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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十七章 天へと届く虚言の城
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17-12 天竺防衛の行方

 瓢箪ひょうたんに吸い込まれていったのは結局、銀角だったのか、金角だったのか。

 嘘に嘘を上塗りした結果、もう他人からでは何が真実だったのか分からない。真実が分かるのは残された金角だけだろう。

 弟が犠牲となった事により瓢箪の吸引が停止して、命を救われた金角。


「おのれ、おのれェエエッ!!」


 肉親を奪われて激高する金角は、血走った目と牙をき出しにしながら……後方へと跳んでから背中を向けた。

 行動の意図が分からず身構えてしまったが、金角が軌道エレベーターの破損口から外へと跳んだ瞬間に撤退しているのだとようやく気付く。心よりの憎しみの籠った目線を向けながら理性的に逃走を選択するなどとは思わなかった。


「お前等には必ず復讐してくれる。その日まで待っていろッ!」


 犬死よりも生き延びての復讐を選択した金角。呼び寄せた筋斗雲きんとうんに乗り込んで高速に遠ざかる。

 ここで逃がすと面倒な事になるのは間違いない。


「紅、狙えるか!」

「任せろ。――神罰執行“スピキュール”」


 遠距離攻撃はアサシン職が不得意とする所であるが、紅はその限りではない。

 視線がそのままレーザー光となるスピキュールは多用可能な必殺技だ。一都市の年間消費エネルギーをまかなえる光量も優れる――何故か耐える化物が多いものの――が、より評価するべきは命中精度だろう。紅はきっちり毎回命中させている。


「お前の弟のかたき討ちの前に、桃源ピーチベースの敵討ちをさせろや!」


 ほぼ光速の速さでレーザー光が逃走中の金角の背を貫く――、


「弟のためにも、俺はまだ死ねんッ」


 ――瞬間、黒い炎が金角の背後で広がり、レーザー光の行く手をふさいだ。屈折されたスピキュールは明後日の方向へと飛んでいく。


「ぬっ?! 黒八卦炉が願いを叶えたのか? しめた」


 黒い炎に守られた金角は無事に逃走を続けて、丸い惑星の地平の先へと消えてしまった。




 兄弟妖怪の片方を逃してしまったのは大きな痛手だ。それも、致命傷にいたる傷になる可能性が高い。

 軌道エレベーターを解放するという目的は果たせたものの、それだけでは不十分。金角と銀角の排除を急いだ理由は、天竺スカイ・バンブーが神殺しの矢を隠し持っている事実を御母みおも様に垂れ込まれないように口封じするためだった。


「金角か銀角か分からないが、逃げたアイツ、絶対に御母様にチクるぞ」


 娘を亡きものにした凶器を隠し持つ天竺スカイ・バンブーに対して、御母様がどういう反応を示すかは簡単に想像できる。究極生物さえ燃やす恒星の熱が月を蒸発させるのは確定だ。

 未来の惨事については未来で考える。

 今は直近の惨事について対処しよう。


「御影が来たって事は、混世魔王は対処できたのか?」

「いや、まだ終わっていない。ユウタロウに任せている」

「ハ? 混世魔王があのユウタロウって野郎じゃねぇのか??」


 紅が混乱するのも理解できるが事態は流動的である。実際に、ユウタロウがクドリャフカから天竺スカイ・バンブーを守っている。


「来たばかりで悪いがすぐに上に戻る」


 黒曜と紅の二人は正面戦力なので援軍として連れていくべきかとも考えたが、悪霊クドリャフカはきっと戦いでは止められない。どれだけダメージを与えてもクドリャフカは宇宙を飛び続ける。

 クドリャフカに対しては、地球人類の端くれたる俺が決着をつけるべきだろう。


「黒曜と紅は休憩だ。二人共息が上がっている」

「ぱぱも休むべきだろ」

「隠れている間に多少は休めた」


 じぃーと紫の瞳が俺の仮面を見てきた。言葉がなくとも通じるとはこの事か。

 黒曜に疑われるくらいには俺も消耗している。彼女が心配になるのは当然であり、無理にでも付いてくる様子だったのだが……タイミング良く白い馬体が割り込んできた。


玉龍ぎょくりゅう? 隠れていたはずなのに来たのか」


 軌道エレベーターの損壊具合を見るに、頂上への直行便がうまく動く保証はない。飛べる馬たる玉龍に乗って宇宙船部分まで戻るのがベストである。玉龍が自発的にやってきてくれたのはありがたい。

