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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第二十章 真性魔王、十姉妹
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20-3 十本目の矢を放つ

 艦橋というべきか分からないが、板となったナターシャが設置される小部屋の椅子に腰かけたまま二日を過ごした。

 眠るでもなく、かといって起きている訳でもない。コーヒーに垂らされたミルクが円を描いていくような夢と現実の境界線が曖昧な中で、思考を繰り返す。

 微睡まどろみの中にあって穏やかな……というには大粒な汗をひたいに浮かべている。


(『暗影』の連続使用で接近。……プロミネンスの炎は避けられない。地球を丸のみできる巨大な炎に対してはメートル単位の移動は無意味。俺は死んだ)


 明晰夢の中で数万度のプラズマに焼かれる己を見る。


(『暗澹あんたん』で宇宙の闇にまぎれて接近。……部分的には成功するが、やはりプロミネンスの範囲攻撃は避けられない。俺は死んだ)


 リアルな夢の中で再び炎上する己を見る。


(蟲星の『環境適応』スキルでプロミネンスに耐えるのは……有効。太陽の高熱高圧環境にも適応可。……だがスキルの時間切れにより圧壊。俺は死んだ)


 何度も夢でシミュレーションされる対恒星戦において連戦連敗。まともな勝負にすらならず、長く続いた夢でも五分が限界だ。恒星にとってはジャブ未満の片手を振る程度のプロミネンスに何度殺された事か。


(地の利は向こうにある。短期決戦で挑むしかない)


 それでも得るものはある。蜘蛛の糸のごときか細い攻略法を手繰たぐり寄せていく。


(攻撃させては駄目だ。常に先手を打ち続ける。それしかない)


 恒星の攻撃が始まった瞬間から対応に追われてそのまま詰まされる。常に相手の意表を突いて反撃すら許してはならない。それが必須条件だろう。


(それでも、俺に足りないのは機動力か)


 ただし、攻撃は長く続かない。体勢を立て直される前に恒星本体に到達する手段がなければやはり詰みだ。


(宇宙でも移動する手段があれば――)


 モンスターや妖怪とはエンカウントしている人生であるが、残念ながら宇宙怪獣とは戦ってこなかった。離職していながらも退職金代わりに使い続けている救世主固有スキル『既知スキル習得(A級以下)』でラーニングしているスキルの中に、使えそうなものはない。

 だからと言って、自前のスキルを『個人ステータス表示』で網膜に投影しても長距離移動に使えるものはなさそうだが――。


==========

“ステータスが更新されました


 ステータス更新詳細

 ●遭難者ヴィクティム(Dランク) → (Cランク)

 ●遭難者ヴィクティム固有スキル『遥か遠きは故郷』を取得しました”

==========

“『遥か遠きは故郷』、遭難者の望郷の念を強調するスキル。


 故郷から遠ざかる方向への見えざる力が働く。水が低きに流れるように、故郷から遠い方向へと移動し易くなる。

 左右の道で棒を倒せば故郷から遠い方向へと倒れ、海に漕ぎ出せば海流は故郷とは反対方向に流れる”


“取得条件。

 僻地へきちでの遭難を長期に続け、遭難者ヴィクティム職に親しむ”

==========


 ――いや、遭難者ヴィクティム職さん。俺の故郷は地球だから、黄昏世界だったらどの方向に向かってしまうんだよ。




“――予定宙域に到着した。最終加速に入る”


 ナターシャに告げられると共に両目を開く。

 外界宇宙を投影するモニターを埋めているのは、ブクブクに煮えたぎった恒星。宇宙の光景だというのに宇宙の光景だとは思えない。

 呼吸で胸が膨らむかのごとく、赤い恒星は明らかに伸縮を繰り返している。内側から膨らんだエネルギーが巨大な泡となっているが、その球形の中に何十、何百の黄昏世界が入ってしまうのだろうか。


“第一惑星の公転軌道まで既に膨張している”

「水星がもう飲み込まれたっ。黄昏世界は大丈夫なのか!」

天竺スカイ・バンブーのように熱防御のある場所は大丈夫なはずだが、地上は既に摂氏三百度を超える。人の住める土地ではない”


 嫦娥じょうがからの連絡はないのは無線封鎖しているからであり、既に滅んでいるからではない、と信じたい。



『来たっ。あはっ、ようやく来た。待ちくたびれて、つい、惑星系全体まで膨張しちゃう所だったのに。あーあ、残念!』



 無線封鎖の甲斐かいなく、クゥの声が脳内で響いた。比率でいえばウィルス未満なこの船を目ざとく発見したらしい。


『御影君。さっそく、遊びましょうか。救世主職なら魔王を倒さなくちゃね。ふふ』


 恒星の各所よりプロミネンスが噴き出し始める。火炎放射器を使って蚊を始末しようとする過剰行動に苦笑いだ。


“どうする!?”

