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黄昏の私はもう救われない  作者: クンスト
第三章 空を飛ぶ獣
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3-1 荒野の遭遇

 西を目指して四日過ぎたあたり。変わらない風化した赤い大地ばかり見ていると時間経過が曖昧あいまいになってしまう。


「黄昏世界に観光地はないのか」

「かんこうち? って、よく分からないけど。妖怪が集まるみやこがどこかにあるらしいよ」


 壁村では経年劣化したまま修繕もそこそこな家屋ばかり見ているので、都と言われても期待できそうにない。いや、地方官の館は立派だったので、人間が住む場所と妖怪が住む場所では格差があるのか。


「砂漠のど真ん中にだってラスベガスはある。黄昏世界にだって都があってもおかしくはないか」

「らすべがす? って、よく分からないけど。贅沢ぜいたくな暮らしができるって聞いている。その分、治安が悪いらしいけど」


 妖怪が人間を喰う世界で治安が悪いとか。どんな犯罪都市ゴッサム・シティなのだろう。観光気分で訪れる場所ではないのは確かだ。


「……暇だ」


 クゥは不満を漏らさず歩いているが、ぶっちゃけ、俺は変わらない景色に飽きていた。話も俺からばかり振っている。

 せめて風景だけでも変化して欲しいと思っても、歩けど歩けど見えてくるのは乾いた赤い大地だ。植生は枯れ木ばかり。危険な妖魔はともかく、生物はほとんど生息していないのではないかと思われる――、



「――キヒヒッ。どうしたの、徒人ただびとちゃん。壁の外を歩いていると危ないぜ! 俺達みたいなのに襲われるから!」



 ――訂正、生物はいた。

 高速で走る陸カメに乗った暴走集団という生物だ。十体近くの破れた服を着た妖怪共であり、髪型をモヒカンで統一している。

 暇だとは言ったが、こんなオモシロ集団とのエンカウントは決して望んでいない。


「こいつ等も、どこぞの地方官の手先か」

「たぶん違うかな。きっと、どこにも仕えていない在野のらの妖怪だと思う」

「その通り! 俺たちゃ、あの黄風怪こうふうかい様が率いるNEETの構成員。何もない平原で遭遇するとは『運』が無かったな」


 無通学、無就労、無訓練の妖怪?

 異世界語の翻訳機能が不調らしい。きっと、地球で該当する言葉がなくて適当な類似語で聞こえてしまっているのだろう。妖怪のひたいの“N666”と書かれたシリアルナンバーっぽいタトゥーについては見なかった事にする。

 汚れたこん棒や、先の欠けた矛を見せびらかせているNEET集団の中から、N666がたった一人で近づいてくる。


「えーと、御影君。お願います」

「はいはい。クゥは後方で」


 俺も歩いて出迎えて、妖怪と荒野で対峙する。

 上から見下ろしてくる一つ目モヒカン妖怪。クソ、背が高いからっていい気になりやがって。


「いずれ、黄風怪様と俺達がこの一帯を奪い取って統治する。お前達はそのためのかてとなれっ!」


 威勢の良い事を言って、こん棒で殴りかかってきた。

 明らかな暴力行為を無防備に受けたりはしない。左の頬を殴られる前に右の頬を殴れと、昔の偉い人は言っていた気がする。

 という訳で、高い位置にあるモヒカン妖怪の顎を殴って粉砕。

 泡を吹いて倒れた仲間を見て、いきり立つ他のモヒカン妖怪共。


「徒人ごときが逆らいやがったな。全員でかかれッ」


 凶器を振り上げて襲い掛かってくる妖怪共であるが、大した脅威は感じられない。

 全員で動いていても連携は取れていない。人間以上のパラメーターでも動きは直線的。言葉は喋っていても本能で生きているモンスターとそう変わらない。装備も低質なので、これならまだ地方官の館で人間に化けていた奴等の方が強いだろう。