 ……ありがたいが、現れたのは玉龍だけだ。一人足りない。


「クゥはどこに。まさか、食べたのかっ」


 抗議するように玉龍が尻尾で背中を叩いてきた。魚類的というか爬虫類的というか、馬っぽくない尻尾が振られた威力は想定よりも大きくて痛い。


「置いてきたのか?」


 馬なので言葉を発しない。が、誤魔化すように長い顔をそむける玉龍。やはり、腹がいたから村娘を食ったのか、お前。


「すまないが、黒曜はクゥを探してくれ。救出はできたんだが、気絶していたから軌道エレベーターの外壁の影に隠してきたんだ」

「……はぁ、仕方がない。あの村娘を一人で放置できないからな」

「おい、御影よぅ。俺はどうするんだよ」

「紅は銀角討伐と金角の逃亡を天竺スカイ・バンブーの兵士達に報告を……ちょうど来たな」


 救出部隊たるカエルの兵士達も戦闘終了と共に現れた。軌道エレベーター内に取り残されている同胞の救出や破損状態の確認等、やる事は多い。


「たく、すぐに追いかけるからな」

「紅が到着する頃には終わらせておく」


 天竺スカイ・バンブー防衛戦は既に終盤だ。悪霊クドリャフカを調伏ちょうふくできるか否かで結果は変わるだろうが、終わりはもうすぐだ。





 ほうき星の尾が走る。

 違う。たった一匹で宇宙を周回する地獄を味わわされた犬の尾が、真空宇宙を駆け巡っている。

 無茶苦茶な軌道だ。片足を斬られた所為で安定性を欠いている。天竺スカイ・バンブーの宇宙船ブロックを狙いながらも三回に一回は大きく軌道がズレてしまい失敗してしまっている。

 それでも、悪霊クドリャフカは周回を止めない。止められない。

 何が彼女をそこまで駆り立てるのだろうか。

 人類への復讐という分かり易い理由だけで、彼女は夜空を飛び続けているのだろうか。



「次は私が受け止めますから! タイミングだけ教えてくださいっ」

「お前では無理だ。前に出て邪魔をするな」



 宇宙船の防衛をになうユウタロウが、周回してきた悪霊クドリャクカを『力』で弾き返す。これで連続五回目の防衛成功だ。

 混世魔王の気配が分かりタイミングを計れるとはいえ、宇宙の速度で駆け巡る剛速球を受け止め続けた両腕の感覚は残っていない。皮膚は当然の事、指もどれだけ残っているか分かったものではない。

 ユウタロウの限界は明らかであるが、強情に盾として天竺スカイ・バンブーを守り続けている。スノーフィールドが代わりを務めようとするのをわずらわしく拒否するくらいだ。


「立っているのもやっとの癖に!」

「だったら俺の体を支えていろ」


 悪霊クドリャフカの執念深さも余程だが、ユウタロウの強情さも負けていない。

 もはやパラメーターやスキルの話ではない。感情の話になっている。


「この意地っ張り! どうしてそこまで」

「ふん、楽しいからに決まっている」

「楽しい??」

「そうだ。心のままに、後先を考えずに誰かを守れるなど幸せだ。このような体験は魔族は言うまでもなく、人間族すら得難いものではないのか」


 ユウタロウの言葉には偽りがなかった。『八斎戒』の宣言により嘘をつけなくなっている所為もあるが、生前の後悔が誰かを守りたかったという事実を盛大にバラされた手前、羞恥心など今更なのだろう。


「次が来る。俺の体を支えろ、女」

「スノーフィールドですわ!」

「そうか。そういう名か」


 ユウタロウの体格に負けない体を有するスノーフィールドは、カエルのゴムのような皮膚を密着させてユウタロウを支える。


「気持ち悪いでしょうが、我慢なさい」

「……であろうな。お前のような淑女が、オークなどに密着したくはあるまいて」

「……いえ、私の両生類の呪われた体が生理的に気持ちが悪いと。貴方の事ではなく」

「何をいう。お前のような偉丈夫な美女、世界をまたいでも居はしない。嘘をつけないから言うが、ドキドキが止まらん。俺がオークでなければ求婚か繁殖を申し出ていただろう」


 繰り返しになるがユウタロウは『八斎戒』の宣言により嘘をつけなくなっている。


「こんな鉄火場で! ば、馬鹿言わないでくださいッ」


 スノーフィールドは悲鳴染みた返事をした。が、クドリャフカが突っ込んできた所為でユウタロウは聞き取れなかった。

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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
鉄火場でラブコメが始まるとは...魔界でのこともそうだけでユウタロウってお姫様と相性いいよね。 玉龍に対してクゥを食べたのか?とか置いてきたのか?とか地味に信頼が無いのが笑える。 ここまで来てもまだパ…
 豚✕蛙という新ジャンル
本物優太郎を差し置いてフラグ立ててる! でもこっちももう本物ユウタロウなんだよね ややこしや
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