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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十六章 天竺は徒人が唯一助かる救済の土
189/232

16-8 月蝕

 宇宙に浮かんでいるだけの巨大な岩石。こう味気なく言い切ってしまうには特別過ぎる月が手中に消えた。

 感じていた地球の六分の一の重力も消えてしまい、おぼつかない宇宙遊泳が再び始まる。

 惑星環境を安定させるのに大事な衛星を消してしまって、惑星軌道に深刻な悪影響を与える事にならないだろうか。いやまあ、太陽に飲み込まれる直前の惑星の心配をしても仕方がないのだが。


“そんな環境問題の話ではないわッ。月を人が奪ったのだぞ?! 質量差を考えてみよ。何を仕出かしたのか本当に理解しているのかッ!”


 非難されてもな。実際に『暗器』スキルで格納できてしまったものは仕方がない。

 多少、片手が重く感じなくもない。二キロ米袋を持った時の感覚に似ているが、こんなのは『暗器』スキルで初めての感覚である。


「できそうだと思ったから、実際に試しただけなんだが」

“やれる事と、やっていい事は違うであろうがッ”

「そんな常識外れみたいな言い方されても」


 悪い事をして武勇伝を作った気取り。あるいは、法律に書かれていなければ何をしても問題ないと主張する異端者と同列みたいに言われるのは心外だ。

 戦っている相手の力の根源となっている依り代を奪い、戦闘を有利にしようとする行動はむしろ賢くなかろうか。


「実際にできるとは俺も確信していた訳ではない。試す機会もなかった」


 黄昏世界の地面に対してならもしかして……いや、それは多方面に多大な迷惑をかけてしまうので絶対に止めておこう。月よりも難しそうに思えるが、できそうだという感覚も同時にある。


“なッ。なァっ!”


 姿を見せない――見せたくても奪ったので無理――女神嫦娥(じょうが)が口を開閉している様子が何故か分かる。言葉が喉に詰まってうまく喋れていない。





 玉座より立ち上がった嫦娥は瞼を限界まで開く。

 眠り続ける御影に何か言いたそうにしているのに、適切な表現に悩んでいるらしい。


「御前、どうされましたか?」

「この男は何なのだ?!」

「御前!」


 スノーフィールドに呼びかけられている事にさえ気付いていない。嫦娥はそれだけ深刻な事態に直面してしまっている。


「幻術の中だからなのか。い、いや、それは違うぞ。そんな生易しい再現度ではない。まぼろしなれど小さな現実なのだ。幻術の中で起こりえる事は、現実でも起こりえる」


 月属性の神性ならではのシミュレーション能力だ。世界最高峰のスーパーコンピューター富岳を百台連結しても不可能なリアリティを作り出すなど容易い。

 さすがは神性と言うべき権能であるが、できる事をできるとたたえられて嬉しがる者はいない。遠回しな揶揄やゆにしか聞こえない。

 真に称えらえるべきは、本物であれ高度な偽物であれ、その中で現実に打ち勝った者の方だろう。



「――ふふ、遅蒔きながらにようやく、御影様の実力に気付かれましたね」



 ふと、嫦娥の口から嫦娥の声ではない言葉が発せられた。

 人間よりも高位の存在でありながら驚きが続き、嫦娥はただただ茫然ぼうぜんだ。


「この声はッ、体の本来の持ち主の?!」

「わたくしがどうして無抵抗に体の優先権を奪われたのか、不思議に思いませんでした?」

「どういう意味だ!」

「御影様がそこいらの救世主職と同格などという見当違いをあらためさせるためですわ」


 悪(だく)みに成功した月桂花が酷く綺麗な笑みを浮かべる。

 はかられたと知った嫦娥は焦燥感を表情に浮かべてしまっている。

 同じ体で忙しいにも程があるが、本人達が気にするところはそこにない。


「現代日本にはもっと端的な言い回しがありましたわね」

「なんだ??」

「御影様に、分からされて欲しかったのです。ふふっ」


 御影も異常であるが、月桂花も異常だ。ただの信頼感で御影が窮地におちいるのを見過ごしていたのである。たかが神性ごときをそこいらのゴブリンか何かと同じくらいだと勘違いしていなければできない所業だった。


「お前達は、何なのだ!」

「それを分かって欲しいのです。同じ月属性のよしみですわ。存分にご堪能くださいませ」





==========

▼御影

==========

“ステータスが更新されました


 ステータス更新詳細

 ●実績達成ボーナススキル『月蝕(ルーナ・イクリプス)』を取得しました”

==========

“『月蝕(ルーナ・イクリプス)』、月を分からせた者のスキル。


 月属性に対する圧倒的な耐性、および、月属性に対する圧倒的な特効を複合的に有するようになる。

 月に近い存在ほどに本スキル効果は高まり、月ともなれば服従は必定”


“取得条件。

 月を蝕し、分からせる”

==========

“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●アサシン固有スキル『暗器』

 ●アサシン固有スキル『暗視』

 ●アサシン固有スキル『暗躍』

 ●アサシン固有スキル『暗澹あんたん

 ●アサシン固有スキル『暗影』

 ●アサシン固有スキル『暗殺』

 ●スキュラ固有スキル『耐毒』

 ●救世主固有スキル『既知スキル習得(A級以下)』

 ●救世主固有スキル『カウントダウン』

 ●救世主固有スキル『コントロールZ』

 ●救世主固有スキル『丈夫な体』

 ●遭難者ヴィクティム固有スキル『エンカウント率減少(人類)』

 ●遭難者ヴィクティム固有スキル『スティル・アライヴ』

 ●人身御供ヴィクティム固有スキル『味上昇』(非表示)