「今更止められないだろ。加速を続けるんだ」

“脱出は?”

「まだだ。限界まで居残る」


 サイズ感は違えど基本的には矢である船は真っすぐに飛ぶのが一番速い。というか速過ぎる。最大加速により恒星表面まで八分足らずで到達というのだから、地球と火星の間を年単位で移動する技術しか持たない地球人類としては驚愕だ。

 ただし、規格外な動きを見せているのは恒星サイドも同じ。恒星の磁力線に沿って伸びるはずのプロミネンスが腕を伸ばすように船を狙ってきた。


「回避できるか?!」

“不要だ。太陽神を射殺す船だぞ”


 金星付近まで後退させた視点からであれば手の形をしたプロミネンスと船が衝突したように見えただろう。仏のてのひらの上で猿がもてあそばれるスケール感なので、船に乗った俺達にはプロミネンスの形は分からない。

 溶けて蒸発するべき灼熱具合であるが、かき消えたのはむしろプロミネンスの方であった。


『痛っ?!』


 本当に痛覚が通じている訳でもないだろうに、他のプロミネンスも動きを止める。が、すぐに船の進路上へと向けて伸びる。恒星表面からも新手が伸びて、合計十九本――消えた一本を合わせて二十本――が捕縛に動く。


『その船は……ッ。いままわしい矢をまだ残していたか! そういう所だから、救世主職ッ!!』


 言わんとするところは分かるが、現在進行形で世界を滅ぼそうとしている恒星だけには非難されたくはない。

 想定外の事態のために船に居残っていたものの、仕事はなさそうだ。何事もなくプロミネンスの手を次々と突破していく。


“そろそろ脱出だ。ブリッジごと切り離す。そのままでいろ”


 ナターシャの合図がきたのでベルトを締めて椅子に深く座る。


“パージッ!!”


 船の中央部だけが切り離されて逆噴射すると急速離脱を開始した。

 前進していく船の大部分は、鏃型が本当に矢の鏃となって恒星へと向かった。

 すべての恒星の手を貫通し、焼失させて、神殺しの矢は赤く煮えた星の表層へと突き刺さる。奥底の核へと向かって更に突き進む。

 数千年ぶりのやり残しを終えるべく、恒星の中心を穿うがつのだ。





『――――はは、良かった。これで予定通り、私は御影君に殺されてあげられる』





 全部分かっていた。

 いや、全部分かっていたのだけど。

 自分で自分に緊箍児きんこじを使って記憶や権能(もろ)々を封じていたのだけど。

 無断で宝物庫よりくすねて遊んでいた遊具が身を助ける事になるとは思わないじゃない。聞き分けの悪い妹や、ちょっとオヤツをくすねた姉のイタズラを禁止するのに使って遊んでいた玩具おもちゃが、自分の死骸のそばに落ちていたのは幸運だったのだと思う。あ、いや、本当に幸運なら姉妹惨殺されたりしないか。

 どうしてか分からないけど蘇った私は、女神の娘だから襲われたのだと危惧した。だから、自分で自分をもっとか弱い人間の娘であると枷をかけた。

 結果は悪くなかった。

 義父と義母も私を人間の捨て子だと勘違いしてくれたし、私も壁村で安全に生活する事ができた。一定年齢まで育つと妖怪に首途しゅとされる世界だと知るまでの安全だったけれども。

 ともかく、私は本気で壁村の村娘を演じていた。名演だった。正直、自分が徒人ただびとだと思い込むくらいに暗示がかかっていた。

 でも、そんな生活も御影君の所為で終わった。

 あ、うん、嘘。ちょっとした八つ当たり。

 自分が女神羲和の娘の一人だと思い出し始めたのは、姉妹の死骸の黒八卦炉の宝玉を手に持った時だ。十姉妹としての悪性がちょっと加算された所為もあるのか、そういえば自分、神性だったわって思い出したのでした。

 で、どうして姉妹諸共殺されたのかも大体把握した結果……隣にいる男、救世主職じゃね。あ、やべっと思った訳。

 殺神鬼が隣にいるってちょっとした恐怖だったけれども、もっと困った事があったのよ。

 御影君、私が矢が怖いって言ったら、捨ててくれたのよね。

 ……うん、別に悪い救世主職でもないのかなって。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
クゥが普通にいい子な村娘で辛い... 御影まじでなんとかしてくれ(懇願)
一応仮にも地球型(?)惑星がそこにあるんだから、勘違いしたってしょうがないよね♪って遭難者くんが言ってる気がする……気のせいかな……?
枷を掛けなかったらそれで太陽新生も上手くいって大団円だったのでは……?メンタルがボロボロな后羿君はともかくとして
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