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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第十三章 扶桑樹はいつまでも
158/236

13-6 脱出路はどこに

 世界樹を腐食する毒の赤花と、密集している世界樹の根。

 これは確実に何かあるな。扶桑樹の行動が、隠そうとしているのか封じ込めようとしているのか、あるいは更に別の意図があるのか、そこまでは読めない。ただ、根の壁の向こう側に何かがあるのは間違いない。



「もしかして、この花を使えば宝貝パオペイの破壊が……そう、うまくはいかないか」



 赤い花びらを鎖と接触させてみた。

 酸で溶けるような音が聞こえて鎖が変色したところまでは順調だったものの、そこで止まる。花の毒の腐食能力も鎖の回復能力には負けるようだ。

 しおれ落ちた花びらはもう赤くない。


「もう少し枚数があればいけそうな期待感があったな」

「毒花がまとめて数本あればいけそうじゃねぇか」

「花が咲いているとすれば、やっぱり向こう側か」

「ここに咲いていないなら、そこしかねぇだろ」


 こうと一緒に根の壁の向こう側を望む。何も見えないが、俺達の希望の土地はそこにありそうだ。

 宝貝さえ破壊できればスキルを使える。仮面もはずし放題で、人間からも外れ放題である。赤い花さえ採取できれば現状を打開できる。

 扶桑樹の包囲が強固で突破できそうにない、という大問題を無視すればすべて解決である。



「扶桑樹の根の壁。どこかに隙間すきまはないものか」



 根の壁は高い。

 セレブな高層マンション、とまではいかないが、中流家庭でも三十五年ローンで手を出せる新築マンションくらいの高さで俺達の脱出をはばんでいる。レベル100の跳躍力なら屋上に着地するくらい可能だが、跳び越えるとなると奥が見えないので厳しいか。


「目算、三百メートルくらいまで接近したところで根による攻撃が始まる。扶桑樹本体と戦っている時よりも距離が半分以上、短い。意識的な行動というよりは反射的な防衛機能のようなものと思われる」

「そうだな。めーとる、って単位は知らねぇが、扶桑樹の意識がここにないのは確かだろうよ。まぁ、何か大きな動きを見せればすぐに向かってくるだろうから安心はできねぇ」


 また、そもそも根の壁まで辿たどり着けないという問題もある。無数の根による監獄システムはセントリーガン以上に優秀に働いており、接近する者を無条件に攻撃してくるのだ。

 ふと、疑問が沸くとすれば、植物がどうやって接近を検知しているのかであるが――、


「……よっとっ」


 ――遠投した石が地面に落ちた瞬間、地中から飛び出た根に三方から串刺しにされていた。


「地面に落ちてからか。もしかして音? 聴覚というよりは振動かもしれないが」


 地面を通じて伝わる音により、根は反射的に動いているのかもしれない。見えない地中に無数の根を伸ばしているのなら可能性はありえる。

 そういえば、声で挑発した俺に向けて根を伸ばしていた。挑発内容にではなく、声そのものに反応していたのだろう。


「『暗躍』スキルか、せめて『暗澹あんたん』スキルを使えれば。いや、壁を乗り越える時に触れても駄目か。これはミッションインポッシブルだな。どちらかというとプリズンブレイクなのか」


 消音できたとしても根に一本でも触れたら気付かれると考えるべきだ。赤外線センサー兼サイコロレーザーみたいな根である。

 そうなると強行突破が最有力、と言いたいが、それができるなら壁の内側にとらわれていない。攻撃したところで根を数本斬り落とせるくらいで、斬った根もすぐに再生するという徒労が得られるだけだと予想できた。



「俺の三昧真火なら一時的にせよ、壁を切り崩せるんじゃねぇのか?」



 悩む俺を見かねて、紅が提案する。


「太乙真人戦で見せた、目からビーム……もとい、スピキュールか?」

「対クソ親父を想定していた技だが、扶桑樹の奴にも効くはずだ」

「効くだろうが、確実に扶桑樹に敵認定されるからめておけって。鎖を付けている俺と違って、紅が猛攻に耐えられるとは思えない」

「体が無事ならいいって訳じゃねぇ。御影、自分がもう限界だって分かってんだろ。体の震え、止まっていねぇぜ」


 図星をされた後に体を離そうとしても、もう遅いだろうな。


「扶桑樹に敵認定されるのはむしろ願ったり叶ったりじゃねぇか。俺がここに残っておとりとなって御影を逃がすにはピッタリだ」

「いや、紅が囮になって俺を一人にしてみろ。さびしくて死んでしまう」

「お前なぁ……なさけないのか、恥ずかしいのか」

「紅が頼りなんだ。仮に紅を犠牲にして壁を突破できたとしても、その後を俺一人でどうやって生きろって?」

「あー、分かった分かった。頼られているのはよーく分かったから。だからあんま、恥ずかしい事言うな」


 紅が名前通りに頬の色を変化させていく。体温も上がって、密着している俺としては暑苦しい。

 やはり、強行突破は駄目である。

 扶桑樹に気付かれずに脱出を果たす。それがマストなのだ。もう少し、方法を考えてみる。


「地上は足音を感知されるから無理。となれば、空はどうだ?」

筋斗雲きんとうんならとっくの昔に没収されてんぞ」


 牛魔王に捕まった際に、俺もアイテムはすべて没収されてしまっている。せっかく持ってきてもらったスマートフォンもまた奪われてしまった。妖怪共はどうして俺のスマートフォンばかり奪うのか。

 他の所有物、ハンドガンも、紅のつので作った刺突ナイフも、当分前にトラの妖怪から奪った宝貝も全部ない。

 手元に唯一、残してあるのは優太郎ファイルだが、現在『暗器』で格納中ゆえ取り出し不能である。


「……『擬態(怪)』で鳥に変化して飛べないか?」

「無茶言うな。姿を模す事はできても、さすがに飛ぶまではできねぇって」

「そうだよなぁ」


 『擬態(怪)』スキルもそこまで万能ではない。相手を騙す事に特化し過ぎている。

 地上も駄目。空も駄目。



「……となれば、残るは大脱走の定番か」



 上を見て、正面を見てから、最後は足元を見てみる。

 つま先で軽く地面を掘ってみた感じ、固くはないがくずれ易い。ミミズは生息していなさそうだが、植物の癖に動く根が大量にいる所為でたがやされているのではなかろうか。

 手で掘るのはさすがに無理がある。


「道具があっても無理だ。掘れたところで、地下でも根に振動で気付かれる」

「地下ならそれなりに可能性があるんだよな。それに、道具はなくともスキルはある」

「御影のスキルは使えねぇって分かっているなら……もしかして、俺か?? 残念ながら俺に都合のいいスキルはねぇよ」


 そうだな。紅孩児は不良娘でスキルも多くない。


==========

こう

==========

“スキル詳細

 ●レベル1スキル『個人ステータス表示』

 ●妖怪固有スキル『擬態(怪)』

 ●実績達成スキル『神性血統』

 ●実績達成スキル『天才』

 ●実績達成スキル『三昧真火習得』”


“職業詳細

 ●妖怪(初心者)”

==========


「なぁ、紅。妖怪職のランクアップ条件って、何だ?」


==========

“ステータスは更新されています


 ステータス更新詳細

 ●妖怪(初心者) → (Dランク)”

==========


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


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