 ●人身御供ヴィクティム固有スキル『捕食者寿命+10年』(非表示)

 ●人身御供ヴィクティム固有スキル『捕食者寿命+100年』(非表示)

 ●人身御供ヴィクティム固有スキル『捕食者寿命+500年』(非表示)

 ●実績達成ボーナススキル『エンカウント率上昇(強制)』

 ●実績達成ボーナススキル『非殺傷攻撃』

 ●実績達成ボーナススキル『正体不明(?)』

 ●実績達成ボーナススキル『オーク・クライ』

 ●実績達成ボーナススキル『吊橋効果(極)』

 ●実績達成ボーナススキル『成金』

 ●実績達成ボーナススキル『破産』

 ●実績達成ボーナススキル『一発逆転』

 ●実績達成ボーナススキル『救命救急』

 ●実績達成ボーナススキル『ハーレむ』

 ●実績達成ボーナススキル『魔王殺し』

 ●実績達成ボーナススキル『経験値泥棒』

 ●実績達成ボーナススキル『精神異常(親友)(強制)』

 ●実績達成ボーナススキル『レーザー・リフレクター』

 ●実績達成ボーナススキル『武器強奪ぶんどる(強)』

 ●実績達成ボーナススキル『月蝕(ルーナ・イクリプス)』(New)”

==========


 新たなスキルに目覚めてしまった。

 己の実力が高くなるたびスキル取得は反比例的に難しくなっていくものだが、月を隠した人類など俺が初めてだろうし当然の報酬だろう。


「嫦娥、お前の神体は人質だ。返して欲しければ俺を天竺スカイ・バンブーに戻せ」

“幻術が崩壊しかけておる?! 此方こなたの力が効かんというのか”


 月を失った重力変調の影響でもなかろうに、黄昏世界の舞台たる惑星が遠く小さくなって消えてしまう。天の川も光を失い、世界はどんどん暗くなっていく。


“これが、仮面の救世主職の力か。なるほど、これは大概。大口を叩く事はあろう。されど、であればこそ! 無謀な戦いに挑ませて散らす訳にはいかんというのだッ!!”


 すべてが黒一色へと向かう中、ガラスを割るように現れる巨大なる黄金色。

 満月の出現だ。惑星から見上げた月そのものでありリアルさに欠ける造形。幻のものであるのは間違いない。

 体を奪われて力を最小化されてなお権能を行使する。その程度の奇跡を起こせず神性は名乗れない。

 体を奪うだけではまだ足りない。

 心も説得できなければ終われないらしい。

 嫦娥にとっては喜ばしい結果にならないだろう、と前置きを入れてから俺は仮面に手をかけた。


「……頭痛がしない?」


 仮面にれてみたというのに、いつもの突発性頭痛に襲われない。理由は耳元でささやかれた女性の声で間違いない。



「――偽造、誘導、霧散、朧月夜おぼろづきよ夢虫ゆめむしの夢は妨げないだろう。ご存分に、御影様」



 思えばあの頭痛は、俺が人間から外れようとするのを制止するためのものだったのかもしれない。そうなると仮面を取ろうとする禁忌は誰かの配慮を裏切る行動になってしまうが、時には人を外れてでも成し遂げなければならない事がある。


「女神嫦娥。お前には俺の力をすべて見せておこう」

“此方の体を隠しておいて、これ以上なにがあるという!”

「ちょっとした特技だ。『暗器』のような大道芸はできないが――」


 ゆっくりと仮面を取り外す。



「――さあ、嫦娥、この俺の顔を見ても、まだ俺が太陽に焼け死ぬだけのまともな人間だと思えるか?」



 宇宙よりも暗くて何もない、ただただ終わった魂が色を失い堆積し続ける世界の下層への穴が開く。


“――ッ。此方が感じておった黒い穴の正体は、それか!!”

「俺の正体なんてよく分からない『正体不明』だ。構う必要はどこにもない」


 こんな人間ではない者、関わらないに限るというのに、神性が出来ている嫦娥はまだ構おうとしてくる。


“人に見えぬとしても、それでも死に追いやる訳には……”

「だったら、人でなしなところも見せようか」

“それはどういう??”


 仮面をはずす前からある程度、予想していた事であるがやっぱりいたか。

 この状態の俺はあちら側に対して鋭敏だ。普段は見えない事にしている何かも、邪魔な仮面がないお陰ではっきりと見えてしまう。

 俺の視線は、幻の月の背後へと向けられている。



「嫦娥の背後に、砕かれてデブリとなった十の星の破片が見える」



 ただよう悪霊の声はすべて同じ、お母さん、だ。

 声を聞かせてやる事もできるが、残酷過ぎてこの程度の人間性低下では行えない。そこまでしなくても十分だ。


「お前の背後にいる子供達の復讐を果たせるのは、俺だけなんだと受け入れろ」


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミックポルカ様にて連載中の「魔法少女を助けたい」 第一巻発売中!!◆  
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない  (絶賛、連載中!!)


― 新着の感想 ―
そういやこれって助けたいで月桂花がやってたことに近いことを神性クオリティでやってるのか
お月様としても他所の世界の人を太陽に挑ませて死なせたくない善意だしちょっと無理にでも納得させるしかないな…
月一つで二キロかぁ…じゃあステータスも高い今じゃもう上限なんて無いんじゃ… 遂に新スキル習得!ついでに神性特効も貰えないかなぁ…
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