4-1 次なる遭遇
昨日の遭遇戦で焼け死にかけた癖に、クゥは体調不良さえ起こさずピンピンしている。
「村に帰ったらどうだ?」
「ちょっと死にそうになっただけで、つれないなぁ、御影君」
精神鉄筋コンクリート。酷くタフな女だ。妖怪ならびに正体不明の混世魔王とたびたび戦っている男に付きまとって得があるとは思えない。
「私が付いていかないと、御影君が不憫そうだから」
「まさか、俺の事が好――」
「あー、ないない。それはない。顔の穴を塞いでから出直して」
妙な女であるが、一週間、二週間と一緒に旅をしていれば冗談を言えるくらいには情が湧く。本人は気にしていないと言うけれども、彼女の身に危険が及ぶと分かって旅を続けるのは忍びない。何かしらの対策が必要だろう。
「黒曜とさえ合流できればな」
「たびたび名前を聞いているけど、御影とその黒曜って人とはどういう関係なの?」
「……義理の娘?」
「どうして疑問形??」
単純な解決策としては俺以外の仲間がいれば安心できる。
オフェンスとして俺が前線で戦っている間、後方で仲間がクゥを守る。一瞬、魔法使い職の彼女達やエルフなあの子の姿を幻視するが、彼女達はこの世界にいない。滅びかけた過酷な世界なので、いない方が良い。
俺と一緒に黄昏世界に跳ばされた黒曜は俺以上の実力者なので頼りになる。死んではいないはずなのでその内合流できるだろうが、いつになるかは分からない。
となれば、仲間は頼りになりそうな現地住民をスカウトするしかないだろう。が、妖怪に支配、屈服させられている世界で妖怪と戦える程の強者を発見できるはずがない。
「当分は現状維持か。クゥに自衛手段を求めたいが」
「村娘に期待しないでね。ほら、この細くて白い腕を見てよ、私は御影君みたいに戦えないでしょ」
今は唯一の戦力たる自分を大事に労わるしかなさそうだ。
混世魔王との戦いではなかなかに消耗させられた。今日のところは天竺があるという西に固執せず、体を休める場所を探したい。クソ暑い荒野では食事も睡眠も低質だ。壁村もさして変わらないとはいえ、軒下だけでも借りれたならリゾートになる。
「壁村は近くにないだろうか」
無関係な話をしよう。
俺が色々とトラブルに巻き込まれる要因の一つに、『エンカウント率上昇(強制)』スキルなるものがある。いわゆるバッドスキル。スキルは我が身を助けもするが身を危険にも晒す。このスキルの場合は、基本的に敵との遭遇率がアップする。
更に、『エンカウント率減少(人類)』なるスキルも俺はいつの間にか所持している。こちらは人類との遭遇率がダウンする。
何を言いたいかというと、俺が出歩いても碌な事は起きない。
昨日、戦ったばかりだ、という言い訳もできはしない。
憎し。
憎し。
憎し。憎し。憎し。
憎し。憎し。憎し、憎し、憎し、憎し――憎し、か……。
見知らぬ場所で我が身は焦がされた。追放された先での仕打ち、それは仕方あるまい。そうと分かっていながら我は忠言し、そうなると分かっていた通りに追放された。されど、我が最後には疑問が残る。
我が身が受けし苦悩は炎。親類に追放された後、我が身を焦がした炎。
だが、その結末には……疑問が付きまとう。
我が名は――。
善く行くものは轍迹なし。我が疑問に答えて見せよ人類よ。我は我が憎悪さえ炎にくべる。
夕暮れ時、逢魔が時。
初めは、炎天下の名残りたる陽炎が見せる虚像だと思っていた。けれども、その虚像は荒野を一歩一歩と確かな足取りで歩いている。ゆっくりとだが、確実に俺達へと近づいている。
「おい、あれって」
「妖怪に、見えるけど……うーん、あんまり自信は……」
クゥの目は俺よりも良いらしい。近づく何かが人間ではないと知らせてくれる。
「体は御影君よりも恰幅が良さそう。武器も持っている」
「妖怪は一体だけか」
「迷った在野妖怪かも」
「クゥはここにいてくれ。近づかれる前に対処しよう」
近づいてくるという事は既に捕捉されているという事だ。相手の数が一体だけなら、逃走ではなく戦闘を選ぶ。
エルフナイフを取り出して走り出す。会敵予測地点は、紅の夕日に照らされた平野部。
「先手必勝。『暗影』発動!」
逆光のため相手の姿はよく見えない。
だが、穂先が三つに分かれた槍を肩に担いでいるのは分かる。間合いでナイフに勝るが、間合いを無視して距離を詰める『暗影』を防ぐには不向きだ。
真正面から突っ込むと見せかけて空間を跳ぶ。出現位置は完全な背後ではなく、妖怪の左斜め後方にする。妖怪は筋肉質であるが、脇下から抉るようにナイフを突けば心臓まで刃先は届く。どこから奇襲を受けたのかさえ分からないまま即死させられる。
……妖怪の背中から炎が吹き荒れなければ、そうなっていた。
「な、にッ?!」
体から炎を噴出させる。既視感ある攻撃手段だ。昨日の火傷が全身で疼く。
「コイツ! なんだ、悪霊の気配が急に強く」
いや、昨日の四足獣とは異なり炎が出ているのは背中側だけ。正面へと回り込んでからレベル100のパラメーターでゴリ押す。
跳び込み前転で炎をかいくぐると、下方より妖怪の顔を見上げる。
ブタの顔が、すべて読み通りだと言いたげに牙を見せて笑っていやがった。
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“『人類萎縮権』、復讐するべき人類に恐怖を植え付け萎縮させるスキル。
相手が人の類の場合、攻撃で与えられる苦痛と恐怖が二倍に補正される。
また、攻撃しなくとも、人の類はスキル保持者を知覚しただけで言い知れぬ感覚に怯えて竦み、パラメーター全体が二割減の補正を受ける”
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▼御影
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“ステータス詳細
●力:280 → 224
●守:130 → 104
●速:437 → 351
●魔:41/122 → 33/98
●運:130 → 104”
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筋肉の動きが鈍った。ナイフを突き出すタイミングを大きく見誤る。
愚鈍なナイフは槍の柄で受け止められて、流される。そのまま体勢も崩されて前のめりになったところを蹴り跳ばされる。
炎を体から噴出し、謎の萎縮も用いる。類似点が多過ぎる。
「お前もまさかっ」
コイツも、混世魔王だ。
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▼豚面の混世魔王 偽名、封豨
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“●レベル:???”
“ステータス詳細
●力:??? ●守:??? ●速:???
●魔:???/???
●運:???”
●人類復讐者固有スキル『人類萎縮権』
●???固有スキル『弱い者いじめ』
●???固有スキル『耐打撃』
●???固有スキル『魔→力置換』
●実績達成スキル『正体不明』(混世魔王オーバーコート中)
●実績達成スキル『正体不明(?)無効(??限定)』
●実績達成スキル『???』”
“職業詳細
●???(Cランク)
●人類復讐者(初心者)”
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