 正々堂々と真正面から襲い掛かってくるのであれば、負けろと言われても勝ってしまう。

 ナイフを取り出して集団の間をくねくねと駆け巡る。それだけで戦闘は終了した。時間差で妖怪共は倒れていく。


「全員殺した?」

「村娘が物騒になったよな」


 荒野を歩いている人間を喰おうとしてくる野党以下モンスター同等の相手だったので、特に手加減はしていない。生命力の高い奴が一体か二体、生き残っている程度だろう。

 虎人こじんを手にかけた事で妖怪を怖がらなくなったクゥが、いそいそと水筒を奪い取っている。うーん、たくましい。


「徒人が、いい気になっていられるのも今の内だ。きっと、俺達の仲間が、報復を――」


 まだ息のあった一体が、うわごとを喋っているが気にしない。呪いの言葉を聞くのも言うのも慣れていた。

 だから、俺は地面ではなく空を見ていた。


「……何かが来る」


 赤い空を九十度にらした首で見上げている。

 首の後ろをくすぐられるような、嫌な気配を感じていた。『魔』の気配のような明確なものではない。理由は分からない。少なくとも『殺気察知』スキルは使用していない。

 けれども、体験は一度している。この世界に来てから初めて殺されると思い知らされた相手の気配だ。捕捉・・された後に気付くなど、鈍感にも程があるだろう。



「クゥ、そこからすぐに離れ――ッ、いや、間に合わない?! 『コントロールZ』発動!」


==========

“『コントロールZ』、少しだけ時間を戻してピンチを乗り切れるかもしれないスキル。


『魔』を1消費して、時間をコンマ一秒戻す”

==========

 ●魔:122/122 → 22/122”

==========



 黄昏世界において自然回復の妙に遅い『魔』は貴重であるが、時間はもっと貴重である。たった十秒走り始めるのが早いか否かが生死を分ける。

 十秒前に戻った俺は、妖怪から物色しようとしていたクゥの体をフランスパンのように抱え込んで走り出す。


「えっ、御影君?! 突然、どうしたの。ちょっと、尻! 尻から手を離して!」

「舌を噛む。しゃべるな!」


 真上から俺の脳天目掛けてソイツは急速に近づいている。到達までもう十秒。違う、加速された。燃える姿が見える。空の高みから馬鹿げた速度で降下してくる炎の塊が大地に着弾を果たす。

 特徴的な遠吠えは遅れて聞こえた。ソイツの『速』が音速を上回っている証明だ。



“GAFFFFFFFFFFFFFFッ!!”



 火山でも爆発したかのように地面が割れて炎が噴き出す。

 当然ながら置き去りにしたNEET妖怪共は落下に巻き込まれたが知った事か。生き残りがいたとしても気にしていられない。

 大きくえぐられた着弾地点には、最大限に警戒するべき四足歩行の燃える獣が立っている。



==========

▼四足獣の混世魔王 偽名、大風たいふう

==========

“●レベル:???”


“ステータス詳細

 ●力:??? ●守:??? ●速:???

 ●魔:???/???

 ●運:???”


 ●人類復讐者固有スキル『人類萎縮権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類断罪権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類平伏権』

 ●人類復讐者固有スキル『人類搾取権』

 ●実績達成スキル『正体不明』(混世魔王オーバーコート中)

 ●実績達成スキル『先?者(??????)』

 ●実績達成スキル『毒無?』”


“職業詳細

 ●人類復讐者(Bランク)”

==========


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 ◆祝 コミカライズ化◆ 
表紙絵
 ◆コミカライズ「魔法少女を助けたい」 1~4巻発売中!!◆   
 ◆画像クリックで移動できます◆ 
 助けたいシリーズ一覧

 第一作 魔法少女を助けたい

 第二作 誰も俺を助けてくれない

 第三作 黄昏の私はもう救われない


― 新着の感想 ―
[一言] 狼王かと思ったけど火を使うし無いか
[良い点] 救世主無いなった!やったー! 死霊使いの方がよほど強力なのに… 職じゃなく任意のスキル2,3個消せるとかの方が今のところ強そうですね。一発逆転のラック判定で消し飛ばし無効にできたりしないか…
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