら蹲る。
どうしたのかと不安に思う私にも工具を突き刺したような頭痛が起きる。
訳も分からない内に、蹲っていた姉妹の頭が膨張。核融合の光と共に爆発した。
「御影君を食べた呪い?? まさかっ」
「あ、痛い。頭が痛い。……アアアア?!」
頭蓋の爆発は続く。隣にいた姉妹と、その向こうの向こうにいた姉妹の頭が爆発する。
今更、頭が吹き飛んだくらいで死ぬような私達ではないとはいえ、前触れなく頭脳中枢が爆破していく状況に大混乱だ。
「――――脳幹信管・爆雷符」




